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Interview with The Aces about “I’ve Loved You for So Long”


 
ジ・エイシズは全員女性の「ガールズ・バンド」で、メンバー4人のうち3人が同性愛者であることをオープンにしている。そして去年リリースされた最新アルバム『I’ve Loved You for So Long』は、そうしたジェンダーやパーソナルなトピックについて深く掘り下げ、あらためて自身のルーツを見つめ直した作品だった。「これまでで最も自分たちの“弱さ”をさらけ出した作品」。ヴォーカルのクリスタルがそう語る『I’ve Loved You for So Long』には、自らのクィアネスを受け入れ、青春時代に負った宗教的なトラウマを克服し、痛みや傷を共有することで力強く前に踏み出そうとする彼女たちの姿が描かれている。そんな彼女たちを祝福するように、詰めかけたファンとの間でいくつもの感動的なシーンが見られた昨年の初来日公演。その翌日、今の彼女たちに去来するものについて、都内のスタジオで話を聞いた。
 

――ライヴでは、ファンから手渡されたレインボーフラッグを受け取って歌うシーンが印象的でした。自分たちが訴えてきたメッセージが届いていることをあらためて実感できた、そんな瞬間だったのではないでしょうか。
 
クリスタル・ラミレス「そうですね。日本でクィアネスの文化がどの程度浸透しているのかよく知らなかったし、正直、アメリカほど前向きで積極的ではないと思っていたところもあって。なので彼らがフラッグを渡そうとしてくれたのはとても嬉しかったし、そのファンはショーの後にサインを求めてきてくれて。異なる文化の中で自分たちのことが本当に理解されていると感じられる特別な瞬間でした」
 
――その夜の光景もそうですが、実際にファンのリアクションに触れてみることで得たもの、気づいたこともありましたか。
 
アリサ・ラミレス「このアルバム(『I’ve Loved You for So Long』)はとてもパーソナルな作品で、それも保守的な小さな町でクィアとして育ったというような、きわめて具体的なトピックを扱った作品です。だから内心、特殊すぎてみんなとシェアできないんじゃないかと心配していた部分もありました。でも実際に世界中をツアーしてみたら、地球の裏側の大都市でさえ、私たちのストーリーに深く共鳴し、このアルバムを通して自分のことを見てもらえた、声に耳を傾けてもらえたと感じている人たちがいるのを目の当たりにすることができた。自分の人生について深く理解し、自分の弱さや傷つきやすさをさらけ出し、それをより具体的に表現することができればできるほど人々は共感してくれるんだってことが、ツアーを通して学んだ最も大きなことの一つかな」
 
マッケンナ・ペティ「“人間性”についても多くのことを学びました。異なる国や、道路を隔てた反対側に住んでいて、異なる言葉を話し、異なる文化で暮らす人たちと自分がまったく違うように感じるのはたやすい。でも、私たちはみんな同じような経験や感情を持っていて、自分が思っている以上に似ていると思う」
 

 
――話してくれたようにこのアルバムはとてもパーソナルな作品で、その制作の過程は、過去の自分と今の自分を行き来しながら、自分たちを長い間苦しめてきたものと向き合うような作業だったそうですね。
 
クリスタル「自分たちがどこから来たのかを振り返り、自分を見つめ直すような作品にしたかったんです。そしてそうしたストーリーを語ることで、(自分たちを苦しめてきたものから)自分たちを解き放ちたかった。ある辛い経験をしたとき、それを受け止めるのはとても難しいことだと思う。でも正しく振り返ることができれば、起きた出来事を深く理解することができる。私たちにとって今作の制作は、自分たちの青春時代について語り、そのストーリーと今をつなげることでセルフラヴや幸福感について考え、そしてそれらが実際に何を意味するのかについて探求するようなプロセスになりました。そうすることで気持ちが少しでも楽になるし、自分自身を癒すために作ったようなもの。そしてそれが他の人たちの癒しにもなり、ファンと私たちとの間に美しいカタルシスを生み出すことになった。でもこのアルバムはあくまで若い頃の自分たちのためのために作ったものという思いが強くありました」

 
――話を伺うと、制作はとてもタフな作業だっただろうと想像できすが、その中でも一番の困難はどんなことでしたか。
 
アリサ「最も大きな挑戦だったことの一つは、制作に入る最初の頃、つまりこのアルバムの本質とは何なのかを理解し始める前の段階にあったと思う。これまでメンタルヘルスについてオープンに話したことはなく、クィアネスや不安、パニック発作について曲の中で探求したのも今回が初めて。だから制作中は、混乱したりしないように、少しずつ作業を進めることを心がけていました。そうして最初の一歩を踏み出して、会話を始めること――どうやってそのトピックについて話すか、そしてそれをどうやって明確にするか――が最も難しい部分だったと思う。私たちはただ、自分たちの経験や物事に真摯に向き合いたかったんです。メンタルヘルスやクィアネスについて語ろうとするのは大変なことでしたが、一旦打ち明けてしまえばあっという間にストーリーが紡がれていく感じでした」
 
