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text by nao machida

『Never Goin’ Back / ネバー・ゴーイン・バック』 オーガスティン・フリッゼル監督インタビュー/Interview with Augustine Frizzell about “Never Goin’ Back”


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オーディエンスに新たな視点をもたらし続ける、気鋭のスタジオA24の新作『Never Goin’ Back / ネバー・ゴーイン・バック』が日本上陸する。オーガスティン・フリッゼル監督の自伝的な作品で、誰も観たことのないような、カオスでユニークなティーンムービーだ。主人公のアンジェラとジェシーは、学校をドロップアウトし、治安の悪い地域で違法行為を繰り返しながら、ギリギリの共同生活を送っている。保護者もいない中、劣悪な環境で生きる彼女たちの夢は、最悪な日々を抜け出して憧れのリゾートで誕生日を過ごすこと。映画は経済格差や家庭環境といった社会問題をシリアスに描く代わりに、それを笑い飛ばすように明るくコミカルなタッチで展開する。ここでは12月16日の日本公開を前に、オーガスティン・フリッゼル監督にリモートでインタビューを実施し、自らの10代をインスピレーションにした映画について、たっぷりと語ってもらった。



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――この映画は観ていて本当に楽しかったです。10代の頃の気持ちがよみがえって、当時の親友と話したくなりました。


オーガスティン・フリッゼル監督「そう言ってもらえて最高にうれしいです! 嫌な気分になるものにはしたくなくて、楽しい作品を目指しました。私はストーナー(=マリファナでハイになった人)コメディや青春映画が大好きなのですが、当時の私のような生活状況に置かれている人についての作品は観たことがありませんでした。つまり、幼いのに自活しなければならず、親はいないし、仕事をしていて、学校は退学して…という状況です。だったら私が作ろうかな、と思いました(笑)」


――物語の大部分は、監督自身の10代の日々に基づいているそうですね。


オーガスティン・フリッゼル監督「私は長い間、自分の10代は不幸なもので、荒んだスタートを切ったように感じていました。もっと生活が安定していて障害が少なければ、何か違うことができていたのではないかと思っていたんです。でも、かなり早い段階で、それは真実ではないし、遅すぎることはない、私にもまだ何かできるはずだと気づき始めました。そして、長年にわたって、自分の子ども時代や10代の日々がものすごくユニークで、あまり多くの人が経験してこなかったものだと思っていました。夫(映画監督のデヴィッド・ロウリー)に思い出話をするたびに、『すごい話だな。クレイジーだよ!』と言われていたんです(笑)。自分の人生だから、当時はユニークだと気づいていなかったんですよね」





――なぜ10代の日々を映画にしようと決めたのですか?


オーガスティン・フリッゼル監督「ある時点で、思い出を書いておくべきだと思い立って、書いていくうちに“面白い映画になりそう!”と考えるようになりました。その核心にたどり着くと、友情と当時の親友について、そして、それがその後の私にとって、どれだけ重要であったかについての物語になったんです。親であれ、友だちであれ、パートナーであれ、若いときに安心できる存在がいると、ちゃんと自己が形成されるし、その時代を乗り越えて自分らしく生きていけるのだと思います」


――10代の頃は誰もが間違った決断をするものですが、ティーン映画では、そのせいで登場人物が罰せられることが多いですよね。本作ではそれがないのもいいなと思いました。


オーガスティン・フリッゼル監督「若い頃って、本当にバカなことをするものですよね。ほとんどの場合は運が良ければ何とかなります。残念ながら、その影響が長期に及ぶ人もたくさんいますが、大部分のティーンエイジャーは、本当にバカなことをしても最終的にはどうにかなるんです。私は若い子が失敗しても幸せな人生を送っている姿を描きたいと思いました。私と親友にはお互いの存在があったから、楽しい時間を見いだすことができたのです。私はそこに焦点を当てて、説教じみたものにはしたくないと考えていました」


――こんなにも私的な物語を描くのは、難しくなかったのですか?


オーガスティン・フリッゼル監督「私は過去を隠すようなタイプではないし、すべてにおいてオープンに生きてきました。恥ずかしさの多くは若い頃の失敗に関係していると思うのですが、共有しなければ学ぶことも難しいと思います。それに最も重要なのは、今の自分だと思うんです」





――アンジェラ役のマイア・ミッチェルとジェシー役のカミラ・モローネは、どうやって見つけたのですか? 相性抜群でしたね。


オーガスティン・フリッゼル監督「いろんな事務所に脚本を送りました。何度もオーディションを開催して、たくさんのテープを観た中で、彼女たちがエキサイティングなのは明らかでした。とてもエキサイティングな子が4人いたのですが、あの2人が一緒にいると本当に釘付けになったんです。あの相性はごまかせないもので、化学反応があるかどうかです。彼女たちには、それがありました」


――素晴らしかったです。現場ではどのように演出をしたのですか?


オーガスティン・フリッゼル監督「私の手柄にできたらいいのですが、本当に彼女たちのおかげなんです。でも、現場では私と親友の肉体的な距離の近さについて、たくさん話しました。私は女友だちと肉体的に近いことに抵抗がないタイプなんです。あと、親友から得られる安心感についても伝えました。人生がつらくて、自分を取り囲むすべてのことに落胆させられても、いつでも揺るぎない錨のような、絶対的に信頼できる人がいるということ。最悪の失敗を犯しても、彼らはそれを乗り越えて愛してくれるんです。私たちはそういったことを話し合いました」

――撮影中の出来事で、特に印象的な思い出はありますか?


