NeoL

開く
text by Nao Machida
photo by Ryosuke Yuasa

Be Free Issue: 『スケート・キッチン』 来日インタビュー”それがどこであれ、自分たちの居場所(=スケートパーク)をキッチンにしてしまおう。キッチンにいるんだから好きにやらせてもらうよ、ってこと”/Interview with Kabrina Adams, Ajani Russell, Brenn Lorenzo and Jules Lorenzo about “Skate Kitchen”




ニューヨークで活動するガールズスケートクルー、スケート・キッチンをフィーチャーした映画『スケート・キッチン』が日本公開された。映画誕生のきっかけは、クリスタル・モーゼル監督が街で見かけたメンバーたちに声をかけ、Miu Miu制作のショートフィルム『That One Day』(2016)を手がけたこと。それを元にした本作は、メンバーのラシェル・ヴィンバーグ演じるシャイな主人公カミーユがスケート・キッチンと出会い、友情や恋愛、セクシュアリティ、親との関係など、10代ならではの悩みを抱えつつ日々を謳歌する姿を、まるでドキュメンタリーのように描いている。日本公開に合わせて来日したスケート・キッチンのメンバー、カブリーナ・アダムス、アジャニ・ラッセル、双子のブレン・ロレンゾとジュールス・ロレンゾに話を聞いた。(→ In English



――映画『スケート・キッチン』の公開おめでとうございます。たくさんの日本のキッズが本作を楽しみにしています。


全員「ありがとう!」


――スケート・キッチンというガールズスケートクルーは、どのようにして始まったのですか?


カブリーナ・“ムーンベア”・アダムス「私たちが一緒にスケートするようになったきっかけは、Miu Miuのためのショートフィルム(本作のクリスタル・モーゼル監督が手がけた2016年制作の「That One Day」)だった。それまでは、お互いのことを別々に知っていたんだ。2人(ブレンとジュールス・ロレンゾ姉妹)のことはチェルシーで見かけていたよ」


ジュールス・ロレンゾ「ニーナ(・モラン/カート役)を通して知り合ったんだよね」


カブリーナ「うん、みんなニーナと知り合いだった」


アジャニ・ラッセル「私は(ニーナと)同じ学校だった」


カブリーナ「アジャニのことは撮影を始めるまで知らなかったな」


アジャニ「私はカブリーナのことを知っていたけど、友だちではなかったよね」


カブリーナ「うん、遊んだりしたことはなかったね。他のみんなにはチェルシーでニーナを通して知り合った」



Brenn


――自分たちのことをスケート・キッチンと名乗り始めたのはいつ頃?


カブリーナ「確か(ショートフィルムの)撮影を始めた週末だったと思う。インスタのアカウントもそのときに作ったんだ」


――スケート・キッチンという名前の由来は?


アジャニ「それがどこであれ、自分たちの居場所(=スケートパーク)をキッチンにしてしまおうということ。それはつまり、女性はキッチンに居るべきだという固定観念に物申しているわけ。ラシェル(・ヴィンバーグ/主人公カミーユ役)がYouTubeにアップされた女性スケーターの動画に、『キッチンに戻って俺のサンドウィッチでも作っとけ』というような、すごく失礼なコメントが書き込まれているのを見たらしくて。だから、そのようなステレオタイプをあえて読み変えたのがスケート・キッチンなんだ。私たちはキッチンにいるんだから好きにやらせてもらうよ、ってこと」


――最初にスケートに興味を持ったきっかけは?


カブリーナ「トニー・ホーク! 実は彼とスケートしたことがあるんだ。かなりクレイジーだった!」


ジュールス「彼はすごくクールだったよ!ニュージャージーに14フィートくらいの深さがある彼の巨大なランプがあるから、スケートしに行ったんだ。滑ろうとしたんだけど、トライするたびに落ちてしまって。そこへトニーがやって来て、『もう少し強く壁に押し上げてごらん、その方が楽に降りられるから』って。そしたらできたの!ああああ!って感じだった(笑)」

――ジュールスとブレンとアジャニがスケートをやることになったきっかけは?


