これまでそうそうたるミュージシャンに楽曲提供、アリアナ・グランデへの提供曲ではグラミーにノミネートされた経歴を持つ、米カリフォルニア出身のVictoria Monét (ヴィクトリア・モネ)。2020年8月には初フル・アルバム『Jaguar』をリリースした。アリアナとの共演曲「MONOPOLY」などを収録、エッセンシャルなR&Bフレーバーと、シルキーなヴォーカルを駆使し、官能的でありながらもジャガーのような眼光の鋭さを感じるサウンドが幅広いリスナーを魅了している。年末には本作を再構築した作品『A Jaguar Christmas: The Orchestral Ar-rangements』を発表した彼女。作品の聴きどころはもちろん、彼女の内面にも迫った日本初インタビューが実現した。(→ in English)
――まずはあなたの音楽キャリアを教えてください。どういうきっかけで、ミュージシャンを志したのですか?
Victoria Monét「私は、純粋に自分自身の情熱に従っているだけの人間。ここにいるのは、自分の好きなこと、やり遂げたいことをするためなのです。自分の意志と、自分や他の人に幸せをもたらすものを強く信頼し、それが人生をナビゲートしている。私にとって、幸せ、癒し、そしてレガシーは音楽をパフォーマンスすることから生み出されると思っています」
――どんなミュージシャンから影響を受けましたか?
Victoria Monét「たくさんあります。シャーデー、ジャネット・ジャクソン、アース・ウィンド・アンド・ファイア、ビヨンセ、ミッシー・エリオット、アリーヤ……。そしてミュージカルのサウンドトラックなどですね」
――2015年にデビューEP『Nightmares & Lullabies Act 2』を発表。当時の心境はどんなものでしたか?
Victoria Monét「当時、私は別のレーベルと契約していましたが、そこは私のことを見ていなかったし、気にもしていなかったのです。『Nightmares & Lullabies』は、それに対する反抗的な実験的プロジェクトとしてスタートしました。結果、既成概念にとらわれないサウンドスケープを探求するきっかけを与えてくれたのです。当時の私には、アーティストとしてのブランディング、独自のサウンド表現を確立していなかったので、このプロジェクトは私にとって非常に自由なものに感じられました。このプロジェクトによって、自己発見することができた気がします」
――また、この作品を発表後には、Fifth Harmonyのオープニングアクトも経験していますね。その経験は、今にどう生かされていますか?
Victoria Monét「このツアーでは本当に多くのことを学びました。マネージャーもレーベルもなく、自分のお金と音楽だけが手元に残っていた。だから、ここでツアー・マネージャー、投資家、ブッキング・エージェント、グッズ制作者、ディストリビューター、ビジネス・マネージャーなどたくさんの役割をこなしたのです。そのおかげで、自分のチームを作る余裕ができた現在では、それぞれのスタッフに対し、何を期待すればいいのか、そして最も重要なこととして、何に感謝すればいいのかをしっかり理解することができました」
――さらに自身の音楽活動だけでなく、Nas、Ariana Grande、Fifth Harmony、Chloe x Halle、T.Iなどそうそうたるミュージシャンに楽曲提供もされていますね。
Victoria Monét「ソングライティングは、素晴らしいアーティストの手に渡るかどうかに関わらず、自分がやるべきことだと思っています。それは本当に自分自身を表現したり、自分の人生を記録したり、誰かの想像していることを記録したりするための方法です。特に、自分のために作った楽曲には、最もワイルドな創造的な夢と、最も親密な物語が込められている。私の日記であり、これからずっと残り続けていく記憶になると思います」
――ソングライターとしてこだわる部分は何ですか?
Victoria Monét「私がこれまでのキャリアで学ぶのに時間がかかったことのひとつは、フックやコーラスの作り方。以前は、非常に直線的かつポエティックに描いていたのですが、逆にそれが損になっていたこともあった。リスナーは、想像の世界の中で迷子になってしまい、タイトルすら覚えていないこともありましたから。でも今の私は、曲を通じて何が言いたいのか、伝えたいのかということをじっくり自問自答することで、よりシンプルで記憶に残るフックを残すことができるようになれたと思います」
――そして20年に初アルバム『Jaguar』が完成。このアルバムでは、どんなあなた自身を表現しようと思って制作しましたか?
Victoria Monét「これは、私の最も正直で、何のフィルターも通していない、ありのままの自分の分身のような作品。時に、熟慮させてしまうフレーズもあるのかもしれませんが、紛れもなくこのアルバムは私の<鏡>なんです」
――サウンドは70~90年代のソウルやディスコ、R&B、ニュージャック・スウィングなど、ビンテージ感のあるサウンドを多用している印象ですが、そういった要素を取り入れた訳は?また、どうあなたらしく表現しようと思いましたか?
Victoria Monét「ありがとうございます! シンプルに私の好きなものをすべてミックスしたら、このサウンドに仕上がったというか。まるでキッチンにいるような感覚で、すべての食材が自分の好きなもので構成されているような、オーダーメイドの料理を調理しているような作業だったんです」
――ウイスパーな歌声は、90年代のブランディやジャネット・ジャクソンを連想させる、シルキーな雰囲気を漂わせていますね。ヴォーカリストとして、大切にしていること。どんな個性を表現したいと思っていますか?
