アンチレイプカルチャーのアンセムとなった“Boys will be boys”や家父長制やミソジニーにNOを突きつけた“Old Men”など、率直でありながらユーモアの効いたリリックとシンプルで完成度の高いサウンドで世界中の関心をさらったオーストラリア出身の注目のシンガー・ソング・ライターStella Donnelly。今年3月にリリースしたばかりのデビュー・アルバム『Beware of The Dogs』を手にフジロックに参戦した彼女に、バックグラウンドから現状についてまでを聞いた。(→ in English)
――まずはフジロックにようこそ。今日のパフォーマンスやオーディエンスの感想を聞かせてください。
Stella「素晴らしかった! 日本では初めてのライヴでしたが、あんな大勢の前で歌えたなんて、私はとても幸運だなあと思います」
――今年のフジロックはあなたの好きなMITSKIなども参加していて、同じ日にはJanelleやYaejiなど女性をエンパワメントしているアーティストが登場し、個人的にはとても充実したラインナップだと思っています。今回初参加となりますが、このラインナップ含めて、フェス全体の印象や感想はありますか。
Stella「本当にとてもいいことですよね。ラインアップも素晴らしいし、世界で開催されるフェスとは違ってかなり治安もいいし、安心して演奏できました。子どもも多く、人に優しくあたたかな感じがするフェスだと思います。来場者の方達の目的がちゃんと音楽を楽しむことだということもよく伝わりました。音楽にちゃんとフォーカスしているかしていないかによってフェスの雰囲気はガラッと変わりますから」
――ここからはあなた自身について。お父さんの影響か小さい時から歌ったり表現をすることが好きだったそうですが、その中でも音楽を選んだのはなぜだったんでしょう?
Stella「音楽が私を選んだのだと思います。馬鹿げているように聞こえるかもしれませんが(笑)、水泳のコーチになったり、違う職業も試してみたけど、最終的には毎回音楽に戻ってしまって音楽から離れられないんです。常に誰かのバンドで演奏したり何かしらの音楽活動をしていて、結局音楽が一番喜びを与えてくれるものでした。他に得意なことがないので、選択の余地がないとも言えますが(笑)」
――アルバム『Beware of Dog』は様々な曲調の曲たちがありますが、声と寄り添うようなギターの旋律が印象的です。お父さんにギターを習ったそうですね。作曲時にはギターから作ることが多いですか? 作曲のプロセスを教えてください。
Stella「いつもはギターを手に色んなコードを試してみて、コードの上にメロディーを加えていきます。そして最後に言葉をメロディーに当てはめていきますね。なので、歌詞は最後の最後に仕上がる感じです」
――バックグラウンドにはウェールズで3年間育った時期に聴いた曲たちもあるそうですね。どのような音楽的な体験をしてきたのか興味があります。
Stella「ウェールズに住んでたのは幼少期の3年間で、大きな成長を遂げた時期でした。オーストラリアに戻ってから、たくさんの現地のロックバンドの音楽を聞き始めてそれが自分を形成したと思います。友達が演奏していた音楽も常に周りにありました。多くの友人たちがギターを弾いてたので、よくインスパイアされていました。たくさんの段階を通ってきたので、My Chemical Romance的なエモも通っていますし、今思い返すと少し恥ずかしいような音楽を聴いていた時期だってあります(笑)」
――あなたの曲は歌詞がとても特徴的ですが、歌詞に意味がある音楽をたくさん聴いてきたことで、自然と歌詞を重視するようになったのでしょうか。
Stella「確かに面白い歌詞にはいつも惹かれていました。でも自信を持って自分を作曲家と呼べるようになったのは4年前くらいからです。自分の言葉で伝えたいことを発信するタイミングがやっときたからだと思います」
――アンチレイプカルチャーのアンセムとなった“Boys will be boys”や家父長制やミソジニーにNOを突きつけた“Old Men”などがある一方、同時に何気ない日常を歌った曲たちもあり、それらが混在する感じが一人の女性として生きるリアルな日々だと思いました。どのような時に歌詞が浮かびますか?
