オランダのクリエティヴ業界を盛り上げているアーティストたちを取り上げる「.nl Issue」。近年、多くの国が国境を閉鎖しナショナリズムが高まり、世界共通の言語でもあるアートを通して団結することが以前よりも重要となってきている。NeoLでは、現在の状況と予測不可能な未来のために、議論ができる空間を様々な形で人々に提供するアーティストやアクティビストへのインタビューに取り組み続けている。本特集では、限界に挑み続け、フロントランナーとして走るオランダに在住するアーティストを紹介し、国の魅力についてはもちろん、今現在の環境、社会構成、政治などの問題を乗り越えるために必要とされる緊急性と行動力を喚起したい。
様々なアーテイストのMV、ブランドのCMを手掛け、VRなどの先端技術を使い革新的なアイデアを映画に取り入れることで有名な監督Teddy Cherim。彼はアムステルダムで監督として活躍する以前はアフリカの現地テレビ局で働いていた。その当時、西洋では善行だと思われている「寄付」の裏面に気づき、この現実を未来的に描いているのが彼の最新ドキュメンタリー『Goodwill Dumping』。他の惑星を訪ねたかのような世界観に入り込み、現在話題になっている環境問題について詳しく知りたい人には見逃せない作品だ。
(→ in English)
――現在の社会情勢の中、このトピックについてショートフィルムを制作したいと思ったきっかけを教えてください。
Teddy「きっかけはいくつかあります。数年前ケニアで暮らしていた頃、オランダの郵便局やサッカーチームのロゴが書かれたTシャツを着ている人を頻繁に見かけて、ずっと不思議に思ってたんです。すると、現地で親しくなった仕立て屋の方が先進国から寄付されてくる服のせいで客数が減っているという不満を聞き、『寄付すること』の裏側に気づきました。さらに、多くの人にとって「寄付」という行為がドネーションボックスに服を落とした瞬間に終わるという答えにたどり着けたのです。そのあと、Lisa Konnoという才能あるデザイナーに出会い、方向性がかなり決まりました。彼女はファッション業界の裏面を見てきてたので、僕とは違う視線を持っていて、制作プロセスにいい刺激を与えてくれたんです。映画に登場する寄付された服でできたモンスターは、Lisaのアイデアでもあるのですが、資本主義によって作られたファッション業界の比喩として使われています」
――このモンスターですが、どこかの芸術大学の卒業制作として見かけそうな作品なので寄付された服で作られているとは思いませんでした。ドキュメンタリー中に流れるBGMも未来的な空間を創りあげている感じがしましたが、このような要素を加えてわざと異次元にいるような雰囲気を描いた理由は何ですか?
Teddy「 僕は前からSF映画を作りかったので、その欲が滲み出てしまったのかもしれません(笑)。音楽は兄が制作したもので、僕の音楽の好みを熟知しているのでいつも彼に任せています。正直、初めてアフリカのスラムを訪ね大量に寄付された服を見た時には衝撃を受けましたが、同時に別の惑星に来ているかのような感覚になりました。モンスターは地球にはいない生物を意味するので、それを登場させることで異次元な世界観を作れるのではないかと思ったんです。とはいえ、寄付された服には、安くて質が良いという点で長所もあります。なので、恐ろしいモンスターではなく、親しみやすいキャラクターになるようにしました」
――最後のシーンでは、音楽が急に止まり、ドネーションボックスのショットが数秒映され、ドキュメンタリーが終わります。なぜアフリカではなくヨーロッパに戻ってからドキュメンタリーを終わらせたのですか?
Teddy「それも異次元な雰囲気を出すためでした。ヨーロッパに戻ったと同時に、現実に戻った感覚を思い起こさせ、『今見たことは本当に起こっているのか?』と観客が自らに問いかけをして欲しかったんです。ファッション業界だけではなく、善行の裏側なんて沢山の例があげられますよね。例えば、アフリカやインドで大きな問題となっている自然保護のトピックであれば、ある場所を人間が自然保護すると、保護される森林や自然体に何年も住んでいた難民が追い出されてしまうんです。いつかはこの問題についてのドキュメンタリーも制作したいと思っています」
――『Goodwill dumping』を制作する前はナイロビで現地のテレビ局のクリエイティブダイレクターとして暮らしていたそうですね。なぜ引っ越したいと思ったのか、再びアムステルダムに戻ってきた理由を教えていただけますか?
