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「なぜこの映画を撮らなくてはいけないのかという問いは、ソボクの『何かになりたい』という気持ちと通じるものがある気がしています」『SEOBOK/ソボク』イ・ヨンジュ監督インタビュー




『建築学概論』(2012年公開)で知られるイ・ヨンジュ監督による9年ぶりの新作『SEOBOK/ソボク』が7月16日に公開される。人類に永遠の命をもたらすソボクという名のクローンをパク・ボゴム、そのソボクを守り、唯一人間として接するエージェント・ギホンをコン・ユという韓国を代表する名優たちが演じることでも話題の本作だが、アクションやVFXなどを駆使したエンタテインメントであると同時に、何をもって人間と定義づけるのか、死に直面した際にも人は人を思いやれるのかといった「人間」としてのあり方についての問いを投げかけるものでもある。家族や友人の死と直面した経験を経て、本作をつくりあげたイ・ヨンジュ監督の言葉を記す。


――前作の『建築学概論』とも全く異なる作品になっていて驚きました。本作は脚本を書き始めてから完成までに9年かかったそうですが、構想の起点について教えてください。


イ・ヨンジュ監督「意図したわけではないのですが、シナリオを書いたり企画を立てたりしているうちに9年間という長い時間がかかってしまいました。この作品を企画したきっかけは、『建築学概論』の後に『不信地獄』(2009年公開)という作品の脚本を書いたのですが、その間に個人的ないろんな出来事があり、『不信地獄』で描いたようなことに関心が高まっていたんですね。それで『不信地獄』を拡張させたような形で『SEOBOK/ソボク』をつくったのです」


――確かにその2作品には人の生死という共通の主題があります。本作は永遠の命をテーマにしながら、人としてのあり方を問うものでもありますね。映画というものの持つエンタテインメント性と主題、監督のメッセージとのバランスをどのようにとられましたか。


イ・ヨンジュ監督「バランスをとるのは簡単ではありませんでしたね。この映画を企画した時から、その点がまさに自分にとっての課題だったのです。メッセージがあまりに大きすぎたり、メッセージの方にばかりに軸足がいってしまうと重くなってしまいますし、エンタテイメント性の強い娯楽映画としても成立させたくて、うまい塩梅に境界線をひいてバランスをとれたらと思っていました。先に公開された韓国での反応を見ると観た方の好き嫌いが分かれていたのですが、それがまさにバランスによるもので、バランスが適度だと思ってくださった方は楽しめて、どちらかに偏っていると思われた方は楽しむ度合いが少し低くなったのではないでしょうか。この作品は資本が非常に大きいこともあり、スタートの時点ではちょっと暗くなりすぎるのではないかと周りからも心配の声があがっていたのですが、私はこういった映画も必要だと思いますし、これからもメッセージとエンタテインメント性のバランスをとりながら、悩みながら映画をつくっていくと思います」











――韓国のインタビューで、監督の身内の方ががんの闘病でお亡くなりになられて、その死から恐れを抱くようになったとおっしゃっていました。その体験は本作に影響を与えていますか。


イ・ヨンジュ監督「ええ、企画の段階でかなりの影響を受けました。私にはとても大きく衝撃的な事件でしたし、10年以上も前のことですがいまだに囚われている気がします。死というものを正面から見ることができた、または正面から見つめるしかなかった状況で、当時はとても悩みました。20、30代の頃は、いつか死ぬということを知ってはいたものの深くは考えていませんでした。死とは明確に訪れるものですが、自分には関係ないもので、体調管理ということだって自分よりも年上の人や両親に関係するものという認識だったのです。それが実際に私の身近な家族の1人の死に直面するという経験なども経て、怖いという気持ちももちろん感じたのですが、何よりこんなにも死は身近にあるものなのだと思ったのです。いつか死ぬというのはわかっていたつもりが本当はわかっていなかったというのは、大勢の人がそうなのではないかとも思いますし、その点はこの映画でも伝えたいと思ったことの一つです」


――ギホン(コン・ユ)はまさにそういう体験をしますね。私はギホンがケンカした後にソボク(パク・ボゴム)にお腹が減っていないかと気遣うシーンがとても好きです。そこには、何をもって人間たらしめるかというヒントがあるように思いました。監督が思い入れがあるシーンは?


イ・ヨンジュ監督「本作をギホンとソボクのロードムービーだと思うならば、2人が登場する全てのシーンに思い入れがありますね。2人の関係はストーリーを構成する上でとても大切な要素になっていて、どのシーンも大切です。ギホンはソボクによってどのように救われるのか、ギホンはソボクがこれまでに出会った人とは違う新しい選択をするのではないかというのも私自身への一つの問いかけでもありました。2人は段々と仲良くなっていきますが、おっしゃっていただいたように、ギホンがお腹が空いたのかと訊くシーンはさらに2人の距離を縮めてくれて、人間的な面を見せてくれたシーンだと思います。私が特に愛着があるのは、ソボクが作られることになったきっかけとなったキョンユンという男の子の納骨堂がある聖堂で2人が話すシーン。このシーンは非常に大きなテーマが凝縮されています。脚本で書いたときには聖堂のある霊安室という設定でしたが、撮影場所を探していろんなところをロケハンしたものの気に入った場所がなかったんですね。それで、結局私が知っている場所で撮影することになりました。


