70’sファンクをベースにした音作りとスピード感のあるフロウ、知性と個性を融合させたラップで注目を集めるTopaz Jones。音楽シーンのみならず、その佇まいでファッション界隈からもラブコールの絶えない彼が、SUMMER SONIC2019、Billboard Live TOKYOでの単独公演のため初来日を果たした。バックグラウンドから完成したばかりというニューアルバムについてまでを聞いた。(→ in English)
――東京に来るのは初めてですか?
Topaz Jones : そう。すごく来てみたかったから念願が叶って嬉しいです。高校生の時にカニエ・ウェストの大ファンで、彼の『Graduation』というアルバムで村上隆やたくさんの日本のアートワークが使われていたし、彼が東京からいかにインスパイアされたか語っていたのを鮮明に覚えています。その頃からずっと来てみたいと思っていたんです。
――そうなんですね。私たち日本のファンもあなたのパフォーマンスを観れるのを心待ちにしていました。バックグラウンドから訊いていきたいんですが、あなたはお父さんの影響でファンクを好きになったんですよね。多様性のある音楽だから、ラジオなんかも聴いていたのかなとも思ったんですが実際は?
Topaz Jones : 間違いなく父の影響は多大にありますね。人間は成長過程で聴いてきたものや関わった音楽にまず反応するものだと思うんですが、私の場合はそれがファンクだったんです。だからファンクやそれがベースになった音楽が流れると耳が自然と反応してしまうというか。ラジオはそんなに聴いてこなかったけど、OutKastやTyler,The Creatorみたいに独自の音楽性を持っていて、ポップスだらけのラジオの音を変えたり、そこの隙間に入り込んでいって自分たちの方に引き寄せたりすることができるようなアーティストにはいつもハマって聴いていました。
――A Side/B Sideというプロジェクトをやっているくらいだからアナログレコードも大好きなんですよね?
Topaz Jones : もちろん! 次のアルバムでは全部の曲を収録したレコードを作りたいと思っています。昨日は渋谷のJBSというジャズバーに行ったんですが、最高でした。DJの小林克也さんが私の父のレコードをかけてくれたんです。
――すごい! 音楽制作についての質問です。幼稚園生の頃から音楽を作り出したと他の記事で読んだんですが、それは本当?
Topaz Jones : レコーディングはしてないけど確かに曲は書いてましたね。幼稚園では書かずに、オフの時に作ってたんです。8歳頃からは曲のアイデアなんかを書き留めるようになって、それが全てのスタートになりました。
――お父さんはギタリストだけど、リズムにこだわったりベースを重視した方向に行ったのはなぜなんでしょう。
Topaz Jones : 小さい頃に父がクリスマスプレゼントとしてギターをくれたんですが、すっごく難しかったんですよ(笑)。しかも父は名ギタリストだから、私はちょっと萎縮してしまってギターはやらなかったんです(笑)
――(笑)。曲作りはNight Episodeというバンドと一緒にやっているんですよね?
Topaz Jones : そう、『Arcade』では全曲一緒にコラボしました。今でも一緒にやることはあるんだけど、最近のアルバムでは一緒に曲作りはしていなくて。
――そうなんですね。じゃあ生音を入れたいときは自分でやるんですか?
