今年はあいみょんや冨田ラボなど数多くのアーティストの作品に客演し、またオカモトショウとカップリングツアーを開催するなど、ラッパーとしての独立した存在感と求心力を幅広いフィールドに示したRyohu。そんなRyohuが歩んできた足跡と現在地、そして近い未来に向かう場所を同時に照らすようなミックステープ形態の新作『Ten Twenty』がリリースされた。KANDYTOWNの中心人物にして誰にも似ていないラッパーは今、こんなことを考えている。(→ in English)
──2018年は例年に比べても客演に呼ばれる機会が多かったですよね?
Ryohu「うん、去年と比べたらだいぶ多かった。去年は自分から出向いていくことが多くて。それってもともと自分が苦手としているところでもあったんだけど。もしかしたら今年はその跳ね返りがあったのかもしれない(笑)」
──ああ、去年はアウェイにも自ら出向いて、そこで広がったものが今年に返ってきたと。
Ryohu「そう、去年は今までの自分だったら出なかったようないろんなイベントにも出たり。自分の繋がりではなかったところ。それまでの俺はずっと繋がりだけでやってきて、その縁を大事にしてきた中で、今の事務所と契約しているからこそ呼ばれる場所もあったりして。せっかくの機会だし、そういうオファーにも応えたという感じがあって」
──そこで得た収穫もあった。
Ryohu「もちろん。地方の深夜のクラブとかでもライブして。武者修行みたいな感覚もありましたね。いわゆる普通のミュージシャンがやるようなことをやってみるという(笑)。やってみないとわからないことってあるから。逆に『これはやらなくてよかったな』って思うこともあったし」
──でも、もともとKANDYTOWNの中でもジャンルを越境するような動きをしてきたしね。
Ryohu「そうですね。もともとそういうスタンスだったから」
──あと、最近思うのは、Ryohuがお兄ちゃんになったなぁって。
Ryohu「なんで?(笑)」
──いや、後輩に対しての言動とかを見ていて(笑)。
Ryohu「あはははは。たしかに。俺が昔してもらっていたことを自分がやる側になってきてるのかなとは思う。でも、そそういうことってKANDYTOWN内でもあったりして。自分の中では普通の感覚で」
──あと、自分の感覚とか気持ちを言葉にするようになったなとも思う。
Ryohu「ああ、そうかもしれない。でも、今でも『これをここまで言うとダサい』というラインはもちろんあって。たとえば告知の仕方一つとってもその言い方はダサいとか。だから、ちゃんと噛み砕いて簡潔に説明するならいいけど、中途半端な説明の仕方が一番ダサいと思うから。でも、何にせよ自分が伝えようとしないと伝わらないことってあって。今までは受け手が自由に捉えてもらえばその解釈が俺自身とは違っても楽しんでもらえたらそれでいいと思っていたし、今でもそう思ってるところもあるけど、やっぱりこちらが伝えようとしていれば受け手も意識的に捉えようとすると思うから。たとえば仕事じゃなくても自分が『このアイスコーヒーが好き』ってことを話してる人に伝えたら、いつかまた会ったときにそのアイスコーヒーをお土産でもってきてくれたりとか、そういうのあってあるじゃないですか(笑)」
──あるね(笑)。
Ryohu「それってささいなことではあるんだけど、意外と大事なことだなと思ったりもする。最近はそういう小さなことを大事にするのもいいかなって思ってますね」
──あらためて、いろんなフィールドのアーティストに呼ばれることって喜びでもあるでしょ?
