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text by Nao Machida

「社会全体で過去の真実に敬意を持って向き合い、亡霊を永遠に追い払うことができるような、よりポジティブな場所へと移行する必要がある」ジェラルド・ブッシュ監督&クリストファー・レンツ監督 『アンテベラム』 インタビュー/Interview with Gerard Bush and Christopher Renz about “Antebellum”




前代未聞のスリルとサプライズで世界中の映画ファンを魅了した、ジョーダン・ピール監督の『ゲット・アウト』と『アス』。それらを世に送り出したプロデューサーのショーン・マッキトリックが放つ新たな衝撃作『アンテベラム』が、11月5日に全国で公開される。主演を務めるのは、俳優として、そして、数多くの音楽賞を受賞した経験を誇るアーティストとして活躍する、ジャネール・モネイ。リベラル派として知られるベストセラー作家のヴェロニカと、アメリカ南部のプランテーションで奴隷として過酷な労働を強いられているエデンという、まったく異なる境遇に生きる2人の女性を演じている。映画はこの2人の物語を軸に、想像を絶する迷宮のような世界へと観客を誘う異色のパラドックススリラーだ。メガフォンを執ったのは、本作が長編デビュー作となった、ジェラルド・ブッシュ、クリストファー・レンツの2人からなる新進気鋭の監督ユニット。映画の日本公開を前に、公私にわたるパートナーでもある2人へのリモートインタビューが実現した。(→ in English)


――『アンテベラム』のインスピレーションは夢だったそうですね?


ジェラルド・ブッシュ「僕は自分の周りのすべてのものに注意を払うようにしていて、それが夢であることもあれば、あえてスマホやテクノロジーから距離を置いて心を解き放つこともあるのですが、今回は少し違いました。本当に心に残るような悪夢を見て、震撼させられたのです。僕は悪夢を見た直後に詳細を書き留めて、翌朝になってクリストファーに説明しました。その時点で短編小説としてのアイデアの核ができて、そこから脚本を膨らませていったんです。それはとても奇妙かつ多面的な悪夢で、基本的には映画の中で忠実に再現されています」


――かなり恐ろしい悪夢だったわけですね。本作は2つのパートで構成されていますが、それも夢で見たままなのですか?


ジェラルド・ブッシュ「そうですね。僕は夢の中でヴェロニカという女性を傍観しながら、何てひどい状況なんだ、と思っていたんです。あんなにひどいことが起こっているのに、僕は彼女に何もしてあげられなくて。でも、悪夢の最後に状況が把握できて、うわ!と思いました(笑)」


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――ヴェロニカ/エデン役のジャネール・モネイが素晴らしかったですが、脚本を書いている段階から彼女を想定していたのですか?


ジェラルド・ブッシュ「特定の俳優を意識していたわけではありませんでした。なぜなら、僕らはヴェロニカを神話上のヒーローやスーパーヒーローのように感じていて、そのイメージに集中していたんです。ジャネールは、あらゆる面でそのイメージに当てはまる人で、マルチな才能の持ち主です。すべてが順調に進み、コラボレーションが実現して、僕たちはとても興奮しました。彼女も僕らと同じくらい喜んで参加してくれたんです」


――撮影に入る前に、ジャネールとはどのようなことを話し合いましたか?


ジェラルド・ブッシュ「僕らとジャネールにとって、特に黒人や黒人の女性たちにとってトラウマになるようなテーマを追求しなければならないときは、安全な環境を整えることが非常に重要でした。毎日プランテーションで撮影するのは、決して楽だったとは言えません。本物のプランテーションで撮影したので、それはとてもつらい空間でした。神聖な場所で撮影するわけですから、その過程ではきちんと敬意を払う必要があります。本人だけでなく観客にとっても信ぴょう性のある方法で、彼女が安心してこの役を追求できるような空間を提供すること。それが彼女との会話で最も重要な話題だったと思います」

