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text by Daisuke Watanuki

「政治的発言をするハードルはもっと低くなるべきだろうと思います」
『決戦は日曜日』坂下雄一郎監督インタビュー




窪田正孝と宮沢りえの初共演作『決戦は日曜日』が1月7日に全国公開される。本作は、ことなかれ主義の議員秘書・谷村勉と、病に倒れた父に代わり出馬する政界に無知で熱意空回りな新人候補者・川島有美の選挙活動をシニカルに描いたポリティカルコメディ。麻生太郎のあの失言、小泉進次郎構文……この数年で実際に日本で起きていた政治に関する小ネタをパロディとして組み込むことで、随所でクスッと笑ってしまう作品に仕上がっている。監督は『東京ウィンドオーケストラ』『ピンカートンに会いにいく』を手掛けた坂下雄一郎。約5年の月日を掛けて書き上げたオリジナル脚本を自ら映画化したものだ。ではなぜ今、政治をテーマにしたコメディを創作しようと思ったのか。他人事とは思えない内容に込めた想いを監督に伺った。


ーーコメディと現実とのバランス感が絶妙で、本来、政治は継続的にウォッチすると非常におもしろいコンテンツだということを再確認することができた作品でした。今回の題材として政治を選んだ理由はありますか?


坂下雄一郎監督「この企画をスタートさせたのは4、5年前でした。映画の企画を考える際に、知らない世界をリサーチし、そこで働いている人を題材にしたいとは思っていたんです。そこで目をつけたのが議員秘書という仕事。今はそうでもないですが、当時はまだ政治や選挙を題材とした作品がそんなに頻繁にあるわけではなかった。それに、政治といっても議員本人の物語ではなく、スタッフ側の視点から描くとさらにおもしろくできるのではないかと」


ーー『パンケーキを毒見する』『れいわ一揆』『なぜ君は総理大臣になれないのか』など、政治系ドキュメンタリー映画に近年スポットが当たっていた印象があります。そんななかでも、本作のように直接的に現在の政治をモチーフにするポリティカル・フィクションはまだまだ少ないと感じていました。


坂下雄一郎監督「日本だったらと考えるけどそうなのかもしれないですが、海外では普通にあるものですよね。そこに関する特別なことをやっている意識はあまりないです」





ーー政治を題材とした作品では、政府が悪く民衆が戦うというような作品をよく見かける印象があります。しかし本作ではさほど悪役がいるわけでもなく、強大な悪に立ち向かうような対立構造でもない。そのあたりは意識して作られたのですか?


坂下雄一郎監督「選挙を題材にしたいと思った時に、候補者を主役にはしないということは最初から考えていました。候補者を主役にすると、どうしても出てくる物事の対処法が正論になってしまう。あまり正論で突き進むようなタイプの映画にするよりは、題材が題材ですし、わりと体制側からみた考えや議論というものを伝えていったほうが自分の目指しているものに近いんだろうなということは漠然と考えていました」


ーー二世議員がメインというのも珍しいですよね。


坂下雄一郎監督「この人物像に関してはわりと最初の段階から決まっていました。無知な人物を描きたいという時に、二世議員とタレント議員はわりと定番だと思ったので」





ーーそれだけ二世議員=無知というイメージは一般的にあるということですよね。「地盤、看板(知名度)、カバン(資金)」を最初から持っている世間知らずの二世議員を、宮沢りえさんが演じられていたことには驚きました。


坂下雄一郎監督「ものすごいスターの方であり、本当に居るのだろうかという浮世離れした方だと思うので、そのイメージと役柄が共通するのではないかと思いました」


ーーコメディに出られるイメージがなかったことも驚いた理由でした。


坂下雄一郎監督「とはいえ、10代の頃はとんねるずの番組によく出られていたので、素養はあるのではないかと思っていました」


ーーたしかに、コントをやられていましたもんね。主演の窪田正孝さんはすんなり決まりましたか?


坂下雄一郎監督「主役の人物像を想像した時に、窪田さんがいいのではないかと。周りのプロデューサー陣も異論はなく、むしろ共感のリアクションが大きかったですね。みんなが今まで想像していた人物像を窪田正孝さんのイメージで確かめ合ったという感じです」





ーー本作は二世議員や秘書の物語でありながら、現在の政治が抱える問題を表面化させていた部分がかなりあると思いました。


坂下雄一郎監督「企画開発の段階では真っ当なお仕事ムービーをイメージしていたのですが、どうも毒の要素が足りないなと行き詰まってきました。そんな時期にちょうど海外のドラマの『Veep/ヴィープ』を観ていた影響もあると思います。アメリカの女性副大統領とそのスタッフたちのコメディなのですが、皮肉も効いているし、それも正義感でやっている人たちというよりかはむしろ逆側の、問題を起こす側の人たちの話だったりするので」


ーー監督自身が現在の政治に抱く違和感も、映画には反映されていますか?


