小学生から食日記を綴ってきた生粋のフーディー、平野紗季子。味や香りはもちろんのこと、一口ひと口食べ進める過程にも全神経を総動員している彼女が、大好きなショートケーキにもの申したいことがあると手を上げた。さて、その内容とはーー。
三角の食べ物は、独善的というか自己中心的な要素がある気がしています。例えばケーキ屋さんでプリンを買うとして、プリンは容器に入っているからどこから食べても自由ですよね。長方形のケーキにしても、箱から出して、さあどっち側から食べるか悩むということはない。でも三角のケーキは先端の部分から食べなくてはいけないという、人の行動を暴力的なまでに限定するところがある。
ショートケーキにしても当然のように鋭角な先端から食べることになるわけですが、はたしてこの食べ方が正しいのかというのは常々疑問に思っていて。基本的に人は最初の一口を一番おいしく感じ、満腹になるにつれてその味覚感受性が鈍くなっていく。三角のショートケーキは一番面積が広くて生クリームの多い最も濃厚な部分が最後にやってくる運命にあるわけですが、その時受け手の状態は「もうお腹いっぱい」ということがままある。するとそれは惰性の一口にしかなりえないんです。クライマックスの苺をすぎた後の斜陽感バリバリのクリームゾーン。胃袋に堪えるわあ…と思ってる女子結構いるんじゃないかなあ。これは体験デザイン的に問題があると思います。
三角にとらわれなければショートケーキはもっとおいしく食べられるんじゃないか?
そう考えて編み出した私の解決策はずばり、逆から食べる、です。つまり一番食欲が旺盛なタイミングで大口を開けて生クリームに立ち向かう!これ、思った以上においしいですよ。しかもラストに向かって面積が小さくなっていくので後腐れなく終われます。そもそも先端から食べ始めると大口で頬張る快感を得られないし、フォークに乗せても不安定で落っこちやすくて勢いが出ない。本当によくないことづくしです。ショートケーキの見た目にこだわるのもいいですが食べる過程のデザインにももっと目を向けてほしい。といいつつ、心のどこかでは、あのショートケーキの形や挑発的な赤と白の王様カラーに翻弄されたい気持ちもあるのかな。
ピザも近しい印象があります。ピザの内側と耳の関係はアイスとウエハースのようなもので、耳は口休め的に食べることでうまく機能すると思うんですが、三角形の先端から食べ進めると、どうしても最後に耳、というかピザ生地の塊がずしっとやってくる。だから残しちゃう。これも三角の呪いですね。本当は耳と具の部分を交互に食すなどフレキシブルにいった方が最終的な満足度は高いとおもうんだけど、実際にやってる人はあんまり見たことがない。
そんなわけでショートケーキやピザは独善的だと思うのですが、おにぎりやサンドイッチは不思議とそう思わないんですよね。もしかしたら円形のものを作為的に切った食べものと、有機的に出来上がっているおにぎりでは印象が違うのかもしれません。サンドイッチは具が均等だからどこから食べても同じ、金太郎あめ的な安心感があるというのもポイント。はじまりと終わりがはっきりしていて、ドラマティックすぎる三角がくせ者。
レストランなんかでお料理をいただくと、お皿の上のお料理をどのような順番で食べてもらいたいか、というところまでシェフがデザインしていることがありますね。一番最初に食べそうな場所に甘みを置いて、つぎに酸味をただよわせて、最後に香りが残る…というような。すべての配置に理由があるお料理は、その計算に乗っかって、味のストーリーを前向きに楽しめる。
でもショートケーキやピザなんかは、その形状のせいで無自覚に人に無理をさせていますから、ぜひ自覚して悔い改めてほしい。食べる過程そのものが三角形に翻弄されていることについて、いま一度ちゃんと考えようという会議を開きたいです(笑)。
photo&interview Ryoko Kuwahara
平野紗季子
1991年生まれ。a pure foodie。著書に『生まれた時からアルデンテ』(平凡社)。
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