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text by Junnosuke Amai
photo by Marisa Suda

Interview with Easy Life about “MAYBE IN ANOTHER LIFE…”




イージー・ライフの新しいアルバム『MAYBE IN ANOTHER LIFE…』は、デビュー作『Life’s a Beach』のメランコリックでジャンルレスなダンス・ポップを踏まえつつ、よりオーガニックでアコースティックなサウンドが打ち出された作品になっている。ビージーズやスティーヴィー・ワンダーに代表される70年代のレコードに想を得て、“クラシック”と“モダン”が絶妙な塩梅でブレンドされているのが魅力だ。その成果のほどは、一足先にそのお披露目の場となったサマーソニックや単独公演における充実のパフォーマンスが物語るとおりだろう。ケヴィン・アブストラクトやガス・ダパートンらフィーチャリング・ゲストも注目だが、一方、パンデミックや気候危機によって変容した現実を生きる世代の不安を描いたそのストーリーやリリックは、シリアスで内省的なムードが色濃く際立つ。「誰もが人生に/もう少しの幸せを必要としている(“BUBBLEWRAP”)」――ヴォーカリストでフロントマンのマレー・マトレーヴァーズに、そんな『MAYBE IN ANOTHER LIFE…』が制作された背景について尋ねた。
→ in English)


――昨晩のライヴですが、ニュー・アルバムのリリースを控えてバンドが最高の状態にあることを窺わせる素晴らしいパフォーマンスでした。実際、今度の『MAYBE IN ANOTHER LIFE…』はいまのバンドのどんなモードなりフィーリングを映し出した作品といえますか。


マレー「ありがとう。僕たちはこの新しいアルバムをとても誇りに思っているよ。イージー・ライフのいまのフィーリングをとてもリアルに描いていて、等身大のバンドの姿がそのまま投影された作品。だから新曲をライヴで演奏すると大きなエネルギーがもらえるし、飛び跳ねたりクレイジーになったりしたくなる。このアルバムに誇りを持っているからこそ、演奏するのがとても楽しい。それもオーディエンスの前で披露できるのは最高の気分だね」



――今回のアルバムの音楽的なアイデアやコンセプトを教えてください。


マレー「これまでの僕たちはキーボードやシンセサイザーのような電子楽器をたくさん使ってきた。ローズピアノもそうだし、ドラムの音もかなりエレクトロニックだった。けれどこのアルバムでは、よりオーガニックなアコースティック・サウンドを探求して、かつモダンで興味深いサウンドになるように心がけた。アコースティックな楽器をラップトップで歪ませたり、テープマシーンで再生したりして何度もレコーディングを繰り返して。それと70年代の古いレコードのコード進行のエッセンスを取り入れたかった。クラシックでノスタルジックなサウンドにすることで、単なるモダン・ミュージックではなく、古いレコード特有の美しさをたたえた、よりタイムレスなものにしたかったんだ」




――デビュー・アルバムの前作『Life’s a Beach』にもメロウでオーガニックなムードは感じられましたが、今回そうした方向性を推し進めようとした理由はなんだったんですか。


マレー「最近のイギリスでは、以前のイージー・ライフのようなサウンドの音楽をよく耳にするようになって。僕らが活動を始めたころは、身の回りでもあまり見かけないようなオリジナルなサウンドだった。それがいまや、みんなが真似し始めていて、それは嬉しいことでもあるんだけど、つねにエキサイティングで新しい境地を開拓するサウンドになるようにいままでのスタイルを変えたいと思った。70年代のサウンドを再現するひとはたくさんいて、すでにやり尽くされた感があるけど、僕たちはそれをサンプルやヒップホップをベースにしたプロダクション・テクニックと組み合わせてユニークに仕上げているつもり。でもそれをやる一番の理由は、ただやりたかったからで、自分にとってそれがエキサイティングだったから。いままでたくさんの曲を書いてきたけど、どれも同じような古いイージー・ライフの曲にしか聴こえなかった。だから何か新しくて新鮮なことがやりたかったんだよ」

――その「オーガニックでタイムレスなサウンド」という部分で、今回リファレンスとなったアーティストやレコードはありましたか。前作では、カニエの『ye』やケンドリック・ラマーの『To Pimp a Butterfly』を挙げていましたが。


マレー「カニエとケンドリックの作品にはつねにインスパイアされている。かれらはとにかく現代のもっとも偉大なアーティストだと思う。タイラー・ザ・クリエイターもそう。でも今回のアルバムでは、エルトン・ジョンやスティーヴィー・ワンダー、ビージーズといったクラシックな曲をたくさん聴いていた。かれらの音楽には、コード構成はもちろん、メロディや、時には歌詞もとてもシンプルで、とてもクラシックなサウンドの曲がたくさんある。そういうクラシックなソングライティングの曲を集めたアルバムを書きたかったんだ。そういうレコードのシンプルさには美しさがある。長いあいだ僕たちはジャズにとても興味を持っていて、ジャズにとてもインスパイアされてきた。実際にジャズのコードをたくさん使ってきたわけだけど、このアルバムではビーチ・ボーイズやビートルズなどのようなクラシックな曲にもっとインスパイアされたかったんだ」





