今やフレンチ・エレクトロを代表するレーベルとして人気のEd Banger Recordsに所属し、フランク・オーシャンや、シャルロット・ゲンスブールなどのプロデュースにも関わり、また最近はクリエイティブ・ディレクターにアンソニー・ヴァカレロを迎えたサンローランのコレクション音楽にも関わるなど、幅広い分野で才能を発揮するSebastiAn(セバスチャン)。ソロ作としては、2011年発表の『TOTAL』以来、2作目となるオリジナル・アルバム『Thirst』が完成した。メイヤー・ホーソーンやシド(The Internet)など多彩なゲストを迎え、彼がこれまで培って来た洗練とモダンなセンスを織り交ぜたエレクトロ・トラックばかりが揃っている。(→ in English)
──2アルバム『Thirst』が完成しました。このアルバムを作るに至った経緯、そしてインスピレーションを与えた出来事があったら教えてください。
SebastiAn : このアルバムの制作に着手し始めたのは、だいたい2年前くらい。ちょうどシャルロット・ゲンスブールのアルバム『レスト』のプロデュースと、フランク・オーシャンのアルバム『ブロンド』に携わっていた頃なんだ。僕は、この2つの異なるタイプの作品に関わりあいながら、その中間をいくような新たな音楽を作りたいという思いが湧き上がってきた。そして作品を完成させるために、多くの人々に会いに旅に出たんだ。旅を通じて出会った人々が、このアルバム制作にあたり大きな刺激を与えてくれたね。
──前作『TOTAL』との違いは?かなりのブランクでのリリースなので、作り方とかモチベーションもだいぶ変化したのでは?
SebastiAn : 前作と同様のエネルギーや欲望を持って制作に臨んだ。また、その思いは最後まで薄れることはなかったよ。唯一変わったことがあるとするのならば、僕はこの8年で多くのミュージシャンの作品に関わることができた。そのことによって人間的にもテクニック的にも成長・進化しているのかもしれない。
──「Sober」や「Better Now」を聴く限り、とてもバラエティに富んだサウンドになっている気がしましたが、全体のテーマやコンセプトはありますか?
SebastiAn : アルバムのコンセプトに関しては、制作している段階で何も考えていなかったよ。でも、自分の中にある音楽的な引き出しをあらゆる角度から引っ張り出して、表現したいという思いがあった。つまり、前作(1stアルバム)から現在に至るまで、僕が夢中になった音楽世界を純粋に表現したかったんだよ。
──「Sober」はトラップ的な要素を取り入れながらも、最後には高揚感を与えるドラマティックな展開が魅力的でした。この楽曲には、どんな思いを込めて制作したのでしょう?
SebastiAn : フィーチャリングで参加してくれている(ロンドン在住のラッパー)ベイカーと出会って、とても自然な流れで完成したものなんだ。例えるなら、フランスとイギリスを繋ぐ「橋」みたいな感じの曲。フランス独特の音楽プロダクションから、イギリス「伝統」のハウスへとつながっていくような楽曲になったと思っている。ベイカーと僕は、スタジオに入った時点から、共通認識が多かったから、あんまり深く考え込んだりせず1時間くらいで完成したんだ。
──「Better Now」はMayer Hawthorneをフィーチャー。彼の甘いヴォーカルを生かしながらも、メランコリックでサイケデリックな雰囲気を表現していますね。この楽曲についてもコメントください。
SebastiAn : メイヤーとは、前作に収録の「ラヴ・イン・モーション」でも共演しているし、もうかれこれ10年くらいの付き合いになる友人なんだ。でも、僕は彼と出会う前から大ファンではあったんだけどね。この楽曲は、彼にどうしても聴かせたいメロディの断片があって、(メイヤーの拠点である)LAに向かったんだ。そして僕らは、とあるバーに入ったんだよ。最初はふたりで気軽に話していたんだけど、徐々にメイヤーの視線が違う方向に行っていることを感じたんだよね。最初はどうしてなのか?不思議に思ったけど、その視線の先(僕の背後)には美しい女性がいたんだ。彼は一瞬で「恋におちた」みたいだね。それで僕は「彼女に声をかけるべきだ」と言ったんだけど、メイヤーは「いや!スタジオに行こう」って。そこで彼は、すぐに女性に対する思いを歌詞にしたんだよ。彼は女性と仲良くするのではなく、彼女のために音楽を制作することを望んだんだ。そして生まれたのが「ベター・ナウ」って曲なんだよね。
──他にもシャルロット・ゲンスブール、スパークス、シド(The Internet)など多彩なミュージシャンとセッション。今回のコラボレーターの選択基準はどういったものだったのでしょう?実際の作業はどうでしたか?