ジュールス「子どもの頃、学校から帰ってきたら隣の家の人がスケートしているのを見たこと。パパが昔スケートしていたこともあって、ママが私たち姉妹にボードを買ってくれた。両親がいつもスケートパークに連れて行ってくれたから、そのまま続けたっていう感じ。ニューヨークに引っ越したときも同じで、スケートパークを見つけたから行ってみたんだ」


アジャニ「私は17歳の頃に始めたんだ。テレビで『ロケット・パワー』っていうアニメを観ていたんだけど、レジーっていう女の子が出てきて。それを観てずっとスケートしてみたかったんだけど、怖かったんだよね。でもニーナが最初のボードを組み立ててくれて、『もうスケートできないなんて言わせないよ』って。それ以来、ずっとスケートしてる」



Kabrina


――本作を手がけたクリスタル・モーゼル監督は、電車であなたたちのことを見かけて声をかけてきたそうですね?


ジュールス「うん、クリスタルはニーナとラシェルに偶然会ったんだよ。ディディ(・ラヴレース/ジャネイ役)から、『私たちと会いたがっている監督がいるんだって。ショートフィルムを作るから、あんたたちや他の子たちとも話したいらしい』と言われたのを覚えている。それで、クリスタルと公園で会って、スケートとかいろんなことについて話した。私たちも彼女について知ることができたし、彼女も私たちを理解してくれて。それからショートフィルムを撮影することになった」


――監督はスケーターではなかったんですよね?あなたたちを理解するために、撮影前にある程度の時間を一緒に過ごしたのですか?


カブリーナ「うん、クリスタルは私たちとかなりの時間を過ごしていたよ」


アジャニ「私たちがクリスタルと過ごしたんだよ(笑)。彼女の家に入り浸っていたよね」


カブリーナ「映画『スケート・キッチン』について話し始めるまでに、一年くらいは一緒に過ごしたかな」


――本作にはちゃんと物語があって、でもそこには信ぴょう性があるので、まるでドキュメンタリーのようにも感じました。脚本を書く段階から参加したのですか?


ブレン・ロレンゾ「脚本を書く段階でクリスタルが私たちを集めて、スケートだけに限らず全般的な人生経験について、みんなでいろいろと話した。そういった話を彼女が脚本に落とし込んでいったんだ。だからこそ、この映画はリアルに感じられるんだと思う。脚本があるとはいえ、私たちが経験したことや実際に言いそうなことがたくさん書かれていたから、ものすごく自然に演じられるシーンもあったし。それに私たちは本当の友だちだから、一緒に演じやすかったし、お互いの間にたくさんの化学反応が起きたんだろうね。だからこそ、こんなにリアルに感じられるんじゃないかな」


――劇中のみんなの衣装もとてもよかったです。それぞれ個性的ですよね。


カブリーナ「衣装は自前なんだ」


アジャニ「今日のパンツは劇中でも履いてるよ(笑)」


――デヴォン役のジェイデン・スミスとの共演はいかがでしたか? 彼がスケートするとは知りませんでした。


カブリーナ「ジェイデンはスケートできるよ。現場でも…役者の代わりに演じる人のこと何ていうんだっけ?」


ジュールス「スタントダブル?」


カブリーナ「そうそう、彼にはスタントダブルは必要なかった」


ジュールス「彼はすごくクールだった。一緒にいて楽しかったし、私たちとスケートもしたんだ。共演できてよかった」



Jules


――友だちと一緒に撮影に参加して、映画に出演するという体験はいかがでしたか?