Topaz Jones : ニューアルバムでは2曲は自分でギターを弾きましたが、才能あるミュージシャンやプロデューサーを招いた方がいいと判断して、ツテを駆使して素晴らしいドラマーやベーシストなどとコラボしています。私はそのブレインみたいな感じですね。
――“Cotton Fields”はニュージャージーの自宅で録ったとてもパーソナルな曲ですが、この曲ができた背景を知りたいです。
Topaz Jones : 生まれ育った家を親が手放すことにして、母親が家にあったいろんなものを売りに出すために梱包していたんです。その最後に残ったのがピアノでした。その頃はちょうど練習用にヴォイスメモをたくさん録っていた時期でもあって。全部が売れてなくなってしまった家でヴォイスメモを聴き返していたら、そのうちの一つがすごく突出したものになると思ったんです。それが“Cotton Fields”です。『Arcade』も同じ頃のもの。いつもそのヴォイスメモに立ち返って考えるんです。
――2013年にリリースした“Coping Mechanism”はヴァンダリズムのような、社会問題を背景にした曲で、“Cotton Fields”はよりパーソナルな内容になっています。あなたの曲作りには両方の要素が混在しているんでしょうか。
Topaz Jones : “Coping Mechanism”を知っているのはヤバい(笑)。私は人間だからいろんなことを思ったり考えたりするけど、怒りっぽいタイプではないんです。“Cotton Fields”は私の基本的な性格に近いんじゃないかな。でもちょうど完成したばかりのニューアルバムでは、“Coping Mechanism”みたいに社会的な主張をしているような曲ももっと入ってますよ。そういうところも自分の一側面だけど、『Arcade』では全部のトピックをうまく関連づけれなかったので今やっているんです。でも単純に、自分が情熱を感じることをなんでもやっているだけなんですけどね。
――そのニューアルバム、めちゃくちゃ楽しみです。“Toothache”のMVはrubberbandが手がけていますね。ラフ・シモンズによるCalvin Kleinのキャンペーンムービーなどでも知られる気鋭ですが、このコラボはどのように実現したんですか。
Topaz Jones : MVの撮影は本当にストレスフル(笑)。すごくたくさんのことをやらなきゃいけないから大勢が関わるし。でもラッキーなことにrubberbandの二人は親友で、私のことややりたいこと、アーティストとしてどのように表現すべきかも全て完璧に理解してくれているんです。いつも大学時代につるんでいた彼らと一緒に仕事をして何か成し遂げられるというのは夢のようです。MVを撮るのは本当にストレスだけど、めちゃくちゃ楽しくもあって、また早く作りたいですね。
――新しいMVのプランはあるんですか?
Topaz Jones : もちろん!
――ところでまだSNSをやる気にはなりません?
Topaz Jones : やらなきゃいけないのはわかってるんですよ! (笑) いつかフランク・オーシャンくらいになれたらいいんですが……。大抵はいい人たちんだけど、中にはいやなコメントを残す輩がいて、それを見て1時間くらい悩んだりするのは馬鹿げてますよね。何の写真も載せてないようなアカウントなのに。そういうことがあるとやる気が失せるんですが、今はこのゲームをやる気ではいます(笑)。
――健闘を祈ります(笑)。MTVやラジオが主流だった以前に比べ、今はサブスクなどが音楽面の主要なツールになっています。現代の音楽のセールス方法についての意見を聞かせてください。
Topaz Jones : 父が音楽業界にいた頃に比べ、ミュージシャンが自分でコントロールできる環境になりましたよね。当時は誰もがひどい契約を結ばなくてはいけなくて、お金、コントロール、所有権を全く得ることができなかったんです。だからアーティストが管理できてパワーを持つことができるこのSNS時代を喜んでいます。でも残念ながら間違ったことを優先させている人が多いのも事実。インスタグラムがいいねの数を見れなくするようにするという記事を読んだんですが、そんなことは実現しなそうじゃないですか? というのも、ブランドになり得るような人物にはフォロフワーは金の成る木のようなものなんですから。ただ、いいねが多くついていることがその人の音楽がいいという証拠ではないと思っているから、自分はただ良い音楽を作るということを大切にして邁進するのみです。
――私も同意見です。さて、最後の質問です。あなたは非常に読書家ですが、最近なにか良い本があったら教えてください。
Topaz Jones : ガールフレンドの方がよほど読書家なんですが……そうですね、今は先日亡くなってしまったToni Morrisonという作家の本を読んでいます。彼女はお気に入りの作家の一人なので、ぜひ読んでみてください。
photography Riku Ikeya
text & edit Ryoko Kuwahara
Topaz Jones
スピード感あるフロウを70’sファンクの要素を盛り込んだトラップのビートに融合させるスタイルで話題を集める新世代ラッパー、トーパズ・ジョーンズが初登場。オーラやスレイブといったバンドに参加してきたカート・ジョーンズを父親に持ち、幼少期からファンクやソウル・ミュージックの洗礼を受けて育ってきた彼。さらにジミ・ヘンドリックスやAC/DCなどの影響も受け、ジャンルの枠にとどまらないサウンドを2014年のデビューより体現する。今年はファッション・ブランドのアイコンに起用されるなど、音楽以外の領域でも注目を集める新たな才能。サマーソニック2019で来日を果たし、Billboard Live TOKYOでも単独公演を敢行した。
https://www.instagram.com/topazjones/