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text by Nao Machida
photo by Yudai Kusano

『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』 ボー・バーナム監督来日インタビュー/Interview with Bo Burnham about “Eighth Grade”




『エイス・グレード』とは8年生、つまりは中学2年生のこと。アメリカでは多くの中学校が8年生で修了となり、9年生からは高校に進学する。『レディ・バード』の製作陣と気鋭のスタジオ「A24」が手がけた本作は、元YouTuberで人気コメディアンのボー・バーナムの監督デビュー作。大人しくて目立たない主人公ケイラの中学校生活最後の一週間を描いた物語だ。動画の中で理想の自分を演じ、SNSで友だちとつながろうと必死な彼女の姿を通して、いつの時代も共通する思春期のもどかしさはもちろん、生まれたときからインターネットが当然のように存在し、SNSと共に生きる“ジェネレーションZ”の葛藤がリアルに浮かび上がる。自ら脚本も担当した監督にインタビューを行い、8年生の物語を書いた理由や、2018年の最多新人映画賞を獲得した主演のエルシー・フィッシャーとの撮影秘話などを聞いた。(→ in English



――日本には“中二病”という言葉があるのですが、13歳というのは難しい年齢ですよね。私自身もその頃の記憶はぼんやりしていて、必ずしも思い出したい時期ではありません。監督はなぜ8年生(日本の中学2年生にあたる学年)の物語を描こうと思ったのですか?


ボー・バーナム監督「まさにそれが理由です。アメリカには高校生活や高校生についての映画がたくさんあるのですが、それはみんなが思い出したい時代だからです。17歳に戻りたくない人なんていませんよね。僕はかねてから、13歳についての映画が少ないと感じていました。僕にとっても、最も感情的であまり喜ばしくない記憶はその時期のことです。あの頃のような経験を忠実に描けたら、自分好みの実験的な映画ができるのではないかと思いました」


――主人公を女の子にしたのはなぜですか?


ボー・バーナム監督「主人公を女の子にしたのは、自分の思い出のような作品にしたくなかったからです。若者についての映画は、その多くが監督や脚本家の回想のように感じられます。もちろん僕はそういう物語も好きですし、素晴らしい作品もありますが、記憶と現実は異なると思うんです。人間は良いことだけを記憶しがちですから。大人になるといろんな問題を抱えて、『あーあ、税金や家賃の心配をしなくていい13歳に戻りたいよ』などと思ってしまいますが、実際に13歳の頃はそんな風に思わなかったですよね」


――本作はドラマチック過ぎないところもいいなと思いました。多くの学園映画では主人公がいじめに遭ったりしますが、ケイラはいじめられているわけではなく、ただ単に目立たない女の子です。母親はいないけれど、彼女の悩みは必ずしも母親の不在が原因ではありません。


ボー・バーナム監督「そう言っていただけてすごくうれしいです。『ハリー・ポッター』のような若者が描かれた映画の多くは、ものすごくドラマチックですよね。ファンタジー映画と捉えられていますが、僕はそうは思いません。子どもたちには現実的に感じられるのです。なぜなら、学校でかっこいい男の子に話しかけるということは、ドラゴンを倒すのと同じくらい勇気の要ることだから。そこで僕は、平凡な人生を題材にして、子どもたちが自分の人生と同じくらいドラマチックに感じられる映画を作りたいと思いました。たとえわかりやすいドラマが展開しなくても、彼らにとって人生はドラマチックなのです」


――13歳の女の子の気持ちをこんなにも的確に描けたのはなぜですか?


ボー・バーナム監督「本作の脚本を書くにあたって、まずはネット上に子どもたちがアップした動画を観ることから始めました。彼らの発言を書き起こしていったのですが、一語一句というよりも不完全でぎこちない話し方を重視して、言葉の響きを拾っていきました。若い主人公が出てくる映画を観ていると、すごく雄弁に語っていることが多いんです。まるで脚本家がしゃべっているように聞こえるんですよね」


――確かにそうですね。


ボー・バーナム監督「僕にとって最も興味深かったのは、若さには失敗がつきものだということです。彼らはうまく話そうとするけれど話せないし、かっこよく服を着こなそうとするけれどできません。映画は脚本家や衣装デザイナー、美術デザイナーなどによって作られるので、すべては絶妙にデザインされています。でも子どもには、自分の人生をデザインすることなどできません。脚本で苦労したのは、うまく話せない人物をどうやって書くかということでした。不明瞭な人を明瞭に書くにはどうしたらいいだろう、と考えたのです。脚本に加えて演出面でも工夫して、役者たちには本作において最悪なのは完璧な演技だと話しました。しゃっくりをしても、咳をしても、言葉が抜けてもいいのです。劇中のケイラは映画に出てくる女の子たちのようになりたくて悩んでいるわけですから。彼女は映画で観た人たちのように話したいと思っているのです」




