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text by Ryoko Kuwahara
photo by Yudai Kusano

真夜中の物語/Midnight Stoires : Jo Motoyo x Yaona Sui




口承、書物、インターネット、様々な形式はあれど、人々は昔も今も“物語”を求めている。物語は人々の糧や指針、支えとなり、時に孤独を癒し、時に憧れや憎しみを生みながら、人々に寄り添い続けてきた。現在のSNSも自分の物語を語り、また人の物語もまた指先一つで瞬時に覗き見ることができるツールとして爆発的に広がりを見せたと言えるだろう。『真夜中の物語』特集ではそうした中でも、私たちが自分の内なる深遠さを覗き込む真夜中という時間に生まれる物語、真夜中に寄り添う物語などに焦点を当て、人との関わりから離れた時間にこそ浮かび上がる自分自身を見つめ直す。ひいては他者との関係に終始晒されている現代において、自分の時間をもち、思考、想像、創作する大切さを改めて考えたい。
山田真歩を主演に迎えたショートフィルム『0時(英題:Midnight)』で脚本/監督を務め、「逃れられない明日」を描いたJo Motoyo。若手ディレクターの登竜門「Young Director Award」や「Fabulous Five」での受賞で、グローバルな活躍が期待される彼女と、新世代を代表するラッパーTohjiのライヴをエモーショナルに捉えたビデオグラフィーで注目を集め、クリエイティヴユニットMall Boyzの一員として、はたまたモデルとしても活躍するYaona Suiが「真夜中」をテーマに初対談。初対面ながら、互いの作品をリスペクトする二人はすぐに意気投合。それぞれが映像の道に進んだきっかけから制作に向かう姿勢、創作の時間についてなどを語ってもらった。



ーーまず、お二人が映像に携わるようになった経緯からそれぞれ教えていただけますか。


Sui「いまは映像の仕事が多く、ビデオグラファーという肩書きで紹介してもらうことが多いですが、映像自体は始めてまだ1年半か2年くらいです。Joさんと同じ武蔵美に3年次から編入する以前は、地元の短大でインテリアや空間デザインを。武蔵美でもファッションの勉強をしていました。ある時、武蔵美の授業で鈴木親さんというフォトグラファーを外部講師として招く授業があって、課題で写真や映像媒体の表現に触れて自分で撮り始めたのがきっかけです」


ーーTohjiさんを撮り始める前からヒップホップの映像やビジュアル制作をしていたんですよね?



Sui 「僕は群馬県出身なんですが、地元はブラジルからの移民が多く、友達もブラジルにルーツを持つ子が多かったこともあり、ヒップホップは小さい頃から身近な存在でした。ただ自分は音楽制作や人前で歌うことにハマらなくて、ずっと一人でデザインの勉強をしていたんです。デザインやファッションの勉強は楽しかったのですが、音楽を通じて友達と楽しい時間を過ごしているのに、彼らの音楽に何もしてあげられないことに、少なからずプレッシャーや負い目を感じていて。そんな時に大学で写真や映像という表現に出会えたことで、みんなの手がまわらないヴィジュアル制作を手伝えることができるようになって、その頃にTohjiとも出会ったので、音楽に関わる映像やビジュアルを作るようになりました」


Jo「そういう入り方だったんですね。優しい、性格がいい! 私の場合はただのシネフィル(映画愛好家)です。昔から集団が苦手で、学校に行くより映画館や美術館に行くのが好きだったので、映画館に通い詰めた末に映像を作りたくなって武蔵美の映像科に入りました。学校に行ってなかったと言っても、いじめられていたりしたわけじゃなく、当時はまだ子どもだったから同級生の言動を理解できないことが多くて、そういう言動についていけなくなった時に、どうしてもパーソナルスペースや考える時間が必要で、そのために映画館で映画を観て、映画とコミュニケーションしたり、美術館で絵画とコミュニケーションをとったりしていたんです。作品を通しての方がいろんな事柄や考えを受け入れやすかったんだと思います」






ーー音楽や映画なども選択肢としてあったかもしれない中、なぜ映像がフィットしたんでしょうか。


Jo「みんなができることがよかったんですよね。高校時代にちょうどiPhoneが普及したので、写真で記録する、映像で記録するということはみんながやっていて。実際に写真はボタンを押せばいいだけだし、動画もそうで、そこまでスキルが必要ない。そうやってみんなができることの中で、自分がどうアクションできるかのことの方が私はやってて楽しいみたいです。美大だったので絵も描いたし、ずっとクラシックバレエもやっていたんですが、身体が柔らかいとか絵が上手ってそれだけで崇拝されがちで、なんというか、ある種の飛び道具を使っている印象だったんですよ。それよりも誰でもできることの方がみんなと同じレベルに立って話ができる気がするんです」


