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text by Junnosuke Amai

「自分にとって何が大切なのかを知ることができた」Jamie xx “In Waves”インタビュー




The xxのJamie xxが9年ぶりとなるソロ・アルバム『In Waves』をリリースする。本人が明かすとおり、『In Waves』はジェイミーにとって音楽制作の原点に立ち返るようなモードから生まれた作品で、そこにはこの間のパンデミックで経験した生活や心境の変化が影響を及ぼしているという。4年の歳月が費やされた今回のレコーディングには、リード曲“Life”で歌うロビンをはじめ、ザ・アヴァランチーズ、ケルシー・ルー、アニマル・コレクティヴのパンダ・ベアなど多彩なアーティストが参加。また、前作『In Colour』に続いてThe xxのロミーとオリヴァー・シムも駆けつけ、ダンス・ミュージックの高揚感とベッドルームの内省が交差するサウンドに華を添えている。The xxの再始動の話も囁かれはじめるなど、次なる動向に注目が集まるジェイミーに話を聞いた。



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―先日(6/28)のグラストンベリーでのパフォーマンスはどうでしたか。新曲の反応もとてもよかったように見えましたが。


Jamie xx「すごく特別な体験だったよ。グラストンベリーはいつも楽しいんだけど、実は毎回プレッシャーを感じているんだ。なぜなら、僕は過去のグラストンベリーで何度もすごく良いパフォーマンスをやってきているから。今年は金曜の夜に出演予定だったから、残りの週末はプレッシャーを感じずにフェスティバルを楽しむことができたから良かった。お客さんも最高で、自分が期待していた以上の手応えを感じることができたんだ」



―新曲の“Waited All Night”でロミーやオリヴァーと抱擁しているシーンが感動的でした。3人の間でどんな会話があったのか、気になります。


Jamie xx「3人でまたステージに一緒に立つことはすごく素敵だったねという話をしたよ。2018年以来だから、かなり久しぶりだった。この3人で一緒にいると、どんな時でも心地よい感覚に包まれるんだ。ステージに立っていても安心していられる。彼らと一緒にステージに立つことがどれだけ心地よいのかを忘れていたよ」






―今回の『In Waves』はこの4年間、つまりパンデミックを挟んで制作されたそうですが、あの時期の経験が、人生観や音楽観、キャリアの将来形成についての考えに影響を与えたという声をよく聞きます。あなたの場合、あの経験は自身にどんな変化をもたらしましたか。


Jamie xx「たくさんの変化があった。その多くはプライベートな生活においてで、自分にとって何が大切なのかを知ることができた期間だったよ。この先の人生をどうやって歩んでいくのか、仕事とプライベートの時間とのバランスをどうやってとっていくのか、そういうことを考えていた。そのバランスを均等にしたいと思ったんだ。僕は17歳から30歳になるまで、ほぼ全ての時間を音楽に費やしていた。他のことはほとんど何もしていなかった。だから自分の新たな一面を発見する必要があったんだ」





―そうした変化は、今回のアルバムの制作にどんな影響を与えましたか。『In Waves』は、ダンスフロアの恍惚と、ベッドルームで過ごした内省的な時間の両方が綾をなすような、そのコントラストがとても印象的です。


Jamie xx「うん。その変化のおかげで、自分が昔作っていたような方法で音楽を再び作りたいと思うようになった。また、自分のためだけに作る、という正しい理由で音楽を作りたいと思うようになった。(パンデミック中は)この先、僕の音楽を多くの人に再び聴いてもらったり、ライヴをする機会があるのかの見通しが全くつかなかったからね。そのせいもあって単純に自分のためだけに音楽を作るようになって、そうしていたらまた音楽制作を楽しめるようになったんだ」



―音楽を作ることの原点に立ち返った?