――ちなみに、話は逸れますがマレーさんが今度のケンドリックの新しいアルバム『Mr. Morale & The Big Steppers』をどのように聴いたのか、興味があります。


マレー「かれはとても勇敢で、個人的な経験を生々しく正直に語っていて、素晴らしいと思う。また、今回のアルバムではいくつかの場面で心から悲しい気持ちになった。かれは他のことと同様に、自分の依存症、セックス依存症にも向き合っていて。僕はこれまでもずっと、かれの残酷なほどまでに誠実な姿勢――自分自身についてだけでなく、世界についても――を尊敬している。本当に素晴らしいことだと思う。前作の『DAMN.』はポップなアルバムだったから、こういう作品を作ったのは驚きだったけど、僕はこのアルバムが大好きで夢中になっている。ケンドリックの話だったら一日中できてしまう(笑)」


――そうしたケンドリックの誠実さや生々しさは、マレーさんが書く歌詞にも通じるところがあるように思います。


マレー「もし自分に何か起こったのなら、それは他の多くのひとにも起こっている可能性がある――といつも思っている。自分にできることは、自分が感じたことを書くことだけ。それに、もし自分が何かを経験して、ある感情を抱き、それについて話すことができれば、同じようなことを経験している誰かの助けになるかもしれない。自分はこの作品を通じて、自分自身についてどう感じているのか、それを探ろうとしているんだと思う。世界はとても混乱していて、いつも圧倒されて不安な気持ちになる。ただ、音楽は自分の気持ちを整理するのに適したセラピーで、時には曲の意味を理解する前に一曲丸々書いてしまうこともある。それで聴き返してみると、その状況について自分がどう感じていたか理解することができる。時にはそれが怖いこともあるけど、自分の弱さを受け入れることは重要で、力を与えてくれることだと思う」





――いま話してくれことを受けて、今回のアルバムのなかでもっとも重要な曲を選ぶとしたらどの曲になりますか。


マレー「“Memory Loss”は、おそらくこのアルバムのなかで最もリアルな曲だと思う。自分は何かを思い出すのに苦労したり、色々と覚えていられないってことがあって。でもそれって、過去のトラウマのせいなのか、それとも、物事を忘れることで自分が恐れていることに直面しないで済むからそうなるのか――そんなことを考えることがある。“Memory Loss”には、友達には言えないようなことがたくさん書かれているけど、スタジオや家でくつろぎながらだったら、自分自身と正直に向き合うことができる。それはさっきも言ったように、自分にとって癒しになるんだ」

――それにしても、痛みや孤独感を赤裸々に打ち明け、あるいはそうしたものを抱えたひとに寄り添うことの大切さやセルフケアについて、いまほど多くのアーティストが歌っている時代はないように感じます。そうしたなかで、アーティストの言葉や発信するメッセージ、もっといえば音楽が果たす役割について、マレーさんがどんなふうに考えているのかぜひ伺いたいです。


マレー「音楽やアートというものは、自分の感情をオープンに語りかけるものだと思う。それは道しるべになったり、命綱になったりする。幸運なことに、僕たちの音楽に助けられたという多くのファンに出会った。歌のなかの僕の言葉や、僕が経験したことについて聞かれることもある。それで彼らに説明すると、『自分も同じようなことに遭ったことがある』と言われることがあって。世界は冷酷で理不尽で、だから恐ろしいことが起こるかもしれないし、実際、残念ながらそれは起こりうる。ただ、そういうときに音楽は多くの癒しを与えてくれるし、寄り添ってくれるものだと思う。僕はいつも悲しいときや嬉しいときに音楽を聴いている。音楽はいつだって親友のようなもので、あなたを非難したり裁くことはない。正直なところ、自分たちのキャリアにとって最も誇りに思えるのは、ファンに会い、自分たちが何らかの形で彼らの救いになっていると言われること。大人になるのは大変なことだから、とくに若いひとたちの成長をサポートできることはとても素晴らしいプレゼントだよ」





――逆に、マレーさん自身に寄り添ってくれたり、癒しを与えたりしてくれるのはどんな音楽ですか。


マレー「聴いている音楽の多くはインストゥルメンタル。ボノボをよく聴いているけど、かれらの音楽は不安を鎮めてくれるんだ。同じ理由でボン・イヴェールも聴いている。あと、ヒップホップを小さい頃からたくさん聴いて育ったけど、彼らのライフスタイルは自分とまったく違っていたから、いわゆる道しるべとしては役に立たなかった。ただ、ドクター・ドレーにハマっていたときは、何事においても自信を持って行動できるようになったかな。ラップ・ミュージックからは、『自信』というものについて多くを学ぶことができる。彼らにとって『自信』は通貨のようなものだから。あとは恥ずかしいけど(笑)ビージーズも大好き。かれらのヒット曲のなかにはとても悲しいものがあるけど、聴いていると喜びを与えてくれるし、希望に満ちている。自分にとって音楽はたくさんの希望を見出すことができるもので、世のなかを癒す治療薬になるものなんだ」


