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text by nao machida

映画『私がやりました』 イザベル・ユペール インタビュー




フランスの名匠フランソワ・オゾンによる最新作『私がやりました』が、11月3日より全国順次公開される。本国で大ヒットを記録した映画は、オゾン監督いわく、「『8人の女たち』『しあわせの雨傘』に続く、女性の生き方を魅力的に探究した3部作の最終章」。1935年のパリを舞台に、有名映画プロデューサーの殺人事件の“犯人の座”をめぐり、3人の女たちが繰り広げるクライムミステリーだ。ユーモア溢れるエンターテインメント作品でありながら、現代に通じるテーマも盛り込まれている。


キャストは、自由奔放な若手女優マドレーヌ役に、『悪なき殺人』で東京国際映画祭最優秀女優賞を受賞したナディア・テレスキウィッツ。マドレーヌのルームメイトで独立心旺盛な新人弁護士ポーリーヌ役に、『黄色い星の子供たち』のレベッカ・マルデール。さらに、2人の前に現れる“自称・真犯人”で元大女優のオデット・ショーメット役を、『エル ELLE』でアカデミー賞にノミネートされたイザベル・ユペールが強烈なインパクトで演じている。映画の公開を前に、ユペールにリモートインタビューを行い、20年ぶりの出演となったオゾン監督作品の撮影秘話などを聞いた。



――テンポの良い楽しいコメディでありながら、ジェンダー間の力関係や女性の地位など、今日の私たちに通じるテーマが盛り込まれていて、とても興味深く拝見しました。本作のどのような部分に魅力を感じましたか?


イザベル・ユペール「もちろん、フランソワ・オゾン監督の作品だということが一番の魅力でした。『8人の女たち』(2002)以来の再会だったのですが、彼の作品ということで、シナリオを読む前から十分なモチベーションとなっていました。ぜひまた一緒に仕事をしたいと思っていたんです。しかも、本作で私が演じたオデットという役は、脇役のようでありながら、とてもおいしい役なんですよね。かなり存在感が大きいですし、『私がやりました』という題名を体現したタイトルロールのような人物です。そういう意味では、最初から内容を知らなくても引き受けたいと感じました」


――フランソワ・オゾン監督と20年ぶりに一緒に仕事をしてみていかがでしたか? 本作のテーマやオデット・ショーメットの人物像について、どのようなお話をされたのでしょうか?


イザベル・ユペール「実はそんなに話し込んで深く追求するということはなかったんです。シナリオを読んだ時点で、本作には明らかに現代の問題に通じる部分があり、とりわけ若い女性の社会における地位向上について描かれていることはわかっていました。もちろん、読み合わせは監督と2人の若い女優(マドレーヌ役のナディア・テレスキウィッツ、ポーリーヌ役のレベッカ・マルデール)と一緒に行ったわけですが、そのときにオデット・ショーメットという女優は、すごく早口で、とても大袈裟かつヒステリックに話す人物だというアイデアが、私の中に本能的に生まれたんです。自分でもなぜそう思ったのかはわからないのですが、あのヒステリックで大袈裟な感じが、おそらくオゾン監督にとっても期待通りだったのではないかと思います。だから、読み合わせをした時点で、大切な部分はかなりクリアになっていました」








――キャストのアンサンブルも素晴らしかったです。マドレーヌ役のナディア・テレスキウィッツ、ポーリーヌ役のレベッカ・マルデールとの共演を通じて感じた魅力を教えてください。


イザベル・ユペール「彼女たちは、すでに自信に満ち溢れているなと思いました。私は途中で撮影に合流したわけですが、その時点で2人は自分の演じる役の居場所を見いだしていました。私はそこに入っていけばよかったので、彼女たちの中ですでに出来上がっている部分があって助かった一方で、途中から入っていく難しさも感じました。


ナディアとレベッカは素人ではなく、すでに経験豊かな人たちです。ナディアが演じたマドレーヌという役にも、レベッカが演じたポーリーヌという役にも、人間の生死に関わるような、世界の中で自分の居場所を見つけるという実存主義的なテーマも含まれています。でも、私の場合は完璧にパロディですよね。ちょっと滑稽な部分を演じればよかったので、それぞれが楽譜の上で異なるパートを担っているような印象でした。レベッカのことは以前からよく知っていたのですが、ナディアは本作が初共演でした。とても温かい心の持ち主で、コミュニケーション能力が高い人です。彼女たちと一緒に仕事をすることは、とても楽しかったし、スムーズでした」 


――劇中のマドレーヌとポーリーヌは大嘘をついているのに、観客はいつの間にか彼女たちを応援しています。“嘘の中の誠実さ”というテーマがとても面白いと思ったのですが、それについてはどう受け止めましたか?


