女性二人の逃避行を描いた中村珍による『羣青』(小学館IKKIコミックス)。いまだ衰えぬ名作と名高いこの『羣青』を原作とした映画『彼女』が4月15日、Netflixにて全世界同時独占配信される。 裕福な家庭に育ち、自身も医師として不自由ない生活を送るレズビアンの永澤レイ(水原希子)は、パートナーの美夏(真木よう子)と暮らしていたが、高校時代から想いを寄せていた篠田七恵(さとうほなみ)と10年ぶりに再会。夫から凄絶なDVを受けている七恵のため、夫を殺害する。「あたしの人生なんか、あんたがニコッとしただけでボロボロになるんだよ」と告げる犯行後のレイを連れ、逃げる七恵。ぶつかりながら、試しながら、許しながら、二人にしかわからない関係が築かれていくーー。作中でのズキズキとした痛みや切実な渇望、幾重もの葛藤、そして愛。細野晴臣によるテーマ曲を背に、複雑な感情を繊細かつ豪胆に具象化した二人は本作をどのように読み解いたのか。
――最初に、お二人がどのようにキャラクターを捉え、役作りをしていかれたかを教えてください。水原さん演じるレイは家庭にも恵まれていてパートナーもいて仕事も資産もあるけれど、七恵のために罪を犯して全てを捨てる役どころです。
水原「役作りの前に、ロードムービーということで車の運転ができた方が撮影の幅が広がると思ったので、まず免許を取りに行ったということが一つあります。レイに関しては、レズビアンであることで母親に否定的な反応を見せられたり、高校時代に噂になって意地悪されたこともあって、それはトラウマにもなり得るような体験だったと思うんですが、理解はされていなかったとしても家族からの愛はしっかり受けて育っていた人。さらに美夏という、全て包み込んでくれるような彼女がいることからも、たくさん愛を知ってる人だと思いました。
ただ、愛を受けて育ってはいるけど、自分から愛を表現したり、発することはあまりなかったんじゃないかなって。だから七恵が高校時代にトラブルを起こした時に、お金で支配するようなやりかたをしてしまった。愛し方を知らず、そういうやりかたしかわからなかったんですよね。それで久々に再会したときに、元々苦しい思いをしていた七恵を自分のせいでより暗いところに追いやってしまっていたという現実を知って、彼女のために夫を殺して、全く計画していなかった逃避行が始まって。凸凹コンビでウマがあうわけでもないけれど、レイはずっと自分のいろんなものを犠牲にしながら、不器用かもしれないけれど七恵に愛を証明し続ける。それをし続けることによって、七恵も色々あったけど心を開いてくれて、本当にピュアな状態で愛し合うところまでいくことができたし、レイ自身も愛を表現することを知り、最後は愛がゆえの選択もする。だからこれは愛の物語なんだと考えて演じましたけど……撮影中は辛かったです(笑)」
――辛かったというのは具体的には?
水原「人を殺すというのは自分にとって非現実的で、もちろん自分は経験がないので、果たしていま感じていることは合っているのだろうかとか、お芝居をしながら手応えのようなものを全くつかめなくて、それがすごく苦しかったんです。自分対お芝居という葛藤が苦しかった。でも順撮りで撮っていただいたおかげで救われた部分も大きかったし、監督は役者を第一に考えてくださる方で、現場にいて自分がわからなくなってる時に監督を見ると、言葉を交わすわけではないんだけど、大丈夫だと思わせてくれるようなスタンスで寄り添ってくださっていたのでとても助かりました。あとは、レイと七恵として、私とほなみちゃんとして、二人で毎日『大丈夫だよね!』って励ましあいながら、手を繋ぎながら、抱き合いながら、支えあいながらお芝居をできたのはすごく大きかったなと思います」
――逆に七恵は家庭、経済的に恵まれず、才能の面でも頓挫。絶望や孤独とともに生きながらもどこかで変えてくれる人を待ち望んでいるような人物に感じました。
さとう「そうですね。七恵はずっと人の愛を知らずに育っていて、苦しみをちゃんと話ができる友達も全くいない状態で、家族をつくっても夫に暴力を振るわれる。ずっと心を許せる人も、自分の弱いところを知ってる人も、相談できたり助けを求められる人もいない状態で育ってきている。私は本当に不器用なので、その状態を理解するために、まず家族や友人と連絡を取らないという手段をとりました。
レイとの間にある感情は本番に入って掴めたものだったと思います。レイは唯一自分のみっともないところも知っているし、自分のことを好きだと言ってくれている存在なんだけど、七恵はそれが信じられないんですよね。夫は愛の言葉を囁きながら暴力を振るうし、父親にも殴られ続けていて、七恵は『愛してる』とか『好き』という概念や意味が全くわからなくなってる。その七恵が、限界に達したときに頭の中に出てきたのがレイで、彼女に連絡した時は本当にいろんな感情があったと思います。助けてほしいというところも少なからずあるし、単純に最期に会いたいというところもあるし、レイのせいでこうなったと思っている部分もあるので、自分がもうギリギリだなと思っている状態で会って、自分がいなくなったときに後悔させたいというような気持ちも少なからずあったり。だけど、ギリギリのときに頭の中に出てきた時点で、レイはもうすでに良くも悪くも七恵の中で特別な存在になっているんです。そのギクシャクとした、いろんな感情が気持ち悪くらい渦巻いた中での気持ちの変化は、本番での撮影でつかめたものでした。レイのことをずっと試したり、わざと傷つけたりする七恵だけど、確かめたいということは七恵に『愛されたい』という気持ちがあって、本当にレイが自分を愛しているのかを知りたくてやっていること。気持ちは向き合ってるのに相容れない状態が続いていたのが、ただ自然と二人でいることが幸せだなと思えるところに到達できた。その心情がわかったのは、本番に入ってから一緒に希子ちゃんといたあの1ヶ月のおかげだと思います」