ケイティ・ヘンダーソン「ステージ上でファンに語りかけているクリスタルを見ると、感極まってしまうんです。しかも彼女はそれを毎夜やっている。自分の弱さや傷つきやすさを打ち明けるのはけっして簡単なことではない。でも、その困難こそが大きな収穫をもたらすのであって、これほど無防備に自分たちのことをさらけ出した作品が世界中のファンの共感を得ることができたのは本当に特別なこと。そして誰もがそれぞれの形で共感を示してくれるなんて、とても素晴らしいことだと思う」

 

 
――振り返ってみて、どうしてそこまで自分たちを“さらけ出す”ことができたんだと思いますか。
 
アリサ「個人的には、アルバムの曲を書き始めたのがパンデミックの最中だったことが大きかった。パンデミックはある種の文化的なリセットを引き起こしました。誰もが自分の殻を破り、周りの人たちに目を配り、自分の外側へと踏み出すことを迫られて。このアルバムが生まれたのは、そうして孤独を余儀なくされ、自分自身と向き合い、自分たちのストーリーを振り返るしかなかったからじゃないかな。そして、もし自分たちのストーリーを語るのであれば、これは伝えるべき重要なストーリーなんだと信じる勇気と自覚を持つ必要があった。そういうストーリーをありのままに語れば、他の誰かを助けることができるかもしれないしね。それはかつての自分たちが必要としていたものでもあって。そうした“小さな体験”がやがて大きな変化をもたらすんだと思います」
 
マッケンナ「それともう一つは、このアルバムの前、パンデミックの最中に、私たちが育ったモルモン教から正式に離れたことも大きかったです。だからこのアルバムは、私たちがどこから来たのか、育ってきた文化についてどう感じているのか、それを外に向けて表現するようなものになった。自分たちの音楽を聴いてくれる人たちにそれを表現することができたし、地元(ユタ州プロボ)にいる人たちであれ、知り合いの人たちであれ、自分たちの置かれている状況を理解してもらえたと思う。それは本当にエンパワメントされる出来事でした」
 

 
――今回のアルバムのサウンドは、皆さんが14歳の時に夢中だった音楽がインスピレーションになっているそうですが、具体的にどんなものを制作中はよく聴いていたんですか。
 
アリサ「パラモアやThe 1975、ティーガン&サラなんかをよく聴いていたかな。あとは80年代のニューウェイヴ、キュアーやスミスとか。私たちのバンドはそういう音楽が基盤になっているので、今作にはそうした要素をもっと取り入れたかったんです。今までのアルバムよりもエレクトロニックな要素は少なくして、ドラムとベース、ギター、ヴォーカルだけでできているような、4人が一緒に演奏しているように感じられるサウンドにしたかった」
 

――昨日のライヴではパラモアの“Misery Business”がSEに使われていましたが、パラモアのどんなところに共感やリスペクトを覚えますか。
 
アリサ「私たちが子どもの頃、生まれて初めて見た女性のロック・スターがヘイリー・ウィリアムスでした。私は8歳で、クリスタルと音楽をやり始めたばかりだったのを覚えている。いとこが『今まで見たこともないようなクールなものを教えてあげるよ!』って、パラモアの“Crushcrushcrush”のMVを観せてくれて。それを6回連続で観て(笑)、最高にクールだ!って、すっかり舞い上がってしまった。ヘイリーは私たちに大きなインスピレーションを与えてくれた存在でした。ヘイリーについて話したいんでしょ?(とクリスタルの方を見る)」
 
クリスタル「ヘイリーは真のフロントマンというか、彼女のエネルギーと人を魅了する力は本当にすごいと思う。あんな人はそうそういない。心の底からリスペクトしているし、それにパラモアは正真正銘の“バンド”だった。私たちはかれらの姿や音楽に自分たちの理想を重ねて見ていたし、とても大きな影響を受けていると思う」
 

 
――昨日の開演前には、キャサリーン・ハンナのル・ティグラの曲も流れていましたね。いわゆるライオット・ガールのバンドもジ・エイシズにとって大きかったりしますか。
 
クリスタル「そうですね。ただ正直言って、私たちはまだ若すぎたというか。(ライオット・ガールが全盛だった)1990年代や2000年代の初め頃ってそんな感じだったよね?」
 
アリサ「小さい頃の私たちの環境は、音楽を聴くにはあまり恵まれたものではなかった。だからちゃんと音楽を聴くようになる前は、そうした素晴らしいガールズ・バンドやたくさんのクィアなアーティストの存在に気づく機会がなくて。そうした存在を意識するようになったのはもう少し大きくなってからで、そこから過去を遡って、ランナウェイズとかビキニ・キルとか、ル・ティグラ、ホール、ガービッジといったバンドを見つけていった感じです」
 
