NeoL

開く
text by Nao Machida

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』 来日記者会見/“Once Upon a Time in Hollywood” Japan Premiere Press Conference with Quentin Tarantino, Leonardo DiCaprio and Shannon McIntosh




Brad Pitt and Leonardo DiCaprio star in Columbia Pictures ÒOnce Upon a Time in Hollywood”




クエンティン・タランティーノ監督の通算9作目の映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』が8月30日に全国公開される。主演にレオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットを迎えた本作は7月に全米公開され、タランティーノのキャリア史上最高のオープニング成績を記録した。舞台は1969年のハリウッド。主人公のリック・ダルトンはかつてテレビの西部劇で活躍した俳優だが、すでに人気のピークは過ぎ、自身の役者生命に不安を抱えていた。リックを支えるクリフ・ブースは付き人兼スタントマンで、2人は親友でもある。そしてリックの家の隣には、時代の寵児ロマン・ポランスキー監督と彼の妻で女優のシャロン・テートが引っ越してきた…。

映画は目まぐるしく変わっていくハリウッドの過渡期を、架空のキャラクターであるリックとクリフを主軸に描き出し、1969年に発生したシャロン・テート殺人事件という史実を交えながら展開していく。脚本執筆に5年の歳月を費やしたというタランティーノの映画愛が、そこかしこに詰め込まれた作品だ。主演の2人はもちろん、マーゴット・ロビー、アル・パチーノ、ダコタ・ファニングや、今年3月に逝去したルーク・ペリーら、豪華キャストが顔をそろえた。ここでは映画の公開を前に来日したタランティーノ監督、レオナルド・ディカプリオ、そしてプロデューサーのシャノン・マッキントッシュが出席した記者会見の模様をお届けする。(→ in English



――まずお聞きしたいのですが、もうすぐパパになるそうですね?


クエンティン・タランティーノ監督「イエス!僕が妊娠しているわけではないけど、妻がね。多分家じゅうに小さなタラちゃんがたくさんいるような日も近いと思います」


――おめでとうございます!


タランティーノ監督「ありがとう!」


――1969年に発生したシャロン・テート殺人事件という史実に基づきながらも、リック・ダルトンとクリフ・ブースという架空の人物を加えるという本作のアイデアはどこから生まれたのでしょうか?


タランティーノ監督「本作では、ハリウッドにおいてカウンターカルチャーの変化が見られた時代を描こうと思いました。それはハリウッドという街だけでなく、業界自体が変化した時期です。その時期をシャロン・テートの殺人事件に至るまでの時間軸で描き出せば、歴史的な部分も掘り下げられて面白いのではないかと思いました。僕は13、4歳だった70年代にE.L. ドクトロウの『ラグタイム』という変わった小説を読みました。架空の登場人物と実在の著名人を組み合わせた物語で、イヴリン・ネズビットやハリー・フーディーニ、J.P.モルガンらが登場します。それをかねてから面白いと思っていたので、実際にハリウッドのあの時代を描こうと決めたときに、架空の登場人物を作って、そこに当時ロサンゼルス郡で暮らしていた人たちを加えようと思いました。だから、当時ロサンゼルス郡に住んでいた人の誰もが僕の物語に登場する資格があります(笑)」


2488029 – ONCE UPON A TIME IN HOLLYWOOD




――レオナルド・ディカプリオさんにお聞きします。2012年の『ジャンゴ 繋がれざる者』以来となるタランティーノ監督作品へのご出演ですが、オファーされたときのお気持ちをお聞かせください。


レオナルド・ディカプリオ「ジャンゴと比較するわけではないですが、本作ではクエンティンと一緒にリック・ダルトンという人物の魂の部分を作り上げられたことが非常に面白かったです。リックは物語に描かれた数日間でとても大きな変化を遂げるのですが、僕らはそれがどのような変化だったのだろうと話し合いました。私的な意味での変化にとどまらず、リックは役者としてなんとか時代についていこうと自分を駆り立てていたのです。1950年代のテレビの西部劇で活躍していた役者にとって、人気のある主人公ではなく悪役を演じるというアイデアは受け入れるに耐え難いことでした。でも彼の周りでは、文化も世界も演技そのものも変化していたわけです。


クエンティンはリックとクリフという2人のキャラクターを非常に美しい形で設定しました。ハリウッドの外れにいる彼らは、一枚のコインの表裏のような関係です。そして、リックは若い女の子に背中を押されて、自分では気づかなかった才能を発揮していきます。露骨にしすぎることなく、2日間に起きるリックの大きな変化を描き出すまでのクエンティンとの旅は、本当に素晴らしいものでした。また、クエンティンが僕ら2人のキャラクターの生い立ちを教えてくれたことも非常に役立ちました。一緒にこの2日間を描くにあたって、僕とブラッドにはリックとクリフの歴史が与えられたのです。それがあったおかげで、いろんなことを試す自由も与えられました。僕とブラッドを代表して言いますが、それは役作りの上でものすごく重要なものでした」

