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東京国際映画祭 :「ホラー女子会の秘かな愉しみ」アントワネット・ハダオネ(『リリア・カンタペイ、神出鬼没』監督)、マティー・ドー(『永遠の散歩』監督)、シーグリッド・アーンドレア P・ベルナード(『それぞれの記憶』監督)/TIFF : “The Discreet Charm of Girl’s Horror Talk” Antoinette Jadaone (Director of “Six Degrees of Separation from Lilia Cuntapay”), Mattie Do (Director of “The Last Walk”), Sigrid Andrea P. Bernardo (Director of “Untrue”)



東京国際映画祭のライナップからNeoLが注目した作品をピックアップ。監督や出演者らゲストのトークを紹介する。2つ目の紹介はアントワネット・ハダオネ(『リリア・カンタペイ、神出鬼没』監督)、マティー・ドー(『永遠の散歩』監督)、シーグリッド・アーンドレア P・ベルナード(『それぞれの記憶』監督)ら三人の女性監督がホラー映画について語ったシンポジウム「ホラー女子会の秘かな愉しみ」。日本を含むアジアのホラー映画は大抵の場合、恨みを持った女性が死後に幽霊となり、(男性)社会に復讐するという伝統的な「定型」を持っていた。しかし近年そうした定型が変わりつつあるという指摘もある。このシンポジウムは、(1)アジア・ホラーのそうした現在形を女性クリエーターたちはどのように見て作品を創作しているのか、(2)彼女たちが表現する「恐怖」は現実社会の何をあらわしているのか、といった興味深い問いをめぐって展開される。(→ in English


ーー3人の監督のみなさんがホラー映画は個人的にお好きなのか、影響を受けたホラー映画にはどんなものがあるのかということをまず最初にお伺いしようと思います。


マティー・ドー「大好きです。私のマネージャーにも他のジャンルも観たら? とすすめられるんですけど、ホラーじゃないと観る気がしなくて。なぜホラーが好きかというと、とても広がりがあるからです。テーマをある意味拡大解釈できる、だから風景の描き方も別の絵を見せられるということもありますね。それをドラマやドキュメンタリーでやると説教じみた感じになりがちなところを、ジャンルムービーであれば非常に柔軟な形で現実を提示できます。あとまあ、純粋に楽しいですよね。好きな監督としては、ギレルモ・デルトロ、ダレン・アルノフスキー、エドガー・ライトといった人たちです」


ーーハダオネさんどうでしょう?


ハダオネ「私ははっきり言ってホラー映画は得意と言えないのですが、ただずっと以前から観て長い間心に巣食っている作品は、日本の映画『リング』です。たった今上映された私の作品『リリア・カンタペイ、神出鬼没』のリリアさんは、フィリピン映画におけるホラークイーンとして名高い方でした。フィリピンにおいてホラー映画というものは、怖くて面白い。そして非常に売れるし一番人を集められる映画です」



ベルナード「私は観ないし、好きでもないし、こうやって話をするだけでも怖いです。ホラー作品を書いてみようと試みたこともあったのですが、最初の2行を書いただけで怖くてダメでした。私が好きなのは心理スリルや心理サスペンスです。憎むべき対象など何か見えてきたものを、殺すことができるわけです。でもそれが本当にホラー映画となってしまうと、悪魔だったり色々な怖い対象がありすぎてそれを全部殺すことはできない。だから心理スリラーの方が好きです」



マティー・ドー「シーグリットさんの主役を殺すことができるというそのコンセプトすごくいいですね。ホラーは、スリラーのような心理的なものも内包していると思うんです。だから、シーグリットさんは自分で思っているよりホラーが好きなんじゃないかな。あと、なにより怖いのは人間ですよね。社会においてはいわゆるモンスターより人間の方が実は怖いという風に私は思います」


ベルナード「どう定義するかによりますよね。恐ろしい政府とか、それは何より怖いのかもしれません」


ーーホラーとかサスペンスというのは、恐怖という点においては3人の監督の作品においてはいずれも描かれていると思うんですけども、恐怖を描く難しさについてもお話しいただければと思います。


ベルナード「わたし、ホラーを観ないのに……」


マティー・ドー「パラノイアとか信頼とかそういったものは、ある意味すぐホラーに転換できちゃいますよね」





ーー恐怖というものをどうやって理解しているんですか?