Sui 「確かにそうですよね。僕もハードルが高くなかったから、それまで勉強してきたことを活かしつつ映像を始められたというのはあります。Joさんの”誰でもできる/使えるハード”という話に近いところで言えば、Tohjiに出会った頃に、iPhoneで自分で録音して音質は汚いけどめっちゃ伝わってくるものがあるアーティストを教えてもらったことがあって。それにはとてもインスピレーションを受けた記憶があります。誰もが使えるハードを使って、圧倒的な技術がなくても、籠る熱量や気持ちを人に伝えることができるんだと。その時の衝撃はいまの自分の撮影スタイルにも繋がっています」


Jo「私はまさにその熱量をSuiくんの映像から感じてます。TohjiくんのVlogは全部観ていて、そこを通してSuiさんのことを知っていったという感じなんですが、時折、超絶熱量があるテイクがあって凄い!と思ってました」


Sui 「デザインやファッションを勉強していたこともあり、映像制作を始めた頃は、綺麗に撮ることばかり意識して撮っていたんです。でもあるTohjiのライヴで自分の気持ちが抑えられず、その日は自分がフォトグラファーとしてステージに上がっていることを忘れて、ブレブレの撮影をしてしまったんですね。我に返った時にその日の映像が僕のカメラで撮ったモノしかないことに気がついて(笑)。でも観返すとその日の会場の熱量や自分の気持ちがそのまま記録されている映像になっていて、その撮影がきっかけで綺麗に撮ることよりも、その場でしか見れない景色をリアルタイムで切り取っていくことを重視するようになりました。Tohjiとは仕事で携わっているというより一緒にムーブメントを作っていると思っているので、自分のいま踊りたい、歌いたい、暴れたいという気持ちを殺すのではなく、その気持ちをできる限り映像に閉じ込めて、それと同時にみんなの熱もできるだけ冷めないように映像に閉じ込めちゃおうと思ってて。最近はそういうことを意識して撮影しています」


Jo「私はその時客席から観ていて“三つ編みのあのステージに上がった子、超イケてる!”と思ったのをすっごい覚えてます。パフォーマーとしてのディレクターみたいな感じで、めちゃくちゃいいなって」


Sui「えっ、あの日いらしてたんですね!」






ーーお二人はドキュメンタリーとフィクションでアウトプットの仕方は違いますが、感情のリアルさを作品に閉じ込めることに重点を置くという点は共通していると思います。Joさんの『0時』は、80人くらいの方に辛かった話を聞くという試みをされたんですよね。



Jo「はい、オーディションの時に80人の女の子と会いました。普通のオーディションでは、セリフを与えて軽い演技で返してもらうんですが、そのスタイルにずっと違和感あって。演技が上手いことよりも、言葉の節々に実感がこもっている方がよっぽどいい演技をしてくれると思っていたので、一番今まで辛かった出来事はなんですかということを訊いて、私と彼女たちの間にブラインドを立てて誰だかわからなくしたうえでフリースタイルで話してもらったんです。そしたら約8割くらいの子が辛かった出来事としていじめの体験を挙げてくれたんですよ。そのオーディションを通して、いじめは、その人にとってあんまり人にオープンにしたくない経験だったり、それによって負け犬のような感覚になる体験だと思うんですけど、8割もの人が体験していたらもはやマスな経験であって自分の隠したい経験だと思わなくていいんじゃないかと。いじめられたからって自分を負け犬だと思わなくていいんだというのを強く思いました」


Sui「僕は最初に観たときと2回目で全く違うエンディングを観ているような感覚があって、映像の解釈にあれだけ幅を持たせられることが凄いなと思いました。起点になっている”時間”という着眼点にもハッとさせられました。確かに次の日は常に明るい朝と一緒に訪れるような描かれた方をされているものが多いですよね、実際には0時になれば僕らの気持ちや状況とは関係なく次の日は乱暴にやってくるものなのに。自分にとって明日が来ないでほしいと思うのはどういう時だろうとか、そういった想像力もすごく掻き立てられましたた」