あの場所はソウルの聖堂で、聖堂に付属したような形で霊安室があり、納骨堂もあるのですが、そこに私のかつての友人が眠っています。その友人は30代はじめに急死しました。小学校から大学までずっと続く友人で、近所で育った仲間でもありました。急死したときには本当に驚いて、現実だとは思えなかったくらいです。どうして彼がこんな急に亡くなったのかと衝撃を受けました。今でも毎年命日に高校時代の友人たちが集まって同窓会を開いたり、亡くなった友人のお姉さんも一緒に納骨堂に行ったりしています。彼が亡くなったのは20年くらい前、そして10年前には家族を失い、『不信地獄』を公開した年にその映画を制作してくれた会社の代表が亡くなったりということも経験しました。思春期を経て、青年期を経て、30代になるあたりまでは就職に関して悩んだり、死とは関係ないことが恐怖の対象だったのですが、そのように誰かの死に直面した時から自分の人生は終わりに向かっているのだと思うようになりました。映画のランニングタイムで例えると、私の人生は1時間半くらいすぎたところだと思います。映画もエンディングがよければ良い映画になりますよね。何事も締め括りが大事なのです。この映画で生死と向き合ったことで、果たして自分はなんのために生きてきたのかと振り返るきっかけやヒーリングにもなったと思います」











――キャストお2人についても聞かせてください。コン・ユが壮大なテーマで自分には無理だと一度は断りつつもこの作品に参加したのは、エンタメというだけじゃなくクリエイターとしての苦悩を感じる作品だからだと語っていました。キャストではこの2人以外にはいないという監督の強い希望があったそうですが、確かに2人でなくては成立しない映画でしたね。パク・ボゴムはコン・ユの息遣いや瞬時の行動に多くの学びを得たと語り、コン・ユはパク・ボゴムの筋肉までコントロールする動きを褒めていましたが、2人の兄と弟のような関係性は実際の演技にも反映されていましたか。


イ・ヨンジュ監督「2人が普段から親密だった様子は作品に如実に反映されていたと思います。仲が良くないと観る人に自然と伝わってしまうものですから。コン・ユさんは年上で、俳優としても先輩ですし、実際にパク・ボゴムさんのことをよく面倒をみてあげていて、実のお兄さんのように接していました。パク・ボゴムさんも本当にコン・ユさんのことを慕っていて、その空気感はありがたかったです。ただ映画の中では序盤は2人は知らない間柄で、よそよそしかったわけですから、最初からいきなり仲が良すぎるのもどうかなと思って、徐々に仲良くなってくれたらいいなとは思っていました(笑)。2人とも人柄が素晴らしくて、私も気を楽にして撮影に臨むことができました」


――アクションやモブ、特殊効果、CGなどに関してはアドバイザーを多数呼ばれたとか。見たことのない状況や力を作り出すことを経験された本作を経て、監督として描く景色は広がりましたか。


イ・ヨンジュ監督「確かに本作ではアクションやVFX、特殊効果やモブなど初めてのことを多く手掛けました。こういうものを撮りたいというイメージはあったのですが、具現化するためのメソッドや経験がなかったので、照明監督や美術監督、視覚効果の方、特殊効果の方などたくさんの方に入っていただいて一つのチームを作りました。プリプロダクションの時から、1カットずつどういう風にしたら一番効果的な映像にできるのかと何度もソリューション会議を重ねました。現場に入ってからも中心となるスタッフのみなさんと一緒に動いて、1カットずつつくりあげていきました。以前の私の作品はドラマの部分が多かったので、1つ撮ったらモニターの前に集まって俳優たちとこのシーンはどんな感情で撮ろうかということを話し合っていたのですが、本作ではそれ以外に技術的なことでたくさん悩みました。その中でたくさんの学びを得たので、次はもっと楽に、より成熟したシーンを撮れるのではないかと思います。その一方、あまりに苦労が多かったので、やはり次はドラマを撮ろうかなとも思っていて、今はその2つの考えが共存している感じです(笑)」











――監督の映画作りの軸、原動力はどのようなものでしょうか。


イ・ヨンジュ監督「どうして自分がこの映画を撮らなくてはいけないのか、撮るべきなのか、その答えが見つからないと映画は撮れないものだと思います。以前は楽しい映画なら良いのではないかという気持ちで脚本を書いていましたが、今ではそれでは足りないと思うのです。自分が映画で伝えたいこと、描きたいことは、やはり人生で感じること、人生で感じた切実な感情です。ヒーリングであれ怖いという気持ちであれ、自分にとってこれは映画の中で描くべき課題になるだろうという感情が映画の中に自然に入ってくると思いますし、映画を撮るときの動機付けになっていると思います」


――最後に、ソボクが言う「何かになりたい」というのは人間のみが持つ思考です。監督はこの作品を通して、その答えを見つけましたか。


イ・ヨンジュ監督「これもやはり死ぬまで悩み続けなければならない課題ですね。私がつくるものがどういう映画になってほしいのか、どんな意味のある映画になってほしいのかと常に考えています。なぜこの映画を撮らなくてはいけないのかという問いは、ソボクが何かになりたいと言った気持ちと通じるものがある気がしています。私はこれまで撮った映画、これから撮る映画全てに意味を持たせたい。ただ単に映画館で公開されてお金を稼ぐというのではなく、多くの人の心の中に残る映画であってほしい。それもすぐに消えてしまうものではなく、長く残るものであってほしいのです。意味のある作品をつくるということは、企画を立てる者として、映画を撮る者としての課題だと思っています」





text & edit Ryoko Kuwaharam(T / IG


『SEOBOK/ソボク』
7月16日(金)新宿バルト9ほか全国ロードショー
公式HP:seobok.jp
出演:コン・ユ『新感染 ファイナル・エクスプレス』 パク・ボゴム 「⻘春の記録」
監督:イ・ヨンジュ『建築学概論』
2021年/韓国/カラー/シネマスコープ/DCP5.1ch/114分/原題:서복
配給:クロックワークス
©2020 CJ ENM CORPORATION, STUDIO101 ALL RIGHTS RESERVED

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