NeoL

開く

「このアルバムを作ったおかげで、様々なレベルで自分と愛の繋がりを探求し、見つけ出すことができた」Interview with Jeremy Zucker about “love is not dying”




「失恋」をメインにした心の痛みを赤裸々に描きながらも、最後には柔らかな気持ちにさせるアコースティック中心のサウンドで話題に。すでに、ストリーミング・サービスでは20億以上の再生数を誇り、2019年秋に開催された初の来日公演では、会場を埋め尽くしたオーディエンスに熱狂と甘美な雰囲気を交互に与え、大きなインパクトを残した、米ニュージャージー出身のシンガーソングライターであるジェレミー・ザッカー。初のフル・アルバム『love is not dying(ラヴ・イズ・ノット・ダイイング)』はひとつの愛の始まりから終わりまでで起こる「せつなさ」を繊細かつ旅情的に描いた、映画のような構成に。そこに込めた思い、また自身の恋愛(愛情)観を深く探ってみた。(→ in English

──来日公演から半年以上が経過しました。日本で思い出に残っていることは?


Jeremy : あの公演は本当に素晴らしかった。これまでのショーの中で、一番最高だったショーのひとつだね。よく、日本のオーディエンスは音楽へのリスペクトがあるからすごく静かだよって聴いていたんだけど、僕がパフォーマンスを始めると、他の国と同じくらい皆クレイジーになって盛り上がってくれた。生き生きとしたエナジーが感じられて、僕自身もすごく楽しめたんだ。本当はもっと居たかったんだけどね。


──来日公演後の活動はどんな感じでしたか?


Jeremy : アジアツアーのあと家に帰ってきて、すぐにアルバム制作を始めたんだ。ビデオも数本撮ったけど、アルバムを仕上げることに集中していたね。その甲斐あってアルバムが完成したよ。





──あなたにとっては初めてのフル・アルバム『love is not dying』。アルバムということで、これまでのシングル曲制作と違いはありましたか?


Jeremy : やっぱりアルバムだから、制作期間は長くかかった。前にEPを作ったことはあったけど、アルバムに比べると曲数も少ないから、アルバムのような大きなプロジェクトに挑戦するのは始めてだったんだ。だから時間をかけて、まず一ヶ月で20~30個ぐらいのアイデアを考えて、そのアイディアを基に曲を形にしていった。そこから一曲に大体一ヶ月くらいかけて仕上げていったから、本当に自分のペースでゆっくりと作業を進めていったんだ。その過程でプロジェクトがだんだん発展していって、約一年くらいかかってアルバムが完成した。最初に完成した“ジュリア”を書いたのが2018年の11月だったから、僕にとってはすごく長いプロセスだったね。長かったから、その過程で沢山の発見があったし、色々考えたし、表現の方法を色々実験してみたりも出来たんだ。長いぶん、その間には素晴らしいこともあれば大変なこともあったり、ノスタルジックになる瞬間もあれば、今のことやこの先を考える瞬間もあった。だから、このアルバムの曲の数々は、その期間に起こった自分に意味のある時間や瞬間、自分自身がどんな人間なのかを探って感じることの出来た瞬間のコレクションなんだ。


──その“julia (ジュリア)”では声を「加工」し、続く“hell or flying (ヘル・オア・フライング)”では「生音」で表現という流れにこだわりを感じました。その流れを意識しましたか?


Jeremy : もちろん。アルバム全体の流れに関してはかなり意識したよ。ぜんぜん違う雰囲気を持った2曲を並べてみたり、繋がりを感じるような2曲を続けてもってきたり。“ジュリア”と“ヘル・オア・フライング”の間には、なんか繋がりを感じたんだよね。このアルバムは、映画みたいなんだ。それぞれの曲にテーマとシーンがあって、それが繋がって一つになっているんだよ。


──確かに。昨年リリースした“oh, mexico(オー、メキシコ)”以降の楽曲を収録しているけど、全曲を通して聴くと、片思いから失恋、そこから立ち直っていくまでの過程を描いているような印象です。“oh, mexico”を完成させた時点からアルバムのコンセプトが頭にあったのでしょうか?


Jeremy : アルバムの制作は、「よし、これからアルバムを書こう。こんな感じのアルバムにしよう」と考えて始まったわけではなかった。とにかく一曲ずつ曲を書いていって、その曲で表現したいことを曲ごとに表現していったんだ。さっきも話したように、一年から一年半のプロセスの中で、その時に出来る色々なことを試した。そうしたことで、自然と自分のその時その時のライフが映し出された作品になっていったんだ。そして、全ての曲を作り終えた後で、始めて曲どうしの共通点が見えてきた。それがタイトルの『LOVE IS NOT DYING』なんだけど、今の僕の人生において感じられることがそれだったんだ。あのタイトルは自然と思いついたもので、それは今僕が感じていることでもあるし、他にも沢山意味がある。でもそれは、僕が説明しなくても音楽が説明してくれると思うよ。最後の2、3曲を書いている時にアルバム名を思いついて、あの言葉が全てを一つにまとめてくれたんだ。




──サウンドに関してのこだわりは? ギター、ピアノの弾き語りなど様々な音を駆使していますが、それはアイデアを生み出した楽器を使用しているからですか?