Teddy「2013年のシリア内戦が起こっている当時、IRC(機関名)国際救援委員会に難民危機についてのビデオを制作してほしいと頼まれました。そして、レバノンとシリアの2か国の境界に位置する難民キャンプで『Solar for Syria』というキャンペーン動画の一部を撮影をしました。その際に、人々の悲惨な状況を見た後に、キャンペーンの資金が電気を発動するソーラー電気4万個と携帯の充電器を買うために使われ、全て僕が撮影していた場所に送られたことを知り、感銘を受けました。初めて自分の映画が実際に世界に及ぼす影響を体感することができたのです。それから、映像が作れて、なおかつキャリアアップができるような場所を探し始めました。そして、最終的にオランダにたどり着いたのです。少し話が逸れますが、実は16歳の時に、『スパンク』という雑誌で少し働いてて」
――『スパンク』はどんな雑誌だったのですか?
Teddy: オランダを拠点とした『VICE』みたいなものでした。ライターはみんな15−18歳の子供で、面白い記事は新聞に掲載されたので意外とちゃんとした真面目な仕事でしたね。それが僕にとって最初のクリエイティヴな仕事で、ストーリーをどう伝えれば面白く見せられるのか学べた時期でもありました。アムステルダムに戻ってきた理由は、お金の問題です。アフリカだと、現地にいるカメラマンやスタッフの元の人数が少ない分、アムスで同じレベルのスタッフを雇うよりお金がかかるのです。でも、現地で多くのコネクションを築けたし、『Goodwill Dumping』 はケニアに住んでいなければ制作出来なかったプロジェクトなので、貴重な経験ができたと思います」
――『Meet the soldier』というプロジェクト兼ドキュメンタリーでは、ライバル心の高い部族リーダーの2人をVRを通して和解させました。VRとドキュメンタリーのおかげで長年続かれていた内紛を終了させることができたと聞いた時、どのように受け止めましたか?
Teddy「私たちは、ただ部族リーダーたちにVRという手段を提供しただけで、和解ができた理由は完全に彼ら自身です。VRを使った理由は、部屋で2人きりで話し合いをしろと言われても、お互い冷静にはなれないと思います。だけど、VRは物理的に遠く離れていても、その人が近くにいるように感じられることができるので、これを活用すれば和解出来るのではないかと考えたのです。実は、僕のオランダ側の祖父母はユダヤ系なので第二次大戦時ナチスから逃げるために母国を後にせねばなりませんでした。シリアを訪れたときに、自分は人々を楽しませることで、彼らを助けなければならないと感じた理由はそこからきているのかもしれません。なんだか偉そうに聞こえちゃいますね(笑)。僕、今度KFCのCM制作をするのでなんとも言えない立場でもありますが(笑)」
――KFCのような大物ブランドのCVなどを制作された経験は、ご自身のプロジェクトにどのような影響を及ぼしますか?
Teddy「商業的なものはギャラがかなりいいので助かります(笑)。そこで稼いだ分を2、3ヶ月間に渡る自分のプロジェクト費用や生活費にあてています。CM用のプロジェクトでは予算が十分にあるので、ヘリコプターやクレーン車をはちゃめちゃに使えたり、小道具もたくさん使えるので楽しくもありますね。KFCの制作予定のCMは人が団結する大切さを伝えるものなので、メッセージ性という点では自分の得意分野を生かせそうです」
――これからも、ストーリーを伝える手段として主に映像を使っていきますか?
Teddy「 映像は、『美しい』だけで終わってしまう場合があるので、これからは言葉や相互作用できるような媒体も同時に使っていきたいと考えています」
――最後に、学術的にもクリエイティヴ業界は1箇所に集中すると言われていますが、アムステルダムが世界のアーティストを魅惑させる理由は何だと思いますか。
Teddy「オランダ人がみんな英語が流暢で国際人にとてもオープンだからではないでしょうか。歴史的に見ても、まだ自国では認めれていなかった科学者や芸術家がアムステルダムに来て、本を刊行できるような環境も整っていたようです。今はハッパも合法なのでアーティストのクリエティビティを促すために使われているかもしれませんね(笑)。あと、映像業界はロンドンやニューヨーク、ハリウッドの大都市などに固まることが多いと思います」
text Ayana Waki
Teddy Cherim
Teddy studied at the Metropolitan Film School in London, after which he returned to Amsterdam to make the feature film Sterke Verhalen, which he wrote and directed together with Kees van Nieuwkerk. In 2014 Teddy moved to Nairobi to become Creative Director at a regional media conglomerate. Since 2016, Teddy has been back in Amsterdam from where he has been working as a freelance writer, director and creative, shooting all over the world.
http://www.teddycherim.com/mainframe