坂下雄一郎監督「ニュースを見る度に、なにかしら思うところはありつつも、それをあまりにも声高には言わないスタイルのほうが今回の作品のスタンスとしてはいいだろうなとも思っています。それこそ正義感のようなものを全面的に押し出すと、主張がストレートすぎて伝えたいことが伝えたい人にまで届かないこともあると思うので。体制側を描くことで違和感を強調せず、迂回して見えるぐらいのほうがやり方としてスマートなのではないかと思いました」


ーーバランス感を意識されたんですね。その中でもメディアが視聴率を求めて政治家や政局を過剰に物語化することや、政治家がテレビ映えを過剰に意識しているということなど、随所に政治の裏側を垣間見ることができました。日々の政治報道は断片的な記憶になってしまうけれど、政治的事象にまとめて触れられたことで、政治のおもしろさや問題意識を改めて共有できていると思います。


坂下雄一郎監督「問題発言をする政治家はいっぱいいるけど、反感は買いつつも結局それで目立っていたり、その件に賛同する支持層も増えたりすることもあるよなというのは僕自身がニュースを観ていて感じることでした。映画というものは表現の許容範囲が広いものだと思うので、そういう事象から政治が見えてくるような作品はあっていいと思っています。ただ、政治的主張と作品としての質、トータルの出来の良さというバランス感覚は本当に難しいところでした。たとえば政治に対して強いメッセージを込めすぎると、単純に映画を楽しみたいだけの人は引いてしまうという部分もあると思います。多くの人に観てもらうために、どこに向かって作るのかということは常に意識するようにしました」





ーー過去に本当に日本で起こった政治的なあるあるや小ネタがパロディとして随所に散りばめられていたところも笑わせていただきました。同時に「今の政治ってちょっとおかしくないか?」という素朴な疑問を改めて感じたり、モヤモヤした感情を持ったりすることが当たり前の感覚なのだと気づかせてくれた部分もありました。


坂下雄一郎監督「知っている人はパロディとして笑えるし、一方で笑えない現実でもある。これに関してはそこまで具体的な問題意識を共有したいわけではなく、ネタとしてわかる人にはわかる、ぐらいの感覚でいいかなと思っています。答え合わせ的な楽しみ方をしていただいてもよいですし」


ーー作品の内容が現実に寄り過ぎるとひとつの主張に偏りすぎているという見方をされてしまうし、エンタメ化しすぎると作品が現実離れしてしまいますものね。


坂下雄一郎監督「ジョージ・ブッシュ政権下で副大統領を務めたディック・チェイニーを描いた伝記的映画『バイス』のラストで、政治的な話題で盛り上がっている一方で、「今度の『ワイルド・スピード』を観に行こうよ」という話をしている人が出てきます。その映画自体がある種、達観していると思いました。政治に興味のない層は、そもそもこの映画を観てないというのを自虐として描いているのを観て、それはそうだよなと……。では、興味ない人に対してどう届けていったらいいのか。政治という言葉の最初のハードルは低いほうがいいのだろうなと僕は思っています」


ーー何も思想を持っていない人たちがなんとなく観られて、なんとなく気づくものがある、という体験ができることを目指しているということでしょうか。


坂下雄一郎監督「そうですね。最初から政治作品を観るんだという入り口でいくよりは、その方がいいかなと思っています。特に今の環境では」





ーー映画というエンタメにおいては、リアリティや社会性も大事ですが、同時に現実を忘れさせてくれるくらい娯楽作品であることも大事だと思います。ニュースやドキュメンタリーは観ないけど、ドラマや映画は観るという人はたくさんいます。エンタメの形に落とし込んで政治を伝える、知ってもらうということにも意義を感じます。一方で、リスク覚悟で政治的なメッセージを直接発信する著名人も増えてきました。先の衆議院選では、俳優陣らが投票を呼びかける動画が公開されたりと、芸能人の政治的発言がタブー視されてきた日本にも変化が徐々に起きていると感じます。エンタメを担う人間にとって、政治についての一端を担う覚悟は必要だと思いますか?


坂下雄一郎監督「政治的発言をするハードルはもっと低くなるべきだろうと思います。そして声を上げるムードは、世の中全体で醸成していくべきだと思います」


ーー映画を観た方にどんな意識の変化を期待しますか?


坂下雄一郎監督「これを観て政治的なメッセージを発してほしいということは別に思わないですが、選挙に行く人が少しは増えるとよいかなと思います。結局本作で描いていることは、投票率が低かったり、みんなが投票自体に興味を持っていないという状況がもたらした出来事であると思っています」


ーー内容に対して、ドリカムの曲をオマージュしたタイトルがとてもキャッチーで秀逸だと感じました。そういう意味でもポリティカルコメディとして成功している作品だと思います。


坂下雄一郎監督「投票日は日曜日なので、とりあえずダジャレでつけていました。本当はこれは仮タイトル。『決戦は日曜日(仮)』と最初に書いていたんですけど、最終的に決めるタイミングになっても他にいい案が出なくて。最初は不評でしたが、意外といいのではないかということになりましてそのまま本タイトルとなりました」


ーー映画で描いていたように、投票日である日曜日は、議員陣営の戦いの日でもあるけれど、私たち有権者の戦いの日でもありますよね。


坂下雄一郎監督「いろんな意味になるといいなと思います」


text Daisuke Watanuki(TW / IG



『決戦は日曜日』
2022年1月7日全国公開
公式HP:https://kessen-movie.com 


脚本・監督:坂下雄一郎
出演:窪田正孝 宮沢りえ 赤楚衛二 内田慈 小市慢太郎 音尾琢真 
製作:「決戦は日曜日」製作委員会 制作:パイプライン 配給:クロックワークス
Ⓒ2021「決戦は日曜日」製作委員会



とある地方都市。谷村勉はこの地に強い地盤を持ち当選を続ける衆議院議員・川島昌平の私設秘書。秘書として経験も積み中堅となり、仕事に特別熱い思いはないが、暮らしていくには満足な仕事と思っていた。ところがある日、川島が病に倒れてしまう。そんなタイミングで衆議院が解散。後継候補として白羽の矢が立ったのは、川島の娘・有美。谷村は有美の補佐役として業務にあたることになったが、自由奔放、世間知らず、だけど謎の熱意だけはある有美に振り回される日々。でもまあ、父・川島の地盤は盤石。よほどのことがない限り当選は確実…だったのだが、政界に蔓延る古くからの慣習に納得できない有美はある行動を起こす――それは選挙に落ちること!前代未聞の選挙戦の行方は?

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