先日開催されたサマーソニックでは、キュートさのなかにアンニュイな魅力も併せ持ったパフォーマンスで話題を呼んだ、NYブルックリンを拠点にするシンガーソングライターのロロ・ズーアイ。この秋には水原希子らとともに「コーチ FALL 2019 グローバル広告キャンペーン」にも起用されるなど、ファッション界からも注目を集める彼女。今年の春に発売されたデビュー盤” High Highs to Low Lows”の話を中心に、彼女のリアルに迫る。(→ in English)
──SUMMER SONIC 2019のステージはいかがでしたか?
Lolo「開演前は、数十人くらいのお客さんしかいなかったので、心配していたけど、始まった瞬間に大勢の方が集まってくれて本当に驚きました。私のパフォーマンスが注目されていたんだなと実感することができました」
──少女アニメのキャラクターのようなスカートが印象的でした。
Lolo「(笑)。私は『美少女戦士セーラームーン』に代表されるアニメや、ヒラヒラしたテニススカートが大好き。せっかく日本にいるのだから、そういう好きな要素をもっと強調したアイテムを身につけようと思ったんです」
──日本の文化からの影響があるのですか?
Lolo「NYで暮らしていると、多様な文化が存在します。ストリートが変わるごとに、異なる国の雰囲気が味わえたりする。そういう混在した街の雰囲気から影響を受けることが多いかな。日本もそのうちのひとつであることは確か」
──あなたはまた、フランスで生まれ、その後サンフランシスコ、ラスベガス、NYとこれまでさまざまな場所で生活されたそうですね。そういった経験も、音楽に影響を与えた部分があるのでは?
Lolo「私はフランスで生まれた直後にサンフランシスコに渡り、その後18年過ごしました。両親が離婚した影響で、途中に父親の暮らすラスベガスで数週間暮らしたこともありましたが、現在はNYで暮らしています。そういった経験は、どれも特別なものだったと思う。また、母親はシングルマザーでありながらも、姉と私をしっかり育て上げ、毎年夏にはフランスへ連れて行ってくれました。また父親の祖国であるアルジェリアもアメリカやフランスと異なる雰囲気で忘れられませんし。これまでの人生で触れた景色のすべてが、自分の音楽に反映されていることは確かであり、自分のアイデンティティーとして表現したい部分です」
──アルバム” High Highs to Low Lows”では、英語だけでなくフランス語も駆使した歌詞になっていますね。それもあなたの個性ということでしょうか?
Lolo「これが最初のアルバムになるので、自分のアイデンティティーをしっかり提示したい思いは確かにありましたが、それよりもメロディにのせた時にしっくりくる『言葉』を選んだ、と言った方がしっくりきます。言語に関しては、特にこだわりはないんです。サウンドにあうものを自由に選んでいきたいだけ。だから『Desert Rose』という楽曲ではアラビア語を取り入れているし。決して流暢な発音ではないですけどね(苦笑)」
──でも、どうしてもフランス人アーティストと言われることが多いのでは?
Lolo「そうなんです(笑)。私はアメリカでの生活の方が長いのにね。だから、音楽では真実の私を表現しているつもり。それをリスナーの皆さんにどう受け取られるかまでは、自分ではコントロールできないから、お任せするしかないです」
──ではアルバムでは、どんなテーマを持って制作されましたか?
Lolo「私の日常をフォーカスして、どういう人間でミュージシャンなのかを表現した内容です。このアルバムを制作していた当時、私は最低賃金で働き、日々の暮らしをするのにやっとな状況だった。でも、アルバムのレコーディングでLAやマイアミなどに連れて行ってもらった時は、ファーストクラスに搭乗でき、そしてラグジュアリーなホテルに宿泊できた。それが終わると、魔法がとけたように、地元でミルクシェーキをサーブする日々が待っている。そのコントラストをアルバムで表現したつもりです。幸い、アルバムを発表してから現在は『ハイ』な状況にあるのかもしれないけど、心の奥には『どん底』な気分もしっかり残っていて。結局その両面って、生きる上で常に存在するものなのかな?とも思います」
──プロデューサーである、Stelios Phili(ステリオズ・フィリ)とは、どんなやりとりをして制作しましたか?