Jo「嬉しい、ありがとうございます。『0時』は結末をオープンにしているので、その人の状況、心境で少し結末が変わってきて、観た人によって印象が100通りくらい違うんですよね。キティちゃんっているじゃないですか。キティちゃんに口がない理由は、それを持った人がどんな感情でも寄り添うためだと聞いたことがあるんです。自分が悲しいときは悲しい顔に見えるし、楽しいときは楽しいように見える、それは感情が表に出やすいパーツの口がないからだというのは非常に核心をついているなと。私もいつかキティちゃんのようなものを作りたいという感覚がすごくあって。でも急にそこにリーチするのではなく、一旦感情の整理として陰な部分に寄り添ってもの作りをし、その先にもしかしたらキティちゃんがいるのかもしれないと思ってトライしたのがこれなんです。私が正解を提案するんじゃなく、もうちょっと含みのあるものにしたいという、自分なりのキティちゃんへのトライというか。
この作品は自分の中で大きなチャレンジで、ああいうダークな側面を自分から出すことにずっと抵抗があったんですけど、あの話は私からすっと出てきたし、自分の過去にも紐づいてるもので、そこを出すことの意義を感じて思い切って作ってみたら、Suiくんみたいに多くの人が自分の想定とは相反するリアクションで返してくれてトライしてよかったってつくづく思います」





ーーなぜ、まずは陰の感情に寄り添いたいと思ったんですか。


Jo「自分がダウナーだから理解しやすくて(笑)。あと、多くの人がわりとハッピーを描いたものに引っ張られるような気がするんですね。特に私が広告業界にいるのでより一層その気が強いというか。でも生と死が表裏一体なのと同じように、陰と陽も表裏一体。陰をちゃんと描くことは陽を描いているのとそんなに変わらないような気がしてるんですよ。だからあえて陰に寄り添っているというか、私はそっちの方が理解ができるけど、それって陽の感覚ともそんなに離れてないよねって感じでやっています」


Sui 「カラオケボックスの中で女の子2人がキスするシーンが印象的でした。あのシーンを入れた意図は?」


Jo「あのシーンのことはよく訊かれるんですが、私の周りにはLGBTQの子が当たり前にいて、作品内にもいるのが普通の感覚だったんです。脚本で描いているときからカラオケボックスをライフボックス、つまり生の相関図や縮図にしたいと思っていて。死にいく女の子もいれば、その横ですっごい楽しんでる人たちもいて、恋をしている人たちの横に孤独を感じる人もいる。だから女性同士を絶対に入れたいというより、パーソナルなライフがたくさん入っている箱の中で、多角的な性や生き様が入ってることの方に重きを置いてキャストしました」


Sui 「なるほど。僕は普段映像で目の前の現実を切り取ることが多いのですが、『0時』を観て自分もゼロから作り上げる制作、考える余白や解釈の幅を残すような映像表現にもトライしてみたいなって思いました」


ーーSuiさんの創作の起点や制作プロセスはどういうものなんですか?


Sui 「基本的にアーティストに寄り添って映像を撮ることが多いので、どんなものを撮ろうかゼロから考えるより、自分の撮影するアーティストがその日どんなことを観る人に伝えたいかを考えながら撮ることが多いです。Tohjiの撮影や映像に関してはディレクションをチームで考えることもあります。ドキュメンタリー映像はゼロから作り上げるものに比べて解釈の幅が狭く、僕の切り取り方次第でアーティストが判断されたり新しい話題が生まれたりすることが多いから、撮影するときは常に客観的な視点を忘れないようにしています。映像は頭にスッと入ってくるからこその強さがあるので、その強さが持つ危うさは常に気をつけています」


Jo「よくわかります。映像ってセリフありきのランゲージコミュニケーションだと思われがちだけど、実際はヴィジュアルコミュニケーションですよね。言葉はなくても、さっきすっと視線をずらした感じや、この手の動きだけでSuiくんを物語れている。それくらい強くて、全世界の人が共感できるコミュニケーション。でもそのヴィジュアルコミュニケーションとしての強さは、ドキュメンタリーみたいなものを撮っていないと強化されない筋肉なんだろうなってSuiくんの作品から感じています。
あと、チームの人の意見が入るのも大事。そもそも映像はみんなで作っていてもひとりであるという孤独な作業でもあるけど、私はそこにたくさんの人の血が入ってることがめちゃくちゃ大事だと思っていて。映像にはひとりで作るタイプのものもあるけど、私はひとりで作れないものを作っているからチームの意見を殺したくないんです。だからコミュニケーションはすごく密に取りますし、それができないのであれば監督をやってる意味はないといつも思っています。私は集団行動はすごく苦手なんですけど、作品を作っているときは苦に思ったことはないんです。多様であることの強さが作品にはほしいから。そしてそのためにも、前提としてチームの人たちがこの企画のためにやりたいと思うしっかりとしたアイデアを持っていなくてはいけない。そういう責任も常に感じています」


ーー個々の集合体としてのチームであってほしい。


Jo「そうですね、チームになると一人の意見が潰れがちだけど、そういうチームにはしたくないと思ってます」


Sui 「僕が所属しているMall Boyzもまさにそういう感じです。 HIP HOPクルーの多くは構成メンバーの出身地が近かったり、そういう内容がカッチリ固まったものが多いですが、Mall Boyzは概念みたいなクルーです。職業も出身地もバラバラだし、普段はみんな個々に活動してる。だけどみんな言葉に表せないような”モール”な感覚を持っていて、その上でいろんなスキルやクリエイティヴを持ち寄って集まってる感じです」