Jamie xx「そうだね。このアルバムは長い期間を経て作られたものだから、試したアプローチも様々だった。アルバムとしてのまとまりを出すために、いろいろなアプローチを試みたこともあったけれど、結局そういうアプローチを求めて制作していたことこそが、今回のアルバムのサウンドを形作る要素となったと思う。だからこれほどまでに折衷的な作品になったのだと思う。自分が大好きな音楽の作り方に立ち返るために、数多くのアプローチを試した結果が今回の作品なんだ」








――今作の制作を通じて、ブレイクスルーとなったポイントを教えてください。アルバムの方向性や全体像が見えてきた瞬間のようなものがあれば。


Jamie xx「“Dafodil”ができた瞬間かな。この曲ができた時、僕としてはすぐにでも出したくてシングルとしてリリースすることをレーベルに相談したんだ。でもレーベルの人たちは、この曲を中心にアルバムを作ってから、アルバムとしてリリースする方が良いというアドバイスをくれて。今となってはそのアドバイスに感謝している。
“LET’S DO IT AGAIN”と“KILL DEM”をシングルとしてリリースして、この2曲が入るようなアルバムを作るんだろうと想定していたけど、時間が経つにつれ“Dafodil”を新しいアルバムのためにとっておいた方が得策だったということに気づいたんだ。“Dafodil”は、今回のアルバムのサウンドを築き上げていく支柱の役割を果たしてくれたと思う」



―“Dafodil”は、ケルシー・ルーと共作された曲ですね。前に彼女のアルバムにプロデューサーとして参加されたことがありましたが、あなたから見て、彼女の魅力はどんなところにありますか。


Jamie xx「とてもソウルフルでいい意味で変わってて、僕たちはお互いに似ているところがたくさんある。君が言ったとおり、僕は前に彼女のアルバム制作を手伝って、彼女と長い時間を一緒に過ごした。それから何年もたくさん一緒に遊んできた。一時期は彼女がロンドンで僕の家の近くに住んでいたから、一緒にクラブに行ったりして遊んでいて。だから彼女みたいに本当に親しい人と一緒に音楽を作るのは自然なことだと思った」




―その“Dafodil”では、アニマル・コレクティヴのパンダ・ベアがフィーチャーされています。これはどういった経緯で実現したのでしょうか。


Jamie xx「ケルシー・ルーと曲を完成させた後に、インストのパートをたくさんのアーティストに送って、「ロンドンの夏」というテーマでヴァースを書いてもらったんだ。たくさんのアーティストからたくさんのヴァースが届いたんだけど、パンダ・ベアのヴァースは曲のクライマックスにぴったりだった。アルバム・ヴァージョンはできるだけタイトにまとめたんだけど、いつか他のヴァージョンもリリースしたいな」



―あなたがパンダ・ベアの音楽、あるいはアニマル・コレクティヴの音楽にどう接してきたのか、興味があります。好きな曲やアルバムがあったら教えてください。


Jamie xx「僕は、アルバムの名前を覚えるのがすごく苦手なんだ……名前が思い出せないんだけど、ザ・エックス・エックスのツアー中と同じ時期にリリースされたアニマル・コレクティヴのアルバムは今でもノスタルジックな感じがする。それからパンダ・ベアがザ・エックス・エックスの曲をカヴァーしたものがあるんだけど、結局リリースされなくて。僕はそのカヴァーがすごく気に入っていたんだよね。ヴォーカルのプロダクションがすごく良くて。だから、遠巻きではあったけど昔から彼らのファンだったよ」

―“Life”に参加しているロビンとは、先日のグラストンベリーのステージでも共演されていましたね。あの曲で彼女に歌ってもらいたかったのはどうして?


Jamie xx「ケルシーと同じ理由からだよ。僕とロビンは以前から一緒に時間を過ごしていたし、知り合うずっと前から彼女のファンだった。自分が知っている人たちで、自分と似たような感性を持っている人と一緒に仕事をすることは、僕にとって良いスタート地点だった。ロビンのようなレジェンドと一緒にスタジオに入って作業できて非常に幸運だったと思う」




―ところで、今回のアルバムには、現実逃避の手段としてサーフィンをやるようになったことも影響を与えているそうですね。サーフィンのどんなところに面白さを感じますか。


Jamie xx「10年前くらいのことなんだけど、日本から、次の公演のためにトロントに行く予定だった。その途中でハワイに寄って、初めてサーフィンをしたんだ。初めて波に乗って板の上に立ったとき、波を別の角度から見ることができた。もちろん以前にも波を見たことはあったけれど、サーフィンをしているときは、波の動きを読んで、それに合わせて動くという物理法則が適応されるということに衝撃を受けたんだ。そういう風に自然界のものを新たな視点で見るという体験は、人生においてとても特別なことだと思う。新しい力を得たような気がしたよ。それに、音楽以外に没頭できるものが見つかって嬉しかった」



