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text by Daisuke Watanuki
photo by Kotetsu Nakazato

『シャイニー・シュリンプス!世界に羽ばたけ』セドリック・ル・ギャロ&マキシム・ゴヴァール監督インタビュー




フランスに実在するゲイの水球チーム「シャイニー・シュリンプス」をモデルに、仲間の絆と成長を描いたロードムービーの第二弾『シャイニー・シュリンプス!世界に羽ばたけ』が、10月28日(金)より公開される。今作でチームメンバーは“LGBTQ+の五輪”ともいわれる世界最大の性的マイノリティためのスポーツ・文化イベント「ゲイゲームズ」出場のために東京を目指すのだが、道中のトラブルで同性愛差別がはびこるロシアに滞在することになってしまう……。
お話を伺ったのは、実際のチームメンバーの一員でもあり、監督・脚本を務めたセドリック・ル・ギャロと、同じく監督・脚本のマキシム・ゴヴァールの両名。作品の発するメッセージから、日本のLGBTQ+シーンの印象までを語ってもらった。


ーー今作で「シャイニー・シュリンプス」(以下シュリンプス)のメンバーはロシアで立ち往生してしまいます。ロシア支配下のチェチェン共和国で行われたLGBTQ+への迫害、いわゆる「ゲイの粛清」は恐ろしい出来事として世界に衝撃を与えました。ロシアも「同性愛プロパガンダ」禁止法があり、命の危険にまでおよぶ激しいゲイ差別があるといわれています。ロシアでのLGBTQ+の状況を描くと決めた理由はなんだったのでしょうか。


セドリック「前作では同性愛者を嫌っていたコーチであるマチアスというキャラクターが、シュリンプスメンバーの中に投げ込まれてどう変わっていくのかということを描いた物語でした。その続編として、シュリンプスが国家ぐるみでLGBTQ+に対する弾圧を行っている環境に置かれたらどういう行動に出るのだろうということを語りたいと思ったんです。そのときにロシアという国が浮かびました」


マキシム「前作は社会的なコメディですが、今作はアドベンチャーコメディでもある。ジェームス・ボンド的な冒険要素も入れながら、きつい環境の中で彼らがどういう立ち居振る舞いをするかを描きました」



ーー同性愛者を矯正する「救済プログラム」の実態は人権侵害そのものです。しかし、その国を支配している価値観のなかで生きなければならないとき、自ら矯正されることで救われたいと願ってしまう当事者の気持ちもひしひしと伝わってきました。ロシアのように同性愛者への弾圧がある国のセクシャルマイノリティの方々やLGBTQ+コミュニティへはどういう言葉を送りたいですか?


セドリック「さまざまな形で現れるホモフォビアの中でも1番深刻なのが、当事者自身の中にあるホモフォビアだと思っています。この世界の大多数の人がヘテロセクシュアル(異性愛者)であるなかで、少数者であることは大変つらいことです。自分でも受け入れるのが難しいと思います。気持ちはとてもわかるのですが、それもホモフォビアの種だと自分は思っています。たとえば自分のマイノリティ性に気づく際、それが肌の色ということであれば自分の肌の色を見ればすぐにわかることだけれど、同性愛者であるというのは自分でも気づきにくいものなのです。それがわかったときに、どう受け入れていくかが1番重要だと思っています。劇中に出てくる更生施設というのは本当に世界で実在するものです。なかには本気で同性愛は病気だと思っている人もいます。しかし現代ではWHO(世界保健機関)や米国精神医学会をはじめ世界中でさまざまな見解が出されているように、これは本当に病気ではないし、だから治療して治るものでもありません。大切なのは、自分のセクシュアリティを100%受け入れること。それをマイノリティの方々に伝えたいです」


マキシム「全く同じ意見です。そして差別や弾圧の中で立ち向かうには、『連帯』が必要になってくると考えています。 本作のシュリンプスたちも、みんなで協力して連帯するからこそ、難局を乗り越えていきます。セドリックは実際の水球のチーム(シャイニー・シュリンプス)に所属していますが、メンバーはセドリックにとって本当に家族のような存在です。血縁関係がなかったとしても家族になれるし、一緒に連帯できる。私たちの世界には違いがあるのが当たり前で、違う人たちがどう共存するかというのを、連帯を通して実現していくことが大事だと思います」