ジュールス「ものすごく楽しかった。特に私の場合は、以前よりもたくさんスケートすることになったから。前はけっこうやっていたんだけど、ちょっと休んでいて、でもこの映画をきっかけにスケートが大好きな理由を再認識させられた。だから、まずは以前よりもスケートをたくさんするようになったこと。2つ目は、映画を通してたくさんの友だちができたこと。それに、この映画は私たちにたくさんの扉を開いてくれた。旅をしたり、仕事の機会だったり、新しい出会いだったり、いろんなことを与えてくれたんだ」


――この映画の前と後で変わったことはありますか?


ブレン「変わったことは、女性のスケーターを多く見かけるようになったこと。以前よりもすごく増えたと思う。私がスケートを始めた頃は、女の子は全然見かけなかったけど、今では世界中にたくさんいるよね。ニューヨークやアメリカ国内だけでなく世界中にいるから、ものすごくいいなと思う」


――日本の女の子たち、特にスケーターの女の子たちにとっても、本作とあなたたちは大きなインスピレーションになると思います。


カブリーナ「(日本人のスケーターを)何人か知ってるよ!」


ジュールス「初来日したとき、スケーターの女の子のグループに会ったんだ。めちゃくちゃうまかった!」


――スケートパークでは男性スケーターにひるんでしまう女性もいると思うので、そういう話を聞くとうれしいですね。


ジュールス「特に男性優位の場所だと、男たちは威圧的な存在になりかねないよね。スケートパークに行ったら女の子は自分と友だちだけで、そこに2、30人の男がいたりすると、『女は私だけだ!』って思ってしまう。特に始めたばかりの頃は、自分のスケートのスタイルについて人目を気にしてしまったり、『このトリックができないから私はあまりうまくないんだ』と思い込んでしまったりする。でもずっと続けていけば、最終的には自分のレベルなんて気にせず、とにかく楽しむことが大切だと学べるはず」


――なるほど。


ジュールス「本作のようなプラットフォームを持てたことはすごくよかったと思う。それによって女の子たちに、支え合う女性たちの姿を見せられるから。私たちは誰もプロになろうとしているわけではないし、プロスケーターは一人もいない。それぞれ違うみんなが一緒にスケートして楽しむだけ。それが一番大切なこと。ただ楽しみたいだけなんだ。女の子たちには、たとえ場違いな気がしても、その場に行ってとにかく楽しもうという気になってほしい。他の人がどう思うかなんて気にしないでほしいな」


Ajani


――ライバル対決などを描くスケート映画も少なくないですが、本作は違っていてすごくよかったです。


ジュールス「その通り! 面白いことに、カットされたシーンの中には競争するシーンがあったんだ。でも、この映画にはしっくりこなくてカットされた。それが逆によかったんだと思う。スケートの映画ってほとんどが競争を描いているよね。でも、私の友だちで競争する人はあまりいないから、この映画はより現実的だと思う。本当に競技とかをやっている知り合いはごく少数なんだ。他のみんなは楽しむためにスケートをしている。それはこの映画にも映し出されていて、みんなが一緒にスケートして、ただティーンエイジャーとして好きなことをやっている姿が見られるよ(笑)」


――競技といえば、スケートボードは2020年の東京オリンピックのオフィシャル競技です。


ジュールス「イエス!」


カブリーナ「私はまた来日するつもり」


――オリンピックとスケートボードについては様々な意見がありますが、あなたたちはどう思いますか?


ジュールス「スケートボードがオリンピックに採用されるのは、とても興味深いことだよね。良い点と悪い点があると思う。良い点としては、スケートボーダーがより大きな舞台に立てるから、これまで以上に高い注目を集められること。今は誰もが注目するスポーツというわけではないから」


ブレン「スケートボードについては、けっこうネガティブな見方をされることが多くて。だからオリンピックによって、もっとポジティブな視線が集まるんじゃないかな」


ジュールス「とはいえ、スケーティングをジャッジすることについては、いつも変な感じがする。ストリート・リーグ(プロスケーターを対象にした国際大会)でも、ある人がすごくスタイリッシュなキックフリップをする一方で、難易度は高いけど、まあまあなトレフリップをする人がいたりする。それをジャッジするとなると、私に言わせれば、どうやってベストを決めるわけ?となる。それは考えるべき興味深い点だと思う。でも盛り上がると思うし、誰が代表チーム入りするか楽しみだな」





――本作にはスケートシーンが描かれているだけでなく、フェミニズムやセクシュアリティ、友情、親子関係など、多彩な要素が含まれています。あなたたち自身がこの映画を通して特に伝えたかったことはありますか?