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――エリザベス役のジェナ・マローンの怪演も見事でした。


クリストファー・レンツ「ジェナは居心地をよくするために、ジャネールとたくさんの時間を過ごしていたのですが、その一方で、彼女たちには緊張感も必要でした。ジェナは素晴らしい俳優で、見事に演じてくれたと思います。さまざまなアイデアを出してくれて、一緒にキャラクターを作り上げていったのですが、この役をとことん追求してくれました。素晴らしかったです」


ジェラルド・ブッシュ「僕らは役者が大好きなんです。結局のところ、僕たちの世界観をスクリーンに描いてくれるのは、彼らのような素晴らしい役者なのですから」


――本作は、ブラック・ライブズ・マター運動や世界的なパンデミックの真っただ中にあった昨年9月に全米公開されたそうですね。このタイミングで公開したことには、どのような意味があると思いますか?


ジェラルド・ブッシュ「僕らはBLM運動が起こることを想定していたわけではありません。実は映画会社には、すべてが起こる前の昨年2月に公開したいと話していたのですが、彼らはすでに公開日を決めていました。もちろん、それはパンデミックやBLM運動の真っ最中だったわけですが、映画はそれよりもずっと前に完成していたんです。僕たちにとっては、このアートが与えられた空間の中で花開き、進化していくことがとても楽しみです。なぜなら、僕たちは『アンテベラム』がアメリカの最新の変曲点、そして率直に言えば、コロナ禍における全世界の変曲点という、特定の瞬間を捉えたスナップショットとして、時の試練に耐え得る作品だと確信しているからです」


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――この映画はウィリアム・フォークナーの「過去は決して死なない。過ぎ去りさえしないのだ」という言葉とともに始まります。なぜあの一節を引用したのですか?


ジェラルド・ブッシュ「世界的に考えて、アメリカの南部連合から始まり、ナチスがあり、さらに第2次大戦まで早送りすると、アメリカはアジア系の人々を捕まえて収容所に閉じ込めていました。そして最終的に、今ではワクチンについてさえ同意できないほど国が二極化するという状況に陥っています。僕たちが過去の真実とその醜さに正面から向き合えるようになるまで、それは何度も何度も今この瞬間を悩ませ続けることになるのです。休止することはあるかもしれません。でも、それはどこかで冬眠してさらなる力をつけ、最も都合の悪いタイミングに、以前よりもはるかに強い勢力を持って、醜い頭をもたげてくるだけなのです。だから、僕たちは社会全体で過去の真実に敬意を持って向き合い、亡霊を永遠に追い払うことができるような、よりポジティブな場所へと移行する必要があると考えています」


――アメリカの観客からの反応で印象的だったものは?


ジェラルド・ブッシュ「アメリカでは、本作に対する意見は大きく分かれました。予想はしていたのですが、まるでダイナマイトを投下したかのようでした。それと同時に、僕らは本作を劇場公開するつもりでしたし、世界的なパンデミックやBLM運動、そして、ジョージ・フロイドが悪徳な警官の手によって殺害される事件が起こるとは想定していませんでした。ですので、そういった出来事の直後に公開された『アンテベラム』は、まるで火薬庫のようなものでした。本当に挑発的なアートを作ったならば、作品を中心とした対話を引き起こすことになり、意見は分かれるはずです。作り手である僕らにとって、人々の意見を客観的に捉えるのはとても難しいことです。しかし同時に、もしこれが自分の映画ではないとして、本作を取り巻く会話を傍観していたとしたら、『これこそが芸術のあるべき姿だ』と思うはずです」


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――本作はエンターテインメントとして非常に面白いだけでなく、学ぶことも多い作品です。どのようにして、このようなバランスを保つことができたのですか?


