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text by Maya Lee / Ryoko Kuwahara

結末のない映画特集:「第一歩は受け入れること」『ファヒム パリが見た奇跡』ファヒム・モハンマドインタビュー/Interview with Fahim Mohammad about “Fahim-the little chess prince-”




『ファヒム パリが見た奇跡』 は実在するチェスの天才、ファヒム・モハンマドについての物語だ。ファヒムは8歳でバングラデシュを出てパリに避難する。映画は彼とその父親が政治難民としてパリで受け入れられていく過程を描くことで、家族や友情の大切さはもちろん、難民問題で常に課題となる信頼や互いに助け合うことの重要性を示唆する。ファヒムを演じるのは同じくバングラデシュからパリに移住したばかりのアサド・アーメッド、そして彼のチェスの指導者となるシルヴァン役を務めるのはフランスの名優ジェラール・ドパルデュー。
日本公開を祝い、現在バカロレア(高校卒業試験)に合格し、商業学校に通うファヒムにインタビューを試みた。ようやく滞在許可証を得ることができたものの、フランスの国籍を得るためにはさらに5年を要するという状況においても、ポジティブで誠実であり続ける彼に、映画のインスピレーションとなった自身の書籍『Un roi clandesitine(もぐりの王様)』から映画との関わり、日本も内包する問題である難民との関わり方についてなどを聞いた。(→ in English



――挑戦する大切さ、そして新しい環境で学ぼうとする姿勢に感銘を受けました。難民は常に挑戦的なトピックですが、 その一人一人を人間として理解しようとすることはとても大事で、そうした理解にこの映画はとても大きな役割を果たしてくれます。 本作はあなたの書籍が基となっていますが、映画の制作にはどのように関わりましたか?


ファヒム・モハンマド「実を言うとそれほど制作には関わっていません。脚本にも参加していないし、撮影にもあまり参加していません。フィクションの要素もありますが、もちろん私の人生を描いた物語なので、シナリオを見せてもらったり、気になるところはリクエストして直してもらったりということはしましたね」


――難民たちが集まるテント村で暮らすようなフィクションの場面は遠く感じた一方で、実際の自分の体験を思い出すこともあったそうですね。当時の印象的な出来事や共感できたシーンなどがあれば教えてください。


ファヒム・モハンマド「路上生活の思い出は強烈ですが、中でも最初の夜ははっきり覚えています。寝るためにキャンプ用のテントを張ったのですが、その日がなんとものすごい嵐で、暴風雨の中、テントと一緒に自分が飛んでいってしまうんじゃないかと思いました。いま思い返すと笑い話ですが、当時の自分にとっては、当たり前ですが全く面白くなかったです(笑)。
共感できたのは映画の中のファヒムがチャンピオンになるシーン。その嬉しさはよくわかりますから。でも一観客としてこの映画を観たとしたら、父親が強制退去のために警察に捕まるシーンが響くんじゃないでしょうか。息子と引き離されることに対して泣き叫ぶように感情を爆発させるのを見て心が痛みました。現実では私の父はあのようなシチュエーションには陥らずに済んだのですが、それにもかかわらず感動しました」








――今作をご覧になったお父さんからの反応はいかがですか?


ファヒム・モハンマド「移住した時、父はたくさんの苦労を経験しました。私は子どもだったので新しい環境にすぐに溶け込み、受け入れられたのですが、父は大人としての責任も感じて行動していたし、居場所を見つけるのも大変でした。父はこの映画を観て、当時を思い出して感動したと思います。
パリで3千人を収容できる映画館で上映会が行われた際、上映後に観客の方々が大きな拍手を送ってくれました。なかなか感情を表にあらわさない父がその日は涙を流していたんです。それだけ自分が生きてきた道を誇りに思っていたし、亡くなった私のコーチのことも思い出して、涙していました」


――映画化を承諾したのは難民への目を変えたいからだそうですね。映画化の大元となった、あなたの書籍「もぐりの王様」が出版された時、そして今作の公開を受けてどのような声が届きましたか。


ファヒム・モハンマド「出版時は、私が若かったこともあって、多くの方々が受け入れて、高く評価してくれました。今回の映画を観た方たちからもたくさんの素晴らしい反応がありました。私に寄せられるのはポジティブな反響ばかりです。しかし、残念なことに難民問題に対してのメッセージが少ないと感じています。どのように難民問題にアプローチするべきなのか、どんな考えがあるのか、そのような新しいステップについてもっとみなさんの声を聞きたいです」








――過去の経験を振り返って、同じ様な状況にいる方々に伝えたいことはありますか。また、難民にはどのようなサポートが必要か教えてください。


ファヒム・モハンマド「同じような状況にいる人たちにメッセージを伝えるのは難しいですね。もちろん『頑張ったほうがいい、頑張らなきゃいけない、諦めないほうがいい』と伝えたいけど、現実的に、困難な状況にいる方々はそのようなメッセージを聞ける状態ではありません。特に現在のCOVID-19の影響で途方もない困難を経験しています。
そして、この映画を観て単純に『じゃあチェスをやろう』『スポーツをやろう、そうすれば何かしら道は拓けるんだ』と挑戦して解決する問題でもない。私は本当に幸運だったんです。同じような幸運に恵まれる可能性はとても低いと思います。この映画の意義は、難民の過酷な状況を社会に知らせることだと私は思っています。彼らは命の危険から逃れるため、家族と別れ、祖国を離れ、新しい国で生活を送っている。頑張れと伝えたいけど、映画のように事は進まないのも知っているんです。
私は難民問題の専門家ではないので、具体的にどうサポートできるかは言えませんが、第一歩は受け入れることだと思います。自分の国にいられなくなった難民を受け入れることは、まず一番にやるべきこと。そして受け入れたその国において子ども達が融合できる環境を作ることも大事です。フランスにあるようなアソシエーション、NGO、難民の方たちを助ける組織の活動に参加することも一つの手です」





――最後に、日本のオーディエンスにメッセージをお願いします。


ファヒム・モハンマド「日本のみなさんがこの映画を観て、気に入ってくれるといいのですが。そして、この映画を通して難民問題について疑問を覚えたり、自問自答をしたりする機会になればいいなと思っています。
チェスもまた大きなテーマとなっています。チェスは頭の動きにも、身体にも良いゲームです。これをきっかけにチェスに興味を持ってくれたら嬉しいです。
この映画は世界の様々な場所で上映されました。ぜひみなさんが感じたことや思ったことを私に教えてください。日本での感想、反応が知りたいです。私は日本がとても好きで、いつか日本に行きたいと思っています。日本に行けば、みなさんが私を知ることができると同時に、私も日本のことを知ることもできるので、将来ぜひそういった機会を得たいです。漫画の『ONE-PIECE』が大好きなので、日本で尾田英一郎先生との対談を企画してほしい。夢は尾田先生に会うことです!」  




text Maya Lee
edit Ryoko Kuwahara


『ファヒム パリが見た奇跡』(原題:Fahim)
8月14日(金)全国ロードショー
https://fahim-movie.com
監督:ピエール=フランソワ・マルタン=ラヴァル
出演:ジェラール・ドパルデュー、アサド・アーメッド、ミザヌル・ラハマン、
イザベル・ナンティ ほか
原題:Fahim/2019年/仏/107分/5.1ch/シネマスコープ/カラー/デジタル 
後援:在日フランス大使館、アンスティチュ・フランセ日本、ユニフランス 
提供:東京テアトル、東北新社
配給:東京テアトル/STAR CHANNEL MOVIES
(C)POLO-EDDY BRIÉRE.

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