欲望や温もりを求めて、フロアをはじめとする夜の街を彷徨う人々の姿を、官能的かつ先鋭的にとらえたサウンドで人気を博すダンス・バンド、イヤーズ&イヤーズ。2021年よりオリー・アレクサンダーのソロ・プロジェクトになり、22年にアルバム『ナイト・コール』をリリースした。最近はドラマ『IT’S A SIN 哀しみの天使たち』(21年に英国にて放送)で主人公のリッチーを好演し、話題をさらったオリー。サウンドはドラマの舞台であった80年代の喧騒を連想させる華やかなサウンドを用い、愛する人との出会いと別れまでを綴ったストーリー性のある内容で、高評価を獲得。先日、東京で開催されたフェス「TONAL TOKYO」でも、挑発的なパフォーマンスが熱狂を呼んだ。ライヴ終了後、オリーに会うと、一見穏やかな表情であるが、心の奥に秘めた欲望(デザイア)を垣間見た。そのデザイアの先にあるものを、限られた時間のなかで迫る。(→ in English)
━━先日開催された「TONAL TOKYO」でのステージは圧巻でした。マスキュランとフェミニンがセクシーに融合した衣装に目を奪われました。
オリー「ありがとうございます(笑)。あれは、自分の生きざまそのものを表現した衣装になります」
━━久々の来日公演にもなりましたね。
オリー「これはお世辞ではなく、日本は大好きな場所なので、パフォーマンスできる時を心待ちにしていたのです。今回、出演させていただいたフェスは初開催ということだったので、当初はどういうオーディエンスが集まり、どんな雰囲気になるのか不安な部分もあったのですが、蓋を開けてみると、とっても盛り上がってくださって、楽しい時間になりました。また、他の出演ミュージシャンも素晴らしい方々で、その一員として関われたことを誇りに思います」
━━ステージ上での映像の演出も目を奪われました。あれはオリーさんのディレクション?
オリー「セオ・アダムス(https://www.instagram.com/theo.adams/)という、FKAツイッグスの作品なども手がけているディレクターと共作したものになります。映像はもちろん、コスチュームやダンスなども含めて、今回はストーリー性のあるものにしたかったのです。夜に出かけて、電話ボックスに行って、トイレになだれ込むまでの間に何が起こっているのかを表現したつもりです」
━━以前「ホラーっぽい映像を作りたい」とおっしゃっていましたが、その世界に通じるものですね。
オリー「はい(笑)
━━さて、そのステージでも披露していたのが、ペット・ショップ・ボーイズの「哀しみの天使(IT’S A SIN)」(1987年リリース)のカバー。これは、あなたが主演し人気を博したドラマ『IT’S A SIN 哀しみの天使たち』と同名タイトルになりますね。改めてこの楽曲、そしてドラマは、オリーさんにとってどんな存在になりましたか?
オリー「自分が表現したいと思っていたアートが奇跡のようにひとつにまとまった作品と言えますね。ドラマに関しては登場人物であるリッチーの生きざまに共感する部分があって、出演をしました。舞台になっている80年代当時のイギリスにおいて、性的マイノリティと呼ばれる人は、それであることが罪(SIN)であるような見方をされてきた。でも、登場人物(80年代のLBGTQ+の人)たちは生きづらさを抱えながらも、ステージでは堂々としたたたずまいで自分のアイデンティティを訴えている。その姿はとても励みになりました。そんな当時の彼らを支えたアンセムが「哀しみの天使」だったのです。ゆえに、このドラマ、楽曲が示す世界こそが、自分の表現したいアートの究極のカタチなんだと思うようになりました)
━━現代ではジェンダー・フリーの思想が、徐々に社会に認められるようになり、当時と比べて自由で生きやすい環境になった部分もあると思いますが、演じられてみて80年代のシーンに面白さや、羨ましさを感じましたか?
オリー「科学の進歩もあって、HIVに関しても以前に比べてうまく共存できる方法が見つかったりなど、現代はより良い環境になっていると思います。まだまだ偏見や差別は拭い去られたわけではありませんし、改善しなくてはいけない問題が山積みになっていますが。ただ、あの頃(80年代)はスマホや携帯が浸透していなかった時代。そのおかげで、人と人のふれあいが濃密だったような気がします。ドラマにおいても友情が描かれているのですが、あれはモバイルがないから生まれた濃密な関係性だったように思う。現代は、科学の進歩で素晴らしいことはたくさんあるのですが、そういう関係性にちょっと憧れる部分はありますね」
━━確かに、最新アルバム『ナイト・コール』も80年代テイストのサウンドをバックに、濃密な人間関係を描いているような。
オリー「80年代に活躍したミュージシャンって、シルベスターやプリンスなど、強烈な個性を放つ存在ばかりがいた。自分でもそれを表現してみたかったのです。「イエー」とか「ウー」とか、曲間に入れたりして(笑)、強烈な個性を表現したつもりです」
━━アルバム全体で、恋愛のはじまりから終わりまでを描いている印象ですが、これは特定の経験がモチーフに?
オリー「特定の恋愛をモチーフにはしていません。自分の経験をまとめて、構成してみたら自然にそういう流れになった感じ。だって、アルバム制作中はロックダウンで、シングルライフを強制されていたので(苦笑)。頭のなかで濃密な人間関係を妄想していた感じです」
━━そんなアルバムもリリースされて1年近くが経過しました。次の音楽的アイディアは?
オリー「『ナイト・コール』というアルバムは、外向きの作品になりました。パンデミックの影響で、内にこもることが多かったので、せめて音楽のなかだけでは華やかなことをしたいと思ったから。それを表現するのはとても大変なことでしたが、実現できて満足しました。だから次の作品は、もっと音楽的な裾野を広げたい。ソウルやポップスなど、いろんな要素を取り入れつつ、さらに多彩な感情、風景を描くことができたらと考えています」
photography Marisa Suda(https://www.instagram.com/marisatakesokphotos/)
text Takahisa Matsunaga
Years & Years
『Night Call』
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(Polydor / Universal Music)
https://www.universal-music.co.jp/years-and-years/products/uicp-1214/