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text by Baihe Sun

『鵞鳥湖の夜』グイ・ルンメイ インタビュー「将来に対して大きな夢を見ることが叶わない貧困層の若い女性であるアイアイにとって、別の人生に繋がる可能性がある賭けをするか否かという物語なのです」/Interview with Gwei Lun-Mei about “The Wild Goose Lake”




9月25日、『鵞鳥湖の夜』がいよいよ公開される。『薄氷の殺人』(2014年)で第64回ベルリン国際映画祭で最優秀作品賞の金熊賞と最優秀男優賞の銀熊賞を受賞し、第51回金馬奨の8部門にノミネートされるなど中国のみならず世界で注目を集めるディアオ・イーナン監督の最新作だ。逃亡中のギャングと共に逃げる女性というある種ベーシックなストーリーがディアオ・イーナン監督によってどのようにオリジナリティをもたらせられるのかは本編にて確認して欲しいところだが、中国という国の権力の構図、地方都市のあり方と行き止まりを感じながらそこに暮らす人々の姿は全くの異国の他人事とは思えない部分もあり、監督の視点の鋭さを感じさせる。NeoLでは本作の中心人物であり、地方都市でセックスワーカーとして生活するアイアイを演じたグイ・ルンメイにインタビューを試みた。2012年『GF*BF』で第49回金馬奨と第55回アジア太平洋映画祭の最優秀女優賞を受賞し、『薄氷の殺人』にも出演し、金馬奨最優秀女優賞にノミネートされるなど役者として高い評価を獲得している彼女は、本作をどのように読み解き、演じたのか。(→ in English


ーー今日はお時間をいただき、ありがとうございます。日本ではもうすぐ『鵞鳥湖の夜』が公開になりますが、まずあなたが本作をどのように読み解いたのか教えてください。

グイ・ルンメイ「この映画は、人生の崖っぷちに立っている2人の冒険を物語っていると思います。出会った瞬間から2人は死を前提とした旅を始めますが、同時に本作では救いについても描かれているのです。彼らはそれぞれに、生死に直面したときに本当の望みは何かという選択をしなくてはいけません。私が演じたリウ・アイアイは、将来に対して大きな夢を見ることが叶わない貧困層の若い女性で、逃亡中のギャングであるチョウ達との出会いは、彼女にとっては大きな賭けだったと思います。だから彼女にとっては、別の人生に繋がる可能性がある賭けをするかどうかという物語なのです」


ーー2人の人生の賭けをどのようなものと捉えていますか。


グイ・ルンメイ「両者どちらも大きなリスクがあると思います。 チョウは、自分の死を予見した時、自分にかけられた懸賞金を妻に残そうと考えます。しかしパートナーであるアイアイが信頼できるかどうかの確信が持てません。アイアイの場合、問題はもっと複雑です。そもそもチョウを助けるために動くことは、彼女の人生を危険にさらすことになります。その上に、彼女が下す全ての決定は、彼女がどんな人物か、または彼女がなりたいと願っている人物がどんなものかによるのですからその思惑を読むことは難しいですよね」


ーーその言葉からもわかるように、私もアイアイという人物がとても重きを持って描かれていると思いました。彼女とチョウの妻であるヤンは、チョウのサポートとして登場するものの、それぞれに自分自身の意思に基づいて行動しますし、シスターフッドとも言うべき関係性も描かれます。


グイ・ルンメイ「制作時、ディアオ監督はアイアイの核にあるものは正直さと純粋さであると常に語っていました。彼女は性産業に従事していますが、ありがちな描かれ方をしていません。そういう性格だからこそ、チョウが妻を気にかけていることもすぐにわかるのです。彼女が賭けに対してどう行動するかにもそこが影響を与えます。そのような背景があるが故に複雑なキャラクターにならざるをえないのです」


ーーそうした複雑なキャラクターを演じるのはチャレンジングな経験だったでしょう。


グイ・ルンメイ「ええ、本作のオファーを受けた時、正直に言ってとても躊躇しました。私は台湾出身で、アイアイは武漢の出身なので別の方言を学ぶ必要があり、かつ貧困層のセックスワーカーの女性を演じるための理解をしっかりとする必要があります。そこでバックグラウンドが全く異なるアイアイを理解するために4ヶ月先に現地に入り、武漢の言語を学び、セックスワーカーが仕事の場としている様々な公園に通い詰め、どのように客と接しているかを観察しました。性産業に従事する人々の本を読みそこで働くようになった動機などを学び、彼女が暮らしていたような武漢のアパートに1週間暮らすなど、アイアイを実在の人間として理解するためにできる限りのことをやりました。私にとって、これらは本当に新たな経験になりました」


ーーその新たな体験によって、個人的にも役者としても何か得たものはありますか。


グイ・ルンメイ「性産業で働く若い女性たちに対するマインドが変わりました。セックスワーカーは性にだらしなく挑発的であるというようなことがよく言われますが、まったく汚らわしいものではなく、自分で生計を立てようとしている若い女性というだけです。純粋で、自分の足で立っている人たちということは、観察しているだけでもわかりました。それは、アイアイの性格を生きたもの、実在のものにするという点でディアオ監督と私が話し合ったことでもあります。私たちはアイアイが実際のセックスワーカーと同じくらい純粋であることを望みました」





