少女たちのリアルで自由なガールフッドをみずみずしく描いたフィンランド発の青春映画『ガール・ピクチャー』が、4月7日より全国順次公開される。主人公は大人と子どものはざまでもある、17歳から18歳に差し掛かる3人の少女、ミンミとロンコとエマ。映画は3度の金曜日で構成されており、多感な時期を過ごす彼女たちが、恋愛やセックス、家族や将来について悩んだり、つまずいたりしながら、ありのままの自分と向き合う姿に寄り添う。メガフォンを執ったのは、強い女性たちが主導する作品を手がけてきたフィンランド出身のアッリ・ハーパサロ。本作では激しく揺れる10代ならではの感情を見事に映し出し、第38回サンダンス映画祭ワールドシネマドラマ部門で観客賞を受賞したほか、第95回アカデミー賞国際長編映画部門のフィンランド代表に選出された。ここではハーパサロ監督にリモートインタビューを行い、作品に込めた想いや、その背景にあるフィンランドの社会の現状について、たっぷりと語ってもらった。
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――『ガール・ピクチャー』の日本公開おめでとうございます。私も10代の頃にこんな映画が観たかったです。
アッリ・ハーパサロ監督「そう言ってくれてありがとう! 私もそう思います。だからこそ、この映画を作ったんです」
――シンプルなプロットの中にたくさんの感情が詰まった作品ですね。とても単純でありながら、同時にとても複雑な10代の日々が見事に描かれていますが、ご自身の言葉でこの映画を説明するとしたら?
アッリ・ハーパサロ監督「実は今の説明がほぼ完璧で、それこそが私たちの願いでした。私は感情の描写に十分な時間を費やせるような、コンパクトなプロットを探していたので、3度の金曜日に展開する本作の構成が完璧だと感じたんです。それは本当に短い時間ですが、10代の感情はとても大きなものなんですよね。すべての瞬間に宇宙が内包されているのがティーンエイジャーなので、これ以上の時間は必要ないのです。また、たった1度の金曜日だけで、すべてが変化し得るということも描いています。(ティーンエイジャーは)恋愛であれ、パーティであれ、自分探しであれ、すべての金曜日がラストチャンスのように感じるんです」
――本作を手がけることになったきっかけは、脚本家のダニエラ・ハクリネンとイロナ・アハティからのアプローチだったそうですね。この物語のどんなところが一番心に響きましたか?
アッリ・ハーパサロ監督「女の子の体験を描いている部分です。私が開拓したかったのは、映画におけるガールフッドと女の子の登場人物でした。もちろん、人生において10代は非常に興味深い時期ですが、私が特にこだわったのは女の子たちの目を通してそれを描くことでした。登場人物がリアルに感じられること、彼女たちの体験や感情に迫ることが重要だったのです。ティーンエイジャーをノスタルジックな視点から描いたり、『ティーンエイジャーってかわいいよね』というような、大人目線で描いたりすることは絶対にしたくありませんでした。それよりも、あの年頃に感じる切迫感に相応しい作品を目指したかったのです」
――多くの映画とは違って、本作に登場する女の子たちは男性の存在によって定義されていません。被害者として描かれたり、辱めを受けたりすることもなくて、そこがとても良かったです。登場人物たちを描く上で監督がこだわったことを教えてください。
アッリ・ハーパサロ監督「実はかなり早い段階から、私は本作をある種のフェミニズムの課題やマニフェストとして捉えていました。この映画では、女性キャラクターが脇役ではなく、中心にいる重要な存在であり、興味深い人たちであることを主張することが重要だったんです。興味深い女性を描くために、ロックスターやスーパースターや殺人犯など、クレイジーな設定にする必要はありません。ただ若い女性を現実的に描くだけで興味深いのですから。私はとにかく彼女たちのすべてを描きたいと思いました。あの娘たちは美しいけれどひどくて、愛らしいけれど意地悪なんです(笑)。お互いに対して恐ろしいこともするのですが、それはつまり人間らしいということ。だから、私が彼女たちに求めていたことを一言で表すとしたら、“人間らしさ”かもしれません。もう一つは、彼女たちを不完全な存在にしたかったのですが、それも人間らしさと同じですよね。私たちはゴージャスな女性しか登場しない映画に慣れています。でも、たとえば本作に登場するロンコにはニキビがあって、私はそれがとても気に入っているんです。ロンコ役のエレオノーラ・カウハネンに、『そのニキビを使わせてもらえない? 隠さないでおこうよ』と頼んだら快諾してくれました。彼女も成長する過程で、ニキビのある登場人物が見たかったそうです」
――本作では登場人物の性的指向について言及したり、問題視したりすることがないのも印象的でした。監督は意識的にあのような描き方をされたのですか?