ベルナード「今までは基本的にラブコメとかロマンチックなものを撮ってきました。今回の“それぞれの記憶”に関してはサイコスリラー、心理的なものを追求するという、私にとって本当に初めての試みで、そのキャラクターの恐れを知るにはそのキャラクターが何を好きかを知らないといけないと思いました。つまり、自分が一番愛するもの、大切なものを失うことほど怖いものはないからです。何かを失うという経緯あるいは何かが人生から欠けるというその経験をふまえたものが恐怖なのだと思います」


マティー・ドー「その喪失感というものを描けるから、私はホラーが好きなんだと思います。あるインタビューでも答えたんですが、ロマンスやコメディーは場合によっては文化的になかなか理解しづらいこともあるんですよね。例えば、恋に落ちるというその描き方も、タイ人、ラオス人それぞれ違うからなかなか共感できなかったりします。アメリカ映画を観てると、なんでこんなひどい男に彼女は恋をするんだろうとか、絶対にセラビストにかかった方がいいようなサイコだからやめたら? と思う(笑)。けれども、そういった痛みとか何かを喪失するとかいう感情は共通だと思うんです」

ハダオネ「いま準備している、ある女性の成長譚を描いた作品がある意味一番ホラーに近いかなと思います。怖いという感情をうまく描くには、主人公がまず最初に自分で自分でコントロールできることが大事だと思います。その後に収拾できなくなることから、自分では何も手を出せない、他の何かによって自分の運命が左右されていく。それはとても怖いことですよね」





ーーこの映画業界で女性が監督として活躍するというのはまだまだ少ないと思います。女性が映画の現場で働くということについて伝えたいことなどありますか?


ベルナード「実はフィリピンに関して言えば、女性監督はたくさんいるので、それが問題視されるとか映画が撮れないということはないんですね。インディペンデントであれ商業的な作品であれ撮っています。ただ時に女性はラブストーリーやテーマの軽いものを撮りがちだとか、そういう見方をされる。それが悪いというわけではないんですけども、女性の監督にそれこそサイコスリラー系、ホラーなどといったジャンルにどんどん挑戦していってほしいと思います」


ハダオネ「フィリピンにいるということはとても恵まれていると思いますね。例えばハリウッドでも実は女性監督はなかなかシーンに入り込む機会を得られないけど、フィリピンの場合は男性、女性、そしてLGBTなどといったことが影響することなく、作りたい人には作る機会を与えられています。ただ一つ問題なのは、機会が多く、撮る人が多いがゆえに大量生産的になるというか、ひとつひとつの作品にかけられる時間が非常に短いんです。だから、準備や脚本といったことに充分に時間を割けない点は短所だと思います。でも機会が多いという点はそれを補って余りある素晴らしい点ですよね」


マティー・ドー「実は、ラオスで私は初の、そして唯一の女性監督というちょっと特異な立場です。それはどういうことかというと、業界の25%を私が担っているということです。ラオスで25%というとアメリカに比べてすごく多いですが、ハリウッドでそういう男女比は起こらないでしょうね。比率的には素晴らしいけれども映画を作るのは難しいです。これは女性だからというよりも、ラオスには政府の公的なファウンディング機関がないということ、また国内に投資家というのがいない状況だから。それで海外のファンディングを申し込もうとすると、私はアメリカの国籍、パスポートを持っているが故に、いくらラオスで撮ってラオスの俳優を起用して言語もラオス語なのにラオスの映画監督という風に見られないんです。本当にムカつくことに、ラオス以外の西洋のファウンディング、ファウンダー機関は、私にアジア人らしさが足りないと決めつけるんですよ。
ただ、世界的な傾向としても女性の映画の作り手が必要とされているし、より女性の視点が反映されているべきだということがトレンドとしてあるし、意識も変わってきてるので、いまこの時代に映画を作っている私は恵まれているなと思います。ラオスで私が撮ろうとしている時も、初めての女性監督ということで国内でも熱狂的に迎えられた部分もあるんですが、私がラオスでずっと育っていないというところで外国人がラオスを撮れるのかという反感をかった部分もあります。西洋の方ではまた違った偏見もありますよね。女性は感情的だとか、生理があるから気持ちが安定しないとか、肉体的にも心理的にも監督業に適さないのではないというようなね。そんな見方は徐々に無くなっているとは思いますが、男性の監督がもっとこうしようとか機材を持ってきてくれとか要求すると、こだわりの強い監督だと理想が高いとか良い印象に思われる。けれども女性である私がそれをやると、なんだあのビッチ、もうあの監督とはやりたくないという風に言われてしまうんです。これは今もあると思います」






ハダオネ「さっきも言ったように、フィリピンではとにかくラブコメ・ロマンス系が強いので、それを作品として撮るという女性監督が多いんです。そんな中で自分のやり方でやってもそんなに問題視されることもないし、それによって批判的なコメントをされることはないんですよね。それは興行成績がついてくるからだと思います。とにかくお金をもたらしてくれるということがプロデューサーにとってはとても大事であり、お金=力という背景はあると思います」


