昨年開催された自主企画「Opening Nights」に続き、最新アルバム『Beyondless』のリリース後初となる来日公演を行なったアイスエイジ。この一年強の間、ほぼ途切れることなくライヴをこなしてきたかれらだが、直近のツアーからバンドは新ギタリストのキャスパー・モリーラを加えた5人編成に変更。それに伴いバンドが新たなモードを迎えていることを、この日のパフォーマンスは言外に示すものだったように思う。その公演当日、キャスパーを含めたメンバー全員に、改めて『Beyondless』を振り返ってもらいつつ、最近のトピックについてざっくばらんに語ってもらった。(→ in English)
――日本に来る前に韓国のフェスに出演されたそうですね。
ヤコブ・プレス「すごく面白かったよ。DMZ Peace Trainっていうんだけど、北朝鮮との軍事境界線で開かれるフェスで。僕達の誰もどんなフェスなのかイメージすらできない状態のまま会場入りしたんだ」
エリアス・ベンダー・ロネンフェルト「それに北と南の平和を願う祭典っていうコンセプトがすごく美しいよね。境界線を訪問したっていうことだけでも、すごく特別な経験になった。北朝鮮ってニュースで見るだけで謎に包まれてるところだし、今回参加できて本当によかったよ」
――やってて普段のフェスとは違う感覚がありましたか。
エリアス「ステージ脇で兵士が銃を構えて待機していたり、最初は緊張感ある雰囲気なのかなと思ってたけど、全然違っていた。すごくピースフルで穏やかな雰囲気で、韓国の兵士もステージを見学したり韓国焼酎を飲んだりしてて、思った以上に自由でポジティヴなバイブスに包まれてたんだ」
ダン・ニールセン「それと韓国のお客さんが最高だったよね。韓国で初めてのライヴだったけど、たくさんのお客さんが集まってくれて、しかもみんなすごく盛り上がってくれて、よかったよ」
――開催の主旨に賛同して出演を決めたんですか。
ヤコブ「いや、最初向こうからオファーがあって、それで初めてこういうフェスがあることを知ったんだ。それで調べていくうちに、なるほど面白そうだなって」
ヨハン・ ヴィト「韓国にそんなフェスがあるってことも知らなかったけど、調べてみたら『へえ!』って」
――この前バンドのInstagramで、先日コペンハーゲンで開かれた反ファシストのデモに警察が介入したことへの抗議のメッセージをアップされていましたよね。
エリアス「ヨーロッパというか、デンマークでは新たに極右派が台頭していて。前時代的なマインドと思考回路で移民政策に大反対していて、ありとあらゆる場面で問題を巻き起こしてるんだけど、それが最近になってますます悪化しているように思えてね。自分達からも何かしら声を発しなくちゃって思ったんだ」
――最近デンマークの選挙についての報道を見たのですが、いわゆる左派の政党も移民政策に反対の立場を取らないと支持が得られない状況にあるとか。
エリアス「どの政党のことだろう?」
――いわゆる中道左派っていわれる人達ですね。
ヤコブ「それも今では結構右寄りだよね」
ダン「ただ、どんなに左寄りだとしても、あくまでも少数派なので、単独だけでは国会で議席数を取れないから、どこかの政党と徒党を組まなくちゃいけないんだ。そうなると、当選するために中道に寄せてきたりするわけで」
エリアス「中道左派も投票数を獲得したいがためにどんどん移民政策に反対する方向に傾いているしね」
――今話してくれた保守的な空気の高まりへの危機感というのは、若い世代のバンドの間でも共有されている感じなのでしょうか。
ヨハン「もちろん、だって無視できないからね」
エリアス「コペンハーゲンにいる友達もだいたい僕達と同じ考え方なんだ。そういう保守的な意見って、デンマークでも小さな町を中心に起きてることで」
ダン「そう、地方とか田舎のほうとかね。デンマークの中心とはわりと離れたところで、新聞で報道される右翼寄りの意見を鵜呑みにして、移民がいかに危険な存在かってことをすっかり信じ込まされて、それで移民は全部排除という右翼寄りの政党に投票してしまう」
エリアス「自分とダンは地元が一緒なんだけど、住んでるところのすぐそばが移民が多く暮らしている地域で、どんな暮らしぶりをしてるかも身近で見てきてるから、全然わけのわからない存在でもないし、危険な存在じゃないことを知ってる。普通に移民の友達とかもいたしね。ただ、もし地方の田舎町に暮らしてて、そうした移民の暮らしぶりを知らないまま、ただメディアのニュースだけを見てたら、移民は怖い存在だって洗脳されてたかもしれないよ」
