誰もが経験したことのないニューノーマルの時代に突入している中、クリエイティヴ業界では、アート/コマーシャルの垣根を超えて新たな側面から制作に取り組む姿勢が見受けられる。今回は、様々なバックグラウンドを持つフォトグラファーたちの創造力・技術への向き合い方を探りながら、華美な物語からストリートで巻き起こるファッションフォトグラフィーの過去・現在・未来においてどのような変遷が起きているのか掘り下げていく。
ファッションウィーク中はバックステージフォトグラファーとして様々なブランドのコレクションを撮影し、DiorやNina Ricciをはじめとするラグジュアリーブランドなどをクライアントとして持つフランス・パリ拠点のファッションフォトグラファーAlexandre Gaudin。自発的に物事を探求するという姿勢を持つ彼が映し出す瞬間を切り抜いたかのようなストリートフォトグラフィーは、暖かみと人間味が感じられる。そんな彼が、現在起こっているファッション業界のシステム改革をどう捉え、今後どのように彼のファッションフォトグラフィーは変化していくのかに迫る。
(→ in English)
ーー自己紹介をお願い致します。フォトグラファーになった経緯など。
Alexandre「パリ拠点のファッションフォトグラファーAlexandre Gaudinです。2015年から写真を撮り始め、2016年から本格的に仕事として始めました。最初は、趣味でストリートスタイルの写真を撮りはじめ、その後とあるコンセプトストアと契約を結び、ファッションフォトグラファーとしてキャリアを始めました。今は、Dior、Nina Ricci、 Mercedes-Benz Fashionなど様々なクライアントと仕事しています」
ーーキャリアを始めた当初と比べ、ファッションフォトグラフィー業界はどのように変化したと感じますか。
Alexandre「キャリアを始めた当初と比べ、今は道で人々が身に着けるトレンドなど着こなしを写真で捉える“ストリートファッション”フォトグラフィーよりエディトリアルなどストーリーを語る“ファッション”フォトグラフィーが広まってきていると感じます。今では、ファッションフォトグラフィーは人々が自分たちのスタイルを追求する上でのインスピレーション源になっています」
ーーストリートフォトグラフィーも撮られていますが、自分の中で思い出深いファッションウィークはありますか?
Alexandre「いい質問ですね。ソウル・ファッション・ウィークかもしれません。パリ・ファッション・ウィーク中、招かれるゲストは大抵ブランドとのパートナーシップを結んでおり、似たような服装や同じブランドを身に纏っている人を多く見かけます。それに対し、ソウルではより服装に多様性が見受けられ、それぞれが自身の選んだスタイルを身につけています。パリの次に大規模なファッションウィークといえば、ミラノ、ロンドン、ニューヨーク。とても興味深いのが、ミラノとパリでのファッションウィークに訪れるバイヤーの服装のムードがみんな同じであることです。明るかったり、暗かったり。特に、私のクライアントはハイプファッションを好む方が多いので、撮影するのには絶好のチャンスです。自分のソーシャルメディアにはあまり載せていませんが」
ーーファッションウィーク中などストリートで撮影する際、どういう瞬間をカメラに捉えますか?
