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text by Noemi Minami

環境アクティビストの若者8人を描いたエコスリラー『HOW TO BLOW UP』監督インタビュー




『How to Blow Up a Pipeline 』(パイプラインを爆破するには)という原題を目にしたとき、環境問題に関する政治的ドキュメンタリー映画を想像した。しかし、6月14日に日本公開を控える、テキサス州の石油精製工場を即席の爆弾で破壊しようとする8人の若者たちを描いたこの『HOW TO BLOW UP』は、“商業的な映画”だとダニエル・ゴールドハーバー監督は語る。

2017年設立以降、『パラサイト 半地下の家族』『燃ゆる女の肖像』『落下の解剖学』など、奇抜で野心的な映画を次々と配給する新進気鋭の映画スタジオ「NEON」が北米で配給。ダニエル・シャイナート(『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』)やエドガー・ライト(『ラストナイト・イン・ソーホー』)などの新しい才能が年間ベストに挙げながらも、FBIが環境テロ行為を助⻑すると警告を出すなど、米国で賛否両論を巻き起こした本作。

政治的にラディカルな題材を意図的に、強盗映画/ウェスティン映画というエンタメのフォーマットに落とし込むことで監督は何をオーディエンスに伝えたかったのか。ゴールドハーバー監督に話を伺った。


【STORY】
アメリカはテキサスを舞台に、環境破壊に人生を狂わされたZ世代の環境活動家たちが、石油パイプラインを破壊する大胆な作戦を実行する。やがて過激な決意が、友人、恋人、苦難に満ちた物語を持つ仲間たちを巻き込みながら暴力の象徴的(=パイプライン)を爆破するという大胆なミッションへと結びついてゆく。若い世代のエネルギーは、予期せぬ混乱を招きながら、爆発的フィナーレへと疾走する。


ーーこの映画は企画から完成までたったの19ヶ月で行われたそうですね。どのようにして始まったプロジェクトなのか教えてください。


ゴールドハーバー監督「共同製作者のジョーダン・ソジョルが、一緒に別のプロジェクトを進めているときに『パイプライン爆破法:燃える地球でいかに闘うか』という本を見つけて、薦めてきたんだ。それを読んで、これを商業的な映画に生まれ変わらせるというアイデアが浮かんだ。当時はパンデミックによるロックダウンの終盤で、家の中に一年以上こもっていたなかでうんざりしていたし、アメリカは特に政治的に不安定な時期だった。だからそういった情勢や心情を反映する作品を作りたかった。このプロジェクトはそれらを体現していると思ったし、比較的お金がかからず作れるし、エンタメ映画としてもポテンシャルがあると思ったんだ」


ーー監督のご両親が気候の研究をされていて、環境問題についての議論は小さい頃から身近にあったそうですね。この映画をつくる前から環境問題は監督のなかで大きなテーマだったのでしょうか?


ゴールドハーバー監督「そうだね。僕の両親はソフトウェアエンジニアとして気候科学の分野で働いていた。だから環境問題については小さい頃から身近に感じていた。でも正直、環境問題について考えることは全ての人がするべきことだと思うよ。環境問題は趣味ではなくて、人類の未来に関わることだから。僕は小さい頃から情報にふれられたのは幸運だったと思うけど、社会全体として環境破壊にもっと関心を持つべきだと思う。環境破壊は、僕らの人生、あるいは社会の破壊を意味するんだから」





ーーアカデミックなノンフィクション本をもとにしていますが、エンタメ作品であり、強盗映画やウェスタンの手法を取り入れているのが興味深いと思いました。どうしてそうしたのでしょうか?


ゴールドハーバー監督「それは、より多くの人の興味をひくものを作りたかったから。環境に関する問題はみんなに関わることなのに、環境に関する映画はニッチなものになりやすい。環境についてのメッセージをみんなに届けるためには文化的言語が必要で、ジャンル映画は強力なツールだと思ったんだ。この映画を商業的にするということ自体が、一種の政治的なアイデアでもあった」


ーー昨年公開した米国では賛否両論だったそうですが、具体的にどのような反響がありましたか?


ゴールドハーバー監督「嬉しかったのはアクティビストのコミュニティからポジティブな反響があったこと。この映画はアクティビストが長年やってきたことをメインストリームの方法で伝えているだけ。だから実際この映画に関しては、かれらの反応が僕にとって一番大切だった。それ以外は予想していた通りかな。右翼から多くの批判を受けたし、安全保障に関する組織からは「危険だ」という意見もあった。でもこういった物語は世の中に少ないから大切だと思ったんだ。もし実際にパイプラインが破壊されたとして、そのことについて発信するのは被害を受けた企業かメインストリームの報道機関だと思う。反対側の意見を発信しているメディアなんてなくて、それは問題。カウンターナラティブとして、カウンター的視点として、この映画が存在してくれたら嬉しい。この映画を通して抵抗運動の物語が語り続けられるといいな」





ーーこの映画を作るにあたってどんな下調べをしたのですか?


ゴールドハーバー監督「たくさんの人に取材したよ。程度は違うけど映画の登場人物と同じような活動をしているアクティビストから環境ジャーナリスト、安全保障部門で働いている人まで幅広くリサーチした。真実に忠実でいたかったら」


ーーそれにつながると思うのですが、日常的に手に入るもので爆弾を作るシーンは、爆弾のエキスパートに監修してもらい正確に描き、爆破のシーンも本物だったそうですね。そこまで現実的にすることがどうして重要だったのですか?


