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text by Ryoko Kuwahara
photo by Sachiko Saito

『アマンダと僕』ミカエル・アース監督&ヴァンサン・ラコストインタビュー “私が描くものは全て主観的なものです”



第75回ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門でマジックランタン賞を受賞し、第31回東京国際映画祭東京グランプリ&最優秀脚本賞のW受賞に輝いた『アマンダと僕』が公開中。パリの街を舞台に、ある日突然大事な人を亡くした青年と少女が喪失から再生へと向かう過程を描いた本作。リアルな感情の動きをフィルムならではの味わい深い画で追い、観る者を魅了したミカエル・アース監督と主演のヴァンサン・ラコステに制作時のエピソードを語ってもらった。


――パリの街並みがドラマティックというよりはむしろ寄り添うような美しさで描かれていて、特に光の具合がとても印象的でした。光の演出はこの映画にとってすごく重要だったと思うのですが、撮影を手掛けたセバスチャン・ブシュマンとはどのようなお話し合いをされたのですか


ミカエル「光は私のアイデアにはとても重要です。このように光を映画の中で描くことは、今では少なくなってきていると思います。私の場合、今作をフィルムで撮ったのですがフィルムで撮る監督も少なくなっています。フィルムには、粒子感やザラザラとした質感という何か特別なものがあって、とても感動的なものであると思っています。まるでその画面を触れるかのような感覚になります。デジタルで撮られている冷たくてあまりにもキメの細かいはっきりとした映像とは違うものになります。また、フィルムで撮った場合には特別な色合いを得ることができます。だから、撮影監督とはまずどのような形式で撮るかを話し合いました。また天気にもよりますが、主題の通り光に満ちた映像を撮りたいと考えました」


――その光のあるパリを自転車で走り回るダヴィッドの姿が多く描かれています。伸びやかさやしなやかさ、若さ、健康さを感じさせる四肢の動きが多かったように感じたのですが、身体の動きで監督と話し合ったことはありますか。そしてヴァンサンさん自身が気にしようと思った部分は?


ヴァンサン「両方かもしれません。僕自身体が特別に体が柔らかいわけではないのですが、自転車のシーンは映画に息吹を吹き込むような意味もあったのではないかと思います。実際にはもっと自転車に乗るシーンをたくさん撮っていたので、今年の夏はツール・ド・フランスに出られるのではないかというくらいです(笑)。枝下ろしの作業も同じようにかなり長い講習を受けて、たくさん作業しました。学んだ作業であると同時に、“動き”というのは、ほとんど自然に自分の中から出てくるものなので、監督とこのように動いたほうがいいという話をしたわけではありません。あくまでも自然な自分の中にある動きです。僕の考えでは、テーマ自体が辛くて重いものなので、そこで自転車で移動することによってシーンに息吹を吹き込んだのだと思います」





――余談ですが、パリで自転車に乗ったことがあるのですが、日本と違ってあんなに危険で大変だとは思いませんでした。だからあんなに軽やかに自転車に乗るダヴィッドが羨ましかったです。


ヴァンサン「確かにパリでは車の運転が本当にめちゃくちゃなので、自転車を運転するのがとても危険で難しい。パリで自転車やバイクを運転していると人々からヤジが飛んできたり、怒鳴られたりもします(笑)。でも便利なんですよね」


――ええ、私も怒鳴られました(笑)。今作は父性についてもテーマになっています。威厳のある父性ではなく、未熟だけれども優しくてともに歩むような父性を描こうと思ったのはなぜですか?


ミカエル「むしろ、あらすじ自体がすでにその父性というものを必要としていたと思います。何も予想もしていなかった若者の日常に急にこのようなことが降りかかってしまい、自分の理解や力を超えるものに挑戦しなければならなくなったという状況を描いているからです」

――なるほど。そして「喪失」も今作の大きなテーマです。実際に喪失を味わったとき、心が一旦ガードを作ってしまい感情をシャットダウンし、そのあと少しずつ悲しみが襲ってきたり不意な時に涙がでてきたり、そのプロセスが本当にリアルに丁寧に描かれていました。監督が“物語”において感情を描かれるとき、どのようなことを気をつけながらその感情に真実味を持たせるように工夫されているのですか?


