2018年にブランド設立20周年を迎えたG.V.G.V.。その記念に作られた、歴代のショーやコレクション写真を収録したアニバーサリーブック(非売品)には、デザイナーMUGのものづくりの姿勢が如実に反映されている。まるでミュージシャンのライヴヒストリーを収めたような佇まいのフォトブックについて、そして20年間の歴史とこれからの活動についてMUGに話を聞いた。
――G.V.G.V.20周年のアニバーサリーブック、すごくエモーショナルで素晴らしいです。最初のMUGさんの言葉が印象的だったのですが、これまでのユースカルチャーや音楽、ストリートを軸としたコレクションを振り返りつつ、今後は今の自分により近い、大人に向けた服を発信していくと書かれていました。この心境に至った経緯をまず教えていただけますか。
MUG「この本には最初のランウェイの写真から載ってるんですけど、この時は完璧に自分が着たい服を作っていたんです。今でも着たいと思うくらい好きなコレクションたちです。でも20年間続けていると色々と紆余曲折もあって、最初のその気持ちにも変化が見えてきて。いつの頃からか、知らず知らずのうちに“みんなの期待に応えたい”という気持ちありきの発信になっていたんじゃないかなと思います。だから20年の節目で初心にかえると言うか、自分が本当に作りたいものを改めて考え直して、これまで培ってきたことをもってやっていきたいと考えました。
そうして自分を見つめ直してみたら、好きなものの根っこの部分は当時から一切変わっていないし、この本を見返しても自分の好きなスタイルがブレずにあるなあと思うんですけど、今は年齢も重ねたし、環境や時代も変わったからなかなか着れないものも正直あって。その中で、今の等身大の自分と向き合った服を作るというのは新しい挑戦だと思ったんです」
――年齢や環境で着れなくなってしまうという制限の中で、いかに冒険をするか。
MUG「着ないという選択肢をとるのは自分なんだけれど、その抑止力はどこからくるんだろう?と度々考えます。身体の変化なのか、それに伴う意識の変化なのか。それを認めたうえで、毒があるものが大好きで、同時にマニッシュなスーツを始め王道も大好きな自分を表現するとしたら、ベーシックなスタイルの中にエッジの効いた大人の良質な服になる。本当に着たいものであると同時に、周りの人にも“こうしたら着れるし、一緒に着ない?”という提案をしたいんです。そういった種類の冒険がしたい。同じところに居たくないという意識が常にあるから、自分では新たな冒険だとワクワクしています。 “変わっちゃったな”と感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、これが今の自分だと思います」
――大人に向けてというとコンサバティヴで守りに入った服を思い浮かべがちですが、そうではなく、むしろ私たちは新しい大人の服というG.V.G.V.の冒険を見ることができる、ますますの楽しみを得たということですね。
MUG「そう思っていただければとても嬉しいです」
――改めて今回のブックに関してですが、解説的なものではなく、ひとつひとつストーリーがあってちゃんと気持ちがのっているのがとてもG.V.G.V.らしい。まるでライヴを見ているようなブックだと思います。
MUG「嬉しい。そうですね、ライヴ写真に近いと思います。初めてのショーなんかは自分たちで作り上げたという感覚が大きかったので、“ショーってこうやってできあがるんだな”と感じた覚えがありますし、それが写真にもよく出ていますよね。PPQと一緒にやったんですが、本当は私はやるはずじゃなかったんだけどやってみればということになって、そのバタバタの大変さも熱気もすべて覚えています」
――ライヴの後は何も覚えていないというミュージシャンも多いけど、全部覚えているんですね。
MUG「何一つ忘れていません。モデルがショーの服のままタバコを吸っていて、今だったらとても考えられないけどそういう自由な雰囲気のバックステージも全部(笑)。ブックを見ても覚えている光景ばかりなんですよ。ライヴ写真というのは言い得て妙で、昔から解説が嫌いなので、この本もまずは見て感じてほしいという想いで作ったんですよね。そもそも私はロジックやマーケティングより、“こういう服が欲しい! これってアゲじゃない!?”というエモーショナルな気持ちで作っているので、うまく説明ができないというのもあります(笑)。“大好きなものを作れて興奮する!”という感じでテンションが上がる服を求めてずっと作ってきたからこそ、昔の服を見てもその時の気持ちをすぐに思いだせるんだと思います」
――まさに。そしてエモーショナルなだけじゃなく、クオリティがしっかりついてきているのもこれだけ長く人気が続いている理由でもあって。