――リック役とクリフ役に、それぞれレオナルド・ディカプリオさんとブラッド・ピットさんをキャスティングした理由を教えてください。


タランティーノ監督「2人がこの役にぴったりだったからです。よく皆さんから『なぜレオとブラッドを選んだのですか?』と聞かれるのですが、自分が選んだというよりも、彼らが僕を選んでくれたのだと思います(笑)。すべての企画をオファーされる2人ですから、彼らには選択権があるわけです。僕はラッキーなことに、それぞれと過去に仕事をしたことがあり、作品を気に入ってもらえました。きっと山積みになった脚本の上の方に僕の脚本があったのだと思います。ラッキーなことに2人とも読んでくれて、内容やキャラクターに反応してくれました。控えめに言ってもこの10年で最高のキャスティングだと思っています。僕は本当に幸運です。すべては彼らがこの企画に反応してくれたおかげなのです。


一つ加えるとすれば、リックは主演俳優でクリフは彼のスタントダブルという設定ですので、演技が上手いからとか、有名だからというだけでキャスティングするというわけにはいきません。内面がどれだけ違ったとしても、外見的には似ている必要があるわけです。一人はカメラの前でもう一人のスタントダブルになるわけですから、同じ衣装を着たときに似ていなければなりません。その資質をこの2人が持っていてくれたのは、僕にとって本当に幸運なことでした」


QT9_67895.raf




――本作ではブラッド・ピットさんと初共演しています。劇中の2人は親友のように親しい関係ですが、どのように役作りをしましたか?


ディカプリオ「今回はまれなケースだと思います。これまでの作品でも、僕はできる限りのリサーチを行ってきました。本作のリックとクリフはこの業界で本質的につながっていて、変化していくハリウッドを外側から見つめています。あまり仕事が来なくなった自分たちにとって、居場所ではなくなってしまったハリウッドです。ブラッドと僕には輝かしいキャリアがあるかもしれないですが、僕らにも彼らのような経験はありますし、LAがどんな場所かもわかっています。長年にわたってこの環境に身を置いてきた僕らにとって、これは自然に演じられる役でした。僕らには2人のソウルや、常に拒絶されがちなこの業界を生き残る上での相互依存も理解できました。


また、クエンティンは僕らの歴史をつづった素晴らしい原稿も提供してくれて、リックとクリフが一緒に出演した作品のリストなどが書かれていました。そういった作業はすべてクエンティンがやっておいてくれたので、少し現場で慣らしたら、すぐに彼らのことが理解できました。撮影していく中でさらなる発見もありましたが、彼らの魂の部分は最初からわかっていたのです。それは僕らの時代精神やこの業界の置かれた環境に存在するもので、僕らは彼らのような人たちを知っていました」


――リック・ダルトンのインスピレーションとなった作品やキャラクターはありますか?


タランティーノ監督「すごく良い質問ですね。まず理解していただきたいのは、50年代のアメリカではテレビが登場して、それまでにいなかったようなタイプのスターが生まれたということです。それまでは映画か舞台かラジオのスターでしたが、テレビのスターが誕生しました。番組の一つのエピソードの視聴者数が、クラーク・ゲーブル主演の映画の観客数よりも多かったのです。ただ、この新しいタイプのスターたちが、50年代から60年代の過渡期にどうなるのかという答えはまだ出ていませんでした。


もちろん、テレビから映画へと見事に活躍の場を広げることに成功した3人の役者は、誰にでも思い浮かぶと思います。スティーブ・マックイーン、クリント・イーストウッド、ジェームズ・ガーナーです。でも、テレビから映画へと転向できる可能性がありながらも、うまくいかなかった役者たちもいたのです。作品のせいだった場合もあるし、ただラッキーではなかった場合もあるし、それはキャリアにおける予想のつかないことです。リックはそういった役者たちをベースに描かれています。一人の役者をインスピレーションにしたのではなく、いろんな役者の経歴を少しずつ取り入れました。その中には『ルート66』で主演したジョージ・マハリス、『サンセット77』で主演したエド・バーンズ、『ブロンコ』で主演したタイ・ハーディン、『ベン・ケイシー』で主演したヴィンス・エドワーズがいます。こういった役者たちの経歴を合成したのがリックなのです」





――リックを演じる上で一番大切にしたことは何ですか?