――ちなみに、曲で描かれているようなパーソナルな話題について、メンバーと話したりすることはありますか。


マレー「いや(笑)。でも、いつも一緒に行動しているわけだし、わかっているはず。パブで友達にはいえないようなことをいえるのが音楽なんだ。それに、イギリス人というのは自分の感情を表に出さない気質だから――とくに男性は、悲しいかなそうなんだよね。だから、他のひとにはいえないようなことも、音楽でだったら安心していえる。でも、伝わるものなんだ。僕たちはみな、よく話す。何ヶ月もツアーに出ているのでたくさんのことを共有しているし、とても仲がいいから」





――曲を聴いて初めてメンバーがあなたの胸の内を知る、みたいなこともある?


マレー「そうだと思う。たとえば、バンドのメンバーについて曲を書くと面白い瞬間があるよ。何度かあったんだけど、そのメンバーが僕のところに電話をかけてきて「僕のことを歌にするなんて信じられない!」って言うんだ(笑)。新しいアルバムのなかにも何曲かあって、笑えるものもあるんだけど、最後の“Fortune Cookie”はバンドのメンバーについて書かれたもの。彼は電話をかけてきて、泣いていた。その曲で僕がいっていることのなかには、彼と面と向かってはいいにくいこともたくさんあるから、曲を通じて通じ合えたというか、美しい瞬間を過ごすことができた。僕たちはお互いに本当につらい時を過ごしていたんだ。だから、かれらは僕のいいたいことをよくわかっている。ただ、直接は怖くていえないから、スタジオに隠れて、すごく離れたところからマイクに向かって話しているんだよ」


――今回のアルバムは「パンデミックによって一変してしまった現実を生きる世代の不安感」がテーマとのことですが、聴いたリスナーにはどんなことを感じ取ってもらいたいですか。


マレー「最終的に物事がうまくいくような希望を感じてもらえたら嬉しい。このアルバムでは全体を通じて、様々なトラウマやシチュエーションを扱っている。でも同時に、自分は基本的に楽観主義者なんだ。世界はもっと良くなるはずで、みんなで力を合わせれば現状よりも良いものを作り出せるはず。戦争、地球温暖化、ソーシャルメディア、インターネット……人間関係が希薄になっているなど、多くの問題がある。だけど、音楽を通してそれを改善することができる。僕はただ、みんなにこのアルバムを楽しんでもらいたい。そこまで深く考えなくても、まずは仲間と一緒に車のなかでかけて楽しむだけでもいい。でも、もしかれらに何か辛いことがあったら、このアルバムがその助けになることを願っている」





――ありがとうございます。ところで、前作ではバンド名や曲のタイトルも小文字で統一されていましたが、今回はアートワークも全て大文字ですよね。何か理由はあるんですか。


マレー「みんなが小文字を使っていることに嫌気がさしたんだ。こっちではどうか知らないけど、イギリスではみんなそうしている。なので、かれらがこれからどうするのか見ものだね(笑)」



――先ほどのサウンドの経緯と同じなんですね。


マレー「後追いではなくリードしていくこと、新しいものを作っていくことが大事だと思う。それは、大文字で書くという単純なことでもいいんだ」





photography Marisa Suda(https://www.instagram.com/marisatakesokphotos/
text Junnosuke Amai(TW



Easy Life
『MAYBE IN ANOTHER LIFE…』
10月7日発売
(Universal)
1.MAYBE IN ANOTHER LIFE… / メイビー・イン・アナザー・ライフ
2.GROWING PAINS / グローイング・ペインズ
3.BASEMENT / ベースメント
4.DEAR MISS HOLLOWAY FT. KEVIN ABSTRACT / ディア・ミス・ホロウェイ ft. ケヴィン・アブストラクト
5.BUBBLEWRAP / バブルラップ
6.OTT FT. BENEE / OTT ft. ベニー 
7.MEMORY LOSS / メモリー・ロス
8.SILVER LININGS / シルバー・ライニングス
9.CROCODILE TEARS / クロコダイル・ティアーズ
10.MORAL SUPPORT / モラル・サポート
11.CALLING IN SICK / コーリング・イン・シック
12.BEESWAX / ビーズワックス 
13.BUGGIN / バギン
14.ANTIFREEZE FT. GUS DAPPERTON / アンチフリーズ ft. ガス・ダパートン
15.FORTUNE COOKIE / フォーチュン・クッキー

日本公式HP:https://www.universal-music.co.jp/easy-life/

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