ジェラルド・ブッシュ「『アンテベラム』で絶対にやりたくなかったのは、90分にわたって非難することでした。僕たちにとっては楽しませるだけでなく、教育することも大切だったんです。薬を乗せたスプーンを口に無理矢理押し込んだって、楽しくないし、受け入れられないはず。でも、とても美味しいものの中に薬を忍ばせれば、彼らはそれを受け入れて、何日も何週間もかけて処理するかもしれないし、2ヶ月後にも友だちとそれについて話しているかもしれない。ずっと心に残るのです。それが僕らが『アンテベラム』で実現したかったことです」 


――本作は日本でもたくさんの会話を生み出すと思います。日本公開については、どのように思っていますか?


ジェラルド・ブッシュ「この映画が日本で公開されることに、非常に興奮しています。劇場向けに作った作品なので、日本の皆さんに劇場で体験してもらえることがとてもうれしいです。日本のカルチャーは、まさに映画やストーリーテリングのチャンピオンですよね。だからこそ、アートや芸術に熱心な観客に向けて本作を上映できるなんて、本当に興奮しているんです」


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――お二人は公私にわたるパートナーだそうですね。監督や脚本家として、どのように共同作業しているのですか?


クリストファー・レンツ「脚本家兼監督であるということが、一番の助けになっているような気がします。一緒に脚本を書いて、すべての問題やアイデアをまとめることができるからです。脚本の最終稿が出来上がる頃には、たったひとつのビジョンがあって、2人ともそのビジョンを持って撮影に臨みます。そして、脚本で作り上げたことがちゃんとスクリーンに反映されるように、現場では休みなく働いています」


ジェラルド・ブッシュ「公私にわたるパートナーという点に関しては、始まりからそうだったんです。大切な人と一緒にアートを作るというのは、類い稀でユニークな体験だと思います。でも、僕らはこれしか知らないですし、しっくりくるんですよね。自分たちのコラボレーションや非言語的なコミュニケーション、お互いにスペースを与えるということ。というのも、執筆のプロセスと映画製作のプロセスはまったく違うんです。僕たちにとって、そして、おそらくほとんどの作家にとって、執筆のプロセスには孤独が必要です。隔離された状態でひとりで考えを巡らせてから、再び集まって、そこまでにできた内容をもとに共同作業に入るのです。僕らは一緒になって……14年も経つんだ! だから、お互いのことはよく知っているし、どうやって進めるべきかもわかっています」


――映画作家として、そして活動家として、次の作品ではどのような問題やメッセージに取り組みたいですか?


ジェラルド・ブッシュ「僕たちは気候変動の危機に本気で取り組んでいて、次の映画『Rapture』では、その問題を真正面から取り上げています。それにHBO Maxでは、とてもエキサイティングなテレビシリーズを予定しているんです。サーフカルチャーをテーマにしているようで、実はそれ以外のことも隠されているような、SF的な展開の作品です。他にもものすごくクレイジーな企画が控えているのですが、まだ詳細は話せません。まずは『アンテベラム』を楽しんでいただいて、本作が生み出すあらゆる意見や会話を聞くために待機しています」


――ありがとうございました。最後に日本の観客にメッセージをお願いします。


ジェラルド・ブッシュ「『アンテベラム』を日本で公開できて、とてもうれしいです。映画をとことん楽しんで、物語を追体験するだけでなく、僕たちが生きる世界について、また、人間としてお互いに改善していく責任があることについてなど、多くのことを考えるきっかけになるといいなと思っています」





text Nao Machida


『アンテベラム』
11月5日(金)より全国ロードショー
※TOHOシネマズ シャンテは11月7日(日)より
https://antebellum-movie.jp
出演:ジャネール・モネイ、エリック・ラング、ジェナ・マローン、ジャック・ヒューストン、カーシー・クレモンズ、ガボレイ・シディベ
脚本・監督:ジェラルド・ブッシュ&クリストファー・レンツ
2020年/アメリカ/英語/106分/カラー/スコープ/5.1ch
配給:キノフィルムズ
提供:木下グループ
©2020 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

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