NeoL

開く
text by Baihe Sun

イン・ルオシン監督『シスター 夏のわかれ道』インタビュー/Interview with Director Yin Ruoxin about “Sister”




看護師として働きながら、医者になるため北京の大学院進学を目指すアン・ラン。ある日、疎遠だった両親が交通事故で亡くなり、会ったことのない6歳の弟・ズーハンが彼女の前に現れる。望まれなかった娘として早くから親元を離れたアン・ランは、待望の長男として愛情を受けて育ってきたズーハンの面倒をみることになるが、望む未来のために弟を養育することはできないと判断する。
一人っ子政策の中、望まれない子どもとして扱われた女性の人生と決断、そして未来を、過去の女性たちの生き様と照らし合わせながら見事に描き切り、中国で大きな世論を呼び起こした『シスター 夏のわかれ道』(原題『我的姐姐』/英題『Sister』)。イン・ルオシン監督が本作で伝えたかったことは何か、どのような感情を持って作り上げたのか話をうかがった。(→ in English)



――まず、なぜ映画のタイトルに『我的姐姐』という言葉を選んだのですか。この映画で『姐姐』とは何を指しているのか、母性と切り離した少女と女性の成長の記録として描いていることについて教えてください。


ルオシン「タイトルについてクルーと話した際、兄弟や叔父、父という呼称がその人物を男性だと示すように、『姐姐』とはキャラクターの性別を明示するアイデンティティであると考えました。私たちは、この映画の主体が“女性”であることを明確にしたかったのです。そして観る人に、この姉とは一体どんな女性で、どうなっていくのかと考えて欲しかった。キャラクターの成長はあるのか、それとも環境のために自分を犠牲にする姉という古い物語の1つになるのか、と。だからこそ、主人公の性別を隠さないタイトルにしたかった。これはある1人の女性の物語なのですから」





――この映画では、アン・ランと彼女の伯母、つまり2世代にわたる姉が、それぞれの人生を歩み、選択をしています。(中国という)特定の文化的、歴史的背景を基に、映画的な言語を介してストーリーを伝えるために苦心したことなどはありましたか。


ルオシン「プロセス全体を通して不思議な感覚がありました。アン・ランと伯母はお互いを映し出す鏡のようで、いくつかの類似点や重複する点がありますが、全く異なる人物です。ですが、どちらのキャラクターについても非常に考えさせられました。自分の人生の一部であり、日常生活の一部である母、祖母、そして私の周りの女性たちのことを思い起こさせられたのです。私自身の姿をこの2人のキャラクターたちに見つけることができましたし、彼女たちのような人は現実に存在しています。
私たちは自分たちが実際に見たことや感じたことを映画を通して伝えたかった。100日足らずの物語の中で、アン・ランの現実の問題やそこへの向き合い方をまとめ、これらは実際に日常生活で起きている出来事だと伝えたかったのです。彼女は、姉とは何か、姉は何をすべきかを考え、身の回りの出来事にセンシティヴになっているーーアン・ランが遭遇するすべての出来事は『姐姐』というタイトルに回収されています。観る人にとって、アン・ランは近所の少女のような身近な誰かを思い起こさせる人物であって欲しかった。路上で見かけるけれど、その人生に何が起こっているのかわからない。彼女の人生を見ているけれど、入り込むことはできない。それが私のキャラクターに対する最初の視点です。その視点を保つため、脚本を何度も練り直しました。それはとても難しい作業でした。しかしこの映画に対しての理解、そしてこの映画を何のために作るのかという共通認識ができたことで、撮影をよりスムースに始めることができたと思います」