Victoria Monét「本当にありがとうございます! 自分の音楽表現において最も大切にしているのはヴォーカルなので。世の中には、技術的には優れていて、アクロバティックな声の動きが印象的なシンガーもいるかもしれませんが、声のトーンがピンとしていたり、冷たい印象を与えることがある。それを耳にしたリスナーの中には、長く聴きたいとは思わない人もいるはず。私は、何百万回もリフを歌って、薄っぺらい音を出すよりも、一音一音をまっすぐに歌って、温もりが伝わってくるトーンにしたいと思っているのです。シャーデーのような質感ですね」
――歌詞については、どんなトピックを扱ったものが多いですか? とても官能的でありながらも、人生に輝きを与えるような光を感じさせる楽曲が多い気がしましたが。
Victoria Monét「すべて私の人生経験からヒントを得たものばかりです。まだまだ伝えたいことはたくさんありますからね!」
――この作品ではAriana Grandeとのコラボ曲「MONOPOLY」、Khalid とSG Lewisが参加した「Experience」も収録。彼らとの共演はどうでしたか?
Victoria Monét「私は本当に彼らのことが大好きです。みなさん、とても才能があり、大成功しているのにもかかわらず、新しいアーティストと共演するスペースを与えてくれる。私はいつもそのことに感謝しています」
――すでにこのアルバムが発表されて半年近く経過しています。世界から様々な反響が届いていると思いますが、とても印象的だったメッセージはありましたか?
Victoria Monét「たくさんの素晴らしいコメントをいただいて、自分の音楽が多くのリスナーの方々の人生のサウンドトラックになる様子をうかがえることができて、本当にうれしかったです。きっとこれらの楽曲は、何年後か先に、どういうことを経験していたか、どんな場所でどんな人と向き合っていたのかを、思い起こさせてくれる装置になってくれるのでしょう。私にとってのモータウンやスローバックのレコードのような役割ですね。つまり、この作品は時空を超えて旅をして、私が死んだ後もずっと生き続けるでしょう。これはとても幸せなことです」
――改めて、あなたにとって『Jaguar』はどんな作品だったと振り返りますか?
Victoria Monét「新しい始まりを生み出せたというか。より大きく素晴らしい人生の新たなフェーズ、次のプロジェクトに向けたアイデアを導き出してくれました。私の愛おしいベイビーと言える存在ですね」
――そのアルバムが先日オーケストラ・アレンジで再構築され『A Jaguar Christmas: The Or-chestral Arrangements』として発表。このアルバムの聴きどころを教えてください。
Victoria Monét「この作品は、歌詞やメロディがとても印象的な仕上がりなので、その良さをオーケストラのダイナミックなアレンジにしてみなさんにプレゼントとして届けたいと思ったのです。また、私はストリングス・アレンジが大好きなので。それを多くのリスナーの方も気に入ってくださった様子で、全米の配信クラシック・チャートで1位を獲得することができました。これからもたくさんのリミックスを発表したいですね。みなさんの想像の上をいくようなものを届けたい。私はサプライズをするのが大好きなので!」
――2020年は、新型コロナの影響もあっていろんなことを経験できた1年だったと思います。振り返ってみて、何か収穫はありましたか?
Victoria Monét「2020年は私たちに考える時間を与えてくれた。しばしば私たちは働き過ぎを美徳のように思いがちですが、 この1年は多くの人がその選択ができなくなった。私たちは時間をかけてこれまでの生活を見直し、自分たちにとって大切なもの、本質を見いだす作業を余儀なくされた時間だったと思います」
――2021年はどんな1年にしたいですか?ミュージシャンとして目標があったら教えてください。
Victoria Monét「謙虚であることを心がけたい。たとえ大きなプロジェクトを企てても、世界を変えてしまうことが起こる可能性もあるんだということを肝に銘じておきたいと思います。なので2021年は、何が来ても来なくても、幸せと心の健康を大切にしたいですね」
――音楽だけでなく、ファッションやライフスタイルなどを通して、あなたが世界に発信したい「自分像」はありますか?
Victoria Monét「私は、他人が自分のことをどう考えているかを気にしないようにしています。それよりも、自分の内面、自分に正直で誠実であるかということを重視している。他人の視線を気にして自分を左右させたくはないですね」
――次の新曲の予定は?どんな雰囲気の内容になりそうですか?
Victoria Monét「新曲の準備は万端です。実は、妊娠中にミュージックビデオを撮影していました。皆さんに見ていただくのが待ちきれないですね。ご期待ください」
――日本の印象は?来日したことはありますか?
Victoria Monét「まだ行ったことがないのです。近いうちに必ず来日したい! 日本については、さまざまな情報をもらっていて、とってもゴージャスな場所という印象。特に、有名なアミューズメント・パークに行ってみたい。また自分の成長のためにも、日本の文化に触れてみたいと思います」
text Takahisa Matsunaga
edit Ryoko Kuwahara
Victoria Monét
『Jaguar』
Victoria Monét
『A Jaguar Christmas: The Orchestral Arrangements』
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