Stella「自分の経験から、もしくは友達に起こったことが多いですね。過去を振り返って、“こんなことがあったなんてあり得ない!”と思った出来事について書く時もあります。ある意味、私にとって曲を作ることは情報や出来事を消化する一つの手段で、そうすることで過去の出来事を自分の言葉で表現することができるようになるんです」
――訴えたい内容がある歌詞であればあるほど、ストレートに優しく響くシンプルなサウンドになっていますね。
Stella「ええ、そのバランスはとても大切です。複雑でハードな出来事を消化するためのシリアスな歌詞は、人に受け入れやすい柔らかなサウンドと合わせる方がいいと思います。曲がシンプルであればあるほど、人の心に響く言葉を持つべきなんです」
――アルバムではBells Rapidsのタルヤ、Boat Showのジェニファーなどもプレイヤーとして参加しています。ソロとは別でバンドとしての活動もそのうち再開したいと思います?
Stella「もちろん! 人と演奏することは大好き。テニスやサッカーみたいなチームスポーツを遊んでいる感覚なんです。他の人と一緒に経験することで、より自分も楽しめるので」
――バンド活動を再開したらぜひ来日してほしいです。オーストラリアでも家父長制が問題だということですが、ここ日本でも家父長制は大きく影響していて、オーストラリアと同様もしくはもっとひどい状況です(レイプ加害者が裁判で無罪放免になることも多く、警察や裁判、メディアの被害者へのセカンドレイプなども深刻な状況)。女性の躍進が目立つ一方でアラバマの状況なども含めてひどいバックラッシュも起きていますが、今、この現在を生きるアーティストとして、現状をどう捉え、どう活動して行きたいと思いますか?
Stella「これはアーティストではなく、一人の人間としての答えになってしまうんですが、小さなことから変えていくことが大切です。よく男友達から現状に対して自分にも何かできることがあるかと聞かれるんですが、冗談だとしても何か女性を傷つけることを誰かが言っていたとしたら『面白くないから、そういうことを言うのはやめようよ』と発言することが大切だと思うんです。そうやって小さなことを改善していけば、カルチャーも変わっていくと信じています。差別も同じです。私は白人ですが、周りに差別的な発言をしている人がいれば、ちゃんと声をあげます」
――最後に、何かニュースがあれば。また12月の日本での単独公演を心待ちにしている日本のファンに一言お願いします。
Stella「みなさんこんにちは。私の音楽を聴いてくれてありがとう! 12月に戻ってきます! 今度は東京と大阪でライブを行うので、またその時に会いましょう。日本でお会いするのを楽しみにしています! またね!」
photography Yosuke Torii
text & edit Ryoko Kuwahawra
Stella Donnelly単独来日公演
東京:12月11日(水)渋谷CLUB QUATTRO
開場19:00開演20:00 前売¥6,000 (入場整理番号付、1 ドリンク別)
大阪:12月12日(木)梅田SHANGRI-LA
開場19:00開演20:00 前売¥6,000 (入場整理番号付、1 ドリンク別)
総合問合せ:SMASH 03-3444-6751 smash-jpn.com
Stella Donnelly
『Beware of The Dogs』
(Big Nothing / Ultra Vibe)
初回盤のみ『スラッシュ・メタル』EPのダウンロード・カード封入(フォーマット:mp3)
https://music.apple.com/jp/artist/ステラ-ドネリー/1218829871
https://open.spotify.com/artist/2mHjhKyKCLh6MZELuCe1Es
Stella Donnelly
豪パース出身、26才のシンガーソングライター。2017年、Healthy TapesよりファーストEP『Thrush Metal』をリリース。このEPが話題となり、翌2018年、アメリカのレーベル、Secretly Canadianが同作をリイシュー。EPはNPR、KEXP、Pitchfork、LA Times、NY Times、NME、The Telegraph、Independent、Loud & Quiet、DIY、BBC Radio 1といった米英のメディアから絶賛された。2017年をツアーに費やしたStella Donnellyは、2018年の6月、地元のオーストラリアに戻り当デビュー・アルバムをレコーディング。プロデューサーにDean Tuzaを起用し、フレッシュな内容を求めバンドを一新して制作された『Beware of the Dogs』は2019年3月、Secretly Canadianよりリリース。フジロックフェスティバル2019にて初来日を果たし、多くのファンを歓喜させた。
http://bignothing.net/stelladonnelly.html
https://www.stelladonnelly.com/