ミカエル「私が描くものは全て主観的なものです。もっと抑圧的に描くことももっとメロドラマ的に描くこともできると思うのですが、それぞれ人の感性でそれが決まると思います。後になってふと涙が出てくるシーンに関しても、私自身シナリオはとても直感的に書いていて、その直感を信用しているので、これといった説明はできないですね。例えば、ダヴィッドがアマンダに母親の死を告げるシーンがありますが、あのシーンではアマンダは泣いていない。それについて、あれは嘘だという人もいれば、あれが本当なんだという人もいると思います。このように人の感性によって描き方は違うのだと思います」




――その感性をすり合わせるに当たってヴァンサンさんとはどのようなお話をされたのでしょうか。身体の動きは自分のものだというお話だったのですが、心情的なものは共通言語が必要となってくると思うのですがどうされていましたか。



ミカエル「これはヴァンサン自身が台本を読み、私と会って感じてくれたことなのですが、本当に奇跡的に私と彼の間には通じるものがあってすぐに彼は私を理解してくれました。実際、母親が亡くなったことを知らせるシーンというのはとても重要なのですが、撮影が始まって3日目に撮りました。このシーンは感情がほとばしるシーンなので、私にもおそらくヴァルサンにも懸念がありましたが、お互いに話をしてそのシーンはうまくいきました。ですから、映画というのは役者を選んだ時点で決まるというところがあるのではないでしょうか」


ヴァンサン「僕自身、感情がほとばしる演技の経験はあまりなく正直怖かったです。というのも今まで僕が出演しているのはコメディが多くて。シナリオを読んでそのような感情のシーンがあると知り、とても動揺しました。ただ、最終的にはとてもシンプルでクラシカルなやり方を選びました。僕の場合、撮影が始まる前にセリフを全部覚えていくのですが、ただその感情が自分の中に昇ってこなかったらどうしようという不安はありました。だけど、監督もそうですし、イゾール・ミュルトリエ(アマンダ役)やスタッフのおかげで演技がしやすい環境を作ってもらえたのでリラックスして演技をすることができたのです。好意的な環境で、みんなが気をつかい、信頼をしてくれたのが自分にとってとても大きかったと思います。監督も言っていたように、母親の死を告げるシーンは撮影の3日目だったので、本当に怖かったです。しかし特にこのシーンには自分自身も感動していましたし、シナリオの段階でそのシチュエーションがうまく描かれていたので、セリフに集中してその瞬間を自分が生きるということを大切にしました」


――最後に、エンディング曲を担当したジャーヴィス・コッカーとのエピソードからもわかるように監督は非常に音楽好きですよね。“Elvis has left the building”という言葉を見つけるきっかけとなった、買おうとして売り切れてしまったレコードが気になってしまって、一体どのアーティストのものだったか教えてください。


ミカエル「(笑)。ラッシュキャン・シナトラズです」


――ヴァンサンさん、質問ではないのですが、あなたは日本の漫画の「ONE PIECE」の大ファンということですが、このみなとみらいにはそのグッズを扱っているJUMP SHOPがあるのでぜひ行ってみてください。


ヴァンサン「そうなんだ、近くにあるの? それは行かないとね」

photography Sachiko Saito
text Ryoko Kuwahara





『アマンダと僕』
http://www.bitters.co.jp/amanda/

シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国上映中

©2018 NORD-OUEST FILMS – ARTE FRANCE CINÉMA


監督・脚本:ミカエル・アース 共同脚本:モード・アムリーヌ 撮影監督:セバスチャン・ブシュマン エンディング曲:ジャーヴィス・コッカ―
出演:ヴァンサン・ラコスト、イゾール・ミュルトリエ、ステイシー・マーティン
2018年/フランス/ 107 分 / ビスタ/ 原題:AMANDA 提供:ビターズ・エンド、朝日新聞社、ポニーキャニオン 配給: ビターズ・エンド www.bitters.co.jp/amanda


監督・脚本/ミカエル・アース〔Mikhaël HERS〕
1975年2月6日、フランス、パリ生まれ。友人と数本の短編映画を 製作した後、本格的に監督としての活動を開始。短編、中編を数本制作し、“Charell”(2006)がカンヌ映画祭批評家週間に選ばれる。10年に、“Memory Lane”で長編デビューを果たしロカルノ国際映画祭でワールドプレミア上映された。その後、「この夏の感じ」(未)を手がけ『アマンダと僕』(19)が長編3作目。


主演(ダヴィッド役)/ヴァンサン・ラコスト〔Vincent LACOSTE〕
1993年7月3日、フランス、パリ生まれ。2009年、スクリーンデビュー作「いかしたガキども」(未/リアド・サトッフ監督)で、主演のひとりとして冴えない思春期の学生を演じリュミエール賞有望若手男優賞を受賞、仏映画界最高峰のセザール賞では有望 若手男優賞にノミネートされた。その後、『スカイラブ』(11)や、『カミーユ、恋はふたたび』(12/ノエミ・ルヴォウスキー監督)、『EDEN/エデン』 (14/ミア・ハンセン=ラヴ監督)などに出演。「ヒポクラテス」(未 /トマ・リルティ監督)で主演を務めセザール賞主演男優賞にノミネート、さらに16年には “VICTORIA”(ジュスティーヌ・トリエ監督)でセザール賞助演男優賞にノミネートされた今最注目の若手俳優の一人。

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