ベルナード「マティー監督が言ってることはよくわかります。男性は何をやっても許されるんですよ。格好がちゃんとしてなくても怒鳴ってもオッケー。自分の経験をお話しすると、”それぞれの記憶”の予告編を見たある監督ーーここでは名前を言いません。名前をいうとわたしにホラーみたいなことが起こるかもしれないから(笑)ーーその男性の監督が、本作がサイコスリラーということで、『へえ、こういうのをあなたが撮ったの?』という発言をしたんです。その人は冗談で言ったつもりでしょうが、私は全く冗談だと思えませんでした。私は2012年から何作も映画を作ってきて監督としての実績もあるのに、そういう見方をするというのは、女性監督がスリラーとかいわゆるジャンルものを撮るということへの偏見があるのかもしれません。その部分は私たちがもうちょっと頑張らないといけないところなのかもしれませんね。フィリピンの映画界はいいところだけど、それでもどうしてもある程度カテゴライズされてしまう、レッテルを貼られてしまう部分もあるんですよね。ハダオネ監督もこの『リリア・カンタペイ、神出鬼没』のような作品を撮っていたりするけれどもどうしてもラブコメの人としての知名度があるし。あとこの監督はこういうジャンルの作品に強いというようなマーケティングの仕方をやめるべき。前作がヒットしたからそれに近いような作品を、というような見方をまずはやめるべきじゃないかと思います。

そして、やっぱりジャンルという部分ですよね。どのジャンルであっても一番その分野で知られている監督はやっぱり世界的に見て男性です。だから、ジャンルムービーの映画祭でも男根パーティーみたいな感じで本当に男性ばっかりだったりして。でもそういった映画祭に行って気付いたのは、いわゆるそういうジャンルムービー以外の作品を作っていると、なんとなく自分のロジックで一人で作り上げて、なんというか孤立してるような感じがあるけど、ジャンルものは数が少ないぶん、コミュニティー意識があって、みんなが手助けしてくれる協力体制があるんで。男性ばかりのように見えても入っていくととても温かく迎えてくれるし、そこにも女性の視点は必要なのでもっと女性も入って欲しいなと思います。やっぱり女性の視点は怖いですからね(笑)」


ーーベルナード監督は実はホラー映画に向いているんじゃないかとわたし思うんです。例えば、北海道で働いている女性が失恋のショックで目が見えなくなる、そこへ見知らぬ男がつきまとってくる。この設定は充分にホラーだと思うんです。


ベルナード「(笑)。ストーカー映画ではないし、そのつもりは無かったですがね。知らない人であっても助けを求めて、回り回って親切心を返すということを描いたつもりで」


ーーでもちょっと変えれば、ホラーになったかもという。


ベルナード「そうですね。私の映画はどれもホラーになり得ると思うので、要はどう定義するかですよね。愛には必ずホラーの要素が潜んでいます。ある意味、あなたがなにか愛を感じる立場にあって、同時に怖さも感じていなかったらそれは愛じゃないということだと思いますよ。そういう意味では、シーグリットさんと結婚する人はとっても楽しいでしょうね(笑)」





ーーベルナード監督の”それぞれの記憶”も愛のお話でありますけれども確かに怖いと思うところがたくさんありました。愛は怖い。


ベルナード「ホラー好きなのかな、結局は(笑)」


ーーパダオネ監督、リリア・カンタペイさんが無くなってしまった今、ホラー映画でこの方を起用したいという人はいるのでしょうか。


パダオネ「彼女にとって代わる人なんていないし、本当に彼女のような人は他にいないと思います。”Shake Rattle and Roll”というシリーズ物があり、彼女もそこに出ていたんですが、フィリピンでのラブコメの強さに押されてホラーが死滅しつつあり、それによってリリアさんもなかなか仕事が入らず、ホラー以外のジャンルの役も受け入れなくてはならなくなってしまったんです。つまりエキストラなんですけれども、通行人といったようなあまり目立たない役をやらなくてはいけなくなってしまったんですよ」


マティー・ドー「ラオスにはスクリーミング・クイーン、ホラーと言えばこの人という女優さんはいないです。私はいつも同じ人と映画を撮っています。素人であったり、友人であったりの中かから、この人がいいなという人とトレーニングなりリハーサルを重ねているんです。そういう私と一緒にやっている役者たちが多くの役を演じる機会があればとても嬉しいことですね。だけど、この人はこういう役をやる人だという決めつけはやっぱりされて欲しくない。私の役者たちにはどんな役でもオープンに取り組んで欲しいですね」




