2021年に放送された、オダギリジョーが脚本・演出・編集を務め、警察犬ハンドラーと相棒犬を主軸に据えたサスペンス・ドラマ 『オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ』 (NHK総合)。出演陣の豪華さは言うまでもなく、予定調和を覆すスリリングな展開や鋭利なユーモア、細部まで徹底された衣装や音楽、カメラワークなど既存のドラマと一線を画す映像作品として多くの話題をさらった本作のシーズン2が9月20日(火)より放映決定。シーズン1から1年を経て制作され勢いを増したシーズン2について、狭間警察署所属の主人公・青葉一平を演じる池松壮亮、キーマンとなってくるスーパーボランティア小西を演じる佐藤浩市に話を聞いた。
――シーズン2ではオダギリさんのやりたいことがより爆発していた印象で、ストーリー展開はもちろん様々な演出や仕掛けもとても刺激的でした。
池松「シーズン2は物語の中では10日後の設定なんですが、実際の撮影と放映には1年という間が空いていることでいろんなミッションがあったと思います。(シーズン1の)反響を受けて、何がさらにパワーアップできるのか、アップデートできるのか、より楽しんでもらうために、あるいはこの物語を終わらせるために必要なことはなにか。そうしたミッションが多かったからオダギリさんはすごく大変だったと思いますが、逆に反響と時間をうまく利用しながら各々がアップデートについて考えていけたような気がします」
佐藤「これはシーズン1のオンエアを観なければ、2の制作について最終的な結論が出ない作品。でもゴーが出たということは、世界観をより広げることもできるし、より突っ走ることができる。そこにオダギリ監督自身は苦心しただろうし、観ていただければわかると思うけど橋爪(功)さんが大変だったろうなあ、と(笑)」
池松「大変ですよね(笑)」
佐藤「さすが舞台60年の人だよ。そうした橋爪さんの世界観、我々の世界観、池松壮亮の世界観、オダギリの世界観、世代も個性もバラバラのそれぞれの世界観を面白がれるという、ものづくりの醍醐味がギュッと詰まっているものになっていると思いますね」
――おっしゃるように、演技に加え、そこにいらっしゃる演者のみなさんの器自体が求められている作品だと思います。
池松「器を試されていると思ったことは特にないですが、とても楽しくやっていました。オダギリさんといういつもは同じ立場の人が監督として居て、浩市さんや様々な俳優さんたちが作品と戯れてる姿を見ながら、みんなで面白がれる場所。普段やれないことをやれる場で真剣に遊んでいた感じがします」
佐藤「バーベキューのところはほぼミュージカルだったしな」
池松「“Power To The People”ですね(笑)」
佐藤「あそこまでみんなが真剣に熱唱するシーンでもなかったし、あんなに広がると思わなかった。あと、他人事ながらリフレイン台詞で感情を全部表現するのも大変だろうなあと。同じ単語で会話の全部を成立させていくというね」
池松「『え?』とか『押忍』の掛け合い、ありましたよね。現場で会う俳優みんなから『あの“え?”はもうやったの?』って訊かれて(笑)。実際あのシーンの撮影では、大体1分くらいでやってみましょうかと言われたんですけど、その1分は体感です。麻生(久美子)さんとお互いに『いつ終わるの? もういいのかな? まだかな?』と思いながら探り探りなんとかやりきりました。オダギリさんはすごくリズム感覚が強くあって、それが当然ドラマ自体のリズムにもなります。台詞のリズムもそうですし、音楽も、編集のリズムも、オダギリ節がかなり強いと思います。そういうリズム感覚ってお芝居とかやるとすぐわかるんですよ。浩市さんもすごく音楽的な人で、独特の、独自のリズムを持っていらっしゃる方だと思っています」
――真剣に遊べる現場ということでしたが、実はそういう現場ってあまりないんじゃないでしょうか。
池松「ありがたいなと思いますね」
佐藤「悪ふざけになったらアウトなんですよ、この手の作品は。そうなったらみんなに匙を投げられてしまう」
池松「そっちに振ることはすごく簡単で、寧ろトレンドのようにこの国の映像作品には多くあると感じます。でもそこをぎりぎりの俳優の品位をもって、みんなで真剣に遊ぶ。そういうことをやらせてもらえたなという気がします。
あとは土台にどれくらい時間をかけ、こだわり抜いて、そのうえで遊んでいるかはやっぱり大きなポイントかなと思います。こだわりと品位、どちらもオダギリさんらしいなと思いますね」
佐藤「うん」
――土台というところでいうと、本作はそもそもの舞台が「狭間県警」というように、動物と人間、真実と虚構などたくさんの狭間が出てきます。映像作品自体が狭間だと自覚したうえでそこも遊んでみせた作品ですが、このようにある種メタ的な視点を持った作品で演じる際は、いつもの役作りとはまた違った向き合い方になるのでしょうか。
池松「難しいですね。オダギリさん自身がイマジンを強く持っている方でしょうし、イマジンの世界をやるというのは今回の作品のミッションだったかなとは思いますね。かといって、それをどれくらい意識してたのかと言われるとどうなんだろう……。イマジンの中でリアリティを感じながら生きること。遊ぶこと。そんな感覚はありました」