Jo「素敵。本当に、自然に同じことをやっているんですね」




ーー起点の話に戻りますが、Joさんは夜に創作のアイデアが浮かぶことが多いそうですね。


Jo「はい。私は寝つきが悪くて、寝る前の2時間がシンキングタイムのコアなんです。もはやアイデアが浮かびまくって楽しくなっちゃって朝まで起きちゃったり。夜が一番考えが巡りますね。基本的に真夜中いろんなものが活動停止していてパーソナルな時間になっていて、メディテーションタイムに近い感覚があるから好きなのかも。朝はもうちょっとパブリックな時間なので、夜の方がいろんなものが自分に寄り添っている感じもします。天気だったり優しい空気だったりを感じやすい。でも東京育ちだから、真っ暗じゃなくてライトのある暗さの方が馴染みがあって、暗すぎると落ち着かなかったりもする。私は外を見た時にマンションの光が点いてるのが好きで。昼だとダイレクトに人を見るけど、それだと幅が無くて、人の人生を光を通して感じるのが好きなんです。想像を掻き立てられるから」


——Suiさんはいつが一番巡ります?


Sui「僕は夜だと眠いから朝考えようって寝ちゃいます(笑)。考え事があるときは早くに寝て朝早く起きるスタイル。だから真夜中はいろんな考えを巡らせるというより、逆に勝負の時間という感じです。真夜中のライヴ撮影はエナジードリンクを飲みながら勝負してるって感じです」


Jo「Suiくんは夜は真っ暗な方が落ち着きます?」


Sui「Joさんと同じで深い闇すぎると落ち着かないかもしれない。でも作業をする時は暗い方が落ち着きます。全部他のライトを落とさないと画面に入っていけないタイプなんです。映像の編集をチェックする時も必ず暗いところに行きますね」


Jo「映像の仕事は基本的にずっと暗いところで作業しますよね。それは私たちの業界ならではの特殊な環境だとは思います。編集室に入りすぎて昼夜わからなくなる時がよくあります。スタジオのセットを作っている時も全部遮光されてるから、外に出た時に本当の時間と対峙して驚いたり。そもそも映像は時間を操作する表現なんですけど、それをリアルライフでも起こすのがすごく面白いんですよ。自分が生きていることにドキッとする瞬間があるというか」


ーー時間を操作する表現、確かにそうですね。今ではYouTubeなど明るい光の中でも映像を見る機会は多いですけど、映画館の時代はそれこそ観客は暗闇の中で映像を観て時間を操作されていたわけで。


Jo「そう、映像は暗闇芸術なんです」


Sui 「暗闇芸術、本当にそうだ。今度から僕も使います(笑)」


——(笑)。最後に、真夜中に観る、または真夜中という時間にオススメの作品があれば教えてください。


Jo「ユーリ・ノルシュテインという作家の、ずっと未完のままの”外套”という作品は、たまに真夜中にとても観たくなります。ユーリ・ノルシュテインは白黒で、全部を鉛筆で描いてるんですね。この作品はまだタイプライターや印刷がない時代に、文字を書き写すことを仕事にしていた人の話で、とても丁寧で綺麗な字を書くんです。劇中に主人公が外套を羽織って街灯の中を歩いて行くと、街が文字として立ち上がるシーンがあって、そのシーンが好きで眠れない時に観ていたりします。夜のムードにさらに自分を引き込んでくれる作品ですね。私はよく映画を観ながら眠りに落ちるんですけど、子守唄みたいに繰り返し同じ場面ばかり観てしまうんです。一日の整理をしながら映画を観て、映画で一日が終わる喜びを噛み締めながら寝てます(笑)」


Sui 「僕は真夜中はすぐ寝てしまうので羨ましい。見習いたい……」






photography Yudai Kusano
text & edit Ryoko Kuwahara



Jo Motoyo
映像ディレクター/フォトグラファー。TOKYO所属。脚本・監督を務めたショートフィルム『0時(英題: Midnight)』で若手ディレクターの登竜門「Young Director Award」や「Fabulous Five」を受賞。アートプロジェクト「Besso」での活動のほか、2019年にはファッションブランドもリリース予定。

https://www.jomotoyo.com
https://www.instagram.com/jomotoyo/


Yaona Sui
ビデオグラファー/モデル。気鋭ラッパーTohjiのドキュメンタリーや、クリエイティヴユニットMall Boyzの一員として活動。
https://www.instagram.com/llllllll.llllllll.llllllll/

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