―今回のアルバムのタイトルはまさに『In Waves』ですが、例えば、サーフィンを始めたことで自分の中に生まれた変化を感じるようなところはありますか。


Jamie xx「人生における「静けさ」に対して恩恵を感じられるようになったと思う。サーフィンをしに行くと、僕は毎回嬉しくて、満たされた、落ち着いた状態になる。そして、サーフィンをしていない時間も、そういう状態でありたいと思うようになった。仕事をしているとそういう状態でずっといるのは難しいけれど、そこをベースに自分の行動を振り返ったり、近づけるように心がけているんだ」





―「静けさ」への気づきが、今作の内省に通じているんですね。同じくボードスポーツということでいえば、前のアルバムの『In Colour』に収録された“Loud Places”のMVで、ロミーと夜の街をスケートしてるシーンも印象的でした。サーフィンも誰かと一緒にやっているんですか。


Jamie xx「やってるよ。僕はサーフィンができる機会があればいつだって行く。そのタイミングでちょうど友達が一緒にいたら一緒にサーフィンをしにいくけど、特にロサンゼルスにいるときは、朝5時に起きて、車を運転して、1人でサーフィンをしに行くことが多い。友達と一緒に行っても、サーフィンは基本的に1人でするものだからね。時々他の人と会話をしたりするけど、基本的には1人のスポーツ。それが自分に合っている。自分の内なる世界に浸れるからね」

―ちなみに、今回のアルバムではどんなサンプリングが使われていますか。


Jamie xx「サンプリングで使った音源は自分が昔から持っていたレコードばかり。僕はよくレコードを買っていて、いつも頭のどこかで、自分の曲やDJセットに、サンプリングとしてどう取り入れられるかを考えてる。僕は一時期、自分が普段作っているような音楽とは全く違う類のレコードばかりを家で聴いていたことがあって。今作の音源はそのことが影響してるかな」

―実際にサンプリングしたアーティストや曲の名前を挙げてもらうことはできますか。


Jamie xx「そうだね……それぞれ僕にとって、違った意味合いを持っているレコードばかりなんだ。アルバムの最初のトラック(“Wanna”)は(UKガラージ・デュオ、ダブル99の)“RipGroove”をサンプリングしたもの。僕は60年代や70年代、それから80年代初期のレコードをサンプリングすることが多いから、あまり90年代の音楽はサンプリングしないんだけど、この曲はUKベースカルチャーの本質を表していると思うから、新たな形になって僕のアルバムに存在していることを嬉しいし、僕の人生の大きな一部を反映している曲でもあると思う」





―最後に、現在制作中というThe xxのニュー・アルバムについて、話せる範囲で構わないので教えてください。先ほどのパンデミックの話を受けていえば、あの時間をへた3人の関係性がどんな形で反映された作品になるのか、とても興味があります。


Jamie xx「オリヴァーとは、彼のアルバム制作の最初から最後までずっと一緒にいたんだ。パンデミック前と最中だね。そのおかげで僕たちの仲はさらに深まった。彼は最高なアルバムを作ったと思うし、僕にとっても思い入れのある作品になったよ。
その同じ時期にロミーのアルバム制作に関わる機会もあったけれど、僕とロミーではイメージしていた方向性が少し違ったから、彼女のアルバムでは数曲しか参加していない。
僕たちが各々でソロ作品を出すことの主な目的は、バンドとしての限界を押し広げるためだったんだ。そして再び3人で一緒に制作をすることになった今、各自で経験したことをバンドのための制作に活かすことができる。それは新たなチャレンジになるかもしれないけど、最終的にはより良い音楽ができると信じてるよ」


text Junnosuke Amai



Jamie xx『 In Waves』
(Beat Records / Young)

2024年9月18日発売
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=14157

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