Alexandre「時と場合によります。自分の中で明確なものはないのですが、その服装が良くて、アバンギャルドであればでしょうか。特にIssey Miyakeなどの日本のブランドは目を引きます。フィレンツエで撮影したPitti Immagineのスタイルは全く人と違う独特のものでした。また、東京に来た際は、街並みを撮っていたのですが、今はそういうドキュメンタリーのようなものを撮っています。Leica で撮影する前は、Nikonを使っていて、同じ場所にずっといて写真を撮っていました。今は、より動きを取り入れていますね」
ーー様々なコレクションのバックステージも撮影されていますが、鮮烈な印象を受けたファッションショーはありますか。
Alexandre「ファッションショーでいうとCOMME des GARÇONSですね。なんといってもCOMME des GARÇONSなので。特に、招待状が必ずしもあるとは限らないので、中に入るのがとても困難という点においても印象に残っています。バックステージに関しては、1017 ALYX 9SM の2019年春夏コレクション。招待状を持っていなかったので、友人とともにとりあえずノリでショーの2時間前に会場に行ってみたところ、ガードマンが“ショーのモデルですか?”と尋ねてきて、“いや、フォトグラファーです”と答えたら、「じゃあ、こちらへ」と中に案内してくれました。バックステージには、Kanye Westを筆頭にJerry Lorenzo, Virgil Abloh, AmbushのYoon, 秋元 梢など業界人が勢揃いでした。圧倒されながらも、ルックブックを撮っていました。あとは、Nina Ricciの2019秋冬コレクションのバックステージですかね。このような著名なブランドのインハウスフォトグラファーとして参加するのは初だったので、いつもとは違い、他のフォトグラファーより先に自分のセットで撮影をすることができました。クリエイティヴディレクター Rushemy Botterとともに写真も撮ることもでき、彼とはそれがきっかけで、友達になりました。Rushemy Botterは、奥さんLisi HerrebrughとともにNina Ricciのクリエイティヴディレクターを務めており、BOTTERというメンズウェアもローンチしています」
ーーどのように自身の個性/アイデンティティを作品に落とし込んでいますか。また、どのようにそれを極めているか教えてください。
Alexandre「キャリアを積んでいくとともに自分のアイデンティティは形成されていくと思うので、出来上がるには長い期間が必要です。そのため、様々なスタイル、人々、場所を撮影することで自分のアイデンティティを見つけようとしています。今では、目に写るものも自分のアイデンンティティーです。それは、自然で自発的なものです」
ーーエディトリアルの作品に関して、クリエイトする際心掛けることはありますか。
Alexandre「毎回違うことをやろうと試みます。全てのプロジェクトに注力しています。撮影する際も、古いものから現代のものまで違うカメラを使用します」
ーー撮影の際、ライティングなどこだわっている点がありましたら、教えてください。
Alexandre「多くの場合は自然光を用いて撮影しています。ストリートスタイルのフォトグラフィーとエディトリアルはとても違います。例えば、ストリートスタイルだと天気によりライティングが変化するため、それに慣れる必要があります。エディトリアルに関しては、撮影の数日前に準備ができるため、撮影時はポーズなどに重点を置きます」
ーーインスピレーション源はどこから湧いてきますか。
Alexandre「ラッキーなことに、様々な国を旅しているので、そこからインスピレーションを得ます。特にアジア」
ーーどのように現代の流れと自身のスタイルのバランスをとっていますか。
Alexandre「クライアントに関しては、トレンドに従い、インスタグラムなどに載せる自分の作品に関しては、トレンドは用いません。そういうハイプファッションはあまり興味ありません」
ーー新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のパンデミックにより、ファッションフォトグラフィーの業界においては、どのような影響がありましたか。
Alexandre「ファッションウィークなどは全て中止になりました。数ヶ月間は影響が生じると思います。ですが、ブランドなどからはより多くのデジタルコンテンツが発表されると思います」
ーーSocial isolation(外出自粛)の期間が長引いている中、自身のクリエーションに対する捉え方などに変化はありましたか。
Alexandre「多くのブランドはこれまでが過剰すぎたとファッションウィークやコレクションの発表に関する抜本的なシステムの見直しや改革を呼びかけています。来年からはファッションウィークが少なくなるでしょうね。自分の作品に関しては何も変わっていませんが、外出自粛中、建築やデザインに興味を持つようになりました」
ーー今後、新たにチャレンジしてみたいことはありますか。
Alexandre「フォトグラファーとして映画業界で働きたいです。また、アジアの様々な国でドキュメンタリーをやりたいです。将来は、パリを拠点にしながら、他でも拠点を置き、活動したいです」
ーーこれからどういう風にファッションフォトグラフィーは変化していくとお考えですか。
Alexandre「今では、キャンペーンビデオを要求するクライアントが増えてきているため、多くのフォトグラファーはビデオグラフィーに着手し始めると思います。ですが、フォトグラフィーとビデオグラフィーは二つ異なるものなので、これからビデオグラフィーに重点が置かれるとは思っていません。ファッションを盛り上げていくために、テクノロジーとフォトグラフィーが駆使されるようになっていくでしょう」
Fashion Photographer : Alexandre Gaudin
IG @lubakilubaki
HP lubakilubaki.com