『害虫』『どろろ』の塩田明彦監督によるオリジナル脚本をもとに、小松菜奈、門脇 麦をW主演に迎えて制作された映画『さよならくちびる』。すでに秦 基博が作詞・作曲とプロデュース、主演二人がボーカルとギターを担当した映画タイトルでもある主題歌が公開され、大きな話題となっている本作だが、これほどに演者の歌が機能した邦画は稀有ではないだろうか。門脇麦演じる天才的な音楽の才能を持つハルと、小松菜奈演じる圧倒的美しさで人の心を奪うレオによるユニット「ハルレオ」とその付き人シマ(成田凌)。3人の解散までのツアーを描く劇中には、“音楽”というエモーショナルな題材を扱う時につきものの、感情を露わにする人を目の当たりにしたどこか居心地が悪く、落ち着かない気持ちになる場面もある。しかし3人の傑出した演技と音楽が、感情の吐露を陳腐と感じさせないほどに観客を引き込んでいくのだ。数ヶ月のギターとボーカルの訓練をして役に臨んだという主演二人に、役柄との、そして受け取った楽曲たちへの向き合い方に関して語ってもらった。
――本作が始まってすぐに目にとまったのがお2人の歩き方で、それぞれの人間性に合っていて、物語が進むにつれてよりリンクしていくような感じがありました。そういうフィジカルな部分は、意図的に話し合いなどして2人の違いを表していたのか、それともそれぞれに自分で取り込んだものが自然と身体にも出てきたものか、まずはそこから聞かせてください。
小松「この3人はもう何年も一緒にいて、みんながどう座るかや位置関係などもその年月の中で培われたものがあるはずで、それをどう自然に見せるかは気にしました。歩き方や座り方一つもそうですし、指の先から足の先まで全部を演じることが大切だと誰かが言ってて」
門脇「誰?(笑) 偉い人とか?」
小松「そうそう(笑)。その言葉が頭にあって、レオは自分ではないけれど、演じていく中で性格だったりどこかしら自分と重なる部分が少しは絶対にあるから、そこから広げていって姿勢や動きともリンクさせてどれだけナチュラルに演じられるかを意識しました。以前は演じる役と自分とは別の人間だと思っていたけど、今はそうやって自分が役に合わせて広げていく感じです。今回でいうと、3人の個性がはっきりと違っていて、レオは自由奔放なイメージだから歩いていてもフラフラとあっちに行ったりこっちに行ったりしているんですよね。着ているものも重要で、パンツが多かったのでわりと男の子っぽい歩き方なのかなって考えたり。そうやって考える作業がすごく面白くて好きなんです。役作りという正解がないからこその楽しさというか。ちょっとの座り方でもキャラクターの性格が全然違って見えるし、観ている人たちがここが色っぽいなとかラフだなとか感じてもらえるように注意しつつ、自然に見えるように試行錯誤して。そもそもレオという人間自体にいろんな面があるのでその多面性も見ていただけたらと思います」
――門脇さんはいかがですか?
門脇「今回の衣装は伊賀(大介)さんだったんですけど、初めての衣装合わせの衣装の段階でほぼ出揃っていて。だいたい衣装合わせはすごく時間がかかって、ああでもないこうでもないと模索していく時間なんですけど、伊賀さんが用意してくださったものは全てしっくりくるものばかりでした。衣装は役作りにおいてとても大切だと私は感じていて、その衣装を着ている時に違和感のない歩き方や衣装にフィットする身体の感じをつかむことが役への良いとっかかりだったりすることが多くて」
――衣装に導かれて役ができた部分がある。
門脇「そうですね。今回に限らず、衣装は本当に大事だと思います」
――ハルレオという音楽ユニットを演じるために楽器を習得する期間を経ての撮影だったそうですが、その期間を経てご自身のキャラクターの心情がみえてきた瞬間はありましたか?
小松「楽器を使って役を演じるということが初めてだったので、できるかなという不安はもちろんありましたし、しかもオリジナルの3曲ということで、役者って大変だな!って改めて思いました(笑)」
門脇「そうだよね」
小松「ねえ。もうどうしようと考えている時間もなく、とにかくやらなきゃという感じで。でも2人だったり3人で合わせたりしていると、ちゃんと一緒にやっている感じが歌になり、曲になっていくというのを体験できて、その中で完成できたというか。技術面で完璧さを求める部分もあったけど、お客さんがいるライヴでは雰囲気も大切だし、ノリと勢いというのも大きかったなあと。それも全部が思い出になっています」
――楽曲を最初に聴かれた時の印象は?
