映画『隣人X -疑惑の彼女-』が2023年12月1日(金)に公開される。惑星難民Xの受け入れをめぐって繰り広げられる、異色のミステリーロマンスである本作。〈よそもの〉に対する警戒心や、無意識に遠ざけようとする気持ちをしっかり描くことで、偏見や恐怖を乗り越え、隣にいる人を大切に想う優しさを伝える作品に仕上がっている。主人公・柏木良子を演じる上野樹里と、彼女に疑惑の目を向ける笹憲太郎役の林遣都はそれぞれどんな思いで作品に向きあったのだろうか。二人のインタビューをお届けします。
自分自身が日々心がけなければいけないと感じていたことがしっかり描かれていた
ーーまずはそれぞれの役について教えてください。
林「僕が演じた笹は週刊誌の記者。自分の現状や将来に対しての焦りや不安を抱えています。この職に就いた当初の理想や情熱を抱き続ける余裕もなくなってきている、精神的にはしんどい役どころでした。自分にとって身近である記者という役については、演じることで何か見えてくるものがあるのかなという興味もありました」
上野「私の演じた良子は、笹から惑星難民Xだと疑われ、マークされる役です。まず脚本を読んだ時に『隣人X』というタイトルに興味が湧きました。というのも、ちょうどコロナ禍でみんながマスクをしている時期にお話をいただいたからです」
ーー上野さんは熊澤監督と脚本について何度も話し合いを重ねたそうですね。
上野「熊澤監督が私にオファーをくれた真意を聞きたくて、すぐに電話を入れました。どうやら私が出演した韓国映画『ビューティー・インサイド』の役に、人からみて何者かわからない良子を重ねていただけたようでした。その映画では性別、年齢、人種に関係なく毎日違う容姿になってしまう主人公をユ・ヨンソクさんが演じていて、私も主人公のある日の姿の一人を演じていたんです。それから監督とも意見を重ねていきました。 自分が良子を演じるならば、2、3度観ていただいたときに違う発見をしてもらえる作品にしたいと思ったんです。良子を疑う笹の目線で作品を観たときと、良子側からの視点で観たときで作品の見え方はきっと違う。私の役は怪しくも見えるし、普通の人にも見える。その匙加減が大切で、ディテールを決め込みすぎないようにキャラクター作りをしていきました」
ーー脚本を読んで感銘を受けた部分も多いと思います。どういう部分がご自身に刺さりましたか?
上野「どうしても人は知らず知らずのうちに、フィルターをかけて物事を見ているということがあると思うんです。それによって、実は誰かに都合がいいように操作されているかもしれないし、利用されてるかもしれないし、 そのせいで誰かを傷つけてるかもしれない。それに昔みたいにアナログだったのが当たり前な時代とは違って、今はSNSの情報を鵜呑みにして知った気になってしまうこともある。でもその情報は断片でしかなかったり、真実でないことも多いですよね。どうしたら隣りにいるであろう他者を思いやることができるのか。それを考えさせられる映画だと思っています」
ーー林さんは良子に疑惑を向ける役ですね。
林「脚本を読んだ時に、熊澤監督が日々思っていることや、世の中の人に伝えたいこと、監督自身が生きる上で大切にしていることが表れていると強く感じました。そこにはもちろん、僕自身も常日頃から思っていることが結構散りばめられています。まずどんな理由であれ、人をおとしいれたり、傷つけたりするって悲しいことだよねというシンプルなメッセージはしっかり伝わるといいなと思います。
笹は本当にダメな部分が多くて、役作りする上でも、欠落してしまっている部分もしっかり演じていけたらなと思っていました。でもそんな中で、良子さんという本質を見てくれる人と出会ったことによって、何かが変わっていく。こんな風に自分をわかってくれる人と出会えて、人間関係を築く素晴らしさや、これからどう生きるべきなのかを考えさせてくれる作品だと思います。自分自身が日々心がけなければいけないと感じていたことがしっかり描かれていたので、この映画を通じて、ちょっとでも同じように感じてもらえる人が増えるきっかけになれば嬉しいです」
知らないものは怖い、ではなく、多様な人々の根底に共通して流れている温かいものを信じたい
ーー今の時代、SNSの中でも現実でも、目に見えるところで分断が起きています。よくわからない他者を遠ざけたり排除しようとするのではなく、隣りにいるかも知れないその人達と仲良くなるためにはどうしたらいいと思いますか?