オーガスティン・フリッゼル監督「実はアクシデントがありました。撮影でテキサスに滞在していたときに、カミラと何人かが飲みに行ったら、バーに電動の闘牛があったらしくて(笑)。カミラがそれに乗って、首を痛めてしまったんです!」


――え!


オーガスティン・フリッゼル監督「カミラは首筋を痛めて、翌日はベッドから起き上がれませんでした。撮影も一日延期して、しばらくの間は頸椎カラーを着用していました。何とか乗り切ってクランクアップできたのですが、私たちは一瞬、この映画は完成できないのではないかと思いました。でも、彼女は本当にがんばってくれたんです。その後、2年くらいは理学療法を受けなければならなかったようですが」


――そうだったんですね。でも、テキサスに行ったら、ついやってみたくなりそうですね(笑)


オーガスティン・フリッゼル監督「でしょ? 私は人生ずっとテキサスに住んでいるから、電動の闘牛に乗ったことはないんですけどね(笑)」





――とてもパーソナルな作品ですが、カタルシス的な効果はありましたか?


オーガスティン・フリッゼル監督「そうですね、そんな感じです。とても長い時間を費やして書いた物語なので、ようやく完結して、人生の一つの章から前進することができてよかったです。それに、あのような奇妙な子ども時代を過ごしたことが、いかに幸運だったかということも、改めて認識させられました。それが私のアートの原動力となり、アートがキャリアの原動力となったからです。そしてラッキーなことに、今ではキャリアを積んでいます」


――10代の頃の親友には映画を見せましたか?


オーガスティン・フリッゼル監督「彼女はとても誇りに思ってくれています。映画業界とは無関係な人なので、『知ってる? あの映画は私のことで、私の人生に基づいているんだよ』とか言っています(笑)」





――A24の映画は日本でも人気なのですが、彼らとの仕事はいかがでしたか?


オーガスティン・フリッゼル監督「素晴らしかったです。夢のようでした。このような映画にとって他の目標はあり得なくて、とにかくA24と組みたいものなんです。彼らはユニークな視点をサポートし、擁護してくれる会社です。私は女性のストーナーコメディや女性が主人公の物語に、これまでとは異なる視点をもたらしたいと思っていました。自分は本当に恵まれているなと感じています。私はA24の映画が大好きで、ずっと大ファンでした。いつも新作が楽しみなんです」


――私も同じです。


オーガスティン・フリッゼル監督「ですよね! 彼らはフィルムメーカーのことを高いレベルで信頼してくれて、そこがとてもエキサイティングだと思います。リスクを恐れないんです。私たちはそのリスクが報われるのを、何度も何度も目にしてきました。彼らは良い作品を手掛け、観客を魅了し、会話を変えることができるんです。それって本当にエキサイティングなことですよね」





――10代の頃の思い出を本に書こうと思ったことはありますか?


オーガスティン・フリッゼル監督「書くべきですよね。いつか書くかもしれないです。何かを経験しても、それを豊かな視点で振り返ることができるようになるまでには、時間がかかります。だから、わからないけれど、30年くらい経ったら本を書くかもしれません。その頃までには、何かポジティブな違いを生み出すことができたらいいのですが」


――監督の娘さんは、この映画を観ることができる年齢なのですか?


オーガスティン・フリッゼル監督「実は出演しているんです!(笑) 生意気なクリスタルという役を演じています」


――そうだったんですね。映画については何と言っていましたか?


オーガスティン・フリッゼル監督「とても気に入ってくれました。子どもの頃から聞かせていた話なので、娘はすべてを知っていて、面白がってくれました。クリスタルは娘とは真逆なキャラクターなので、すごく生意気でビッチーな役をとても楽しんで演じてくれました(笑)」


――もうすぐ日本でも公開されますが、今はどのような気分ですか?


オーガスティン・フリッゼル監督「ワクワクしています。すごくうれしいです。1時間半、とにかく楽しんで、夢中になっていただけたら。あまり深刻に考える必要はありません。学ぶべき教訓はないし、この物語には道徳もありません。これはただ、2人のクレイジーな10代の少女が過ごした数日間の出来事で、もし何かあるとすれば、共感してもらえるといいなと思っています。決して共感を求めているわけではないけれど、自分とは違う人生を歩んでいる人たちに、どこか少し共感してもらえたらうれしいです」





text nao machida



『Never Goin’ Back / ネバー・ゴーイン・バック』
12月16日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開
https://nevergoinback.jp/

監督:オーガスティン・フリッゼル
出演:マイア・ミッチェル、カミラ・モローネ、カイル・ムーニー、ジョエル・アレン、ケンダル・スミス、マシュー・ホルコム、アティーナ・フリッツェル 【2018年/ アメリカ / 英語 / 86分 / カラー / シネスコ/ 5.1ch / 原題:Never Goin’ Back / 日本語字幕:安本 熙生】
配給:REGENTS 提供: REGENTS、AMGエンタテインメント
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