――〈Posh Isolation〉の設立者であるクリスチャン・スタッドスゴーアも関わるプロジェクト「The Empire Line」のメンバーが、デモに参加して拘束されたというニュースも聞きました。
エリアス「拘束されたのは僕達の共通の友人でもある。その彼が自分はやってもいない罪で拘束されてしまったんだ」
――『Beyondless』に収録された“Hurrah”では、国のためではなく生きるために戦わなくてはいけない兵士の気持ちが歌われています。今こうして世界中で緊張感が高まっている中で、あの曲について改めて思うことはありますか。
エリアス「あの曲のメッセージや存在意義みたいなものは、昔も今も変わりないんじゃないかな。あの曲を書いてる当時から、すでに世界的に緊張状態にあったわけだし。それに影響された部分もあるんだろうけど、あの曲は必ずしも今この瞬間だけに起きている現実ではなくて、世界で昔から起きていることだからね」
――その緊張感は、アルバムがリリースされた時点からさらに高まっていると感じませんか。
エリアス「うん、たしかにそれはある」
――『Beyondless』というアルバムについては、今振り返って何か思うところはありますか。
ヤコブ「いや、過去を振り返るよりも未来を向いてるほうだから」
ヨハン「あんまり過去の作品って振り返ったりしないよね。それよりも先のことについて考えてる」
ダン「ただ、去年1年間ずっとツアーをしながら、ライヴやお客さんとのコミュニケーションを通して、曲についてより理解が深まったし、また違った見方が生まれたりして。オーディエンスとの関わりもあるし、曲との関係性が変わってきたのはあるよね」
――去年のリリース・タイミングのインタヴューでは、湧き上がるアイデアをまとめるのが大変でレコーディングは混沌としていた、と話していたので、時間がたって冷静に振り返ることができる部分もあるのかな、と思ったのですが。
エリアス「というか、そもそもアルバムが完成してから一度も聴いてないかもしれない。ライヴではさんざん演奏してるけど」
ヤコブ「今だって全然落ち着いてなんかないし、混沌としてるよ」
――バンドとしては次のモードに向かっている感じですか。
エリアス「そうだね」
――去年の年末にリリースした“Balm of Gilead”は新しい曲なんですか。
ダン「『Beyondless』と同じ時期に書いた曲なんだけど、アルバムには入ってないから、ああいう形でリリースすることになったんだ」
ヤコブ「B面みたいな曲だよね」
――ちなみに、最近のバンド内でのトピックや個人的にチェックしていることって何かありますか。音楽以外でもなんでも。
ヨハン「去年1年間ずっとツアーしてて、ほとんど家を空けてたから、ライヴ以外のことをする時間がほとんどなくて」
ダン「ただレコード漁りとかは好きだしね。そう言えば、ちょっと前にヨハンがNetflixで日本のヤクザ映画を見つけて興奮してなかったっけ?」
ヨハン「いや、たまたま見つけただけで、まだ観てないんだけど(笑)、結構昔の映画でサニー・チバのシリーズで」
ヤコブ「とにかくツアーをして新しい世界に触れるのが一番刺激的で楽しかったよ」
――音楽でよかったものは何かありますか。
ダン「このツアー中にヘッドフォンをなくしたから、最近は音楽を聴いてないんだ(笑)」
ヤコブ「ここ何日かで聴いてるのはアルゼンチン・タンゴのアルバムで、たしかアストル・ピアソラっていう人だったんだけど、すごくいいよ」
エリアス「あとはタイでライヴをやったときに、向こうの伝統的な音楽に触れる機会があって、家に帰ったらチェックしてみたいな」
――アイスエイジの音楽制作って、外からの影響を自分なりに消化して吐き出す感じなのか、それとも外からの影響を遮断して自分の中から湧き起こってくるものを形にする感じなのか、どっちに近いですか。
ダン「どっちもあるよね」
エリアス「外にあるものを取り込んで、それをいったん自分の中で消化してから、出すという」
――そういう意味で、『Beyondless』のキーとなった要素を挙げるとするなら?