ディカプリオ「映画の仕事の素晴らしいところは、未知の世界に足を踏み入れられることです。熱狂的な映画ファンであるクエンティンは、僕がこれまでに知らなかった多くの役者を教えてくれました。作品を観たこともなかった人たちなのですが、リサーチを進めるにつれて、この業界や僕らの大好きな映画や仕事に貢献したのにもかかわらず、歴史的に忘れ去られた人たちを祝福するための映画なのだと気づきました。それは素晴らしい旅となりました。リックは自身の役者生命について悩む中で、自分が時代に忘れられて、カルチャーも変化していることに気づきながらも、ハリウッドという魔法のような世界の一部として仕事ができることに感謝するべきだと考えるようになるのです」


――シャノンさんは長年一緒に仕事をしてきて、タランティーノ監督ならではの撮影の進め方で印象に残ったことはありますか?


マッキントッシュ「クエンティンとの映画作りはマジカルで、現場も素晴らしく、まるでファミリーのような雰囲気です。一作目の『レザボア・ドッグス』からクエンティンと仕事をしてきたクルーもいて、みんな喜んで現場に戻ってきます。彼らは一緒に仕事をするのが大好きで、監督のビジョンを実現しようとしてくれますし、クエンティンに刺激されるので毎日現場に行くのが楽しいのです。撮影の合間にはクエンティンが映画史のレッスンをしてくれるんですよ。彼ほど映画に詳しい人は少ないですからね。本当にマジカルな現場なので、クエンティンのスタッフは彼が脚本を書き始めたと聞きつけたら『いつ撮影するの?』と連絡してきます。他の映画の仕事を辞めてでも参加したいわけです。そのような現場を見られることは本当にうれしいですし、本作ではクエンティンがレオやブラッドやマーゴットとのコラボレーションを通して、作品に命を吹き込むまでを目撃できてうれしかったです。クエンティンは毎回テイクを撮った後、『今のよかったけど、もう一度やろう』と言うんです。そこでクルーが『どうして?』と言い、最後は全員で『だって僕らは映画作りが大好きだから!』と言うのがお決まりになっています。それが現場のモットーなのです」


――劇中ではものすごい奇跡が起こりますが、皆さんの身の回りで起こった奇跡はありますか?


タランティーノ監督「映画監督としてキャリアを築き、9本も作品を撮り、日本の人にまで知られていること!1996年の僕はビデオ屋の店員で、最低賃金で働いていたわけですから(笑)。自分がプロとして仕事をしているだけでも奇跡ですが、こんなにも素晴らしい機会をいただいて、アーティストとして生きることが難しい業界においてアーティストでいられること。そして、仕事やお金のためでなく、自らの旅の次なる一歩として活動できること。それは間違いなく奇跡ですし、たくさんの機会に恵まれた自分はとても幸運であり、そのことを決して忘れないことが重要だと思います」


ディカプリオ「僕もクエンティンに完全に同意します。僕はロサンゼルス育ちで、実はハリウッドで生まれたので、この業界に限らず(この街でやっていくことが)どれだけ大変なのか本質的にわかっています。メッカのような、このハリウッドという夢の国のような場所に、世界中からたくさんの人がやってくるのです。僕だって放課後にオーディションに行かれるような距離に住んでいなければ、今日ここにはいなかったと思います。役者を仕事にできるだけでなく、クエンティンが言ったように、自分で役を決め、自分の選択で自らの運命をコントロールできる役者でいられることは、紛れもない奇跡です。僕は人生を通してそのことに対する感謝を忘れたことはありません。成功した役者であること自体が奇跡なのだと理解している人たちと仕事をしたいと思っています。僕らと同じ仕事をしている99%の人たちは、この立場にいないわけですから」


マッキントッシュ「レオとクエンティンの言ったことを繰り返すようですが、私も自分が大好きな仕事でキャリアを築けて、とても恵まれていると思っています。大好きな人たちと仕事ができて、毎日楽しく現場に行くことができて幸せです。それに応援してくれる家族がいることも。私にはこの業界のスケジュールに寛容な夫と、すくすくと育っている2人の素晴らしい息子がいます。これはかなりの奇跡です」


2488029 – ONCE UPON A TIME IN HOLLYWOOD




――タランティーノ監督に質問です。1969年のハリウッドを作り上げる上で一番楽しかったことは何ですか?