ーー今回のシュリンプスのメンバーたちが目指すゲイゲームズの開催地として、日本が出てきます。日本については、どういうイメージを持たれていますか。


セドリック「今作は日本の配給会社が共同制作者として参加してくれており、脚本の段階からいろいろと意見をもらっていました。そこで、日本で撮影をするのはどうかというアイデアが出て、東京を舞台にすることが決まったんです。新型コロナウイルスの影響で東京での撮影は実現さえできませんでしたが、設定はそのまま残しています。撮影が日本でできなかったのは心残りだし残念なことでしたが、こうしてプロモーションで日本に来れて嬉しく思っています」


マキシム「自分たちフランス人にとって日本はとても遠い国ですが、インパクトがある国だなと思っています。伝統を大事にしながらも、ものすごく奇抜なものが存在しているコントラストが、自分たちの興味を引いています。LGBTQ+の話をするときに、日本が舞台になるというのはとても合うのではないかと思いました。今回、新宿2丁目で映画の試写会も行います(10月7日開催/終了)。この界隈は世界の中でもLGBTQ+のバーが多い地域だと言われているので、すごく楽しみにしています。 また、実際には次回のゲイゲームズは香港で行われることが決まっているので、映画の設定もアジアにしたいという気持ちは最初からありました」


ーー日本に対していいイメージを持っていただけて嬉しいです。しかし一方で、残念ながらLGBTQ+などマイノリティの基本的な人権や平等が保障されているとは言えないのがこの国の現状です。G7各国の中で、完全に同性婚を認めていないのは日本だけ。 LGBTQ+差別を禁止する法律すらありません。実は“LGBTQ+フレンドリー”とはいえない状況にあります。


セドリック「同性婚が認められていないのは今の話で、今後はまだわからないですよね。2013年にようやく同性婚が認められたフランスの例を考えると、やはり法律化するということは思っている以上に大事なことです。法律になることでみんなの意識がこれは当たり前のことなんだと変わっていくので、バカにはできない。同性婚を認めたり差別を禁止することが法律に書かれることで、社会に寛容さも広がると思います。ただ実際にフランスでは同性婚を認めたことで、反対運動も激化しました。今まで反対デモなんて見たこともなかったのに、 実はこんなにホモフォビアの人たちがいるということが可視化されたんです。いい方に動いたと思っていたけれども、悪い方の動きも目立つようになりました。それでも結果的に考えると当然ながら法律で認めていくのが望ましいので、デメリットがあるにしても進めていった方がいいと思います」


マキシム「東京はそれぞれの人が自分のアイデンティティに沿った格好が自由にできる街。外国人として外から見てきた印象と、実際に日本でインタビューを受けてきたなかで感じた印象では、日本はLGBTQ+についてとても好意的に受け入れてくれていると感じました。お会いする方々がただの好奇心で接してくれている側面もあるかもしれませんが、社会はいい方向に変わってきているのではないかなと思います。実はLGBTQ+の権利を保証する法律が日本で定められていないということは今はじめて知りました」


セドリック「東京の町を歩いていて、同性愛者だとわかると身体的な暴力や攻撃を受けたり、バカにされるということはありますか?」


ーーロシアほどではないですし、街を歩いていて身体的な暴力を受けるということはあまり聞いたことがありません。しかし、ネット上ではトランス女性への差別煽動が激化していたり、与党の政治家は同性愛者に対する差別発言を繰り返し行っています。


セドリック「フランスだと同性婚が認められているのに、道を歩いてると暴力を受けることも本当にあります。両極端のものが存在していますね」



ーー劇中でセリームという登場人物がフランスの田舎の方でのゲイ差別や迫害の苦悩を語っていましたが、日本でも人によっては同じ状況はあると思います。


セドリック「どこも同じですね」








ーーそんな状況のなかでも、シュリンプスの明るさやユーモアのある言動には救われました。どこに行っても、なにをされても、自分らしく生きることをやめない姿勢に勇気をもらう観客はとても多いと思います。シュリンプスの姿を通して監督が伝えたいことを改めてお伺いできますか?