――弟や叔父という男性のキャラクターが物語を構築するうえで果たした役割も興味深いですね。


ルオシン「これらの男性キャラクターをつくる上でチャレンジングだったことは、すべての人が様々な側面を持っているという考えのもとに、物語の中でできるだけ多くその側面を描写しようとしたことです。単純に善悪にするのではなく、キャラクターのすべてをレイアウトして人間らしくしたかった。どのキャラクターも1人の人間として認識されるようにしたかったのです。もちろん、映画の中の役割についても考えました。叔父は、私たちの知る“叔父”によく似ています。誰もが(中国文化の中で)このような叔父を知っています。叔父は、問題への対処の仕方を知っていて、その行動には自分なりの理由があるという非常に複雑な人です。一方で、弟は成長の途中であり、保護を切望していることなどが彼の人格形成に影響を与えています。彼はまだ男性ではなく、姉が彼のもとを去るのかどうか、誰か彼の面倒を見ることができるかどうかを見極めたいという本能的な必然性に駆られて行動しています。小さな子どもが持つ、純粋かつ単純なニーズによるものです。ストーリーを作っていたとき、この映画が現実から離れることなく、その半歩だけ先を行くように願いました。だからアンランの弟を描くときも、彼自身の行動にそのキャラクターの特徴を委ねかったのです。私はキャラクターの構成は、彼らが人間であるという目線になって行うことがルールだと思っています」





――この映画には、怒り、悲しみ、希望、絶望など女性の感情が詰まっています。物語の中で、特にアン・ランと伯母を描くとき、これらの曖昧で深い感情をどのように表現しましたか。


ルオシン「私たちは四川省の成都で撮影を行いました。映画の登場人物には、自分の感情に正直で、優しく思いやりがあるという、そこで育ち、住んでいる女性の特徴を反映していると思いますし、アン・ランの伯母の演技にはそのすべてが顕在しています。私たちの作品では女性の怒り、悲しみ、痛み、苦悩を取り上げることが多いのですが、それは女性には、自分のことを考える余地が残されないにもかかわらず、近年、映画でそうしたことが議論されることがほとんどないからです。
私たちは、アン・ランと伯母の人生を合わせ鏡のようにして見せたかった。伯母は自分の過去を思い浮かべながら、時代が変わったこと、アン・ランが同じ選択をする必要がないことを理解するのです。アン・ランへの接し方には、彼女自身の成長も窺わせるものになっています」





――最後に、なぜアン・ランはあのエンディングを選んだのか。また、今日の女性の自立とはどういうものだと思っているかを聞かせてください。


ルオシン「エンディングについては、できるだけリアルなものになるように考えました。25歳の姉がわずか100日間で決断を下せる方が不自然ですよね。養子縁組の家族から二度と弟に会えないと告げられたとき、彼女は戸惑ったと思います。彼女はわずか数日で弟と絆を築き、親密な関係になりました。両親と一緒にいられなかった彼女は、弟との関係から家族のあたたかさを得ていて、離れたくないのは当然なんです。
誰にとってもですが、特に女の子にとって、自分が感じている気持ちが正当なものであると理解することはとても重要です。私がアン・ランを好きなのは、彼女が伯母と叔父、そして弟を断ち切らないところ。コミュニケーションを取るのは簡単ではないし、対立することも多いですが、彼女は自分の気持ちや考えを伝えることをあきらめません。彼女はボーイフレンドとの親密な関係から成長しますが、その出来事は彼女が自立した女性になるためのさらなる力になっていて、前に進み、決断を下す勇気を与えてくれます。それぞれがより深く関わり合いながら多様な形で自己を追求することで、自由でありながら愛されることが可能になるのだとエンディングで示したかったのです」




text Baihe Sun(https://www.instagram.com/niuniu_sun/




『シスター 夏のわかれ道』
11月25日(金) 新宿ピカデリー、 ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋ほか全国公開
https://movies.shochiku.co.jp/sister/
監督:イン・ルオシン 脚本:ヨウ・シャオイン
出演:チャン・ツィフォン、シャオ・ヤン、ジュー・ユエンユエン、ダレン・キム
2021年/中国語/127 分/スコープ/カラー/5.1ch/ 原題:我的姐姐/日本語字幕:島根磯美 配給:松竹
© 2021 Shanghai Lian Ray Pictures Co.,Ltd. All Rights Reserved

1 2

RELATED

LATEST

Load more

TOPICS