けっして褒められた出来の映画ではないとわかりながら、ただそのシーンを繰り返し観たくて、あるいは、その俳優が出ているからという理由だけで、数十回観ても飽きない映画がないだろうか。
『シネマの神は細部に宿る』は、自身も映画監督である押井守さんにとってのそんな映画の数々を、毒舌と、愛をこめて語る、フェティッシュ満載の映画本だ。取り上げられているジャンルからして、バセットハウンド(犬)、モンスター、暗器(隠し武器)、スナイパーライフル、ヘリコプター、制服――。そんな主題の映画、あったっけ?と首を傾げたくなるものばかり。
ところがページをめくると、出てくるのは歴史的傑作や、メディアを騒がせた話題作だったりするのだ。同じ映画を観ているはずなのに、こんなにも視点が違うというのが面白く、映画の楽しみ方は自由でいいんだな、と思わせてくれる。
そして、ネタバレ厳禁とは対極にある本書は、読んだ後に、本当にそんなシーンがあったのか映画を観て確かめたくなるし、自分のフェティシズムを刺激するあの映画をもう一度観たくなる。
『シネマの神は細部に宿る』
押井守
東京ニュース通信社
1888円
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