マキシム「やはり連帯の大事さは伝えたかったですね。三銃士の有名な言葉に『一人はみんなのために、みんなは一人のために』というものがありますが、同じことが言えると思います。人々が連帯するために大事なのは、今こういう問題が実際にあるということを可視化していくこと。目に見えないとわからないことは多いです。はっきり可視化させることで、時間とともにみんな慣れていくという側面もあると思います。たとえ今の世代が受け入れられなかったとしても、自分たちがどんどん可視化していけば、みんなが同性愛は普通のこととして受け入れていくと思うのです。 LGBTQ+の問題は宗教と世代に関わってくるものなので、昔の世代の人は隠して言えない状況にあったと思いますが、徐々にみんなが慣れていけばカミングアウトもしやすくなるし、みんなも受け入れやすくなっていく。こうやって自分たちが映画をつくるのも可視化のひとつです。 みなさんも同じで、媒体で書くこともそうかもしれないし、音楽をつくることもそうかもしれない。さまざまな方法で可視化していくことが大事だと思います。その姿勢を見せていけば、次の世代はきっと変わっていくと思います」


セドリック「本作ではホモフォビアにはいろいろな種類があるということを1番みんなに伝えたかった。作品に実際に描かれているものでいうと、まずは一番シンプルな同性愛嫌悪。汚い言葉を吐かれたり暴力を振われたり、とにかく同性愛者を苦しめるような差別をする人たちです。そしてさらに深刻なのが、更生施設の所長の女性。 彼女は本気でよかれと思って、全く悪気がなく、同性愛という病気を治してあげようと思っている。これは意地悪や悪意を持っている人よりも面倒な状況にあります。優しく見えて、直接暴力を振るうわけでもなくて、助けようとしているけど、実際にははた迷惑なことです。そういうふうに無意識のうちに差別をする人もいる。そしてさきほど話したセリームのような、自分自身の中の同性愛を嫌ってしまう人。シュリンプスによって彼は自分が被っていた仮面を剥がすことができるようになります。自分を受け入れることで幸せになる。そのことはしっかり伝えたかったです」














photography Kotetsu Nakazato(https://www.instagram.com/kotetsunakazato/
text Daisuke Watanuki(https://www.instagram.com/watanukinow/



『シャイニー・シュリンプス!世界に羽ばたけ』
10月28日(金)より、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷、アップリンク吉祥寺ほか全国公開
監督・脚本:セドリック・ル・ギャロ、マキシム・ゴヴァール
出演:ニコラ・ゴブ、ミカエル・アビブル、デイヴィット・バイオット、ロマン・ランクリー、ローランド・メノウ、ジェフリー・クエット、
ロマン・ブロー、フェリックス・マルティネス、ビラル・エル・アトレビー、ピエール・サミュエル、ブリアナ・ギガンテほか
エンディング曲:ビッケブランカ「Changes」(avex trax)
2022年/フランス・日本/カラー/シネマスコープ/フランス語・ロシア語・日本語/原題:La Revanche des Crevettes Pailletées/字幕翻訳:高部義之
提供・配給:フラッグ 宣伝:スキップ
公式サイト: https://flag-pictures.co.jp/shinyshrimps-movie
公式Twitter: https://twitter.com/shinyshrimps_jp
<STORY>最強のわたしたち”を世界が待っている!どんな時も、チームの絆で大ピンチを乗り越えろーー!
歌とダンスが大好きなお騒がせ水球チーム《シャイニー・シュリンプス》は、ゲイゲームズ出場のため開催地【東京】を目指す。⋯はずが、なんと乗り継ぎに失敗し、ゲイ差別が横行する異国の地で一晩を過ごすことに。危険な街だと知っていながら、それでも楽しい時間を過ごそうと夜の街に繰り出すメンバーたちは、やがて大騒動に巻き込まれてしまうのだった!さらに、メンバーそれぞれが抱える悩みや秘密も明らかになり、仲間の絆が試されることに。果たしてシャイニー・シュリンプスは、一致団結し、無事に東京にたどり着くことができるのかー

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