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「冷笑的な態度は、特に若い人にとっては、最初は大人や他の冷笑的な態度から自分を守るための殻になる。でも、冷笑主義という殻の問題点は、その中にいたままでは成長できないということ」キャトリン・モラン『ビルド・ア・ガール』インタビュー




イギリスでコラムニスト、ジャーナリストとして活躍するキャトリン・モランの半自伝的小説を、『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』『レディバード』で強烈な印象を残したビーニー・フェルドスタイン主演で映画化した『ビルド・ア・ガール』が10月22日より全国公開される。原作者のキャトリン・モランは本作の主人公と同様に、実際に15歳でイギリスの新聞「オブザーバー」紙の若者レポーター賞を受賞し、1991年に16歳で初の小説「ナルモ年代記」を出版。同年、週刊音楽雑誌「メロディ・メイカー」で歴代最年少のロック評論家として活躍したほか、17歳で、タイム紙の週刊コラムニストとなり、チャンネル4の音楽番組「ネイキッド・シティ」の司会者に抜擢され、その後25 年に渡り、英国記者賞や英国雑誌編集者協会(BSME)賞など多様な賞を毎年のように受賞し、著書『女になる方法(How to Build a Girl)』は、これまで25 か国語に翻訳され、世界的ベストセラーとなっている。その著書をベースに映画化された映画『ビルド・ア・ガール』はキャトリンの半生を反映しつつ、高校生の主人公・ジョアンナが失敗や挫折、自傷行為やセクシャリティに関する問題などにも直面しながらも一人の女性として時に反省し、時に乗り越えながら前に進む姿が描かれる。今を生きる女性たちを勇気づけたいという思いで映画化を決断したというキャトリン・モランに本作について話を聞いた。


ーー日本での映画公開、おめでとうございます。原作小説が出版されたのは2014年ですが、映画化しようと思ったきっかけは?


キャトリン・モラン「原作小説の『How to Build a Girl(原題)』を書こうと思ったのは、30代に自分の人生を振り返った時。『私はイギリスのウォルバーハンプトンの公団住宅に住む労働者階級の子で、ヒッピーたちに福祉手当をもらいながら育てられ、何のコネもないのに16歳で音楽ジャーナリストとなり、世界中を飛び回ってロック・スターに会う仕事を手に入れたんだ』って。それから『ちょっと待って。マット・デイモンが動物園を買う話を映画にできるなら、私の話だって映画にしていいんじゃない? 私にとっては面白い話だから、映画を作ってみよう』と思った」








ーー本作は稀有な才能を持った一人の作家が道を拓く話でもあり、10代の少女が通る普遍的な苦悩も描かれていて、そのエピソードの隅々までが示唆に満ちているし、勇気づけられるものでした。


キャトリン・モラン「実は自分がやりたいことをリストアップしていた時に気付いたことがあって。それは一般的に女性のキャラクターは映画の中でちょっとした拷問を受ける傾向があるということ。私が一番やりたくなかったのは、女の子が間違いを犯して、泣きながらゴミ箱に放り投げられて、『私は学ばなければならない。旅に出るわ』と言うような映画を作ることだった。主人公の女の子に、本当の意味での悪いことが起こらないようにしたかった。彼女には少し傲慢なところがあって、いくつか間違いを犯し、そこから学んでいく。自傷行為について、映画の中で面白おかしく書いたり話してはいけないとされているんだけど、私は今世紀に入ってからの10代の女の子の自傷行為の統計は知っているし、私自身も数週間、自傷行為をした経験がある。でも、それを秘密の、暗くて、こわい、重いテーマとして、真面目な顔でしか語れないようにはしたくなかった。女の子が実際に人生の中で抱えている困難について取り上げることが、彼女たちにとって大きな助けになると私は思う。困難を笑い飛ばし、自分を笑い飛ばすことで、自分が抱えている重荷を軽くする方法を教えてあげたいと思った。私は16歳の時に、一時的に自傷行為をしたことがあって、その時は自分が何をしているのかよくわかっていなかった。10代の女の子というのは多くの場合、常に頭が混乱しているものだから、こういうことを取り上げるのも重要だと私は思う。私が13歳の時、母が言ったことを覚えている。『今後10年、あんたをワードローブに閉じ込めることができるなら、そうしたい。あんたはこれから地獄を見ることになるのよ』って。だからこそ『10代がどれだけ危険で、ダークになることを私は知っている。それをすべて映画にぶち込むから、一緒に観ましょう。最後には何もかも万事解決するから』と言ってくれる作品が必要でしょう?
私がこの映画でやりたかったもう一つの重要なことは、10代の女性のセクシュアリティを楽しく、面白く、重荷にならないものとして表現すること。繰り返しになるけど、彼女はこの件で魂の旅を経験する必要はない。重大な教訓を学ぶ必要もない。10代の男の子がセックスするのは観たことがあるけど、10代の女の子がマスターベーションをしたり、何のしがらみもなく男の子とセックスしたりする映画は観たことがない。でも、10歳の女の子が公園でブランコや滑り台で遊ぶのと同じように、セックスは端的に楽しいことでもあるはず。セックスとは基本的に大人のためのブランコや滑り台でもあるでしょう? 多くの10代の女の子がこの作品を観て、『初めて映画で自分自身の姿を見て、自分が普通だと思えた』と感じるはず。“史上最も輝かしいバージョンの普通”がそこにはあるから」