イザベル・ユペール「マドレーヌにしてもポーリーヌにしても、とても切実なんですよね。自分たちがどうやって生計を立てていくか、必死の立場に置かれているわけです。そこであのように嘘を重ねることによって、自分たちの現実や真実も明らかにするし、周りにいる人たちの真実も少しずつ暴露していく。彼女たちは、そういう価値のある、意味のある嘘をつくわけです。


私が演じたオデットという役は、とてもストレートなところがいいなと思いました。彼女は言いたいことをぶっきらぼうに言って、悪意を隠そうとしないんです。彼女の行為は、司法の面ではもちろん断罪されるべきですが、自分の身を救うために、暴力的な行為に対して嘘という暴力的な行為で応酬するというところが、この作品の道徳なのかなと思います。


本作でフランソワ・オゾン監督は、暴力的な行為に対して嘘という暴力的な行為で応酬するということを、巧みにオーケストレーションしています。だから、マドレーヌとポーリーヌは、自分たちにとっての正義の裁き人みたいな部分があるのではないでしょうか。マドレーヌ、ポーリーヌ、オデットという3人の女性は復讐の手段こそ異なりますが、その3人が偶然出会うことによって女性の連帯感が生まれる。そんな作品に仕上がったのではないかと思います」








――「女性としてのキャリアや人生を、制約なく自由なまま平等に手に入れたい」という、法廷でのマドレーヌのセリフが印象的でした。映画の舞台は1935年のフランスですが、2023年の今もなお、女性たちは彼女と同じことを願っているのが現実です。この物語を今の時代に伝えることに、どのような意味があると思いますか?


イザベル・ユペール「まさにその通りですよね。実は原作の戯曲は、あのような展開にはならないんです。映画の冒頭のあたりは割と原作に忠実だと思うのですが、法廷のシーンは私たちの時代にかなり寄り添って描かれています。本作は1935年に出発して、2023年に着地する作品なのかなと思います」


――日本でもたくさんのファンが楽しみにしています。これから本作を観る映画ファンに伝えておきたいことはありますか?


イザベル・ユペール「ぜひ映画館に観に行ってください。フランソワ・オゾン監督らしい作品ですし、とても愉快なのに深い考察も含まれていて、楽しい時間を過ごせると思います。それに、ちょっと生意気な部分もあります。私が演じたオデットは特に生意気で半道徳的なんです。若い女優の役を演じたいとか、お金も欲しいとか、とても個人主義で意地悪なのですが、オデットのことを見ていると、なぜか理解してしまう。だから、本作を観に行くべき理由はたくさんあるけれど、私の役どころも見ものですよ」


――確かにオデットは個人主義で意地悪ですが、最後までとてもエレガントでキュートだなと思いました。演じる上で、そういったバランスは気をつけていたのですか?


イザベル・ユペール「もちろんです。とにかくオデットは面白くて愉快な人ですよね。彼女の行動には子どもっぽいところもあります。その子どもっぽさが、彼女を許してしまう理由につながっているんじゃないかな。彼女は隠し事をせず、本を全部開いているような、赤裸々に自分の考えを言葉にする人なんです。だから、私はそんな人物をそのままを演じたという感じです」


――次は日本でお会いできることを楽しみにしています。2021年には東京国際映画祭で審査委員長を務められましたが、日本の映画監督で注目している人はいますか?


イザベル・ユペール「最近の濱口竜介監督の作品には、私たちみんなが心を揺さぶられています。一人だけ現代の監督を挙げるとしたら、やっぱり濱口竜介さんですね」





text nao machida



『私がやりました』
11月3日(金・祝) 、TOHO シネマズ シャンテ他 全国順次ロードショー
gaga.ne.jp/my-crime/
監督・脚本:フランソワ・オゾン『8人の女たち』『しあわせの雨傘』
出演:ナディア・テレスキウィッツ、レベッカ・マルデール、イザベル・ユペール、ファブリス・ルキーニ、ダニー・ブーン、アンドレ・デュソリエ
配給:ギャガ
THE CRIME IS MINE(英題)/2023年/フランス/カラー/シネスコ/5.1chデジタル/103分/字幕翻訳:松浦美奈

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