“I just am”exhibition photography Takayoshi Nonaka
9月に東京で開催されたファッションの合同展示イベント「rooms」。その中でアイデンティティの自由を推進するクリエイターたちが、 社会的テーマと共にクリエイションを発表するプロジェクト「I just αm(私はただ私)」が発表された。次世代に向けて、クリエイティヴな視点で「多様性(インクルージョン)」を伝え教育することで、共感のコミュニティを広げるというこのプロジェクトに参加したデザイナーたちに、このテーマについてのそれぞれの思いやアイデンティティを見つける過程について問うた。中国出身、ロンドン在住のデザイナーYuhan Wangは東洋の要素をふんだんに織り交ぜた、柔らかな素材がレイヤードされた構築的な作品で注目を集める新鋭。東西のアイデンティティが独自にミックスされた、絵画のように優美でありながら奥知れぬ探究心を纏った作品はどのような過程で生み出されているのか。(→ in English)
――まず、プロジェクトのテーマである“I just am”という言葉を聞いて思い浮かべたものは何でしたか?
Yuhan Wang「最初は思い浮かぶものが無かったのですが、自分の作品で自分らしく表現したいということはいつも考えていることなので、その私の考えとちょうど合っているなと感じました」
――今回は他のアーティストたちの作品との合同展という形になっていますが、実際に展示として形になるまでどんな話し合いが持たれたのでしょうか。
Yuhan Wang「みんなのスタイルはそれぞれ違うものなので、例えばスタイリストとも“このウィッグを試してみて違かったら別のものをトライしてみよう”などよく話し合ったりして、色々なスタイルを試してみました。そうすることによって自分の作品も今までとは別の視点から見ることができたし新鮮でした」
――今回のようなインスタレーション形式の展示方法は好きですか?
Yuhan Wang「はい、ショーよりもこういったインスタレーションが好きです。みなさんとお話ししたりできるので気持ちも感じ取れますからね。いらっしゃった方々が歩いて近くで作品を見ることができるのも素晴らしいと思います。ショーよりも近くで見ることでみなさんが作品に対してもっと近い気持ちを持つことができるし、日常の中でどうやって身につけることができるだろうと考えられるのではないでしょうか」
“I just am”exhibition photography Sayaka Maruyama
――あなた自身についても聞かせてください。もともとNYのSchool of visual artsでグラフィックデザインを学んでいらっしゃったということですが、その時の学びはファッションにどのように結びついていますか?
Yuhan Wang「全てのプロセスが今に結びついていると私は考えています。グラフィックデザインの勉強はグラフィックデザインの仕事で役立つものと思われる方も多いかもしれませんが、その時に学んだ色の組み合わせ方や視覚的な要素のバランスといったものをファッションの世界では3Dに変換することで機能します。また、自由さやエネルギーに満ちたNYという街で過ごした経験もまた、自分自身がどんな人間なのかを考えるきっかけになったと思います。後にロンドンに渡ったことでその学びはどんどん飛躍し、1人の女性としての私を形成したのではないでしょうか。全ての経験は地続きになっているからこそ、どんな人生を過ごしてどんな経験を経たのかということが私たちにとって重要なことです」
――なるほど。あなたの作品はとても3D的な立体感のある印象が強いので、グラフィックデザインを学んだところからそのテイストに至る振り幅はとても面白いと思いました。
Yuhan Wang「そうですね、ソフトな彫刻といった感じだと思います」
――まさにぴったりの表現ですね。NYとロンドンでの生活を経たからこそ、ご自身が中国で育ったということがより重要に感じたということはありますか?
Yuhan Wang「何に置いてもプロセスが重要だと思います。私はプランテーションがあるようなところで育ったのですが、その時に見ていた景色が今の私の作品に影響を与えているのは間違いありません。また、小さい頃には中国の伝統的なスタイルの絵をよく描いていたものですから、そういった経験で培った東洋的な線使いや色使いを西洋的な要素と組合わせてできたのが今の私のスタイルでしょう。そして中国からNYやロンドンへ渡ったことで東洋的な文化と西洋的な文化の違いに気づいたことはもちろん、でもやっぱり人間というものは根本的に普遍性を持っていると感じました。例えば外では肩にパッドが入っているブレザーといった男性的なシルエットの服を着る女性でも、家に帰れば柔らかい服に着替えるものです。私は女性が常に男性的な服を着る必要性はないと思っていますし、曲線的な服だって楽しんで着てほしいと考えているので、そういった服を作っていきたいです」
――先ほど中国の伝統的な絵を描いていたということでしたが、Yuhanさんの作品の色合いは印象派の絵画作品も想起させます。そうした絵画の影響も受けられているのでしょうか?
Yuhan Wang「そういったものも全て繋がっていると思います。印象派の作品の影響ももちろん、自分が見てきたもの全てが作品に反映されていると言えますね。何か一つがメインのインスピレーションになっているというよりは全てが繋がっているのです」
“I just am”exhibition photography Sayaka Maruyama
――NeoLの読者には何か自分が情熱を持てることを探している途中の若い層も多いのですが、そういった読者に向けてYuhanさんがどういったプロセスでご自身が情熱を持てることを発見し職業に結びつけていったのかを聞かせてください。
Yuhan Wang「NYでアートの勉強を始めた当時、自分がアートに興味があるという自覚はありました。その後学び進める中で、歴史についてもっと知る必要性があると感じロンドンに渡りました。ロンドンでの学校はNYの学校と授業などのプロセスが違っていて、与えられた課題以外にも自分の興味のある分野を見つけて追求する時間も与えられているといった内容だったんですね。そういった中で私は自分が情熱を持つ分野を開拓していけたと思います。当時、自分が好きなことを自分で探して追求することができたというのはとても大きかったと思います。卒業する時には自分のコレクションを発表する機会も持てましたし、卒業後はお客さんのための服を作ることを始めました。私は色々なデザイナーさんの元で働いていたので、その時にビジネスのやり方も学べましたし、自分の視点も柔軟に変えることができました」
――そこに至るまでは、自分の持つパワーを信じなければいけない局面があったかと思います。そんな時に励みになったことはありましたか?
Yuhan Wang「励ましになったものは特にありません。でも私が学校に行っていたときに周りのクラスメイトを見て時々自信を失うことはあって、そんな時には先生のアドバイスをそのまま真に受けて作品を作ってしまうものなんですよね。でも完成してからそれを見ると、私の本当に作りたいものではなかったなと感じて悲しくなりました。だからこそ、例え周りの意見が自分と違ったものであっても自分がやってみたいと思う方向に行くことが正しいと思います」
――ありがとうございます。最後に、いつも朝食に何を食べますか?
Yuhan Wang「私はいつも旅行をしているので、滞在する場所によって朝ご飯は違います。ミラノにいる時とロンドンにいる時では違いますね。その都市にどんな食べ物があるかによって違います。でも、日本の朝ご飯はまだ食べられていないのでトライしたいと思っています」
text Ryoko Kuwahara
Yuhan Wang
清華大学でファッションを学びThe School of Visual Artsに移り、グラフィックデザインを専攻。その後、Central St.Martinsにて学び、ロレアルのYoung Talented Awardを受賞。ファッション・レディース・ウェアを学び、2018年春に卒業。Marniにてウィメンズウェアに携わり、デザイナーとしての経験を積んだのちにブランドを設立。
https://www.yuhanwang.com
https://www.instagram.com/yuhanwangyuhan/