佐藤「これは非常に微妙な問題で、全く人間じゃなかったらばただの絵空事だけの世界になってしまうし、あまりにリアリズムを追求した中で考えてもそれが果たしてどれほどの意味を成すのかとなる。その塩梅ですよね。そのバランスも含めて、さっき言った遊び方の真剣さ、そういったことが求められるわけで」
――なるほど。池松さんは制作にもご興味があると思うのですが、今作で制作面での発見もありましたか。
池松「監督だけをやっている方とはまた感覚が違いますし、俳優が監督をやるというのは面白いなと思います。俳優というのは監督よりもスタッフよりも多くの現場を経験できるんですよ。そこで見てきたこと、多くの物語を体感してきたうえで物語世界を作ることは、演出に対しても、現場に対する小さなこだわり一つとっても、やっぱり普通の感覚とは違う俳優ならではのものがあるような気がします。もちろん俳優だけの感性では監督は絶対に務まらないんですが」
――そこは佐藤さんも感じられましたか。
佐藤「うん。それと、 これはオダギリジョーじゃなければできなかったキャスティングなんですよ。微に入り細に入りね。そうでなければ受けなかった人もいるかもしれない。なおかつこのキャストが成立した後に、あの最後のシーンですよ。『どうやってスケジュール組むんだ!?』ってチーフの助監督が頭をかきむしって叫んでる姿まで思い浮かぶんです(笑)。それも含めて他の監督にはできないことだから、 いいじゃねえかって」
池松「本当にそうですよね(笑)」
――オダギリさんでなくては成り立たなかった。
佐藤「成り立たなかった。それはやっぱり役者であるオダギリが続けてきた自分のキャリアやさまざまなこと、シーズン1も含め、そういった全てに整合性がとれたからだと思います」
――お二人は『陽はまた昇る』(2011)での初共演を果たされていますが、今作でもまた違った側面をご覧になったりしましたか。改めて、お二人の関係についても聞かせてください。
池松「浩市さんは僕にとってものすごくご縁がある方で、俳優人生の折々で何度もお会いして、その度にものすごく刺激を受けています。会っていない時でも浩市さんのお芝居や仕事ぶり、遊び方も含めて一つ一つの選択を日々見せてもらっている様に感じます。出会った頃からいわば心の師匠のような感覚があります」
佐藤「いやいや、まだ生きてるから(笑)。池松は離れて見ていてもいい意味で『この人は大丈夫だな』と思える人。どういう作品をチョイスしていくんだろう、何をやってくんだろうなって中で、非常に堅実な部分とそれを壊したい池松がいたり。そういった葛藤の中で非常にいいキャリアを積んでる役者さんなので、去年久々に全くタイプが違う3作品を一緒にやって、中でも『オリバー』なんて一番難しいものをやっている池松を見てて楽しかったですよ」
――キャリアについてのお話をされたりすることもあるんですか。
佐藤「あんまりないよな」
池松「具体的にはないかもしれないですね。でも浩市さんがふと言う言葉が自分の体の中に残る、引っかかりや宝物をその都度もらっていると感じます。出会いとなった10年前の『陽はまた昇る』では役柄上の関係性も加味して、浩市さんと一切喋らないと決めていて。佐藤浩市さんと共演出来たからには訊きたいことはたくさんあるし、学校にも佐藤浩市さんと共演するから単位くださいと言って長期間休むことを許してもらったくらいなんですけど、ずっと観察してるだけで喋らなかったんです。それから1年後に久しぶりに会った時に『壮亮、なんか険がとれたな』と言われて、ドキッとして。あんな生意気だった自分のことを見てくれてたんだなあと感動しました。あえて訊いたり相談したりはしないかもしれないですが、その生きている様、俳優人生をその姿でいつも見せてもらっているように思います」
――佐藤さんはご自身のキャリアと重ねてご覧になったりすることもありますか。
佐藤「いやあ、それはみんな人それぞれなんだよね。ただ一つだけ言えることは、いい出会いがあるかどうか。人、本(脚本)、作品との出会い。ちゃんと出会いがあるとその後やっぱりグッといい方向に行くんです。でもどんなに才能があったって出会いがない人もいれば、残念ながら出会ってることに気づかない人もいる。そういう中で、壮亮は世代は違っても『ここは俺はこうならないかもしれないから、こんな感じにするわ』ってポンッと投げられる」
――役者としての信頼がある。
佐藤「うん、それはもう信頼をおけますよ」
――佐藤さんは昨年音楽活動を始められ、今年初めて短編映画(『IMPERIAL 大阪堂島出入橋』)にも出演されました。今は新しいことにチャレンジされているタイミングなのでしょうか。
佐藤「チャレンジしてるわけじゃないけど、なんかそうなってしまったというか。歌うのも恥ずかしくて嫌だったんだけどなんとなく流れでそうなっちゃって、短編映画も原田芳雄さん家の飲み会で会った三島(有紀子)監督と出る約束をしてしまった。まあ、すべからくそういうこと。自分がどうこうではないところでなにかうまいこと転がっていくというか回っていく。その中で自分が遊べるかどうか」
――では今仕事を選ぶ際の基準は遊べるか、楽しいか?
