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text by Ryoko Kuwahara

サラ・モンプチ『ヒューマニスト・ヴァンパイア・シーキング・コンセンティング・スーサイダル・パーソン』インタビュー


© Eva-Maude TC


感受性が強すぎて、人を殺すことができないヴァンパイアであるサシャ。ヴィーガンのヴァンパイアとして生きる彼女はある日、いじめによって自殺願望を抱くポールと出会う。生き辛さを抱えている2人が出会い、対話を重ねることで、新たな選択肢が生まれるーー。
気鋭アリアーヌ・ルイ・セーズ監督による初の長編映画『ヒューマニスト・ヴァンパイア・シーキング・コンセンティング・スーサイダル・パーソン』は、ファンタジーと絡めながらも現代社会に生きる人間の悩みや選択について深い洞察を促す一作。物憂げで美しい映像や衣装、エモーショナルな音楽を背景に、『ファルコン・レイク』で注目を集めたサラ・モンプチの視線ひとつで物語る卓越した演技に魅せられる。環境活動家として行動していたバックグラウンドを持つなど、思考する俳優であるサラ・モンプチに本作について語ってもらった。



ーーアリアン監督とはとても多くの対話をし、特別な絆ができたそうですね。どのようなお話が印象に残っていますか。


サラ・モンプチ「撮影中のときのエピソードといえば、最初の2週間の夜間撮影がまず思い浮かびます。その2週間、撮影チームはみんな自分が吸血鬼になったように感じていました。なぜなら私たちはみんな太陽が出ている時間に寝ていたので、1日中太陽を恐れていたんです。現実から切り離され、本物の吸血鬼になったように感じることができたとてもおもしろい体験だったので、とても気に入っています」


ーー―監督はあなたに神秘的であると同時にユーモアの才能を感じたとのことですが、言葉が多くないぶん、サシャの表情や身体的表現は非常に雄弁で、まさに監督のおっしゃる通りだと感じました。サシャという人物を演じるにおいて、表現で大切にしたことを教えていただけますか。


サラ・モンプチ「彼女がとても優しく、穏やかであると同時に、危うく不安定であるところが好きでした。そんな二面性のあるキャラクターを演じることができて嬉しかったです。ヴァンパイアという型破りなキャラクターを演じることは、とても魅力的な遊び場をもらったようなもの。人間的な限界がないので、無限に探求できる領域でした。吸血鬼は私とは異なる方法で生きていて、動き、感情を感じますから。演技面で最も大変だったことは、サシャのキャラクターにふさわしいトーンを見つけることでした。個性的な色合いを持つ映画なので、『トワイライト』のパロディーのようにはしたくありませんでした」











ーーハードな思春期に生死に関わる選択を迫られるサシャですが、彼女は悩んでも自分の意に沿わない選択をしないし、思考停止しないところがとても素敵でした。あなた自身は選択をするときに、どのような判断基準や理念を持って行いますか。2作続けて女性監督の作品に出演されているのもあなたの選択なのかなと思ったのですがいかがでしょう。


サラ・モンプチ「サシャは周囲の世界を航海しながらも、自分の根底にある価値観を守りたいと願う人です。ここが私とサシャの似ているところだと思います。非人間的であることをますます強要されるこの社会と共存しながら、私はできるだけ自分の価値観に忠実であろうと努めています。私たちの社会では、ヴァンパイアのほうが私たちよりも繊細で、温かく、生きているようにさえ見えますね。自分の信念に忠実であり続けようと努めることで、自分が心を通わせ、愛することができる、自分と似た部分を持つ人々を見つけられます。そして、幸せになることができると思います。
女性監督の映画に出演したのは、意図して選択したことではありません。私は脚本を読んで判断をしています。これまでオーディションのため、お声がけいただいた脚本は、私にとって非常に魅力的なものでした。出演させていただいた作品が女性の監督によるものだったということは、あくまでも付随的なものです」


ーー『マルホランド・ドライブ』が映画界に入るきっかけになったとのことですが、最近あなたに影響を与えた映画や本、音楽などがあれば教えてください。


サラ・モンプチ「『マルホランド・ドライブ』のほかにも、私がこの業界に入るきっかけとなったものはたくさんあります。『マルホランド・ドライブ』は確かに印象に残っている作品ですが、幼い頃から私に大きな影響与えてくれた映画は数多くあります。観た映画、読んだ本、聴いている音楽はとてもたくさんあるのですが……他の作品に失礼にならないよう、特別に一つを挙げることはしないでおこうと思っています。ただ、一つ言えることは、日々の日常が、常に私に影響を与えているということです。その日常のリズムが私に影響を与え、感情を揺さぶり、疑問を抱かせてくれるのです。そうすることで、人としての自分の内面が豊かになり、それが俳優としての仕事に反映されていると感じます。


でも、1つだけ挙げるとするなら、今観たばかり映画、ショーン・ベイカーの『チワワは見ていた ポルノ女優と未亡人の秘密』について話したいと思います。若い女性と老婦人の友情を描いています。2000年代の現代版『ハロルドとモード/少年は虹を渡る』といった感じで、胸に深く響く映画です。この映画が私にどのような影響を与えたかわかりませんが、私の心に響いたことは確かです。私の心に響いているのなら、間違いなく私に影響を与えたのだと思います!」









text Ryoko Kuwahara(https://www.instagram.com/rk_interact/



『ヒューマニスト・ヴァンパイア・シーキング・コンセンティング・スーサイダル・パーソン』
2024年7月12日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷他にて全国順次公開
https://x.gd/Xwr8x


サシャは、ピアノを弾くことが好きなヴァンパイア。
彼女は吸血鬼一族のなかでただ一人、ある致命的な問題を抱えていた。
―感受性が豊か過ぎて、人を殺すことができないのだ。

自ら人を手にかけることはせず、生きるために必要な血の確保を親に頼り続けようとするサシャ。両親は彼女の様子を見て、いとこの“血気盛ん”なドゥニーズと共同生活を送らせることを決める。血液の供給が断たれたサシャは、自分で獲物を狩るようドゥニーズに促されるが、どうしても殺すことができない。心が限界を迎えたとき、自殺願望を持つ孤独な青年ポールと出会う。どこにも居場所がないと感じている彼は、サシャへ自分の命を捧げようと申し出るが——。


監督:アリアーヌ・ルイ・セーズ
脚本:アリアーヌ・ルイ・セーズ、クリスティーヌ・ドヨン
出演:サラ・モンプチ、フェリックス・アントワーヌ・ベナール、スティーブ・ラプランテ
2023年/カナダ/カラー/シネスコ/5.1ch/91 分/フランス語/原題:VAMPIRE HUMANISTE CHERCHE SUICIDAIRE CONSENTANT/ 日本語字幕:大塚美左恵/配給:ライツキューブ
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