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「FASHION FRONTIER PROGRAM」ファイナリストの作品を国立新美術館にて展示




ファッションデザインの可能性を拡張するアワードとエデュケーションの一体型プログラム「FASHION FRONTIER PROGRAM(ファッション・フロンティア・プログラム)」は、2023年度の受賞者を決定し、2023年12月13日(水)〜25日(月)には、国立新美術館でそのファイナリストの作品を展示中。



今年の受賞者は、以下。


グランプリ|Grand Prize
川尻優 Yu Kawajiri
“weaving sentimentality”


準グランプリ|Runner-up
ジュリア モーザー Julia Moser
“Panta Rhei. Growing colours for flowing waters”


準グランプリ|Runner-up
池部ヒロト Hiroto Ikebe
“MAYUGOMORI”


場所: 国立新美術館 1階エントランスホール (六本木駅徒歩5分、乃木坂駅直結)
期間: 2021日12月13日(水)〜12月25日(月) ※火曜休館
開館時間: 10:00-18:00
(チケット不要でどなたでもご覧いただけます。)

https://www.nact.jp


■受賞者作品詳細



グランプリ|Grand Prize
川尻優 Yu Kawajiri “weaving sentimentality”


クローゼットの片隅にねむる
行き場をなくした無数の古衣に滲んだ
女たちの想い


わたしはその布のなかに
宿っていた想いを
止まっていた時を
解きほぐし 紡ぎなおし 
ひとつの形に編みなおすことで
どこかに継いでいきたいとおもった  


日々の制作のなかで、よそから買ってきた素材を、やすく、多量に消費していくことに違和感を抱えていた。そんな想いを周りに漏らすうちに、いらなくなった布をゆずり受ける機会が増えていった。


知人の実家のクローゼットには、介護施設へ入居することになった母が残したという、花柄のスカーフやレース、ドレスのようなブラウスが数え切れないほどに眠っていた。ほとんど着られる機会もないままにひきだしの奥へと取り残されていたこれらの服は、結婚をして、友達もいない土地で家事、育児に明け暮れるようになった日々のなかで、少しでも自分の気持ちを明るくするために集めていたものなのだという。それを身につけている時間だけでなく、手に入れたときの高揚感が、母の人生を支えてくれていたのだと知人は語ってくれた。


山梨県の古民家に残されていた半纏の裏地を覗いてみると、そこには色鮮やかな生地がパッチワークされていた。冬の寒さを乗りこえるための実用的な服の、誰にも見えない裏側に隠れたあしらいをふと目にして、愛おしさを感じた。かつては養蚕を営んでいたというその家で、自分の気持ちを高めるためにチクチクと縫う女性の姿が目に浮かぶ。


一人の母として、一人の妻として生きつつも、衣服を通じて「一人の女」としても生きようとした彼女たちの声が聞こえてくるようだった。
装うことで強くあろうとし、装うことに安らぎを求めた。一着一着に染み込んだ彼女たちの想いを痛切に感じた。


時代の奔流のなかで、持ち主と離れ、行き場を失ったものたち。そのなかに止まっていた時間をほぐすように、それら古衣を解き、裂き、撚りをかける。
そうして紡いだ糸を、自分の手で一本一本編み込んでいく作業は、単にリサイクルとしてではなく、そこに宿った悲しみや寂しさといった想いを解き、紡ぎなおし、次の世に継いでいくための時間のようにも思えた。


時代や場所 立場を越えて
多くの女性が身にまとってきた想い
その痛みを その内なる強さを そのやさしさを
私も身につけたい


素材:廃棄されそうになっていた衣服、半纏などの生地、廃材など



準グランプリ|Runner-up
ジュリア モーザー Julia Moser 
“Panta Rhei. Growing colours for flowing waters”


バクテリアによる染色は、節水につながり、有害な化学物質を使用する必要がないため水を汚さず、極めて環境にやさしい。テキスタイルの染色に色素を生成するバクテリアを使用するという以前からの私の研究を基に、このプロジェクトではバクテリアの色素生成をテキスタイルの染色に使用するだけでなく、バクテリアの増殖をファッションやテキスタイルのデザインそのものに取り入れた。例えば、自分で採取した水のサンプルから分離したBacillus mycoides(バチルス・ミコイデス)菌の形状が、熱によって操作されたテキスタイルの表面に反映されている(染色工程の後、熱処理によってバクテリアを死滅させなくてはならないという事実にも基づいている)。

本作品は内容的にもデザイン的にも、新鮮な水を保全するという問題に取り組んでいる。ペットボトルをリサイクルしたテキスタイルを再利用し、ウィーンのドナウ川から分離されたJanthinobacterium lividum(ジャンシノバクテリウム・リビダム)というバクテリアを生地の染色に使用することで、ほとんど水を必要とせず、染色中も染色後も水を汚さない染色方法を実現している。通常、合成繊維を染めるには大量の化学薬品が必要であり、この場合、合成繊維をリサイクルすることがどれほど持続可能なのかという疑問が残る。しかし、使用されている細菌株は、有害な化学薬品を使用せずに合成繊維を着色することにも成功している。
ファッションとテキスタイルのデザインの形も同様に、水の要素に基づいている。エネルギーのある滝や自然の力を想起させ、水の質感やエネルギーを感じ、体験したような瞬間を詩的に呼び起こすことを目指している。自然を守ることを問う前に、まず自然への親しみとつながりがなければならない。従って、この衣服は感情を呼び起こし、自然と真実への憧れを呼び覚まし、思考の糧を提供することを目的としている。


モデルは靴の代わりに裸足で石の上に立ち、自然との直接的な触れ合いを通して自然とのつながりを体験する。通常、瞑想の際に使用されるこの石は、ドナウ川で採取され、高度な瞑想法を教えるフランツ・カインツが特別な研磨工程を経て加工した。衣服自体には、細菌株を採取するための道具が入った隠しポケットがあり、これもまた自然との交流へと誘うはずだ。


バクテリオグラフのエーリッヒ・ショプフ、リンツ芸術大学のCrafting Futures Lab、リンツ・ヨハネスケプラー大学のポリメアサイエンス研究所に感謝する。


素材:ペットボトル由来のリサイクル・ポリエステル、デッドストックのポリエステル生地、ドナウ川の石



準グランプリ|Runner-up
池部ヒロト Hiroto Ikebe
“MAYUGOMORI”


古来より日本人の生活を長く支えてきた養蚕という存在。
かつての女性たちは虫であるお蚕の感覚を想像し、それを感受するための媒体として自らの身体を機能させ、感覚を蚕の身体の状態に拡張していた。
それは人と蚕という生物の身体感覚を通して行われるコミュニケーションであり、そのような感覚は現代の私たちと乖離しつつある。
このプロジェクトではそのようなコミュニケーションから生まれる“素材”や“生産者”との製品の関係性・文脈を視覚化し、同様に大量生産のための工業化で見えなくなってきたテキスタイル製品の製造プロセスの理解を取り戻すことで、衰退しつつある養蚕文化の記憶の再生を目指した。
土地に根ざし、生活の知恵 から生まれた技術と最新のテクノロジーを組み合わせることで絹の廃棄物から新しい素材への生産プロセスを、環境負荷を減らすだけでなく、周辺環境にポジティブな影響を与えるものに変化させることを目的として素材開発から完成までをローカルコミュニティの中で一貫して行った。


素材:擬革繭(絹廃棄物) 製作協力 有限会社 繭家 Material: pseudo-hide cocoons (silk waste)



Photography by YASUNARI KIKUMA
Hair by ABE (M0)and Makeup by yUKI(M0)

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