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text by Ryoko Kuwahara

アリアーヌ・ルイ・セーズ監督『ヒューマニスト・ヴァンパイア・シーキング・コンセンティング・スーサイダル・パーソン』インタビュー




人を殺せない吸血鬼が出会ったのは、生きることを諦めようとする人間の青年だったーー。
第80回ヴェネツィア国際映画祭ヴェニス・デイズ(Giornate Degli Autori)部門で最優秀監督賞を受賞、第48回トロント国際映画祭のオフィシャルセレクションに選出されるなど、世界の映画祭で注目を浴びた話題作が7月12日に日本公開。
感受性豊かなヴァンパイア、サシャを演じたのは『ファルコン・レイク』にて一躍注目を集めた、新星サラ・モンプチ。メガホンを取ったのは、短編『Little Waves(英題)』がトロント国際映画祭やベルリン国際映画祭でノミネートを受けた、アリアーヌ・ルイ・セーズ監督。短編作品でその才能を証明してきた新進気鋭の監督に、初の長編作品について聞いた。


ーー監督の短編映画にもヴァンパイアの影響があるそうですが、ヴァンパイアのなにがそれほど惹きつけるのでしょう?


アリアーヌ監督「私の短編映画に吸血鬼は登場していないですが、最初の短編映画で主役を演じてくれた女優に『ザ・ヴァンパイア 残酷な牙を持つ少女』を観てもらったことはあります。ヴァンパイアのような謎めいた雰囲気を醸し出してほしいと思ったからです。彼女が演じたのは孤独でミステリアスな女性で、自分のアパートで蛇の赤ちゃんを発見し、それによって彼女の隠れた野性的な面が露わになるという役どころでした。日常と非現実的な要素や、引力と反発力というテーマで遊ぶのは楽しかったです。吸血鬼は、これらの要素を探求し、私たちが生きる社会について議論することができる、素晴らしい遊び場を与えてくれました」


ーーそのように大切なテーマをファンタジーとユーモアで包んで描かれているのも本作の魅力です。ジャンルムービーは想像力を駆使する映画においても作り手たちが特に熱中するジャンルのように思います。あなたから見て、その魅力は?


アリアーヌ監督「ファンタジーとユーモアの要素があることで、説教じみていたり、道徳的になりすぎたりすることなく真面目なテーマを扱うことができる、ほどよい距離感を与えてくれたと思います。例えば、本作では、吸血鬼というキャラクターを用いて、私たち誰もが経験する倫理的なジレンマや内面的な葛藤について探求しました。このファンタジックな設定によって、遊び心くすぐられる、想像力が掻き立てられる形で観客はキャラクターやテーマとつながることができるようになっていると思います」











ーーなるほど。本作における「同意」について聞かせてください。本作では自殺防止団体に脚本を読み込んでもらい指摘を受けるなどの措置を取って臨んだそうですが、「同意」に重きをおいた意味、そして監督が思う「同意」に必要不可欠なことは?


アリアーヌ監督「素晴らしい質問ですね! 同意は、ここ数年の間に再定義されてきたものだと思います。同意とは、単に『同意します』と言うことだけではありません。同意を与える人が、同意しないことも自由に選択できる立場にある、ということを確認することが極めて重要です。例えば、権威ある立場にある場合、権力の力が働くので、本当に同意を得られているかを判断するのは難しいことだと思います。そして、同意を与えたからといって、後で撤回できないわけではありません。何かをそれ以上したくないと感じたことに、理由を提示する必要はないのです。
この原則をサシャの倫理観にも適用しています。だからこそ彼女は、ポールに最期の願いを持たせることで、彼の決断が確かなものなのか、はっきりさせたかったのです。その過程で、最終的にポールの気が変わる可能性もありますが、サシャにとっては彼の覚悟を確かめることが重要だったのです。サシャは、彼女自身の命が他人の命よりも価値があるとは考えていないのです」


ーー「選択」についての提案も素晴らしかったです。サシャとポールは様々な規範がある中で異分子として存在する中、2人の出会いと丁寧な対話によって、規範に囚われない新たな「選択肢」ができる。このような提案を示し、描きたかったことは?


アリアーヌ監督「私は、倫理的なジレンマと闘いながら、すべての人が抱える葛藤について探求させてくれる吸血鬼の姿を思い描いていました。自分のなかにある負の側面と戦うのは簡単ですが、最終的にはどんな自分とも共存することを学ばなければならないと思います。例えば、サシャは常にヴァンパイアとしての本能と戦ってきましたが、自分の性質を変えることはできません。吸血鬼であることを否定することなく、人間らしい価値観をいかに大切にすることができるのかという問題を抱えています。ポールとサシャのキャラクターを通して、虚無感や違和感のなかにあっても、常につながりや目的を見出すことはできると伝えることを目指していました。共感、理解、そして本当の自分を受け入れる勇気の重要性を明確に示したかったのです。自分の弱さを受け入れることで、私たちは社会の規範に縛られることなく、自分自身に忠実な選択をすることができるのです」











text Ryoko Kuwahara(https://www.instagram.com/rk_interact/



『ヒューマニスト・ヴァンパイア・シーキング・コンセンティング・スーサイダル・パーソン』
2024年7月12日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷他にて全国順次公開
https://x.gd/Xwr8x


サシャは、ピアノを弾くことが好きなヴァンパイア。
彼女は吸血鬼一族のなかでただ一人、ある致命的な問題を抱えていた。
―感受性が豊か過ぎて、人を殺すことができないのだ。

自ら人を手にかけることはせず、生きるために必要な血の確保を親に頼り続けようとするサシャ。両親は彼女の様子を見て、いとこの“血気盛ん”なドゥニーズと共同生活を送らせることを決める。血液の供給が断たれたサシャは、自分で獲物を狩るようドゥニーズに促されるが、どうしても殺すことができない。心が限界を迎えたとき、自殺願望を持つ孤独な青年ポールと出会う。どこにも居場所がないと感じている彼は、サシャへ自分の命を捧げようと申し出るが——。


監督:アリアーヌ・ルイ・セーズ
脚本:アリアーヌ・ルイ・セーズ、クリスティーヌ・ドヨン
出演:サラ・モンプチ、フェリックス・アントワーヌ・ベナール、スティーブ・ラプランテ
2023年/カナダ/カラー/シネスコ/5.1ch/91 分/フランス語/原題:VAMPIRE HUMANISTE CHERCHE SUICIDAIRE CONSENTANT/ 日本語字幕:大塚美左恵/配給:ライツキューブ
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