ーーディアオ監督についてもお尋ねします。彼とは2度目の制作ですが、本作での取り組みはいかがでしたか。


グイ・ルンメイ「2014年に『薄氷の殺人』を撮影していたときはまだクルーが少なかったので、意思疎通もしやすく共同作業を行うのも簡単でした。今回はより多くの人々が集まり、より多くが要求される現場。 ディアオ監督は事前にたくさんのプランを立てていたようですが、撮影時にはそこで予測されていなかったディテールにまで厳格な態度で臨んでいましたし、不明瞭な部分にはテイクを重ねました。私は各場面において複数回のやり直しが許されていました。というのも、アイアイの役割は特に難しいもので、これだというテイクができるまでにたくさんの議論があったからです。非常に難しいプロセスでしたね。脚本を読んでいる時に、アイアイという役にはさまざまな可能性があると思いました。私が望むように演じることは間違いないと信じていましたが、私が思うアイアイの物語を演じるためにはバランスをとらなければならなかったので、それがとても難しかった。監督に、私が思うアイアイ像とそれによって生じるパフォーマンスについて同意してもらう必要がありましたが、簡単ではありませんでした」


ーー監督と意見が異なった、特に印象的なシーンは?



グイ・ルンメイ「アイアイがレイプされ、警察から隠れているチョウと一緒に歩いているシーンですね。私はディアオ監督に、アイアイは泣きたいはずだと主張しました。ディアオ監督は私にできる限り落ち着いて演じるべきと主張しましたが、後にナレーションをしている際、私の考えの方が合っていると認めてくれました。役について別の解釈があるかもしれないと思った時はいつも率直に伝え合い、いくつかのヴァージョンを撮影し、編集時に彼が選ぶことができるようにしていました。それがコラボレーションというものですよね」


ーーそうすることで監督が描くアイアイからあなたの思うアイアイに近づけた?


グイ・ルンメイ「私は女性の視点から自分の役を理解していて、彼は監督として認識しているから違いが生じるのかもしれません。また、私たちがどのように撮影していたかにも関係しています。物語の通りの順番で撮影したので、まるでリアルタイムの体験のようだったのです。アイアイの気持ちを深く理解できたので、演じている中でその視点から意見を言うことができました。ディアオ監督は登場人物たちと程よい距離感をもち、演劇という点から全体的な出来上がりの質を見越した指示を出していたのだと思います。正解はなく、それぞれが異なる可能性を見出しただけです」


ーー『鵞鳥湖の夜』は昨年カンヌ映画祭に出展され、高い評価を獲得しました。いちオーディエンスとして、本作をどうご覧になりますか。


グイ・ルンメイ「映画が完成するまで、その作品がどう評されるかと考えることはありません。私は映画を、観た人たちを刺激し、現実の生活にアイデアを呼び込むような新しい何かをもたらす芸術と見なしています。それこそがアートの効用ですよね。予測できないような美の可能性が広がったり、『ああ、他の人はこんな風に人生を見ているのか! 知らなかった!』というような気づきを得られたり。だから私は映画やアートに関する様々な意見にオープンでいたいし、思いもしなかった感想を聞いたらワクワクします。他の方も、映画でのより良い体験を得るために同じように寛容でいてほしいなと思います。一方、女優という視点でいうと、私はカンヌ映画祭で初めて全編を観たのですが、それは驚くべき体験でした。脚本の時点で既に明確で鮮明でしたが、物語が視覚されたものを観るのはとても楽しかった。戦いのシーンは私が予想していたものとはまったく異なっていました(笑)。光を効果的に用い、ストーリーを的確に操作するというディアオ監督の強みが存分に発揮され、登場人物を見事に浮き彫りにしていました。とても美しく、独創的だと感じました」


ーーこの難しい役どころを演じきり、次にどんな役を演じたいと思いましたか。


グイ・ルンメイ「まだちゃんと考えられてはいませんが、伝記に基づいたドラマなど、歴史的な作品に関心があります。劇場で舞台も演じてみたい。映画の中に自分の人生があるのか、それとも映画が人生に入り込んでしまっているのかわからなくなる時があるんです。自分のパートを見つけに行くべきか、自然に事が起こり、演じることでその一部になるかわからなくなる。偶然かもしれませんが、実生活での問題に対処しているときに、映画の中で答えを得て演じることもあったり、そういうことが時折起こるんですよ。私にとって、人生と映画は切っても切れない関係にあるので、計画を立てられるかわからないですね」


ーー最後に日本のオーディエンスに一言お願いします。



グイ・ルンメイ「日本に行けず、みなさんと会えないのがとても残念です。今のような状況で、本作がみなさんにワクワクするような新しい体験をもたらしてくれることを願っています。そして、みなさんが映画を楽しんで、希望と勇気を見つけられることをも。気をつけて観に行ってくださいね」



text Baihe Sun
edit Ryoko Kuwahara



『鵞鳥湖の夜』
http://wildgoose-movie.com
9月25日(金)新宿武蔵野館、ヒューマン トラストシネマ有楽町&渋谷ほか公開
監督:ディアオ・イーナン
出演:フー・ゴー、 グイ・ルンメイ、リャオ・ファン、 レジーナ・ワン

中国/ フランス – 2019
113min / DCP / 1.85:1 / Colour / 5.1 Stéréo 北京語 /フランス語 & 英語字幕
原題:南方車站的聚会 The Wild Goose Lake
配給:ブロードメディア・スタジオ

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