――おっしゃるように、複雑で二人にしかわからない関係で成り立っているレイと七恵ですが、その関係性について話し合ったりされましたか。
さとう「したっけ?」
水原「あまり記憶にないね」
さとう「うん」
――では本当に撮っていく中で、順撮りの中でお互いにぶつけ合っていった。
水原「はい。撮影が始まってから、積み上がっていくものが確実にあったので、順撮りでナチュラルにそこに行けたというのはすごく大きかったです。これが順撮りじゃなかったら話し合う必要があったのかもしれませんが、撮影の中でレイと七恵のことがわかっていったし、むしろ最初の頃の噛み合わない部分がこの作品やこの二人のおもしろいところだとも思っていて。噛み合わないのにずっと一緒にいて、どんどんぶつかり合いながら、すり減らし合いながら、その中で二人にしかわからないような関係性に変わっていくんですよね。だから“話すよりやる”という感じでした」
――折しも札幌地裁では同性婚を認めないのは違憲という判決も出ました。セクシャルマイノリティに対する社会の偏狭さがあらわれる場面も度々あり、また貧困のループ、DVについてなど様々な問いかけがなされる作品でもあると思いました。本作を経てご自身が改めて考えたこと、気づいたことがあれば。
水原「レイは高校時代から同性愛者ということで色々と嫌な思いもしてきたけど、七恵は高校時代からレイのことをセクシャリティが理由で意図的に否定したことはないんですよね。七恵にとっては同性愛者としてのレイは当たり前に存在していて、そのうえで二人の愛の物語が描かれているんです。それがすごくいいなと思いました」
さとう「希子ちゃんが言った通り、この作品は二人がぶつかり合って、なかなか相容れない中で、どう変化していくかというところが大切な作品になっていると思います。『これから私と友達になるとか、恋人になるとか、そういうのが難しいならーー』という最後のレイの言葉、その続きはここでは伏せておきますけど、その言葉と最後の二人の関係性にレイの覚悟や七恵への愛が詰まってる。私自身もそれを聞いたことによって、嬉しいというか晴れやかというか、選択肢って色々あるんだなと目の前が開けた部分がありました」
photography Kusano Yudai
hair & make-up Shiraishi Rie – Mizuhara Kiko / Nonaka Makiko – Sato Honami
Styling Ogura Masako – Mizuhara Kiko / Ichinosawa Yudai (TEN10) – Sato Honami
text & edit Kuwahara Ryoko
Netflix映画『彼女』
配信:2021年4月15日、Netflixにて全世界同時独占配信
【Netflix作品ページ】https://www.netflix.com/彼女
<STORY>
裕福な家庭に生まれ育ち、何不自由ない生活を送ってきたレイ(水原希子)はある日、高校時代に思いを寄せていた七恵(さとうほなみ)から連絡を受け、10年ぶりの再会を果たす。しかし喜びも束の間、夫からのDVで全身あざだらけな姿を目の当たりにし愕然とする。追い詰められ死を口にする七恵に「それならば夫が消えるべきだ」と諭すレイ。そして「だったら殺してくれる?」と呟く七恵。彼女が生きるためにレイは、七恵の夫を殺す。そして行くあても、戻る場所もないふたりは共に逃避行に出る……。
監督:廣木隆一
原作:中村珍「羣青」(小学館IKKIコミックス)
脚本:吉川菜美
出演:水原希子 さとうほなみ
新納慎也 田中俊介 鳥丸せつこ 南 沙良 / 鈴木 杏 田中哲司 / 真木よう子
テーマ曲:細野晴臣
音楽:森山公稀(odol)
エグゼクティブ・プロデューサー:坂本和隆(Netflix コンテンツ・アクイジション部門ディレクター)
プロデューサー:梅川治男
企画・制作プロダクション:ステューディオスリー
Netflix Japan公式アカウント
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Mizuhara Kiko
top, pants Courrèges (EDSTROM OFFICE)
shoes stylist’s own
Sato Honami
top, dress(VIVIANO/HOUSE OF VIVIANO SUE)
boots(lost in echo/HOUSE OF VIVIANO SUE)
others stylist’s own
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HOUSE OF VIVIANO SUE
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