――なるほど。
 
アリサ「年齢を重ねるにつれて、フェミニストとしてのインスピレーションのようなものを見出したり、実際に彼女たちの姿を見たりすることで、その重要性について実感できるようになったんだと思う。例えばティーガン&サラは、そうした中で私たちに大きな影響を与えたアーティスト。ただ、ことロック・シーンにおいては、ヘイリー・ウィリアムス以上に活躍する女性に出会うことはなかった。かつての『Warped Tour』の時代(※2000年代のポップ・パンク・シーン)は女性に対してとても差別的で、女性がそれを突破するのは本当に困難な状況で。そして実際のところ、あの時代にそれをできるのはヘイリー・ウィリアムスしかいなかったと思う。そして2010年代に入ると、そこからハイムが現れて、ムンナやボーイ・ジーニアス、ガール・イン・レッド、キング・プリンセスといったアーティストが大挙してやってくるようになった。でもそれ以前は、私たちにとっては“干ばつ”のように感じられる状況でした」
 

 
――そうした時期をへて、クィアネスを表現するアーティストが増えている今の状況、時代の変化についてはどのように見ていますか。刺激を受ける部分も大きい?
 
クリスタル「音楽的な部分でインスピレーションを受けているかどうかはわからないけど、そうしたコミュニティ全体からインスピレーションを受けていることは間違いない。そうしたムーヴメントの一部になれていることにエンパワメントされているし、そしてそのパワーは私たちが先人に追いつき、同世代と切磋琢磨し続けることを後押ししてくれていると思う」
 
アリサ「音楽の世界では常にいろんなムーヴメントが起きているけど、それは一人のアーティストや一つの出来事がきっかけではない。カルチャーの大きなうねりが押し寄せることによって起こるものだし、時代の変化のサインでもあると思う。だからこうしてレズビアンのアーティストやクィア・ムーヴメントの一部になれて本当に感謝しているし、私たちが今バンドをやれているのって本当にクールなことだと思う。だってもし10年前だったら、私たちがこうして評価されたりコミュニティに受け入れられるのはもっと難しかっただろうし、ライヴを完売させるのも大変だったと思うから。きっと私たちって、メディアがそうしたテーマや話題について扱うのに敏感だった時代の、最後の世代なんじゃないかな。そして、ようやく時代の進歩のようなものが起きて、私たちはオープンリー・クィアのアーティストの新しい波の一部になることができた。こんなちっぽけなバンドでもやっていけているのはラッキーなことだと思うし、だからこそ、今まで何が起こったのかを知ることは大切なことなんです」
 

――そうした時代の変化は、例えば地元のユタ州でも見られるものですか。
 
マッケンナ「そうだと思います。特に都市部では、安全なスペースを提供するようなコミュニティや、大学でもクィアの若者たちが来てコミュニティを見つけられるようなサークルがあるし、それを支援する小さな組織が生まれている。クィアの学生を保護するような役割を果たす教育機関もあります。そうしてたくさんの人々が結集しているのを見るのは本当にクール。だから10年前と比べると、間違いなくポジティヴな変化がたくさん起きている。でもモルモン教の文化はとても強烈で、まだやるべきことがたくさんあります。ユタ州はとても保守的な土地柄だし、10代の自殺率が全米で最も高い。文化は本当に閉塞的だし、クィアの若者へのサポートもまだまだ足りていない。だからこのバンドの活動を通じて若い世代をサポートしたい、メッセージを発信していきたいと思います」
 

 
――今回のアルバムの原点になった14歳の頃の自分に声をかけることができるとしたら、なんてアドバイスしますか。
 
クリスタル「すべてはこれからなんだから、そんなに不安になるなと自分に言い聞かせると思う。あなたが望むことはすべてうまく進行中で、いつまでも状況が変わらないなんてことはない。あなたが望むものはすべて実現するんだと理解して、今やるべきことをしっかり腰を落ち着けてやるべしって」
 
アリス「若い頃の自分に言いたいのは、もっと自分を受け入れてということ。他人の目を気にせず、自分らしさを大切にして、ありのままの自分を受け入れてくれる人がいると信じて。周りの人たちに気に入られようとするのではなく、自分にとって幸せなことをして、自分らしいやり方で世の中に存在感を示すような生き方をする方が幸せになれるんだって言いたい」
 
マッケンナ「自分の直感にもっと寄り添い、自分の中にすべての答えがあることを知ってほしい。人生の大きな決断をするときに、他人をあまりあてにしないこと。もっと自分に自信を持ち、自分という人間に誇りを持ちなさいって」
 
ケイティ「自分に厳しくせず、社会的なプレッシャーや人の目を気にせず、もう少し自分に寄り添ってほしい。そして、自分を受け入れて、自分のことを誇りに思ってほしい」
 

 
photography Satomi Yamauchi(https://www.instagram.com/satomi_yamauchi/
text Junnosuke Amai(https://twitter.com/junnosukeamai
 
The Aces

『I’ve Loved You for So Long』
Now On Sale
https://theaces.ffm.to/ilyfsl
トラックリスト
1.I’ve Loved You For So Long
2.Girls Make Me Wanna Die
3.Always Get This Way
4.Solo
5.Not the Same
6.Suburban Blues
7.Person
8.Miserable
9.Attention
10.Stop Feeling
11.Younger
 
THE ACES
Website https://www.theacesofficial.com/
Instagram https://www.instagram.com/theaces/

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