Ryohu「もちろん! 俺にしかできないことだと思うし」
──KANDYTOWN云々でもなく、この国のラッパーとしてっていうね。
Ryohu「そうそう。何がいい悪いではなくて、ラッパーの中で俺みたいなスタイルをやってる人があんまりいないと思うから。べつに狙ってそうなりたかったわけじゃないし、活動していたら今いい感じのところにいるなと思うというか。もともと音楽が好きだったし、その中でヒップホップだったり、ラップを取り入れてやってきて、今も制限されずに自分の音楽を表現できてる。そうしたら今のキャラクターになった。なんでもキャラクターって大事だと思うんですよ。俺が急にギャングスタラップとか始めたら意味わからないじゃないですか(笑)」
──それはそれで聴いてみたいけど(笑)。
Ryohu「あはははは。キャラクターの重要性ってファッションとかもそうだと思うけど。そういうことも気づいたら自分らしさになっていて。周りの環境もそう。最初からヒップホップだけはイヤだと思っていたし。なんて言うのかな……それぞれが生きてきた信念ってあるじゃないですか。それがジャンルとして紐づけされると思うんですけど、ほんとはジャンルとか関係なくその人をカッコいいと思えて仲よくしたかったらすればいいという感じで」
──でも、Ryohuは異ジャンルの現場でもヒップホップマナーを持ってそこに立ってると思うんですよね。ちゃんとラッパーがそっちの現場に行ったという感じがあって。それってすごく大事なことだと思うんですね。
Ryohu「たしかに。そこはちゃんと意識してるかもしれないですね。自分がKANDYTOWNに所属しながらソロをやっているといううえでも。ラッパーでいるというのは守っていきたい。アイドルじゃないし、ぽっと出でもないし、ファッションでやってるわけじゃない。ただラッパーとして今までやってきたことは忘れない。いろいろやってもいいと思うけど、ラッパーでいたいという信念は忘れないようにしてるかもしれないですね」
──それは僕のレーベルでお世話になったマテリアルクラブの曲(「Material World feat.Mummy D(RHYMESTER),Ryohu(KANDYTOWN)」でも感じたことで。
Ryohu「あの曲もそうだけど、パーソナルなことを歌ったほうがラッパーっぽいって最近思うようになって。今までは第三者目線が多かったんですよ。俯瞰しているリリックが。わりと哲学書を読んでるみたいなリリックばっかりだなみたいな」
──ああ、なるほどね。それがRyohuらしさを形成してきたとも思うけど。
Ryohu「よくも悪くもそうだなと思う。でも、マテリアルクラブの曲は今の自分から見たこれまでの自分と、今の自分から見たこいちゃん(小出祐介)のやってることだったりをリリックにして。Dさんもこいちゃんとは距離感が違うけど俺の中では近くに感じていたから。そういうのも全部あのヴァースはリリックにしてる。たとえば〈エゴを知らない Boys&Girls〉というラインは、『今の若い子はRHYMESTERの『Egotopia』(1995年にリリースされたインディー2ndアルバム)のカッコよさを知らないでしょ?』っていう問いかけでもあったり。『でも、今この3人で曲を作ってること自体がマテリアルだね』という着地にして。そのオチは強引かもしれないけど(笑)、俺としては充実感がすごくありますね」
──俯瞰と主観のバランスを突き詰めたらさらに新しいRyohuのラップ文体ができそうですけどね。
Ryohu「うん、そうだと思う。引き続きお楽しみという感じで」
──で、このミックステープ仕様の『Ten Twenty』という新作なんですけど。これは今のRyohuの立ち位置を示す地図のような作品だと思っていて。
Ryohu「まさに」
──こういう形態でこういう作品をリリースしようと思ったのはなぜですか?
Ryohu「一番は前作の『Blur』が俺の思う平均値に全くたどり着けなかったという感覚があって」
──それを細かく言うと?