ジュールス「私は白人以外の女性を、脇役ではなくメインの登場人物としてスクリーンに登場させたかった。私が子どもの頃もそうだったし、一般的にスケートシーンでは、黒人やヒスパニックの女の子はあまり見かけないから」


アジャニ「私はまったく見かけなかった」


ジュールス「うん、たいていは白人の女の子だけだよね」


アジャニ「2014年くらいまでそうだった!」


ジュールス「確かに!」


アジャニ「ジェン・ソトやサマリア・ブレヴァードが脚光を浴びるまではね」


ジュールス「そうだね。『私みたいな女の子でスケートしている子はいないんだな』って、ずっと思っていた。この映画は白人ではない女性たちがスケートする姿を見せるだけではなく、彼女たちがスクリーンに登場することで、白人ではなくても映画は作れるということを証明できたんじゃないかな(笑)」


――スケートのどういうところが一番好き?


ジュールス「多くの場面で、自分自身を信じさせてくれたところ。いろんなトリックに挑戦していると、最初はできないって思う。でも、そんな姿勢だと何もできないんじゃないかって思うんだ。スケートに対する考え方は、人生における何事にも適用できる。何かを成し遂げようと信じてトライし続けていると、最終的にできるようになるから。自分のやりたいすべてのことに適用できるんだよ」


ブレン「私にとってスケートは、他のすべてのことからの良い息抜きになっている。とにかく楽しんで、自分に幸せを与えてくれる人たちと一緒にスケートすれば、外のストレスから解放されるんだ」


アジャニ「私は肉体的にも精神的にも、自分自身の意欲をかき立ててくれるところがすごく好き。スケートをしていると、いかなる自己不信や恐怖も静めざるを得ないんだ。それに一度トリックが決まると、中毒性があるんだよね」


カブリーナ「私はスケートが日々の生活に溶け込んでいるところが好き。自分がスケートボーダーでいるために、毎日スケートパークに行く必要なんてない。ただボードを持ち歩いて、ストリートでスケートできれば、それでいいんだ」


――日本の観客には本作からどんなことを感じ取ってほしいですか?


カブリーナ「それが何であれ、本作が彼らの人生にポジティブなものを与えられたら、それだけでOKだよ」


ジュールス「うん、特に決まったことではなくていい。何でもいいから、何かポジティブなものを感じてほしい」


アジャニ「私の人生における信条は、自分自身を恐怖に支配させないこと。この映画を作るにあたって、クリスタルには(観客を)大いに力づけられるような作品にしたいと話した。だから、そういったエッセンスが日本の観客にも伝わるといいな」





photography Ryosuke Yuasa
text Nao Machida
edit Ryoko Kuwahara




『スケート・キッチン』
skatekitchen.jp
5月10日(金)より 渋谷シネクイントほか公開中
2018/アメリカ/106分/ R15+/原題:Skate Kitchen
監督:クリスタル・モーゼル
出演:スケート・キッチン(カブリーナ・アダムズ/ニーナ・モラン/ジュールス・ロレンゾ/アーディーリア・ラブレス/レイチェル・ヴィンベルク/アジャニ・ラッセル/ブレン・ロレンゾ)、ジェイデン・スミス、エリザベス・ロドリゲス
配給:パルコ 宣伝:ビーズインターナショナル/リージェンツ
(C) 2017 Skate Girl Film LLC.



This interview is available in English

1 2

RELATED

LATEST

Load more

TOPICS