――主人公のケイラを演じたエルシー・フィッシャーは、ゴールデン・グローブ賞にもノミネートされたそうですね。完璧にぎこちない演技が素晴らしかったです。どうやって彼女のことを見つけたのですか?


ボー・バーナム監督「ネットで彼女の動画を見つけてインタビューしました。オーディションに来た他の子たちは、普通に会話をしているときはちょっとぎこちなくて完璧なのに、演技に入るとなんだか不自然なモードに入ってしまうのです。おかしなことですが、子どもたちは子どもらしく演じるように教えられているんですよね」


――子役スターのような感じですか?


ボー・バーナム監督「まさにそうでした。彼らは自由奔放な子どもらしさをすべて押し殺すように教えられています。でも実際に13歳の子どもと話すと、大人を相手にすごく緊張しているので、彼らの言うことはぎこちないのです。そのようなエネルギーやぎこちなさを保ちつつシーンに反映できるのは、エルシーだけでした。彼女はどんなシーンでも無骨に演じられます。役者としてそれは難しいことだと思います。自分に近い役を演じるのはとても難しいのです。カウボーイハットをかぶって役になりきるほうがずっと楽なんですよね」


――特にあの年頃の子は、自分自身を見せたくないですよね。


ボー・バーナム監督「そうなんです。脚本ではケイラはシャイな女の子として書かれているので、それも演技の一部になりました。他の子たちはオーディションでシャイなふりをしていたのですが、本当にシャイな人は自信があるふりをするはずなんですよね。シャイな子はシャイだと思われたくないはずです。エルシーはそこを理解していました。実はこれは『障害は演じるな』という昔ながらの演技方法です。エルシーはすべてのシーンでそれをちゃんと理解していて、クールなふりをしました。すべてうまくやりこなせているようなふりをしたのです」


――劇中のケイラと父親の関係もとてもリアルでした。ディナーのシーンでは、父親に話しかけられたケイラが本当に鬱陶しそうで、あの年頃の自分を思い出してちょっと親に悪かったなと思ってしまいました(笑)。


ボー・バーナム監督「父親役のジュシュ・ハミルトンは、ケイラ役のエルシーが一緒にリハーサルした唯一の役者です。他のシーンはケイラにとって初めての状況を描いているため、あえて他の子どもたちとはリハーサルさせませんでした。ディナーのシーンでは、エルシーにジョシュのことを本当にうざいと感じてほしかったので、1000回くらい撮影しました(笑)。あのシーンを観て親に悪かったなと思ったとのことですが、それが親の役目なんだと思います。あの年頃の子どもを持つ親はサンドバッグになる必要があります。ケイラは学校では誰にも声を上げられないので、(父親に反抗することは)実は健全なことなのです。彼女は父親に『うるさい』と言っていますが、実は自分の周りのすべての人に『うるさい』と言いたいのです」


――本作を観た人の多くは、13歳の頃にSNSがなくてよかった…と思うのではないでしょうか。映画はインターネットそのものよりも不安な気持ちにフォーカスしていますが、ケイラの生活においてインターネットの存在は大きいですよね。


ボー・バーナム監督「僕は自分が抱いていた不安を、25歳の頃に受け止めることができました。そして、自分の不安がインターネットと関係していることに気づいたのです。インターネットは助けにはなっていませんでした。さらに、それこそが新世代の若者たちが抱える問題なのではないかと感じました。彼らはとても不安を感じていて、インターネットは何の役にも立っていないのです。最も興味があったのは、インターネットが不安に結びついているという点でした。なぜなら、不安というのは自分の頭の中に閉じ込められた状態だからです。インターネットは唯一無二のものですが、僕らを一つにすることもできるし、完全に孤独にすることもできる、奇妙なものです」