Ryohu「制作からリリースまでの期間がタイトだったというのもあるし。あとは俺のラップ然り、サウンドメイク然り。全曲に対してもっと突き詰められたらなって。俺自身ができなかった部分もあるから、人に説明しないと出せない音もあって。そういう反省をおおまかに自分の中で3点くらい書き出して。で、フルアルバムを出す前にミックステープという形態でその反省点を解消したかったんですよね。今後の自分のライブを考えたときに過去曲で好きな曲がけっこうあって」
──ほんとに。Ryohuのライブをずっと見てきた人にとっては馴染み深い曲が数多くブラッシュアップされていて。
Ryohu「そうそう。この曲たちを今後もライブでやりたいと思ってるから。でも、なんならエンジニアさんなしで録った曲とかもあるから、ライブでやったときのトラックのシャバさがハンパないみたいな(笑)」
──オケの音のバランスとかバラバラだと難しいよね。
Ryohu「そうそう。だからミックスし直すだけでもよかったんだけど、せっかくだから作り直しちゃおうと思って。そうなったときにヒップホップにはミックステープという便利な文化があるから。昔はもっと意味合いが小さかったと思うけど、今どきのミックステープの解釈って様々あるから」
──ほぼオリジナルの新作みたいなミックステープもあるしね。
Ryohu「ね。だから、いわゆるフルアルバムじゃないよということをわかりやすく伝えるためのミックステープという形態にして」
──この曲順通りにライブやってもよさそうだなって思いました。オムスくん(OMSB)プロデュースの「Vibes」なんかバックトゥベーシックスなビートなんだけど、絶妙に新しさもあって。原型はだいぶ前からあったのかなって思うような。
Ryohu「っていう感じがありますよね」
──このビートだからっていうのもあると思うけど、Ryohuのフロウも若々しいというか、最近にしては熱い感じがあって。
Ryohu「そう、熱い感じがいいかなと思って。自分でもすごく気に入ってますね。最初は別のビートをもらってすぐにラップを録って送ったら『なんか違うな』ってお互いなって。それでこのビートを送ってくれたんですよ。そういう意味では今までやってきたことが無意識に反映されているかもしれないですね」
──参加している人たちとの関係性もよくわかるしね。そういう意味ではEVISBEATS & MICHEL☆PUNCHプロデュースのラスト「Keep Your Eyes Open」が異色だし、印象的で。過去最高にポップというところに手を伸ばしてる曲だとも思うんですよね。
Ryohu「そうかも。これも挑戦で。今回、『Vibes』とこの曲で外部からもらったビートでラップしてるんだけど、自分の作品で人からビートをもらうのってKANDYTOWN以外ではなかったし。エビスさんから最初にこのビートをもらったときは正直あまりピンとこなかったんだけど、何度かやり取りしながら修正していって。フックを変えたり。リリックは酔っ払ったときに書いたんですけど」
──ユーモアもあるもんね。
Ryohu「酔っ払ったときに深く考えてもしょうがないと思って。曲順も悩んだんですよね。オムスの曲もそうだけど、この2曲以外は全部俺がビートを作ってるから真ん中にもってきたりするとトーンが全然合わなくて。だからオムスの曲は本編最後のクライマックスを担う感じで置いて、エンドロールみたいな立ち位置でエビスさんの曲が入ってくるという」
──コマーシャルなニュアンスもあるエンドロールというかね。
Ryohu「そうそう」
──5曲目の「Lux(feat.MUD)」も新曲だよね? このワンループ、すごくいいですよね。エキゾチックな感触もあり。
Ryohu「『Lux』はまーくん(Aun beatz)と作って」
──ああ、まーくんっぽい奇妙な音階(笑)。
Ryohu「そう、変(笑)。太朗ちゃん(河原太朗/TENDRE)とまーくんは真逆のタイプでおもしろい。太朗ちゃんはカチッとはめていくタイプだけど、まーくんの場合は不完全なままドーン!とくるみたいな。でも、俺はヒップホップってそもそもビートミュージックだからリフなんて不完全なものでもカッコよくなったりすると思うんですよね。まーくんはそのセンスがあると思っていて。相性や料理の仕方次第ではすごく化けるというか。その他の純粋な新曲は『8 Money』だけなんですけど、その共同制作は太朗ちゃんですね。今回、ミックスエンジニアをSANABAGUN.とかもやっている同い年の佐藤慎太郎にお願いしたんですけど、俺が超注文を出したことも全部応えてくれて。彼もプロデューサーの一人と言っていいかもしれない。100%じゃないけど、今回のミックステープでサウンド的にはやっと理想の平均値にいけた気がします。一つのベースを作れた気がする」
──2019年の動きに向けたどうですか?
