ニューヨーク・ブルックリンを舞台に、ずっと2人で暮らしてきた元バンドマンのシングルファーザーと大学進学を目前にした愛娘の新たな一歩を優しいまなざしで描いた映画『ハーツ・ビート・ラウド たびだちのうた』。劇中には登場人物の気持ちを代弁するかのような楽曲が盛り込まれ、サンダンス映画祭やSXSW映画祭でも絶賛された話題作だ。6月7日の日本公開を前に、自ら脚本も手がけたブレット・ヘイリー監督にメールでインタビューを行い、作品に込めた思いを聞いた。演技力はもちろん、その歌声でも観る者を魅了する、父娘役のニック・オファーマンとカーシー・クレモンズの好演に注目。(→ in English)
――映画を観て、笑ったり泣いたりと様々な感情が湧き起こりました。この物語を伝えようと決めた理由を教えてください。
ブレット・ヘイリー(脚本家/監督)「この世界に良いものをもたらしたかったのです!僕が本作で音楽を通してやろうとしたことは、それだけです」
――主人公のフランクと娘のサムを演じたニック・オファーマンとカーシー・クレモンズが素晴らしかったです。良い役者であることはもちろん、ミュージシャンとしての才能も求められる役どころですが、脚本を書いていたときから彼らを想定していたのですか?
ブレット・ヘイリー「映画『ザ・ヒーロー』でニック・オファーマンと仕事をしたとき、本作のフランクが見つかったと確信しました。ですので、フランクはニックを念頭に書きました。カーシーのことは、長期のオーディションを経て見つけました。また、僕は監督として、役者たちには役を自分のものにするよう勧めているので、ニックとカーシーもそうしてくれました」
――映画の冒頭では父親のフランクが子どものように見えて、逆に娘のサムは大人っぽくて、まるでフランクの母親のようでした。ストーリーが進むにつれて少しずつ変化していく2人の関係を通して、監督が表現したかったことは?
ブレット・ヘイリー「僕たちは彼らの親子関係で少し遊んで、2人の立ち位置をある程度入れ替えてみました。本作はいろいろな意味で、娘が巣立って自立していくという事実を受け止めなければならない父親の物語です。ニックが演じるフランクは大人になる必要があり、子離れしなければならないのです。娘のサムも成長して、自立しなければならない。この映画は愛する人を自由にすること、そして大切にすることを描いているのです」
――ニックとカーシーは、まるで本当の父娘のようでした。現場での2人はどんな感じでしたか?
ブレット・ヘイリー「あなたがスクリーンで見たままでしたよ! 彼らはとても仲が良くて、父娘のような関係を築いていました」
――本作では、カーシーのセクシュアリティーの描写にも好感が持てました。特にそれを説明したり、話題にしたりすることがないのがよかったですし、フランクがサムに新しい“彼女”ができたのかを自然に聞くところもよかったです。なぜこのように描こうと思われたのですか?
ブレット・ヘイリー「セクシュアリティーや人種問題をテーマとしているわけではない映画の中で、それをターニングポイントに使うということは、僕にとってはどこか安っぽいことなのです。それに、まるで同性の相手を好きになることが間違っているというか、おかしなことだと言っているようなものですから。僕にとってはまったくおかしいことではないし、完全に正常なことです。だから本作では、映画が始まるよりも前に、フランクとサムがセクシュアリティーについて話し合ったのだと想像できるようにしました。サムは父親に、『私は女の子が好き』とか『女の子も男の子も好き』とか『どっちが好きなのかわからない』と話したのでしょう。僕にとって、それはターニングポイントではありません。僕らはターニングポイントにはしたくありませんでした。そうすることにより、(同性愛が)おかしなことや奇妙なことになってしまいかねないですが、そんなことはないのだから。愛は愛です。僕が白人男性として人生で与えられたすべての特権をもってして、自分とは違うことを表現し、この機会を賢く活用することが重要なのです」
――サム役のカーシーとガールフレンドのローズ役のサッシャ・レインには、どのような演出をしましたか?
ブレット・ヘイリー「彼女たちの方が、どのように演じるべきかを僕に教えてくれました。僕は2人の話を聞いて、彼女たちに主導してもらったのです」
――レスリー役のトニ・コレットやフランクの母親役のブライス・ダナー、デイヴ役のテッド・ダンソンといった豪華な俳優陣が脇を固めていて驚きました。キャスティングはどのように決めたのですか?名優たちとの仕事はいかがでしたか?
ブレット・ヘイリー「本作のキャストに関してはすごくラッキーでした。魔法のような形でまとまったのです。彼らがなぜこんなに小さな作品への出演を引き受けてくれたのか、知りたいくらいです!」
――ウィルコのジェフ・トゥイーディーもカメオ出演していましたね。
ブレット・ヘイリー「ラッキーなことにジェフはニックと仲が良くて、ニックが映画に出演してほしいと頼んだら引き受けてくれたのです。僕はジェフとウィルコの大ファンなので、ものすごく特別な出来事でした!」
――本作では音楽がもう一人の主人公のようでした。楽曲の中に重要なメッセージが見事に組み込まれていますね。音楽を担当したキーガン・デヴィッドは、どうやってこの完璧な音楽を作り上げたのでしょうか?
ブレット・ヘイリー「キーガンとはもう一度仕事をしてみたいと思っていたし、彼にはこれを実現できる優れた技術があることもわかっていました。楽曲の素晴らしさに関しては、すべてキーガンのおかげです」
――オリジナル楽曲のみならず、劇中で使用された楽曲がどれもとても良かったです。監督の趣味なのですか?
ブレット・ヘイリー「そうです。劇中の音楽はかなり僕の好みです!」
――日本の映画ファンや音楽ファンが本作を楽しみにしています。彼らには本作から何を感じ取ってほしいですか?
ブレット・ヘイリー「ぜひ温かい心で劇中の楽曲を口ずさみながら劇場を後にしてください!」
text Nao Machida
edit Ryoko Kuwahara
『ハーツ・ビート・ラウド たびだちのうた』
6月7日(金) ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテにて公開
http://hblmovie.jp/
監督/脚本:ブレット・ヘイリー オリジナルソング・音楽:キーガン・デウィット 出演:ニック・オファーマン/カーシー・クレモンズ/トニ・コレット/テッド・ダンソン/サッシャ・レイン/ブライスダナー
2018年/アメリカ/英語/97分/日本語字幕:神田直美 /原題:HEARTS BEAT LOUD
© 2018 Hearts Beat Loud LLC 提供:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント 配給:カルチャヴィル
STORY
元ミュージシャンのフランク(ニック・オファーマン)はブルックリンのレッドフックで17年営んでいたレコードショップをこの夏に閉めることにした。シングルファーザーとして娘サム(カーシー・クレモンズ)を育て、成長したサムはLAの医大へ通う事が決まっていた。 ある日ふたりでレコーディングした曲をSpotifyにアップロードしたところ瞬く間に拡散され話題となる。フランクにとっては急に未来の扉が開かれた気分になるが 、サムには向き合わなければならない人生の課題が山積みだ。夏は終わりに近づき、フランクもサムも決断を迫られる。二人が新たな人生に一歩踏み出すために。
(This interview is available in English)