独特のクセを持つポップでファニーなバンド・サウンドで人気を博し、百花繚乱する21世紀の英国バンド・シーンにおいて確固たる地位を確立している、メトロノミー。2019年11月には5年ぶりとなる来日公演を敢行し、大きな熱狂を呼んだ彼ら。最新アルバム『メトロノミー・フォーエバー』にこめた思い、また活動を開始し14年が経過し、変化、進化した現在の音楽観について、フロントマンであるジョセフ・マウントに聞いた。(→ in English)
──5年ぶりになる来日公演でしたね。前作『Summer 08』 (2016年発表)の際はツアーをおこなっていませんでしたが、これには何か理由があったのでしょうか?
ジョセフ : 僕に二人めの子どもが生まれたんだ。特に幼い頃の子どもたちと過ごす時間というものは貴重だと思ったから、それを優先させようと思った。でも、新しい楽曲を発表したいという欲望もあってね。だから前作は新曲だけ発表をして、ツアーはおこなわないということに決めたんだ。
──家庭と、(そう思ってはいないかもしれないけど)仕事との両立って大変ですよね。
ジョセフ : 多くの他のバンドやミュージシャンを見ていると、キャリアか家族かの選択に悩まされる時期がやってくるもの。僕はそのふたつを諦めたくなかった。大好きな音作りをしながらも、子どもたちと密に接することができる限りある時間を大切にしようと思ったんだ。結果、とてもいい時間を過ごせたし、今ではこうやってツアーに出るなど、音楽に集中できる余裕ができたんだ。
──父親になって、音楽に変化は?
ジョセフ : 音楽に限らず、いろんなことで価値観に変化があったと思うよ。それは年齢のせいでもあるかもしれないけど。ポップやバンド音楽って、本来若い世代のリスナー向けのものだと思う。年齢を重ねるにつれ、徐々にそういう部分と距離ができてきたのかなって日々感じるようになったよ。
──あなたはバンド活動以外にも、ロビンやジェシー・ウェアなどに楽曲提供。ポップの最前線でも活躍されていますが、そこからの変化や刺激はありましたか?
ジョセフ : うん。特にロビンとの作業は、刺激的だったよ。彼女はメインストリームで活躍していながらも、自分の個性を信じて活動をしている部分がね。そこで培ってきたセンスと、僕が持っているアイデアをうまくミックスさせることができた、素晴らしいプロジェクトになったと思うよ。
──完成したアルバム『メトロノミー・フォーエバー』は、これまでのさまざまな経験を駆使し、今のポップ性を取り入れながらも、バンドの持つハッピーでエキサイティングなグルーヴを感じることのできる仕上がりになりましたね。
ジョセフ : 日本ではまだまだCDの売り上げが多いと聞くけど、僕の暮らすイギリスではストリーミングが主体になっていて、自分自身もアルバム全体で聴くというよりは楽曲ごとにいろんなものを耳にするのがメインになっている。このアルバムでは、そういう聴き方を反映させている部分があるんだ。でもいっぽうで、CDやアナログで聴くというオーセンティックなスタイルも自分の中には残っていて、そういう感覚も大切にしながら制作した作品なのかなって。つまり、どういう聴かれ方をされても楽しんでもらえるアルバムを作りたかったんだ。
──アルバムは1990年代のグランジやオルタナティブを連想させるギター・リフが響くものがあったり、80年代のファンキーなグルーヴのある楽曲もあったりしますね。
ジョセフ : 1stアルバムをリリースしてからの僕らは、いろいろ大変なことを乗り越えながら、常に新しいものを追求してきたし、周囲からもリクエストされてきた。でも、14年も活動して、ある程度応援してくれるリスナーができた状況で、常に新しさを提示するのではなく、僕らや音楽の持つパワーを純粋に伝えるだけの曲があってもいいんじゃないかって思うようになったんだ。だって、90年代のニルヴァーナやウィーザーって、今聴いてもパワーを感じる楽曲ばかりで、それを聴いて僕はバンドをやろうと思ったんだ。だから、何か新しいことを提示するのでなく、これまでのバンドが放っていたパワーを次の世代へ継承していく役割を、僕らもそろそろ担う必要があると思った。そこにちょっと新しさも加えて、アルバムとして表現できたらいいなと考えたんだ。
──では14年前にはない新しさはこのアルバムのどこで表現できたと思いますか?
ジョセフ : 最近のヒットチャートを見ていると、90年代の影響を感じる楽曲が多いから、そこを自分たちも取り入れようとしたところかな。でも、過去をそのまま表現するのでなく、今の時代にあうようにアップデートして、今までにない音を表現できたと思う。また、僕らが14年前には取り入れていなかったドラムマシーンも入っているしね。
──今回はバンド・メンバーとはどんなやりとりをして制作したのでしょう?
ジョセフ : 当初はデモを制作して、その後スタジオでバンド・メンバーと一緒にレコーディングするつもりだったんだけど、レーベルから「これでいいんじゃないか」って言われて、誰も参加することなくリリースしたんだ。だから、アルバムで聴くものとライヴで披露される音は全く異なる仕上がりになったのかなって。アルバムにはない新しい響きを感じてもらえたと思うよ。
──ライヴでは幅広い世代のオーディエンスが興奮してダンスしていたのが印象的でしたよ。でも、今回のタイトルに「フォーエバー」という言葉が入っているのが気になりました。この言葉って、エンディングの意味で使われることもあるので。
ジョセフ : うん、確かに(笑)。タイトルに関しては、毎回制作の最初の段階で思い浮かぶことが多いんだけど、今回は最後くらいに思い浮かんだんだ。制作中、僕は常に「音楽はどれくらい人の心の中に残るものなのか?」もしくは「不要なものなのか?」と考えることが多かった。ザ・ビートルズみたいに、ずっと聴かれ続け存在感を放つバンドもいるけど、多くは楽曲が残っていたとしても演奏をしていた存在のことは忘れ去られてしまう。このバンドも、僕や両親にとってはずっと心に残るものになるだろうけど、果たして自分の子どもたちは同じように感じてくれるかわからないし。その中でどうやって、バンドのレガシー(功績)を次の世代へ残していったらいいのか?という逡巡をこのタイトルにこめたんだ。
──最終的にレガシーは見つかりました?それは歌詞とかメロディ、グルーヴなどだったりするのでしょうか。
ジョセフ : 現在では若い世代のリスナーも増えているし、デビュー当時からサポートしてくれるファンもいる。そのことで、自分が誰かの歴史の一部になれていることを感じられて、純粋に嬉しくて。結果、きっと世界に褒められたり、刺激を与える音楽を作り続けることで、自然とレガシーが生まれてくるんじゃないかって思うようになったんだ。
photography Yosuke Torii
text Takahisa Matsunaga
edit Ryoko Kuwahara
Metronomy (メトロノミー)
『Metronomy Forever』
発売中
https://carolineinternational.jp/metronomy/