アッリ・ハーパサロ監督「とても重く捉えていました。カミングアウトの要素を入れるべきか否かは、ダニエラとイロナと話し合って決めたんです。私たちは、映画が常にカミングアウトの是非を問いかけていたら危険だと感じていました。決してカミングアウトについての物語を否定したいわけではありませんし、それもとても重要だと思います。でも、もしカミングアウトについての物語しかなかったら、映画を通して同性同士の関係を“解決するべき問題”や“乗り越えるべきトラウマ”として伝えてしまうことになります。私はそうはしたくないですし、同性カップルにも異性カップルと同じ特権を持ってほしい。それはつまり、誰も自分の性的指向に疑問を持つべきではないのです。だからこそ、この映画では性的指向をまったく問題視しませんでした」
――この映画はとてもシンプルな物語を伝えていますが、良い意味で政治的な作品でもありますよね。
アッリ・ハーパサロ監督「気づいてくれてありがとう。それは私にとって、とても重要なことだったんです。私は密かに本作を“フェミニストのマニフェスト”と呼んでいました。決して説教したいわけではなく、ハッピーな映画なのですが、非常に力強い政治的な内容を取り入れることを重要視していたんです。この映画の政治性はポジティブなところから来ているように思います。少女たちを主役にして、基本的に自由を与え、彼女たちが何をしても辱めを受けないように描くのは政治的なことですし、いろんな意味で急進的でもあります。私にとっての政治は、少女たちは大切な存在で、興味深くあるために他の何かになる必要はない、というフェミニズムでした。それにもちろん、性的自由もそうです。セクシュアリティは誰もが持っている、安全に探求されるべきもの。誰だってスラット・シェイミングされることなく快楽を求めることを許されているし、それは正常で自然で美しいことなのです。あとは当然のことですが、クィアのコミュニティという側面もあって、異性愛規範のコンテンツとの相違がないようにしました。本作には幾重もの政治的要素があり、そのすべてが絡み合っていて、それは私にとって重要な部分でした」
――原題の『Tytöt tytöt tytöt』は、フィンランド語で“ガールズ、ガールズ、ガールズ”を意味するそうですが、なぜそのようなタイトルにしたのですか?
アッリ・ハーパサロ監督「“Tytöt tytöt tytöt”はフィンランドで使われているフレーズで、批判的な意味のある言葉です。もし女の子がちょっと大胆過ぎたり、ふさわしくない発言や行動をしたり、不適切な服を着たりすると、“ガールズ、ガールズ、ガールズ…(ため息)”と言われるんです。私はそのトーンを変えたいと思いました。この映画には、“ガールズ、ガールズ、ガールズ!”という感じのアティチュードがあるんです」
――フィンランドの社会は日本よりずっと進んでいる印象なので、それは興味深いですね。日本の社会はフィンランドよりも、ずっと保守的だと思います。でも、そのようなフレーズがあるということは、フィンランドでも女の子はいまだに“女の子らしい”振る舞いを期待されているということですか?