ーー日本でヒットした『カメラを止めるな』という映画がありますが、その映画の中で主人公の監督がテレビ局に頼まれたのが、早い、安い、質はそこそこという作品を撮ってくれということでした。もし自分がこのような依頼をされたら受けますか? この質問の本意は、自分の作品の中で何を一番大切にしているのかを教えて欲しいということです。


マティー・ドー「フィリピンやラオスはどこも安く撮らされます(笑)。25万ドルで今回の作品撮ってますが、私の中ではそれでも高い予算です」


ハダオネ「フィリピンでは早いということにおいてはすごく大事です。短い期間で映画を作らないといけないから。2ヶ月でプリプロダクション、撮影、編集、上映まで持っていかなければいけないこともあります。予算に関しても低いところでいうと10万ドルからスタート、30万ドルぐらいまでというところもあります」


ベルナード「私は安すぎる予算だったらやらないかな。というのも既に安いのでそれ以上叩かれたら撮りようがない。本当にお金が限られていたら、もう自分が出て、クルーも自分でやって、お金を自分で独り占めします(笑)」


マティー・ドー「何を大切にするかということで言うと、私は時間は犠牲にしたくないです。きちんと確保したい。私の場合、起用しているのが素人の役者です。クルーに関しても、もう何も無いところから立ち上げています。今回の”永遠の散歩”のクルーは20人でした。私にとってはちょっと多すぎるんじゃないかと思ったくらいです。やっぱり素人からいい演技を引き出すには、きちんと時間をかけて環境を作ってあげることが必要なわけです。だからそこを削られるくらいなら私も自分でやります。私のクルーかは撮影のこともやれば、カメラ操作もするし、お皿も洗って、演技もしちゃってる。私自身もメイクを担当して、衣装も担当して、監督もしながら、カメラ部の方のこともやっています。そういう状況なんですよね」


ベルナード「私は線引きとして、通常一番安くても20万ドル、30万ドル、それ以下のものはオファーとして受けないです。受けるとしたら、ロケーションが一箇所で俳優が3人くらいまでなら可能かもしれません。なぜあまりに安い予算のものを受けないかというと、結局他の監督たちにも同じことを強いられるわけですよね。そんな超低予算のものを受け続けていると、それが基準としてまかり通ってしまうわけです。ですから、若手の新人の監督が若いということ低予算でも受けてしまうとなると、1作目はそれでもいいかもしれませんが、2作目、3作目も同じ状況となると好ましくないことだと思います」


マティー・ドー「日本でも本当に短い時間で撮ることを要求される場合もありますよね。1週間から10日で撮ったり。というのも、やはり長時間労働が許されている、それがまかり通っているからです。そうなるとクルーだって疲弊して、危険が大きくなります。実はつい最近フィリピンの現場で俳優の方が亡くなったのも、色々なことで注意が及んでいかなかったからです。そういうことが起きないためにも、長時間労働を良しとしてはいけない。あと、そういった要求をまず映画監督にしないで欲しいです。自分がある程度気持ちよく、心地よく仕事ができる、そして利用されないということが大切。ただ、フィリピンと日本は物価が高いですから、ラオスとは全然違います。私の今回の作品ではクルーが休んだりできるように、トイレと水が流れるような小屋を作ったんですが、5000ドルで建てられました。こんなことは日本やフィリピンでは無理だと思います」




『リリア・カンタペイ、神出鬼没』
監督:アントワネット・ハダオネ
出演:リリア・カンタペイ、ジョエル・サラチョ、ジェラルディン・ヴィラミル


30年間の端役人生の果てに初めて映画賞にノミネートされた老女優リリア・カンタペイは受賞スピーチを考えて落ち着かない。ホラー映画業界の内幕を暴く、笑いと涙のモキュメンタリー? ドキュメンタリー?




『それぞれの記憶』
監督:シーグリッド・アーンドレア P・ベルナード
出演:クリスティーン・レイエス、シアン・リム、


北海道が舞台の大ヒット作『キタキタ』のベルナード監督の新作は恐怖のサイコ・スリラー。ジョージア(グルジア)で出会ったフィリピン人移民のマーラとホアキム。その生活に不気味な影が忍び寄る。




『永遠の散歩』

監督:マティー・ドー


ラオス初の女性監督マティー・ドーによるホラー風味のSF。50年前に母を死なせたことを後悔して生きてきた老人が霊力を授かって過去に戻る。果たして母の命をつなぎとめることはできるのか? ヴェネチア2019出品作。
©Lao Art Media, Screen Division, Aurora Media, 108 Media

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