G.V.G.V. 2013 AWコレクションは息をのむほどの迫力と爆発力で以て見る者を圧倒した。ボンテージレザー、ファー、そして伝説のアーティスト、ジョン・ウィリー。それらのキーワードを基に、デザイナーMUGが思い描く、エレガントでクラシック、かつグラマラスな女性像が完璧な形で表現されている。「好きなものをとにかく全て詰め込んだ」という今回のコレクションの背景、そこに託された想いについて、MUGに問うた。
ー 今回のAWはものすごくMUGさんらしいコレクションでしたね。これまでの、例えばグラムロックの時なんかもらしさはあったんですが、今回はボンテージにしても、フェティッシュな世界観にも、G.V.G.V.そしてMUGさんのコアの部分が明確に浮き彫りになっていたと思います。
MUG「そうですね。元々レザーがとても好きで、フェティッシュなテイストも、ジョン・ウィリー(1946-59年に発行された『BIZARRE』主宰。出版規制となるヌードを排し、ボンテージなどフェティッシュなエロティシズムを極めた)も大好きで。そういう自分の好きなものをとにかく何も考えないで全て詰め込んでやってみました」
ー ジョン・ウィリーがメインテーマでしたが、例えばロック、女性の強さや楽しさなどMUGさんが解釈したスパイスとのミックスが本当に素晴らしかった。
MUG「実はジョン・ウィリーを服に落とし込むのは難しくて。なぜなら彼の描く女性はコルセットやランジェリー姿が多いので。けれど、『この服で彼の世界観を表現できているのか』と自身に問いかけながら、『BIZARRE』の表紙のカラーを作品に落とし込んだり、なにかしらでリンクさせていったので、全然ボンテージっぽくないアイテムでも全てがうまくまとまったとは思います。それもやはり本当に好きだから出来たこと。『NO SEX ,NO NUDITY』を掲げていながら、あれほど現在にも通じるクールなイラストを描けたのは凄い。私はエリック・スタントンなども好きなんですけど、ちょっとハードなんですよね。でもジョン・ウィリーは、女性が描いたのかなって思うくらいハードとフェミニンのバランスがとれてるんですよ」
ー あと、彼の描く女性にはドールっぽさがありますよね。そのドール感ってMUGさんのルーツの部分でもあって。昔、バービーの着せ替えをしていたその延長というか、MUGさんが一貫して好きだと言ってきたものに完璧に通じている。
MUG「まさにそうだと思います。コスチュームにちょっとレースが入ってたり、フリルが使われていたりもするし、表情などもドールっぽさがあるんです」
ー しかし、今、こうまで自分らしさを全開にしたコレクションになったのはなぜなんですか?
MUG「実は、次から東京でのショーをお休みするんです」
ー えっ、本当に?
MUG「はい。東京でのショーは一時お休みという形で、パリで展示会をやるんです」
ー その結果に至るには、どういう気持ちの変化があったんですか?
MUG「東京コレクションも好きで、ショーをやるなら絶対に東京だと思っているのも変わらないんです。今はありがたいことに取引先も、お客さまも安定している。でも、その安定からもうちょっと踏み出せたらとは以前から考えていて。海外の取引先を増やしたいというのも随分前からの願望だったんですが、そのためには日本ではなく、海外での展開が必要不可欠。そういうことを考えていた時に、偶然声をかけてくれるエージェントがあったりして全てのタイミングがうまく重なって。今このタイミングでチャレンジしなかったらいつ行くんだ、って自分で気持ちを押した感じです」
ー 今回のコレクションはそういう背景があったんですね。
MUG「そうですね。最後と決めてやっていたわけではなかったけれど、最後かもしれないとは思っていたので、絶対に好きなことを全部やるべきだと。レザーもファーも価格が高いのでリアルかと言ったらそうではないんだけれど、やはり自分が秋冬で一番好きな素材で、着ていても嬉しい物なんです。それで協賛もつけてもらって大量にレザーとファーを使い、ジョン・ウィリーが大好きというのもおおっぴらに表現し、好きなもの全てを合体したショーにしました。だからすごく私っぽくなったんでしょうね」
ー 遂に、ですね。MUGさんは音楽にしてもなんにしても、海外のカルチャー全般に造詣が深かったし、勝負は賭けていくんだろうとは思っていました。
MUG「海外コンプレックスが強いので(笑)。もちろん海外ではシビアに評価されるでしょうけど、それはそれでいいんです。出展してみることに意義があるかなって。それで1点でも2点でも誰かが買ってくれるなら行った意味もあると思いますし、とにかくまずはいろんな人の目に触れることが大切だと思ってます」
ー ショーというのは実際にモデルが着て動くという視覚はもちろん、音楽などの聴覚からも、やろうと思えば香りだってつけられたりと立体的な表現が可能です。一方、展示は、手法は諸々あれど基本は服が並ぶという静的なものになる。その違いに関して、長くショーをやってきたMUGさんはフラストレーションを感じないかなと思って。
MUG「私は昔の華やかなコレクションを見ていたし、コレクションというものにすごく憧れがあったんです。だから実際にショーをやれたときには本当に嬉しかった。今でももちろんショーは大好きだし、またやりたくなることもあるかもしれないです。ただ、実際にショーをやるというのは本当に大変で、周りも含めてすごい労力が必要。それでいて、ショーを自分が客席で同時に見ることはできないんですよね。だから自分のショーではあるけれど、いかにお客さまによく見せられるかということに集中してショーを構成している。しかし展示会はお客様と同じ位置に立って作品を見られるということ。ショーの後の展示会とは違って、展示会で初披露ですので服そのものの勝負になる。それはもちろん緊張しますが、楽しみでもあります」
ー そうした発表方法の違いが作り方に影響してくることもあると思いますか?
MUG「変わりそうな気がしています。ショーは自分の世界をぶつけて、そのうえでお客さんがついてきてくれる部分がありますが、今後は提示するものより受け取るものが増えてくるでしょうから。ただ、次のシーズンは海外での展示会を意識しすぎてもいけないと思って、ショーをやってもいいようなイメージで作ってるんです。1回目をやってみて反応を見て、次からまたその反省を活かしていくというはありそうですね」
ー ひとりの女性像を思い描きながら作るというMUGさんの作り方からか、G.V.G.V.の服は非常に“女”というのが色濃く、深く流れていて、それが職業も年齢も選ばずどんな女性にも届く幅広さにも繋がっている。例えテイストが変わったとしても、その部分は変わらないだろうとは思っています。
MUG「それは間違いなく。その部分では他の東京のデザイナーに対して絶対に負けたくないと思ってますから。自分の持つ女性像が明確にあるので、ちょっとした切り返しにも、シルエットにも妥協ができない。直感的なビジュアルがあるんです。あと、カルチャー感は絶対に変わらずあると思います。どんな音楽を聴いてるかとか、その背景に何かカルチャーを感じさせる女性像を思い描きながら作り始めるし、そこは異常にこだわってます。だから濃いって言われるんでしょうけどね(笑)」
ー 私が好きなのもそういう部分ですし、無味無臭より断然いいと思います。コアは変わらないままどう進化、変化を遂げるのか、次のシーズンも、今後の展開も楽しみにしています。
MUG「ありがとうございます。私もどうなっていくのか楽しみです」