ミス・コンという他人を採点する/他人に採点されるものにアレルギーがある。だからタイトルを見た時に拒否反応があったのだけど、「ミス・フランスになりたい」という夢を持ったのは9歳の少年という設定。キャストを見ると、主演はアレクサンドル・ヴェテール(IG)というファッション界では著名なモデルであり、身体は男性であるが自身の女性的な部分を解放しているまさに本作の主人公アレックスの原型、そして監督・脚本を務めたのは前作『The Gilded Cage』でその実力を示し、俳優としても『イヴ・サンローラン』などに出演するルーベン・アウヴェス。その布陣に予想される通り、果たして本作は、ミス・コンというタイトルから浮かぶ印象とは真逆の、「自分の価値を他人に決めさせるな」というダイレクトなメッセージを持った内容だった。
クラスメイトという小さな社会に嘲笑され、さらには愛してくれた両親を失い、一度はミス・コンを諦め自分を見失ったアレックスだったが、幼馴染みとの再会で刺激を受け、自分とは何かを知るためにも夢を叶えようと努力を重ねていく。男性がミス・コンを目指して何が悪いとばかりに協力する友人たちも、各地から勝ち抜いてきたライバルたちも、自然と様々な人種が混ざり合っていて、移民を迎え入れてきたフランスの現状がリアルに描かれているのも大きな魅力。トレンドより本物を、伝統より革新をとエコに着目した企画を立てるミス・コンのディレクターである才媛アマンダ(パスカル・アルビロ)、失敗すれば全て彼女の責任、成功すれば全て自分の手柄と背後で様子をうかがうボスはフランスに限らず実際によく見る社会の縮図。トランスジェンダーの同居人、ローラ(ディボール・モンタレンベール)が身体を売ることを数値化して語るシーンも生々しい迫力があった。そうした様々な視点から現実の社会を映し出しながら、そこに潜むルッキズム、性差別も透かしだす。ミス・コンに出場することによってアレックスが直面するのは、その社会の中で自分自身が一番突きつけられてきた「男性らしさとは」「女性らしさとは」という問いについての究極的な答えだ。アレックスが考察を深めていくことで、同時に観る者たち自身も考えさせる道程を作る秀逸な作品。性、人種、職業、どんなものであれそれはあなたの価値を決めることにはならない、自分の価値は自分だけが決めるのだ。アレックスの選んだ道、結末、その人生、そして全ての人の「個」に祝福を。
Ryoko Kuwahara( T / IG)
タイトル:『MISS ミス・フランスになりたい!』
2/26(金)シネスイッチ銀座ほか全国公開
★公式HP:https://missfrance.ayapro.ne.jp/
監督・原案・共同脚本:ルーベン・アウヴェス
撮影監督:ルノー・シャッサン、プロデューサー:レティシア・ガリツィン、ユーゴ・ジェラン、音楽:ランバート
出演:アレクサンドル・ヴェテール、イザベル・ナンティ、パスカル・アルビロ、ステフィ・セルマ
2020/フランス/フランス語/スコープサイズ/107分
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