Jeremy : このアルバムには、僕がやりたかったことが詰まっているんだ。自分が試したかったことを全て試した結果、バリエーション豊富なサウンドに仕上がった。でも、曲作りの基本はやっぱりピアノとギター。そこに音色を加えていって、より面白いものを作っていったんだ。フィールド・レコーディングをしたりもしたよ。友達が喋ってる声とか、色々な場所でランダムなサウンドを録って残しておいて、それを使ったり。あとは、ランダムな楽器も使った。それを全部使ってみて、エディットして、パズルみたいに組み立てていったんだ。


──アルバムの収録曲の中で、最も今の自分を表現できた楽曲は?その理由も教えてください。


Jeremy : 強いてあげるならば“full stop (フル・ストップ)”かな。あの曲は、僕が長い間抱えていたフィーリングが曲になっているんだけど、それをどう表現していたらいいのかがなかなかわからなかったから。クレイジーですごく悲しくて、それらが全部混ざっていて、空が落ちてくるかのように何もかもが崩れ落ちるようなフィーリング。イメージは頭のなかにあったんだけど、それを音で上手く表現することに手こずったよ。


──“we’re fucked it’s fine (ウィアー・ファックト・イッツ・ファイン)”は、タイトルに反して、朝の風景のようなイノセントでドリーミーな世界が印象的ですね。


Jeremy : この曲の内容は啓示みたいなもので、素晴らしい最高のシチュエーションにいて、それが崩れ終わることがわかっているんだけど、それをわかった上で今の状況をエンジョイしている様子が表現されている。だから、“We’re fucked it’s fine”(=めちゃくちゃな状況だけど、大丈夫)ってタイトルなんだ。サウンドのあの平和な感じはそこからきてるんだよ。
──アルバムは基本的にはメランコリックな楽曲が目立ちますが、“lakehouse(レイクハウス)”だけパンクな衝動が伝わりますね。10代の頃に組んでいたバンドの影響がここに反映されているんですか?


Jeremy : そうそう。確実にそれが影響してる。僕は昔、パンクロックやポップパンクを聴きまくっていたからね。Blink182には大きな影響を受けたバンドの一つで、めちゃくちゃハマってた。だから、ストレートなポップやダンスミュージックと共に、ロックやパンクポップロック、オルタナティヴロックは僕の音楽の大きな一部なんだ。パンクロックのあとはヒップホップにもハマったし、そこからラップ、インディと進んで、それからはジャンルというよりも自分に新しいアーティストを発見することにのめり込んでいった。そうやって音楽のテイストがだんだんと進化して広がっていったんだ。





──歌詞に関しては、現在の拠点であるブルックリンの日常をベースにし、最後には「旅」に出るという流れになっていると思うけれど、あなたにとってブルックリンとはどんな場所ですか。


Jeremy : 面白い場所だよ。世界の最大の都市の一つであるマンハッタンのすぐ横にあるのに、ブルックリンには緑が沢山あって、マンハッタンに比べると開放感もある。だから、完全に郊外って感じてもないんだけど、街でありながらリラックスが出来る場所なんだ。友達も沢山いるし、出かけるのが気持ち良い。あと、パーティーやイベントも充実しているよ。僕の周りにもクリエイティヴな友達が沢山いて何か開催したりもするし、彼らにインスパイアされたりもする。色々な影響を受けて、自分自身のこれまでの経験とそれを合わせて、なりたい自分になれるのがブルックリンだと思うね。すごく楽しいし、居心地よく、ホームだと感じられる場所。


──では、ブルックリンの風景がアルバムや楽曲制作にどんな影響をもたらしている?


Jeremy : ブルックリンって、さっきも話したけど、街でもあり、シティでもあり、色々なものが混ざっている場所なんだ。だから、スタジオへ行くのにも、電車でもいけるし、車にのったりもするし、歩いたりもする。その生活の中で本当に様々なものや人々を目にするわけだけど、僕はその目に映る全てから影響を受けているんだ。僕の音楽は、ブルックリンで生活している人々のサウンドトラックみたいなものかもしれないね。誰のサウンドトラックにもなりうる。ブルックリンという街は、その背景なんだ。





──アルバム全体を通じて感じて欲しいことは?


Jeremy : 繋がりを感じて欲しい。曲や歌詞にコネクションを感じてくれたら嬉しいな。僕自身、リスナーとして、会ったことのないアーティストが書いた曲に繋がりを感じて、<ワーオ、僕の他にも同じ気持ちの人がいるんだ>って思うことがある。それが、僕が音楽を作る上で意識していることなんだ。僕の音楽を聴いて、自分は一人じゃないと感じてほしい。会ったことがなくても、曲を書いた人と曲を聴く人がそうやって繋がることが出来たら素晴らしいよね。


──あなたの楽曲は「失恋」や「メランコリック」がキーワードになっていますが、このアルバムを完成させたことで恋愛に対する洞察力は鋭くなりましたか?


Jeremy : アルバムを書くまでは、果たして自分に恋に落ちる能力があるのか疑問に思っていたけど、アルバム制作の中で色々と経験したり考える時間ができて、僕自身にもその能力があること、人を心の底から思いやることが出来ることを実感できた。そして、愛にも色々な形があることもわかった。恋愛だったり、家族への愛だったり。愛し方も一つではなく様々な愛し方があって、そしてその愛の数々が自分の人生にどう影響しているかを理解することもできたね。このアルバムを作ったおかげで、様々なレベルで自分と愛の繋がりを探求し、見つけ出すことが出来たと思う。


──最後に日本のファンへメッセージを。


Jeremy : いつも僕の音楽を聴いてくれて、僕をサポートしてくれて本当にありがとう!それに応えられるように、頑張るよ!



text Takahisa Matsunaga



Jeremy Zucker
『love is not dying』


UNIVERSAL MUSIC STORE
Apple Music
Spotify



Jeremy Zucker
https://www.universal-music.co.jp/jeremy-zucker/
Instagram

1 2

RELATED

LATEST

Load more

TOPICS