――自分の考えの中に閉じ込められてしまうわけですね。


ボー・バーナム監督「そうです。そして、自分だけが自分を偽っていて、ネット上の他のみんなはうまくやっているのだと感じてしまう。みんながお互いに対してそのように感じてしまうのです。でも、僕は決して論文を書こうとしたわけではありません。僕はただ、不安を感じることについて書きたかった。そして、不安は僕を13歳のような気分にさせました。それがこの物語を手がけることになった理由だと思います」


――共感できる人は多いと思います。ケイラがスマホのアラームで目を覚ましたり、寝る前にベッドの中でSNSをチェックしたりする姿を見て、自分も13歳の彼女と変わらないなと思いました。


ボー・バーナム監督「そうなんですよね。スマホについて子どもに説教をしている大人がいると、『でも、あなたも同じなのでは?』と思うんです。僕だってケイラと何も変わりません。インターネットとどうやって共存していくべきか、まったく答えが見つかっていないのです。ネット上では誰もが13歳のように振る舞っている気がします。つまり、実は年相応に振る舞っているのは13歳の子どもたちだけなのです。多分インターネットを最もよく理解しているのは彼らでしょう。『これは子どもたちだけの問題だ』と一蹴するのではなく、観客の皆さんがケイラの経験の中に自分自身を見出してくれたらうれしいです」




――ケイラが年上の男子高生と車の中で二人きりになるシーンが印象的でした。特に何か起こらなくても、違和感を覚えたり、自分が間違ったことをした気分になったりという状況です。あのシーンに込めた思いは?


ボー・バーナム監督「脚本を執筆中にあのような場面が浮かぶと、何が起きているかに耳を傾けて、責任を持って書くようにしています。あのシーンでは、自分にとって親近感のあるタイプの男を書こうとしたのだと思います。映画に登場する肉食男子には、わかりやすい大柄でマッチョなタイプが多いかもしれません。でも、繊細でおとなしくて知的な男の子が、相手のことを理解できるからこそ利用する場合もあって、それはあまり語られていないと思うんです」


――相手をコントロールするわけですね。


ボー・バーナム監督「まさにそうです。気の合う相手が、それを利用することもあるのです」


――そういう状況に直面したことのある女の子は多いと思います。


ボー・バーナム監督「そうですよね。そして、それは見た目よりもわかりにくいんです。あのシーンで重要だったのは、ああいった状況がいかに厄介でグレーなのかを描くことでした。でも現場ではエルシーが不快な思いをしないよう、きめ細かくコミュニケーションを取りながら撮影しました。アメリカでは頻繁に話題に上がったのですが、あのシーンから半年後に『何があったの?』と聞かれたら、ケイラは『何もなかった、大したことなかった』と答えるでしょう。でも実際にその場にいると、たとえ暴力的な被害がなくても、精神的に侵害される場合もあるのだと気づくはずです。それは男の子には理解のできないことです。僕もあの年頃では理解できませんでした。特に男の子は、言葉だけで女の子の自由や客観性を侵害しかねないのです。書類上では性的暴行として認められないことでも、ひどいトラウマになりかねません」


――日本の観客には本作からどのようなことを感じ取ってほしいですか?


ボー・バーナム監督「僕はただ何かを感じてほしいと思っています。どのように考えてもらっても構いません。とにかくケイラの気持ちを感じて、彼女の中に自分を見出してもらえたらうれしいです。それに、この映画が会話のきっかけとなることを願っています。映画自体は会話ではありません。映画が何かの参考になってくれることを願っています」


――これからも監督業は続けますか? 今後の予定は?


ボー・バーナム監督「はい。今は新作を企画しているところです。もう少し明確にインターネットをテーマにした作品にしたいと思っていますが、まだどうなるかはわかりません」

photography Yudai Kusano
text Nao Machida
edit Ryoko Kuwahara



『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』
9月20日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、シネクイント渋谷ほか全国順次ロードショー
HP: http://www.transformer.co.jp/m/eighthgrade
監督・脚本:ボー・バーナム『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』(出演)
出演:エルシー・フィッシャー(『怪盗グルーのミニオン危機一発』※声)、ジョシュ・ハミルトン『マンチェスター・バイ・ザ・シー』、エミリー・ロビンソン『バッド・ウィエイヴ』、ジェイク・ライアン『ブルー・ワールド・オーダー』ほか
製作:A24/音楽:アンナ・メレディス
【2018年/アメリカ/英語/93分/原題:EIGHTH GRADE/G/日本語字幕:石田泰子】
配給:トランスフォーマー
© 2018 A24 DISTRIBUTION, LLC




This interview is available in English

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