上野「難しい問題ですね。基本的には自分の好みを別に押し付けることなく、『私はこれが好き』『あなたはそれが好き』でいいと思うんです。まずは相手を思いやったり、認め合うことが大事だと思います。そのためには『血縁関係だから』『日本人だから』と自分と近しい続柄や属性だけで認め合うだけではいけないんですよね。それって身内で結束するために他者を排除する価値観につながったりもすると思うので。他者に対して勝手なカテゴリー分けをするのではなく、もっと中身を見て接することが大事なのだと思います。よそものは怖い、知らないものは怖い、ではなくて、多様な人々の根底に共通して流れている温かいものを信じたいです。
笹とは出会ってからの時間は短いけど、すごい深いところまで見つめ合えてる部分があると思う。きっと出会った時間の長さや、物事をどれだけ長く知ってるかという歴の問題ではなく、やはりどう相手をみるかというフィルターひとつだと思うんですよね。心持ちひとつで、相手のことを思いやれる。実は最近の若い子たちは多様性の意識も高く、身近にいろんな人がいることをわかっているので、結構それができているのではないかと思っているんです。変な情報に踊らされない人たちも増えてきている気がします。結局のところは、一人ひとりが心の目でちゃんと相手を見るということがすべて。自分のフィルターひとつで見える世界って変わるから、みんなが気持ちいい世界を映せるようになったら、それは相手もハッピーだし、自分がハッピーってことなんだと思うんですよね。世の中が幸せになっていくためにも、まず自分自身と向き合っていくことが大事なのかなと思います」
林「僕たちが子どもの頃よりも今は簡単にいろんな情報が入ってきて、自分とは違う他人の存在がすごく身近になってきてる中で、どうしても人と比べやすくなった部分はあると思います。知らない人に、自分自身の何かを否定されることも増えてきてる。自分の変わっている部分だったりコンプレックスだったり、そういうものを誰かに否定されるとすごく傷ついて落ち込むと思うんですけど、誰しもがそうなんですよね。それは強さ弱さの問題ではない。でも、何かと比べて自分を卑下するよりも、自分を肯定する時間を増やしていいんじゃないかなと思います。誰か人に迷惑をかけたり傷つけさえしなければ自分を甘やかしてもいいんじゃないかなと、そんなことを考えてます」
Photography Yudai Kusano(https://www.instagram.com/yudai_kusano/)
hair&make-up Juri Ueno:Izumi Seike / Kento Hayashi:TAZURU TAKEI (&’s management)
style Juri Ueno:Chiaki Furuta /Kento Hayashi:Yonosuke Kikuchi
Text Daisuke Watanuki(https://www.instagram.com/watanukinow/)
『隣人X -疑惑の彼女-』
12月1日(金)新宿ピカデリー 他全国公開
https://happinet-phantom.com/rinjinX/
出演:上野樹里 林 遣都
黃 姵 嘉 野村周平 川瀬陽太/嶋田久作/原日出子 バカリズム 酒向 芳
監督・脚本・編集:熊澤尚人
原作:パリュスあや子「隣人X」(講談社文庫) 音楽:成田 旬
主題歌:chilldspot「キラーワード」(PONY CANYON / RECA Records)
配給:ハピネットファントム・スタジオ
制作プロダクション:AMGエンタテインメント
制作協力:アミューズメントメディア総合学院
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