アッリ・ハーパサロ監督「非常に興味深い話ですね。私たちは多くの意味で、かなり遠くまで来たように理解しています。たとえば、この映画はフィンランドで好評ですし、ちゃんと理解されており、多くの男性からも気に入られていて…といった感じです。また、社会もいろいろな意味で平等です。でも、それと同時に、今でも多くの女性たちが日々の暮らしの中でセクハラを訴えていますし、職場では間違いなく優越主義的なコメントや態度に直面しているんです。私たちには女性の首相がいるかもしれないですが、彼女がパーティで踊っただけで動画が流出し、“首相がセクシーなダンスをするとは何事だ!”“なんてこった、彼女は失格だ!”と大騒ぎされました。というわけで、(女性に対する)厳しい批判はなくなっていませんし、ハラスメントもなくなっていません。残念ながら、この映画は実際の世の中というよりも、私たちが目標としている、より完璧な世の中を描いているのです。でも、それを大きなスクリーンに映し出せば観てもらうことができます。そして、観ることができれば信じることができるし、実現できるはずです」
――ちなみに、劇中に登場する“ムーミンマグ・メソッド”は本当にあったのですか? 我が家にもムーミン・マグがあるので、見るたびに思い出してしまうのですが(笑)
アッリ・ハーパサロ監督「かつては本当にありました(笑)。私が子どもの頃、ムーミンマグ・メソッドは、不妊治療クリニックで対応してもらえなかったレズビアンのカップルが自宅で妊娠するために使っていた手段でした。本当にムーミンマグを使用した人はいないと思うのですが、それがこのメソッドの呼び名になったんです。でも、このシーンを使ってキャスティングを行った際に、今どきの20歳は、そんなこと誰も知らないのだと気づきました。彼女たちはムーミンマグ・メソッドなんて聞いたこともなかったのです。私は恐竜になったような気分でした(笑)。そして、世界が変わったのだと理解したのです。今ではレズビアンのカップルもクリニックで不妊治療が受けられるので、もうムーミンマグ・メソッドなど必要ないんですよね」
――本作は音楽も印象的で、10代の頃に音楽がどれほど大切な存在だったかを思い出しました。監督はこの物語を描く上で、音楽をどのように活用しましたか?
アッリ・ハーパサロ監督「音楽について聞いてくださってうれしいです。というのも、映画のために劇伴を書いてもらう代わりにポップソングを選曲することは、私の長年の夢だったんです。ティーンエイジャーにとって音楽はとても大切なので、本作は夢を叶えるのに完璧な作品でした。監督や脚本家としても活動しているヤン・フォルストロームが音楽監修を担当してくれたのですが、彼の素敵な提案で、この映画では女性かLGBTQIAのアーティストの楽曲だけを選ぶことにしました。異性愛者の男性に気を悪くしてほしくないのですが、私たちはただ、彼らの声は他の映画で十分に聴かれてきたように感じたんです。この映画では、クィアか女性のアーティストをフィーチャーすることが適切なのではないかと考えました」
――本作は2022年のサンダンス映画祭で観客賞を受賞したそうですが、反響はいかがでしたか? フィンランドとアメリカや他の国で、観客の反応に違いはありましたか?
アッリ・ハーパサロ監督「この映画で一番驚いたのは、どこの国でも反応が同じだったことです。撮影中は、こんなにも世界的に共感されることになるとは思っていませんでした。でも、世界中の人々からメッセージが届いて、登場人物たちに共感できるところが素晴らしかったと言われたんです。たとえば、クィアの女性としてオーストラリアの田舎で育ったカナダ在住の55歳の女性は、『10代の頃にこの映画を観たかった。初めてレズビアンの登場人物に共感できたし、恋愛の描写が本当に現実的だった』とメッセージをくれました。異なる文化で暮らすたくさんの人たちが同じように感じてくれたのは、素晴らしいプレゼントとなりました」
――『ガール・ピクチャー』の日本公開を楽しみにしている、特に女の子たちに伝えたいことはありますか?
アッリ・ハーパサロ監督「この映画が皆さんの心に響くことを願っています。これは私にとって愛の詰まった作品です。私は劇中の女の子たちが大好きなんです。そしてこの映画を観ると、自分自身への愛も呼び起こされます。若い人たちだけでなく、誰もがそんな風に感じられることが大きな目標です。45歳の私にだって、自己愛は必要なのですから(笑)。このぬくもりを映画や登場人物だけでなく、ご自身のためにも感じてほしいですね。『私はがんばっているな。ハグされるべき存在だな』と思っていただけたらうれしいです」
text nao machida
『ガール・ピクチャー』
2023年4月7日(金)より新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー
https://unpfilm.com/girlpicture/
監督:アッリ・ハーパサロ 脚本:イロナ・アハティ、ダニエラ・ハクリネン
出演:アーム・ミロノフ、エレオノーラ・カウハネン、リンネア・レイノ
2022年/フィンランド/100分/カラー/スタンダード/5.1ch/原題:Tytöt tytot tytöt/PG12/日本語字幕:松永昌子
配給:アンプラグド © 2022 Citizen Jane Productions, all rights reserved