ーー最後に『ビルド・ア・ガール』に込められたメッセージを教えてください。


キャトリン・モラン「この映画は一見すると、素晴らしい才能とスタイルをもった女の子がしばらくの間ロック音楽の世界で過ごして、いくつかの冒険をして教訓を学んでいく笑える映画かもしれない。でも、実際には現代社会で起こっていることをすごく巧妙に寓話化している。今日の私は想像上のひげをなでる教授のようになっているよね。10代のロック評論家だった頃の私は、大衆文化について全国誌に書くという、かなり珍しい力を持っていた。でも、そこで私が選んだのは、あることについて『これは素晴らしい』と言うのではなく、別のものを指して『これはひどい。このバンドは死ぬべきだ。こいつらは最悪だ。この音楽はゴミだ』と書くことだった。それから30年経って、今では世界中の10代の女の子や男の子のほとんどが当時の私と同じ力を持っている。ソーシャルメディアのおかげでね。彼らがソーシャルメディアでしていることの多くは、何かを指さして嫌いだと言ったり、ゴミだと言ったり、荒らしたり、破壊したりすることだけど、それよりはるかに有益な選択肢は、優れたものを見つけて『これは素晴らしい。ここに未来がある。自分に喜びを与えてくれる』と言うことのはず。嫌いなものについて何かを言う必要はない。自分に喜びを与えてくれるものだけに関心を払うことを学べば、残りの人生を支えてくれる。冷笑的な態度は、特に若い人にとっては、最初は大人や他の冷笑的な態度から自分を守るための殻になる。でも、冷笑主義という殻の問題点は、その中にいたままでは成長できないということ。そこには制限があって、成長もできなければ、ダンスもできない。どこかの時点で、冷笑主義の殻を破って、再び何かを信じるようにならなければならない。実は、それが密かにこの映画の本質的なテーマになっている。若いのに冷笑主義者を気取ってオンラインで生きていると、最後には命取りになるということね。その殻を破って『これが自分の好きなものなんだ!』と言う後押しになればと願ってる」



『ビルド・ア・ガール』
10月22日(金)新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー

https://buildagirl.jp
1993年、イギリス郊外に家族7人で暮らすジョアンナは、底なしの想像力と文才に長けた16歳の高校生。だが学校では冴えない子扱い。そんな悶々とした日々を変えたい彼女は、大手音楽情報誌「D&ME」のライターに応募。単身で大都会ロンドンへ乗り込み、仕事を手に入れることに成功する。だが取材で出会ったロック・スターのジョンに夢中になってしまい、冷静な記事を書けずに大失敗。
編集部のアドバイスにより“嫌われ者”の辛口批評家として再び音楽業界に返り咲くジョアンナ。過激な毒舌記事を書きまくる“ドリー・ワイルド”へと変身した彼女の人気が爆発するが、徐々に自分の心を見失っていき……。

【原作】 キャトリン・モラン著「How to Build a Girl」 【脚本】 キャトリン・モラン
【監督】 コーキー・ギェドロイツ 【製作】 アリソン・オーウェン『ウォルト・ディズニーの約束』『エリザベス』、デブラ・ヘイワード『レ・ミゼラブル』『ブリジット・ジョーンズの日記』シリーズ
【出演】 ビーニー・フェルドスタイン、パディ・コンシダイン、サラ・ソルマーニ、アルフィー・アレン、フランク・ディレイン、クリス・オダウド、エマ・トンプソン
【コピーライト】©MONUMENTAL PICTURES, TANGO PRODUCTIONS, LLC,CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, 2019
【配給】 ポニーキャニオン、フラッグ 【提供】フラッグ、ポニーキャニオン
【原題】『How to Build a Girl』 2019年/イギリス/英語/105分/DCP/アメリカンビスタ/カラー/5.1ch/R-15

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