MUG「縫製や素材のクオリティは昔から常にこだわってきました。私自身が肌触りがいいものが好きだし、良質なものが好き。学生時代から質の良いものを選ぶ勘どころはあると思います。それに構築的で複雑なシルエットの方が実は細部にごまかしが効く場合もあるんですが、ウチはすごくはっきりと縫製の良し悪しがわかるタイプの服なので、工場も職人さんも切磋琢磨しながら残してきていて。最初のショーのコートを未だに着てらっしゃる方もいるくらいです」
――18年前の服がそうして着れるというのは凄いです。こうしてうかがっていても軸がしっかりしているブランドだけに、冒頭におっしゃったみんなのことを考えて服を作るようになっていたという言葉がすごく気になります。それは具体的にどういうことだったんでしょう。
MUG「ミュージシャンやクリエイターは誰しもぶつかるところだと思うんですが、ブランドのイメージが独り歩きして、自分の考えとの間にズレが出てきてしまっていたということです。売れたものや売れたことに対するみんなの期待は作り手の想像以上に膨らんでいってしまうから、作る側としては偶然の産物だったり売れることを意図していないものがそんな風に受け止められてしまうと気持ちが置いてきぼりになってしまうんですよね。なんかさみしいと言うか。その時に色々と考えてしまうんです。乗っかれた方が売れるだろうし、色々と上手くいくのはわかっているけれど、それがどうにもできないという葛藤が長く続いて。うまいことオンタイムに乗れない気質なんでしょうね。天邪鬼だから他と同じものは絶対イヤだと思っているし、アンダーグラウンドの美学も刷り込まれていて」
――ああ、なるほど。それはすごくわかります。そうやってG.V.G.V.が乗っからずに自力でひねり出したものをのちにメインストリームでたくさん見かけたりすることもあったし、発信元の本当のクリエイターはそういう孤独を抱えている気がします。
MUG「自分が人と違うなと思う点はカルチャーを背負ってブランドをやってきたところだから、他に素晴らしい服を作っているブランドいっぱいあるけれど、そういう意味で自分のライバルになるようなレディースのブランドはなぜか思いつかないんです。そうした孤独はあるかもしれないし、自分のやり方に対して不器用だなあという葛藤はあるけど、スタッフにも周りにも恵まれているから常に孤独ということはないかな。
一番長くショーやルックのスタイリングを担当してくれているのが(ワタナベ)シュンなんですが、彼の意見を取り入れると良く転ぶことが多いのでとても信頼しています。特に彼はグローバルに活躍している人なので、そういう人ならではの視点もあって、早くから人種やジェンダーに関して一元的でない見せ方を提案してもらいました。その信頼の根底にあるのは共通したギャルマインドなんですよね(笑)。ノリで乗り切るって大事なんですよ。考えてても仕方がない、やらないと!という姿勢が同じだと一緒にたたかえる。色々と考えすぎて何もできないよりは、どっかで決断しなくちゃ」
――良い姿勢ですね。格好いい。これまで様々な時代の変化があったと思いますが、今はファッション界にとっても厳しい時代だと思います。最後に、20年で変わったこと、そして変わらないことを教えてください。
MUG「始めた頃は新しいものを求めている人たちがいて、出せば売れるという時代で、追加生産がたくさんありました。今ではあまりそういう話は聞かないですよね。お金がないとランウェイショーもできないし、若い世代からしたら“お金ないんだからそんなのできるわけないし、SNSで売ればよくない?”ということになってしまう。そっちの方が時代として賢いやり方になっているというか。ただ、お金がなくても自分たちでショーを作り上げようということもできるはずなんだけど、そこまでの頑張ろうという気持ちがある人となると少ないのかもしれないです。勢いとアツさがあればきっとそこに賛同してくれる人がいるはずだし、そうやって作ったものは絶対に熱量のあるモノになる。G.V.G.V.の第1回のショーがまさにそうだったように。私は今でも変わらずずっとエモーショナルなものを求めていますし、そうやってもの作りをしていくんだと思います。見に来る人の心も動かしたいし、そこまで考えてものを作りたいし、そうじゃなきゃ意味がないから」
*All Pictures for 1st show “2002 AW / GRUNGE”
MUG(G.V.G.V. デザイナー)
桑沢デザイン研究所卒業。1996年k3に入社。1999年にG.V.G.V. を立ち上げる。2014年春夏より、発表拠点をパリへ移していたが、2017-18年秋冬コレクションでは、約4年ぶりに東京でショーを発表。2018年秋冬コレクションではスケートリンクを会場にショーを披露。2010年よりgrapevine by k3のバイヤーとして世界中の新しいクリエイションを紹介している。
http://www.gvgv.jp/