タランティーノ監督「本作の製作はとても楽しかったので、たくさんあります。素晴らしいキャストとシーンやキャラクターを実現して行くのはものすごく楽しかったですし、とても満足しています。でも、特別な達成感を得られたのは、ロサンゼルスのような生きた街を舞台に時計を40年ほど巻き戻したことです。CGやスタジオ、セットなどを使うことなく、ビジネスが行われ、車や人が行き交う、まさに生きている街で成し遂げました。美術のデザインや映画で使用される様々なトリックを駆使して実現できたと自負していますし、マジカルな満足感があります。


ところで1969年と言えば、お話ししたいことがあるのですが、最近これまで知らなかった日本人の映画監督を発見しました。彼はクラハラ(蔵原惟繕)という名前で、57年か58年に制作された『俺は待ってるぜ』(1958)という作品を観て圧倒されました。すごい監督だなと思って他の作品を調べたら、1969年に日本国内で最もヒットした映画を制作していたことがわかったのです。『栄光への5000キロ』というタイトルで、カーレースについての映画みたいです。面白そうなのですが、どなたかご存知ですか? 僕はあと2日ほど滞在するので、英語の字幕付きのDVDを持っている人がいたらください。何か僕にプレゼントしたいと思っているあなた、僕は『栄光への5000キロ』が欲しいです(笑)」


――あなたにとってハリウッドはどんな存在ですか?ハリウッドが意味することは?


タランティーノ監督「僕もレオもよく話すのですが、ハリウッドには2つの意味があります。業界としてのハリウッドと、街としてのハリウッドです。この映画はその両方を掘り下げています。業界の街としてのハリウッド、そして市民が暮らすハリウッドを描いているのです。この街では大きな成功と中くらいの成功と中くらいの失敗と大きな失敗が隣り合わせです。時が経つにつれてそのポジションは変わっていくわけですが、僕にとっては魅力的なことなのです。ハリウッドで2、30年活動していると、まるで同じ高校に2、30年通っているような気分です。見慣れた顔が多くて、10年前からの知り合いもいて、嫌いになったわけではないけれど毎週遊ぶような仲でもない。でも会えてうれしいとは思うのです。それはまるで4年間の高校生活と同じで、ただそれを25年続けているようなものです(笑)。君はどう思う?」


ディカプリオ「僕もそう思うよ」


――あなたにとってのハリウッドとは?


ディカプリオ「僕はLAが地元なのですごく偏ってしまうけれど、ハリウッドは世界中でいわれのない避難を受けているように思います。もちろん、すごく嘘っぽい嫌な奴らも住み着いてはいますが、僕自身はロサンゼルスで育って、家族や友人たちと素晴らしい人間関係を築いてきました。ロサンゼルスは夢の工場ですから、それによってたくさんの成功や失敗が生まれます。でも、僕は人生を通してLA出身の家族がいることをとても誇りに思っています。それに、ロサンゼルスで新たに出会った素晴らしい人たちもいます。世界中からやってきた、主に政治的な意見の合う人たちと交流してきました。LAは僕がいつでも帰りたいと思う場所なのです」


マッキントッシュ「レオやクエンティンと違って、私はロサンゼルス育ちではないのですが、もう20年も暮らしています。ロサンゼルスで仕事をしながら家庭を持つことができて光栄です。今や私の大切なホームです。大好きな街です」


text Nao Machida





『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
8月30日(金) 全国ロードショー http://www.onceinhollywood.jp/


<ストーリー>
リック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)は人気のピークを過ぎたTV俳優。映画スター転身の道を目指し焦る日々が続いていた。そんなリックを支えるクリフ・ブース(ブラッド・ピット)は彼に雇われた付き人でスタントマン、そして親友でもある。目まぐるしく変化するエンタテインメント業界で生き抜くことに精神をすり減らしているリックとは対照的に、いつも自分らしさを失わないクリフ。パーフェクトな友情で結ばれた二人だったが、時代は大きな転換期を迎えようとしていた。
そんなある日、リックの隣に時代の寵児ロマン・ポランスキー監督と新進の女優シャロン・テート(マーゴット・ロビー)夫妻が越してくる。今まさに最高の輝きを放つ二人。この明暗こそハリウッド。リックは再び俳優としての光明を求め、
イタリアでマカロニ・ウエスタン映画に出演する決意をするが―。
そして、1969年8月9日-それぞれの人生を巻き込み映画史を塗り替える【事件】は起こる。


公式Twitter:https://twitter.com/SPEeiga
公式Facebook:https://www.facebook.com/SPEeiga/


2019年/アメリカ映画/原題:ONCE UPON A TIME… IN HOLLYWOOD 本編上映時間:2時間41分 PG12 字幕翻訳:松浦美奈
全米公開 7月26日公開




This interview is available in English

1 2

RELATED

LATEST

Load more

TOPICS