Lolo「プロデューサーは、私のヴィジョンをしっかり理解してくれる、とても素晴らしい人。出会っていなかったら、アルバムはリリースされることがなかったはず。作り方に関しては、私もソングライティングができるし、お互い好きなものなど完成に共通点が多かったので、とても充実した作業になりました。たいていは、私が自分の身の回りに起こったことを話すことからスタートし、こういうビートに乗せたらよりその思いが届くのでは?というアイデアやアドバイスをもらって、さらに音を重ねていき完成していくというプロセスが多かったと思います」
──サウンドに関しては、流行のトラップ的なエレクトロ・ビートを交えたものから、60~70年代のフレンチ・ポップを連想させるものまで多彩ですね。
Lolo「自分が好きで聴いてきた音楽の影響が表現されていると思います。私はエディット・ピアフ、ブリジット・バルドーといった往年のフランス音楽から、最近のヒップホップやトラップ、R&Bなど幅広い音楽が好きなんです。また、ジャンルに当てはめるという概念は、表現する自由を奪われるような気がして、あまり好きじゃないし。私は、ただ自分がいいと思った音楽を表現しているだけで。それをリスナーの人がどう受け止めていただけるのかは、それぞれの感性にお任せしたいです。あえて自分の音楽を例えるならば、サブスクリプションのプレイリストみたいなイメージでしょうか」
──アルバムを制作しているなかで感じた「ハイ」な瞬間と「ロー」な瞬間を教えてください。
Lolo「最高だったのは、いいアイデアが閃いた瞬間!『これはきっと最高の楽曲になる!』という予感がすると、とてもワクワクしました。でも、そこから思い描く音にたどり着くまでは、本当に『ロー』な気分になることがしょっちゅう(笑)。特に最後のミキシングの作業は、思い通りになかなか進行せず、最悪な気分になりました。また、メロディが思い浮かぶ瞬間も最高だけど、ちゃんと意味のある歌詞を考えなくてはいけないと思うと、塞ぎ込んだ気持ちになることが多かったです」
──ところで、あなたは“Tommy Jeans”の2019春夏キャンペーン、さらに水原希子さんらとともに「コーチ FALL 2019 グローバル広告キャンペーン」にも起用されるなど、ファッション界からも注目されていますね。
Lolo「ミュージシャンを好きになる要因って、音楽だけではなく、その人の放つ雰囲気みたいなものも大切じゃないかと思う。私自身も、アリーヤやスカイ・フェレイラ、マドンナなど、楽曲だけでなくヴィジュアルや生き方みたいなものに共感や憧れを抱いて好きになったミュージシャンが多いんです。だから、高校生の頃から彼女たちに負けない存在感を出そうと思って、他のクラスメイトとは異なるスタイルを追求していました。そんな私を見た誰かが『私に負けない個性を発揮できる存在感を放ちたい!』という刺激を与えられたらと思います」
──コーチのキャンペーンは、ユルゲン・テラーの撮影でしたね。
Lolo「私、ケイト・モスが大好きで、特に彼の撮影したものがお気に入りなんです。だから撮影していただけただけで嬉しかったのに、『モデルの素質がある』とか『ケイト本人みたい』などと周囲から言われて、とても感動しました」
──今後の目標は何ですか?
Lolo「コンスタントにアルバムを発表していきたい。まだまだ若いミュージシャンなので、これからいろんなことを吸収できると思います。そこで得た刺激を、柔軟に音楽に反映させていけたら。また音楽以外の分野でも、いつか自分のコレクションを発表したいし、コスメ・ブランドともコラボしたい。また声優や演技の仕事にもトライできたらいいですね。一度エンタテインメントの世界に入ると、いろんな可能性が生まれるんです。そこを無駄にしたくないというか。音楽だけだと不確実な部分もあるので、安定した生活を過ごすためにもいろんなことに取り組んでいきたいです」
photography Yudai Kusano
text Takahisa Matsunaga
edit Ryoko Kuwahara
Lolo Zouaï(ロロ・ズーアイ)
“ High Highs to Low Lows”
ソニー・ミュージックジャパンインターナショナルより配信中
オフィシャルサイト
https://lolozouai.com
https://www.youtube.com/channel/UCFlQ8q0A6zC-54DrSbX4UHQ
Lolo Zouaï
パリ生まれ。その後サンフランシスコに移住、ラスベガスでいくつかの夏を過ごし、現在はNYブルックリンを拠点にする、フレンチ-アルジェリアンである24歳のシンガーソングライター。エディット・ピアフから、2000年代の「ベイエリア・ヒップホップ」など、幅広い音楽から影響を受け、高校生の頃からスマートフォンのアプリを駆使してソングライティングをスタート。2017年にシングル’ High Highs to Low Lows’をリリース。この楽曲は、Spotify’s Fresh Finds Best of 2017に選出された。また第61回グラミーで「最優秀R&Bアルバム賞」を獲得したH.E.R.の作品『H.E.R.』に収録された「スティル・ダウン」にソングライターとして参加。今年春にデビュー・アルバム” High Highs to Low Lows”を配信開始。