Ryohu「一人のラッパーとして立ち返るタイミングがきたのかなとは思っていて。太朗ちゃんとAAAMYYYも忙しくなってきたし、1MC1DJでもカッコよく成立できるようになりたいですね。それは俺だけじゃなくて、DJも照明もPAも全部が高いレベルで混ざり合わないと成立しないから。ラッパーとして立ち返るというのがテーマかもしれないですね。それができてこそ、なんでもできると思うから」
――最後に、14歳の時に何を考えていたか、そして当時の自分にどんな言葉をかけるかを聞かせてください。
Ryohu「バスケがしたかったんだけど近くの学校になかったからちょっと遠い中学に行ってて、知らない人ばっかりだったんですよ。だからナメられちゃいけねえって、ちょっとイキってた時ですね。知らない人だらけで、俺が何をやってもみんな興味を持ってくれないって気持ちを初めて感じてました。それまではワチャワチャしてたのがおとなしくなって。でもやっぱり遊ぶのは楽しいし、元々こういう感じだし、周りもだんだんそれをわかってくれて回復したのが中2。そこで自分がしっかりしないと、誰も相手にしてくれないぞっていうのを経験したのは結構デカかったです。自我が芽生えた瞬間だと思う。
あと、サンタ(BIG SANTA CLASSIC)と同じ学校だったのも大きい。当時はまだヒップホップを知ってるやつは貴重だったんですよ。俺はバスケでサンタは野球をやってたんだけど、唯一ヒップホップの話ができる友達だったから、CD貸しあったり、一緒にライヴに行ってたりして。校内放送で友達に賄賂を渡して好きなヒップホップをかけたり(笑)。YUSHIと会ったのも中2とか中3のタイミングだった。妄走族のライヴで、ヤングは俺らしかいなくて。YUSHIは中3くらいからラップを始めてたのかな。IOも入って、遊びに一環でやってる感じで。でもその頃はまだ何かになりたいっていうより、今これがしたいって方が強かったと思う。でもそれでいいんですよ。中2なんてまだ子どもで、ちょっと大人になりかけくらいのときだから、振り返ってもやっぱり“好きなことをやれば”って言いますね」
photography Yusuke Miyazaki
style Lambda Takahashi
hair Go Utsuki
text Shoichi Miyake
edit Ryoko Kuwahara
Ryohu
『Ten Twenty』
Now On Sale
Apple Music
iTunes
spotify
amazon
Ten Twenty Tour Osaka
2019.02.01.(fri)
Venue:Umeda BananaHall
Guest Act: SIRUP
Contact::YUMEBANCHI 06-6341-3525 (平日11:00 ~ 19:00)
Ten Twenty Tour Nagoya
2019.02.03. (sun)
Venue:Nagoya CLUB UPSET
Guest Act:Campanella
Contact:JAILHOUSE 052-936-6041
Ten Twenty Tour Fukuoka
2019.02.09. (sat)
Venue:FukuokaThe Voodoo Lounge
Guest Act:Yelladigos
supported ENCORE
* This is the only all-night performance
Contact:The Voodoo Lounge 092-732-4662
Ten Twenty Tour Nagasaki
2019.02.10. (sun)
Venue:Nagasaki BETA
supported LAZY PERSON
Contact: CLUB BETA 095-828-0505
Ten Twenty Tour Tokyo
2019.02.24.(sun)
Venue:Shibuya WOMB
Guest Act:KEIJU
Visual Collaboration:YOSHIROTTEN
Contact:club WOMB 03-5459-0039
Reserve TICKET http://www.ryohu.com/news/posts/post-77.php
Ryohu
10代より音楽活動を始め、ジャンルや場所を超えて音と人、出来事をつないできたアーティスト。ペトロールズ、Suchmos、冨田ラボなど様々なアーティスト作品に客演してきたことや、所属するヒップホップ・クルー、KANDYTOWNの1stAL(2016.Release)をメジャー・ディールにて発表しラッパーとして注目を集める傍ら、楽曲制作・トラックメーカーとしての顔も知られた存在。音楽や車などライフスタイルに根差したファッションスタイルにも多くの注目を集め、コラボ楽曲/MV公開などアパレル界隈を巻き込みバイラルに話題を振りまいている。近年はよりソロとしての活動を広げ、メロウかつレアグルーヴなビートで紡がれたEP『Blur』(2017.release)、楽曲コラボレーション参加、バンドを従えてのライブ公演などそのバリエーションが魅力である。2018年、Summer Sonic -Tokyo-に出演、11月には全16曲から構成されたMixtape『Ten Twenty』をリリース。
http://www.ryohu.com
JACKET ¥255,000- SWEAT SHIRT ¥118,000- SHIRT ¥90,000- PANTS ¥98,000- SOCKS ¥12,000- SNEAKER ¥105,000-
OUTER ¥245,000- POLO SHIRT ¥85,000- PANTS ¥100,000- SOCKS ¥12,000- SHOES ¥125,000-
JACKET ¥550,000- SUITS ¥560,000- SHIRT ¥73,000- SHOES ¥105,000-
GUCCI JAPAN CUSTOMER SERVICE TEL_0120-88-1921
www.gucci.com
(This interview is available in English)