佐藤「やっぱり 楽しい楽しくないが一番。あとは、こんなことをやるのかという驚きがあるかどうか。もうキャリアとしては晩年期だからね。そういう中で自分がある程度楽しめる、遊べる。そして誰かがやると言うんだったら、おう行くよと言える。当然池松が監督をやると言うんだったら『おう、行く行く。そのかわり3シーンだけな』って」
池松「忘れませんからね(笑)」
佐藤「そういうことを含めて、それが当たり前にできるというのがこの60代で叶うのであれば、恵まれたなと思いますね」
――池松さんは今ご自身的にはどう言うタイミングだと認識されていますか。
池松「どうなんでしょう。やっぱり転換期ですし、時代の変わり目ですから、どういう一手が必要なのか迷ってはいますね」
佐藤「なんかエポックなものがほしいよな」
池松「エポックなものがね。やっぱり世界への再生というか。どうアップデートしていけるかというか。この世界も、映像の世界も停滞している中で新しいものを求められてますし、そこになにができるのかはずっと考えています。そういう時に浩市さんが、『役者唄』とかいろんなことをやられているのを見て、そんなに軽やかに遊んでいいんだ、新しいとか古いとかそんなことじゃないんだと考えさせられたりしています。自分ももっともっと自由に色々チャレンジするべきだなと思わされることが多いですね」
佐藤「こんなこと言っちゃ申し訳ないけどね。自分が過ぎたことだから忘れてたけど、あと5年くらいが一番大変な時期なんだよ」
池松「なんで今そんなこと言うんですか(笑)」
佐藤「41、42歳までが、どういう風なことが自分でできるんだろうかといういろんな可能性もあるし、いろんなことがあるってことで、一番大変だったって今思い出した」
池松「ヤダヤダ、怖い。他の人に言われても流せるけど浩市さんの言葉は無駄に残るので」
佐藤「ごめんな、無駄に残らせて」
池松「ありがとうございます、頑張ります(笑) 」
photography Yudai Kusano
hair&make-up FUJIU JIMI(Sosuke Ikematsu)
hair&make-up Kumi Oikawa(Koichi Sato)
Styling Yoshiyuki Kitao(Koichi Sato)
text Ryoko Kuwahara
ドラマ10 『オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ』 シーズン2
【放送予定】4話9月20日(火)・5話27日(火)・6話10月4日(火)
午後10:00-10:45(NHK総合)
<再放送> 9月27(火)・10月4日(火)・11日(火) 午後3:10-3:55(NHK総合)
※全エピソードをNHKプラスでも配信。
【脚本・演出・編集】オダギリジョー
【制作統括】柴田直之(NHK) 坂部康二(NHKエンタープライズ) 山本喜彦(MMJ)
【出演】池松壮亮、オダギリジョー、永瀬正敏、麻生久美子、本田翼、岡山天音、玉城ティナ、くっきー!(野性爆弾)/永山瑛太/川島鈴遥、佐藤緋美、浅川梨奈/染谷将太/仲野太賀/村上虹郎、佐久間由衣、寛一郎、千原せいじ(千原兄弟)、河本準一(次長課長)/高良健吾/坂井真紀、葛山信吾、火野正平、竹内都子、村上淳、嶋田久作、甲本雅裕、鈴木慶一/國村隼/細野晴臣、香椎由宇、渋川清彦、我修院達也、宇野祥平/松たか子/黒木華/浜辺美波/濱田マリ、シシド・カフカ、河合優実、佐藤玲/風吹ジュン/松重豊、柄本明、橋爪功、佐藤浩市 ほか
※葛山信吾さんの「葛」の下の「人」は正式には「ヒ」です
【音楽】森雅樹
【主題歌】「TheHunter」(EGO-WRAPPIN’)
【制作】NHKエンタープライズ
【制作・著作】NHK、MMJ
※公式Instagramアカウント:https://www.instagram.com/nhk_oliver