ゴールドハーバー監督「物語としてもビジュアルとしてもその方がいいストーリーテリングになると思った。政治的な視点でいうと、アイデアを抽象的なままにせず、具体性を持たせ身近に感じさせることが大切だった。メディアでこういった物語が語られるときはいつも一方的で、アクティビストは人として扱われず、自動的に悪者扱いされてしまう。映画をリアルでイマーシブにすることで思考を刺激し、僕らが信じきっている既存の物語に挑戦したいと思ったんだ」





ーー16ミリで製作することにした理由も教えてください。


ゴールドハーバー監督「それもリアルを感じさせる映画にしたかったから。それにビジュアル的にもフィルムにはデジタルには出せない何かがある。言葉にできないけど…カメラが動き始めてから止まるまで、パフォーマンスやカメラの動きが物理的に記録されているという感覚…それが演技を変えるし、セットにいる全ての人の姿勢を変える気がする」


ーーこの映画にとって「若者・若さ」という要素はどのような存在でしょうか?


ゴールドハーバー監督「この物語を作り始めたときに、登場するフィクションの人物たちをどうするかみんなで相談したんだけど、自分たちの友達のような人物たちにすることを決めたんだ。実際の気候ムーブメントにはいろんな年代の人たちがいるけれど、僕らが伝えるなら自分たちがよく知っている世代がいいと思った。この映画にでてくる若者には僕の若い頃が投影されている部分もあるし、一緒にこの映画を作った若者たちとのクリエイティブコラボーションの結果でもある」


ーー8人の登場人物は“完璧なアクティビスト”ではなく、それぞれが違う意図を持った、欠点もあるリアルな人間だなと思いました。8人のキャラクターを生み出していくことで意識したことはありますか?


ゴールドハーバー監督「本を読んだり、取材したり、リサーチをとにかくたくさんした。目を向け始めるともともと知っている人たちのなかにも石油精製所の近くで育ったとか、環境悪化のダメージを受けている人がたくさんいることがわかって驚いた。そのうえで、強盗映画というジャンルのなかでよく使われる手法だけど、それぞれのキャラクターにいろいろなバックグラウンドを持つ環境アクティビストを集約させてバランスをとることを意識したよ」





ーーこの映画はアクティビストについてですが、この映画を作ることを監督自身のアクティビズムとして捉えていましたか?


ゴールドハーバー監督「それは全くない。アートはアクティビズムになりうるけど、それは例えばもしアートが違法のスピーチだったりしたら。変化を生み出すための役割を担っているとは言えると思うけど、この映画は危険ではなく、あくまでも商業的なエンタメ。世界が変わるためにはアクティビストの物語は語られるべきだし、そのためにはメディアが必要で、システムにおいてとても重要な役割を果たしているけれど、だからといってメディア自体がアクションとは言えないと思う。特に現代は、若者や文化人がSNSで投稿すれば何かに参画していると混乱してしまっている気がする。そんなことはなくて、それは世界を変えるというメカニズムにおいてそういったSNSでの発信が大きな変革を生んでこなかったことからもわかる。『パイプライン爆破法:燃える地球でいかに闘うか』ではまさにそういったことが書かれているんだ。全ての成功した社会正義を求めるムーブメントでは、なんらかの形で財産の破壊が行われてきた。もしそれが事実だとしたら、「環境アクティビストは何ができるのか?」をこの映画は問いかけているんだ。だからこの映画がアクティビズムだということは、映画の大切なメッセージと真っ向から矛盾することになってしまう」


ーーアクティビズムとは直接的な変化を生むものだということですか?


ゴールドハーバー監督「うーん、アクティビズムとは反抗の運動だと思う。アクティビズムには必ず社会的反抗性があると思う。社会的、法的、政治的な権力やシステムに対して反抗し、体を張ること。この映画は反抗という概念を扱っているけど、商業的な映画というフォーマットからして、本質的に反抗性はないと思う」


ーー最後に、この映画を通してどんな議論を生みたいですか?


ゴールドハーバー監督「どんな議論も生産的だと思う。だけど強いていうなら、アクティビズムとは何か、どう現状の体制に反抗するか、誰が本当に環境のために闘っているのかなどの問いについてこの映画をきっかけに考えてもらえたら嬉しい」


Text Noemi Minami(https://www.instagram.com/no.e.me/



『HOW TO BLOW UP』
6月14日公開。ヒューマントラストシネマ有楽町、池袋HUMAXシネマズ、シネマート新宿ほか全国で順次ロードショー
公式サイト:https://howtoblowup.com/


新進気鋭の監督と、注目スタジオNEONが大絶賛!
地球温暖化が進み、気候変動の脅威が差し迫る最中、一本の過激で危険な映画が議論を呼んだ。テキサス州の石油精製工場を即席の爆弾で破壊しようとする8人の若者たちを描いたエコスリラー『HOW TO BLOW UP』だ。2017年設立以降『パラサイト 半地下の家族』(2019)『燃ゆる女の肖像』(2019)『TITANE/チタン』(2021)『落下の解剖学』(2023)など、奇抜で野心的な映画を次々と配給する新進気鋭の映画スタジオNEONが目をつけ、米国配給権を獲得。2023年に公開されると、ダニエル・シャイナート(『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(2022))やエドガー・ライト(『ラストナイト・イン・ソーホー』(2021))デヴィッド・ロウリー(『グリーン・ナイト』(2021))、レイン・アレン・ミラー(『ライ・レーン』(2023))などの新しい才能が年間ベストに挙げ、賛否両論を巻き起こしながらもスマッシュヒットを記録した。


2022年製作/104分/PG12/アメリカ
原題:How to Blow Up a Pipeline
配給:SUNDAE
©WildWestLLC2022

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