SebastiAn : 偶然に街で知り合って声をかけたら参加してくれた人もいれば、スパークスのようにずっと共演してみたかったミュージシャンもいる。戦略的にコラボレーターを選んではいないよ。ただ純粋に大好きだと思う人と一緒に音楽を作ってみたいと思ったんだ。
──また日本人ラッパーのLootaをフィーチャーした楽曲「Sweet」も。どういうきっかけでコラボレーションが実現?また、コラボレートしてみての感想を教えてください。
SebastiAn : 僕には日本人の「Kiri」という友人がいてね。彼は、エド・バンガー・レーベルとも親しい関係にあるんだけど。ある時、来日していた際にネットで見つけた気になるミュージシャンの話をしたんだ。それがLootaなんだけど。僕は直感的に彼の使う日本語と、美しいフロウが大好きになったんだよ。それでKiriが彼にコンタクトをしてくれて、この楽曲を制作することになった。Lootaはパリのスタジオに来てくれて、素晴らしいセッションができた気がする。今後も一緒に何か作ることができたらいいね。
──アルバムのアートワークについても教えてください。前作はキスをしていて、今回は喧嘩しています。ストーリー性を感じるのですが。
SebastiAn : 前作のアートワークは、自分にキスをするというものだったんだけど。あれは、フェイスブックが全盛だった頃に、エゴイスティックでナルシスティックなくらい自分を発信する風潮が面白いなと思って表現したんだ。それから8年、人間のエゴはどんどん変化して、インスタグラムやツイッターなど、さまざまなソーシャルメディアが登場し、巨大化していった。そこで僕はキャラクターを進化させ、より自己愛が深まりながらも、反抗的な部分もある、ソーシャルメディアの現在をここで表現しようと思ったんだよ。
──今回のアルバム制作で、最も刺激的だった出来事は?
SebastiAn : これまでの繰り返しをすることなく、新たな自分を表現することができたこと。
──このアルバムを通じて、リスナーに訴えかけたいことはありますか?
SebastiAn : あんまり自分の音楽の聴きどころは話したくないんだ。聴いてくれた人がそれぞれの耳で判断し、楽しんでもらえたら。
──ところで、あなたはYves Saint Laurentのコレクション音楽に携わっていますが、どういうきっかけで手掛けることになったのでしょう?
SebastiAn : シャルロット・ゲンスブールの紹介で知り合ったんだ。彼女はYves Saint Laurentとのつながりがあってね。それでブランドのクリエイティブ・ディレクターであるアンソニー・ヴァカレロにつなげてくれて、試しに1曲コレクションのための音楽を制作して欲しいと頼まれたんだ。そこで僕は、過去の楽曲を提供するのではなく、このショーや洋服のための完璧な音楽を作ることを提案した。彼はその提案を喜んでくれたよ。また、そのショーの音楽も好評で、おかげさまでもう4年もブランドに関わることができているんだ。
──コレクション音楽と、通常の楽曲制作との違いはありますか?
SebastiAn : ショーのための音楽は、映画のサントラを作るようなもの。ただ、3日くらいで完成しないといけないんだけど! その作業は大好きだよ。短期間で音楽をプロデュースすることはチャレンジではあるけど、ショーをしている場所で観客と共に同じ興奮を味わえることができるから、とても刺激的なんだ。
──Yves Saint Laurentのクリエーションは、あなたの音楽に影響を与えている部分はありますか?あるとしたら、どんな部分から感じるのでしょう?
SebastiAn : コレクションの音楽は制作時間が短いぶん、より本能的に音楽を作らざるを得なくなる。「これでいいんだっけ?」と立ち止まる時間がない。そのことで、自分の楽曲に関しても深く考えることが少なく、「これでOKだよね?」とジャッジできるようになれたんだ。
──今後の活動は? SebastiAn名義以外の活動を含めて、どんなプロジェクトに関わる、もしくは関わりたいですか?
SebastiAn : 僕はまだまだみんなを驚かせたい。いい意味で、みんなを迷宮に誘うような音楽を作りたいよ。そのためには、今後もたくさんの人々と出会いたい。僕はまだまだ進化の途中。他の人と同じように、いろんなことを体感して、新たな音楽の作り方を探していくつもりだよ。
──日本のリスナーへメッセージをください。
SebastiAn : できるだけ早く日本に戻ってプレイしたい。だって大好きな場所、人々だからさ。絶対に近いうちに会おうね。
SebastiAn(セバスチャン)
アルバム『Thirst』
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https://carolineinternational.jp/sebastian/
photography Ella Herme
text Takahisa Matsunaga