門脇「塩田監督はどちらかというとコアな作品のイメージが私はあって、その監督の作品の主題歌が秦さんの楽曲、というのがまずとても新鮮に感じました。題材的にも切ない三角関係だったり、行き場のない3人の関係性だったりという、狭い世界の中の苦しい空気感が印象的な映画になると思っていたので、あの曲によってものすごく間口が広がったなと。秦さんの曲によって一気に優しい映画になりそうだな、と思ったことは覚えていますね」
小松「秦さんもあいみょんさんも脚本を読んでから書き始めてくださったので、リアルな二人の心情がちゃんと言葉一つ一つに込められていると思います。あと、お二人の違いもすごく好きです。秦さんは男性だけど声がすごく繊細で、あいみょんさんは伸びやかですごく力強くて、どちらも違う魅力がある。さらに劇中では歌う場面によっても気持ちも全然違っているので、3曲それぞれが違う色というのも自然でした」
――小松さんは元々あまりご自分の声が好きじゃないとおっしゃっていましたが、今回ご自分で歌われた曲を聴いてそこは変わりましたか?
小松「いやあ……やっぱり好きじゃないですね(苦笑)」
門脇「本当!? そうなの?」
小松「元々声だったり歌うことにコンプレックスがあって、一人で適当に歌うのはいいんですけど、人前で歌うというのにすごくプレッシャーがあって……。私はアーティストでもないし、歌手でもないので不安や怖さもあったんですけど、お話をいただいた時に麦ちゃんとのオリジナル作品ということで、楽しんでやりたいなという気持ちの方が強かったんです」
――門脇さんと、というのがすごく大きかったんですね。恋愛感情とも単なる友情とも異なった次元の関係性を持つ二人の複雑な間柄を演じるにも相性がとても重要だったと思います。
小松「はい。麦ちゃんじゃなかったら無理だったかも」
門脇「嬉しい」
小松「歌という点では、秦さんもあいみょんさんもすごく素敵なミュージシャンなので、デモテープをいただいた時にはそれでさらにプレッシャーを感じていた部分もあったんですけど、この二人にプレゼントしていただいた曲を大事に歌いたいですし、私たちの歌として生まれ変わったらいいなという気持ちで取り組みました。最初はちゃんと理解して歌うことに固執しすぎて変に緊張してしまう部分もあったけど、ある時から誰か一人に伝えている感覚で喋りかけるようにしたんですね。ライヴの時はみんなに歌いかけているけど、気持ちの中では隣にいるハルに言っていたり、ハルもレオに気持ちを伝えていたり。みんなじゃなくて一人の人に伝わればいいという気持ちで歌うと、言葉を置く感覚で歌えるようになったんです。デモテープでは流れている部分でもあえて短く切って歌ってみたり、そういうことをやって自分たちの歌にしていきました。劇中にもあるように、その私たちの歌がここからみんなの歌になっていってくれたらいいなって思います」
photography Shiori Ikeno
style Megumi Yoshida
hair&make-up Mai Ozawa(Nana Komatsu)/Naoki Ishikawa(Mugi Kadowaki)
text & edit Ryoko Kuwahara
『さよならくちびる』
公式サイト:https://gaga.ne.jp/kuchibiru/
5月31日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
© 2019「さよならくちびる」製作委員会
出演:小松菜奈 門脇麦 成田凌
監督・脚本・原案:塩田明彦
うたby ハルレオ 主題歌 Produced by秦 基博 / 挿入歌 作詞作曲 あいみょん
配給:ギャガ
その美しさでひとを夢中にさせるレオと、その才能でひとの心を奪うハル。孤独だった2人は、二人三脚で音楽と懸命に向き合い、デュオ〈ハルレオ〉としてインディーズ・シーンで注目を集める。そんな2人の前に、付き人として音楽の膨大な知識と抜群のセンスを誇るシマが現れる。ハルレオは乗りは軽いが気配りは細やかなシマに心を開くが、予定外の恋心が芽生え、3人の関係はこじれていく。それでも愛する音楽が彼らを結びつけていたかにみえたのだが……売り言葉に買い言葉で決めたハルレオの解散、彼らを乗せた車はいま最後の別れに向けて、浜松、大阪、新潟、北海道を旅していく。ところが旅の途中でハルレオとシマの思いはますます高まり……最後の歌を歌い終えたとき、彼らがみつけた予想外の未来とは?
Nana Komatsu
tee shirts¥21,000 /kotohayokozawa
one piece¥40,000 /YOHEI OHNO
Mugi Kadowaki
one piece¥78,000 /REKISAMI
earring¥10,000 /petite robe noire
*all listed prices are tax excluding
Kotohayokozawa
Kotohayokozawa.com
YOHEI OHNO
http://yoheiohno.com/
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www.rekisami.com
petite robe noire
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