ロシアでスター洋画声優だった夫婦の第2の人生。他人のセリフなら上手く言えるのに、自分の心は伝えられない声優夫婦が辿り着く再スタート。
1990年、イスラエルへ移民したヴィクトルとラヤは、かつてソ連に届くハリウッドやヨーロッパ映画の吹き替えで活躍した声優夫婦。しかし、第2の人生の現実は厳しく、声優の需要がない新天地で生活の糧を得なければならない。ラヤは、夫に内緒で就いたテレフォンセックスの仕事で意外な才能を発揮。一方、ヴィクトルは違法な海賊版レンタルビデオ店で再び声優の職を得る。ようやく軌道に乗り始めたかに見えた生活。しかし、妻の秘密が発覚したことをきっかけに、長年気付かないふりをしてきたお互いの「本当の声」 が噴出し始める。
主人公夫婦と同じロシア系イスラエル人である監督自身の経験をもとに、構想から7年をかけて丁寧に作られたこの小さな珠玉作は、ヨーロッパの映画祭を中心に高く評価され、2019年タリン・ブラックナイト映画祭で脚本賞と NETPAC賞(最優秀アジア映画賞)を受賞した。 監督を務めたのは、イスラエル国内でドラマや映画を数多く手がけてきた若き才能、エフゲニー・ルーマン。友人である経験豊富な撮影監督ジヴ・ベルコヴィッチと共に、自分たちの子ども時代の経験をもとに脚本を書き上げた。イスラエル史上最大の移民の波である、「鉄のカーテン」崩壊後により良い生活を願って海を渡ったロシア系ユダヤ人たちの歴史の一幕を、軽妙なユーモアと親密な眼差しでスクリーンに描き出している。
夫のヴィクトル役には、監督が当て書きしたというイスラエルのベテラン俳優、ウラジミ ール・フリードマン。声優という誇り高い仕事に情熱を注ぎながら、夫婦関係には不器用 な夫を、切実ながらもどこかとぼけた愛嬌で演じる。また、妻のラヤ役には、これが本格的な長編映画初主演となるイスラエルの女優、マリア・ベルキン。実際に声優としても活躍する彼女は、60代にして訪れた一風変わったロマンスを、大人の円熟味と少女のような初々しさの融合で見事に演じ、イタリアのバーリ国際映画祭で特別賞(女優部門)を受賞した。
「他人のセリフなら上手く言えるのに、自分の心は伝えられない。」そんな長年連れ添った吹き替え声優夫婦が、銀幕を離れて初めて「本当の声」に気付いていく。甘くない世の中で、お互いがかけがえのない理解者であることを思い知る、「愛」という一言だけには とても収まらないような酸いも甘いも噛み分けた「夫婦の再出発」は、場所や時代を超えて深い共感を呼び起こす。また、60代にして彼らが経験する、これまでのキャリアが通用しない挫折感、映画を映画館で人々と分かち合う喜び、新しい自分を発見する驚き、久々に味わう恋のときめきなど…人生、いつ何が起きるか分からないが誰にでも起こり得る物語だ。アキ・カウリスマキを思わせるクラシカルな映像美と、ロシアの国民的歌手アーラ・プガチョワの名曲「百万本のバラ」に彩られ、コミカルかつドラマティックに展開していく物語は、未知なる可能 性にあふれた人生の素晴らしさを祝福する人間讃歌。
「映画は豊かな世界そのもの。声優はその案内人だ。」
生誕100周年のフェリーニ、往年の名作とすべての映画ファンへ捧ぐ。そして移民であった人々やその子どもたちにも。本作のオンライン試写を10名様にプレゼント。
『声優夫婦の甘くない生活』オンライン試写プレゼント
【ご招待】10名
【日程】日程12/7(月)〜12/9(水)の3日間で実施。
※視聴回数制限あり
空メールを送信するとプレゼントに応募できます。(←クリック)ご応募お待ちしております。
12月4日(金)中に当選メールとあわせてオンライン試写会のご案内を「no-reply@screeningmaster.jp」からメールでご連絡いたします。迷惑メール対策をなさっている方は「no-reply@screeningmaster.jp」から、メールを受信できるよう設定をご確認ください。
*応募は締め切りました。
【注意事項】
※詳細はご当選者へのみお知らせいたします。
※本試写を営利目的として利用した場合は著作権法30条1項または著作権法第22条に基づき損害賠償金を請求させていただきます。
※録音・録音機器の使用を固く禁止致します。
※不正防止のためご視聴いただく映像にはウォーターマーク(コピー防止のテロップ)が入ります。
『声優夫婦の甘くない生活』
12月18日(金) ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
https://longride.jp/seiyu-fufu/
監督: エフゲニー・ルーマン 出演:ウラジミール・フリードマン、マリア・ベルキン
2019 年/イスラエル/ロシア語、ヘブライ語/88 分/スコープ/カラー/5.1ch/英題:Golden Voices/日本語字幕:石田泰子 後援:イスラエル大使館 配給:ロングライド
『声優夫婦の甘くない生活』の社会的背景
鶴見太郎(東京大学大学院総合文化研究科准教授)
●「鉄のカーテン」崩壊とロシア系ユダヤ人の移民
ソ連の出国制限が解除された 1989 年から、崩壊期の混乱を避けるユダヤ人の出国ラッシュが始まった。多くはアメリカ行きを望んだものの、入国は困難だった。一方、「ユダヤ人国家」を標榜するイスラエルはユダヤ人とその家族を歓迎する一番行きやすい「西側」の国だった。イスラエルに移民した旧ソ連生まれのユダヤ人とその家族は 2000 年代までに累計120万人ほど、当時のイスラエル人口の2割にのぼった。だがユダヤ文化と疎遠になっていた彼らには困難が待ち受けていた。総じてロシア語を第一言語として「ロシア系」と呼ばれる彼らは高学歴者が多く、ソ連では相応の職に就いていたが、言葉の問題によりイスラエルではしばらく低賃金労働者となったのだ。