エリアス「それを具体的にって言われると難しい(笑)」
――わかりました(笑)。では、新たに加入したキャスパーに、自己紹介してもらっていいですか。
キャスパー「えーっと、キャスパー・モリーラです。半年前に加入したけど、メンバーとは昔からの付き合いで。もともとはコペンハーゲンで別のバンドをやってて」
エリアス「そう、レス・ウィンっていうんだ。オススメだから(笑)」
キャスパー「うん(笑)。来年の始めにはアルバムも出る予定なんでよろしく(笑)。それとフラメンコ・ギターが好きで」
エリアス「キャスパーはフラメンコ音楽に詳しいから、いろいろ紹介してもらってるよ」
キャスパー「自分はスペイン人とのハーフだから、昔から自然にフラメンコ音楽に親しんでてね。あとは美しい音楽を奏でることが何よりも好きなんで(笑)、それでこのバンドに加入することになったんだ」
――キャスパーに声をかけた理由は?
ジェイコブ「前々から2人目のギタリストを入れようという話になっていて、そしたらキャスパー以外にはいないって感じだったんだ」
――去年、「Opening Nights」で来日した際にはフラワーアーティストの東信さんと“Under The Sun”のインスタレーション映像を制作されましたが、ああいった形で現地のアーティストとコラボレーションする予定は何かありますか。
ダン「東さんと一緒にやったときには、他にもいろんなアーティストと並行でコラボレーションしてたからね」
ヤコブ「総勢30人のアーティストとコラボレーションして」
ダン「だから常にいろんなアーティストとコラボレーションしてるよ」
エリアス「“Pain Killer”のアニメーションはモーティス・スタジオ(Mortis Studio)とのコラボレーションだしね」
――いろいろな場所をツアーで訪れていますが、とくに印象に残っている現地のカルチャーはありますか。
エリアス「ツアーしてるとなかなか難しいよね。ライヴで自分の演奏を聴くのでいっぱいになっちゃって。ただツアー中に若手のアーティストに会ったりするんで、いろいろ教えてもらったりはしてる。この間も韓国でインドネシア人に会って、向こうのシーンについて紹介してもらったりしたから今度チェックしに行こうと思ってる」
――そういえば最近のバンドのInstagramで、ボクサーと一緒に写っている写真がありましたね。
ダン「バンコク滞在中に、現地で昔からあるムエイタイの格闘場に行って試合観戦したんだけど、喫煙所で若手選手を担当してるトレーナーと仲良くなって。『よかったら、うちの父親が試合に出るからリング脇で観戦していきなよ』って言われて、リング脇で試合観戦させてもらって。その後、そのお父さんと一緒に写真を撮ってもらったんだよ」
エリアス「リング脇でトレーナーと一緒になって叫んでね」
――逆に、最近のコペンハーゲンのシーンはどうですか。
ヤコブ「そもそもツアーでコペンハーゲンで過ごしている時間が少ないから、最新のシーンをチェックしてるヒマがないんだけど、いつも何かしら面白いプロジェクトなりバンドなりは起こってる印象はあるけどな。ただ実際にどうなってるのか、正直自分にもよくわかってなくて。それと地元に帰ったら帰ったで、今度は自分のやりたいことを集中してやってる感じ」
――世界的に注目を集めた結果、良くも悪くも変わってしまった部分があるかと思いますが、その辺りについて思うところはありますか。
エリアス「というか、注目されたときにどう対処するかってことじゃないかと思う。自分達も一時期ハイプ扱いで注目されたけど、あくまでも一過性のもので、いつまでも続くものじゃないことを知ってたからね。他の人達が自分達のことを持ち上げようとこき下ろそうと、あくまでも自分達の気持ちに従って行動してきた。だから注目されたからって別にどうってことはないよ」
ヨハン「そうだね。一番最初に注目されたとき、調子に乗ったりしなかったのがよかったよね。1回そのループにハマっちゃうと、一生調子に乗り続けたまんまになっちゃうから」
――アイスエイジにとってタブーはありますか。
ダン「いや、アルバムを出すごとにどんどんタブーを外していってるような気がする。だからタブーはもしかしてないのかもしれない」
エリアス「うん、自分達のまわりにある垣根をどんどん打ち破っていってるような気がするし、そうすることによってバンドとしての可能性がどんどん広がっていってるような気がするね」
photography Takayuki Okada
text Junnosuke Amai
Iceage
『Beyondless』
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