アジア各国で大ヒットを記録したタイ映画『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』のバズ・プーンピリヤ監督による新作『プアン/友だちと呼ばせて』が8月5日に日本上陸する。製作総指揮を務めるのは、『恋する惑星』や『花様年華』など数々の名作を手がけたアジアの巨匠ウォン・カーウァイ。プーンピリヤ監督の才能に惚れ込み、「一緒に映画を作ろう」と自らオファーしたのだとか。カーウァイの助言を受け、監督が自身の経験を投影したという本作は、余命宣告を受けた青年ウードと元親友のボスを主軸に描くロードムービー。人生の終わりを前にしたウードが疎遠だったボスに運転手を依頼し、元恋人たちを訪れる旅に出るところから物語がスタートする。オーディションを勝ち抜いて主演に抜擢されたのは、タイのアカデミー賞でノミネートされた経験のあるトー・タナポップと、テレビシリーズで人気のアイス・ナッタラット。日本公開を前に、若くして死を目前にしたウードという難役を演じたアイス・ナッタラットにリモート取材を行った。
――『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017)のバズ・プーンピリヤ監督の最新作で、製作総指揮は世界中の映画ファンから愛される名匠ウォン・カーウァイということで、タイでも注目の大きな作品だったと思います。まずは本作に出演することになった経緯をお聞かせください。
アイス・ナッタラット(ウード役)「最初にバズ・プーンピリヤ監督からオーディションのお誘いの連絡をいただきました。その時点では、プロデューサーがウォン・カーウァイさんだということは知らなかったんです。僕はバズ監督と仕事をしたいと思っていたので、喜んでオーディションを受けました。受かってからウォン・カーウァイさんがプロデューサーだと知ったので、すごいサプライズとなりました。とてもうれしかったです」
――プレッシャーはありましたか?
アイス「そうですね。役者として、いろんなことが求められる役だなと思いました。たとえば、過去のシーンも演じなければならないし、ウードはがん患者なので減量しなければなりませんでした。それに演技中は、どのシーンでも撮影テープをチェックされているんだなと意識していたので、プレッシャーは感じていました。でも、役になりきるために十分な準備をしていたので、自分が演じているとか、演技を誰かに見られている、といった意識はだんだん薄れていきました。役を表現するために自分の感情を爆発させて、その世界に入り込むことに一生懸命だったので、いつの間にかプレッシャーは消えていました」
――ウード役は肉体的にも精神的にも難しい役です。死を目前にした人物を演じる上で、特に意識したことはありますか?
アイス:ウード役を演じるにあたって、がん患者についてたくさんのリサーチをしました。年齢的にも、死が近づいているという設定が自分の人生に結びついていなかったので、実際に病院に行って、がん患者さんにお会いさせていただきました。それから、偶然なのですが、バズ監督の親しい友人のロイドさんという方が、末期がんを患っていたんです。僕はロイドさんからも多くを学ばせていただいて、ロールモデルのような存在になっていただきました。がん患者の気持ちをどう表現すればいいかなど、役としての視点をたくさんいただきました(※監督は映画の完成前に亡くなったロイドさんに本作を捧げている)。また、減量したことによる体の変化が、演技にも影響を与えました。僕はかなり痩せたのですが、それによって話し方や仕草、身体的な特徴や声の出し方などが自然と変化していったんです。どういう風に話そうかとか、どういう所作にしようと考える必要がなくなって、そのままの自分で、目の前にいる相手に対して演技に集中することができました。
――劇中でウードが訪ねる元恋人たちは、監督の元恋人たちがモデルになっているそうですね。ウードには監督自身が投影されている部分もあるのかなと思ったのですが、この役を演じるにあたって、監督とはどのようなお話をされましたか?
アイス「監督にとって、この映画がとてもパーソナルな物語であるということは知っていました。でも、脚本についての相談はしたのですが、特に個人的な話はしなかったんです。監督からは、元恋人についての話ではなく、父親に対して伝えたいメッセージについて色々と教えていただきました。監督のプライベートな一面を描いた作品なので、自分は目一杯時間をかけて、この物語を伝えるお手伝いをしたいと思いました。元恋人に会いに行くシーンでは、監督が僕の演技に対して、ここはそれでいいとか、ここはそうではないとか、明確に教えてくれました。もちろん僕の解釈もあるのですが、私的な物語なので、監督が正しい方向に導いてくれたおかげで撮影はとてもスムーズに進みました」
――ウードとボスの旅が進んでいくにつれて、後悔せずに生きること、人を許すことなど、人生について多くを考えさせられました。アイスさんは本作に出演したことで、人生観や死生観に何か変化はありましたか?
アイス「ウードを演じる前は、死についてまったく考えていませんでした。でも、本作でがんを患った人の気持ちを理解しようとしたことによって、クランクアップした後は、死生観や人生観に影響を受けたように感じています。過去の自分を振り返ってみたりもしたのですが、一番大きいのは、これからどう生きていこうかと考えるようになりました。それがこの役を通して得たことだと思います」
――映画を観ていると、ウードとボスと一緒にロードトリップしているような気分になって、タイの美しい景色を楽しむことができました。各地での撮影で、特に思い出に残っていることはありますか?
アイス「撮影自体よりも、舞台裏での思い出があります。たとえばニューヨークでは、トーと同じ部屋に泊まっていたんです。一緒に生活することによって、もっと仲良くなるために行われたことで、ブートキャンプみたいな共同生活でした(笑)。その生活を通して生まれた親しさが演技に活かせたと思いますし、トーとのとても良い思い出になりました」
――もうすぐ日本でも公開されますが、今のお気持ちは?
アイス「役者をしていて、まさか今日のような日が来るとは思っていませんでした。こんな風にオンラインで日本のメディアからインタビューされるなんて、想像もしていなかったんです。だから、どう感じるかと聞かれても、どう感じていいかわかりません(笑)。実は僕はもともと日本が大好きで、毎年日本に行くことを目標にしていました。自分の出演作が日本で公開されるなんて、本当にうれしいです」
――今後の予定は?
アイス「今はタイでドラマを撮影中で、おそらくNetflixで観ていただけると思います」
text nao machida
『プアン/友だちと呼ばせて』(原題:One For The Road)
公式HP:https://gaga.ne.jp/puan/
2022年8月5日(金)新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、渋谷シネクイントほか全国順次ロードショー
監督:バズ・プーンピリヤ
出演:トー・タナポップ、アイス・ナッタラット、プローイ・ホーワン、ヌン・シラパン、
ヴィオーレット・ウォーティア AND オークベープ・チュティモン
配給:ギャガ
Twitter:@puan_movie
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【ストーリー】
NYでバーを経営するボスのもとに、バンコクで暮らすウードから数年ぶりに電話が入る。ガンで余命宣告を受けたので、帰ってきてほしいというのだ。バンコクに戻ったボスが頼まれたのは、元恋人たちを訪ねる旅の運転手。カーステレオから流れる思い出の曲が、二人がまだ親友だったころの記憶を呼び覚ます。忘れられなかった恋への心残りに決着をつけたウードをボスがオリジナルカクテルで祝い、旅を仕上げるはずだった。だが、ウードがボスの過去も未来も書き換える<ある秘密>を打ち明ける―。