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text by Yoshiko Kurata

「私たちに不可能なんてことはない」Ahonen & Lamberg 来日インタビュー




フィンランド出身のAnna AhonenとKatariina Lambergにより、2006年に創設されたパリ拠点のデザインスタジオ「Ahonen & Lamberg」。雑誌・SSAWのデザインを行うほか、カルヴェン、ミュベール、ジョンローレンスサリバンなど数々のファッションブランドのビジュアルデザインやロゴ制作なども手がけてきた。2006年から時を経て、16年間デザイン業界の変化を肌で感じてきた彼らに、女性デザイナーであること、消費サイクルが速まる世の中においてデザイナーとして意識すべきことなど話を聞いた。


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ー まずはおふたりの出会いについて伺いたいです。


Katariina Lamberg「実はパリを拠点にする前からフィンランドで会っていて、その後パリでも再会する機会があったんです」


Anna Ahonen「2006年に雑誌『Self Service』でお互い働いていたことが、一緒にスタジオを立ち上げるきっかけになりましたね」


― 2006年にスタジオを立ち上げたそうですが、家族でも友達でも恋愛でもない関係性を長きにわたり継続させているユニットもなかなか珍しいですよね。


Katariina「私たちも驚いてる(笑)いい意味でね。いま改めて思うと、仕事仲間として出会っていた出発点がそうさせているのかもしれないです。よく会う親友のような関係からスタートしていたら、やっぱりここまで長く続かなかったかもしれない」


Anna「プロジェクトのアイデアやコンセプトを話すとき、まずふたりで連携してからクライアントとも一緒に考えていけるようにしていて。でも、実行に移すときはそれぞれの仕事を分担してそれぞれの役割を担っているよね」


Katariina「そうだね。リサーチやブレインストーミングの段階は一緒にやるけど、パンデミック中にリモートワークにしたことで、プロジェクトや期間に応じて、作業を分担しています」




THE SISTERHOOD


― お互いに相手が得意にしていることを教えてください。


Katariina「とても興味深い質問ですね。『なんでも一緒にやってるのですか』と聞かれることが多いから」


Anna「Katariinaは、どんな問題に対しても他の人が問題を認識する前に、常に解決策を持っていて。しかもそれを見事に数学的な考え方でやってのけるんです」


Katariina「そうだね……(笑)。私の場合はより分析的で、Annaはもっとエモーショナルな部分で考えることを得意にしていますね。そうやって私たちは性質的には違うし、物事の捉え方も違う。だからこそ、うまくいくんです。、お互いにクリティカルに向き合っているので、アイデアを練る中で相手を納得させなければいけません。お互いに仕事仲間としてリスペクトがあるからこそ、このプロセスや関係性はとても大切なことだと思っています」


― それぞれ異なる性格ということですが、例えば展示や映画を一緒に観に行った時の意見もまったく違うものですか?


Katariina「あんまり普段一緒に展示に観ること自体少ないけれど、今回の来日のように遠出した時は一緒に行くこともあるよね。同じ展覧会でも時間が違えば、全く異なる感想を持つこともあって」


Anna「そうだね。視点が違うこともあるけど、必ずどこか共通する好きな感覚やテイストはあります。逆にそういった美的感覚や哲学的な面で違いがあったら、デザインスタジオとしてこれまで成り立ってなかったかもしれません」



― これまで幅広いジャンルのクライアントとお仕事されてきましたが、どのようなポイントで受けるか受けないか決めていますか?


Katariina「あまりNOと言う場面はないですね……」


Anna「すごくありがたいことだよね」


Katariina「私たちのスタイルや人間性を知っている人たちが、今までの仕事内容を評価してくださっていることが多いよね。彼らは自分たちのプロセスの一部として私たちに声をかけてくれます。また、小さなデザインスタジオとの仕事は、大手広告代理店とのアプローチとは違ってくる」


Anna「私たち自身も、異なるクライアント、ジャンルと新しいチャレンジとして仕事するのが好きなので、常にオープンマインドでいることを大切にしていますね」


Katariina「もちろん新しいジャンルのクライアントとの仕事はチャレンジになりますが、同時に私たちにとってもエキサイティングなことでもあります。私たちは長年にわたってフォトグラファー、スタイリスト、プログラマーなどさまざまなプロフェッショナルとネットワークを築き上げてきたので、それぞれのプロジェクトに最適なチームを見つけることができるのです」


― さまざまなネットワークを生み出すには、遊ぶことも大切だと思いますか?


Anna「もちろん。遊ぶ中で得るものがクリエイションにつながる場合もあります。新しい人たちと出会うことも好きです。一緒にいても、別々にいてもね」


Katariina「昨日の夜は、一緒に東京のハロウィンパーティに繰り出しに行ったよね。とっても楽しかった(笑)」






PRINTEMPS


― ひさしぶりの日本はどうでしたか?


Katariina「振り返ってみたら、最後に来日したのは2014年だったんですよね。当時はよく来日していたから、そんな長らく日本を訪れていないなんて思わなかったんですけど。当時に比べると日本は、外部に対してオープンになったなと感じます」


Anna「それはなぜかパリも同じくで、みんなフレンドリーになっているというか」


― 少し話が飛躍しますが、都市の開発や価値観のアップデートが行われると、地方都市との乖離が発生してきますよね。東京にいる限り、人権やジェンダーの平等性が強く謳われているように感じますが、地方に行くと必ずしも同じ熱量じゃないように感じます。


Katariina「興味深いですよね。中央部が盛り上がると、その周縁は反比例的にコンサバティブになるのかもしれません。それはとても怖いことです」


― 2006年から女性デザイナーとして活動する中で、業界のジェンダーバランスについてどのように感じていますか?個人的には「女性」デザイナーと形容すること自体もあまり言いたくないのですが。


Katariina「2006年以降、全体的に大きな変化が起きていると思いますね。グラフィックデザインの分野では、以前であれば大手広告代理店や古い価値観など非常に男性的な世界でした。数年前までは、有名なグラフィックデザイナー、編集長、アートディレクターのほとんどが男性でした。いまでは全く思いつかない光景ですよね」


Anna「そうだよね。当時を振り返ると、この数十年かけた変化は素晴らしいものだと思います」


Katariina「一方で、状況が良くなったとはいえ、まだ完全に平等になったわけではないとも感じています。例えば、アートディレクターとして活躍している男友達から、(少し前ですが)『こんな若い女の子二人が会社を経営するなんてありえないよ』なんて言われたこともあります。彼は肯定的な意味で悪気なく冗談のようにいったのですが、それでも違和感がありました。性別は関係ないはずですよね。
男性だけではなく、その眼差しは女性からも向けられることもありますね。『会社経営しているのに、お子さんいるの?!』と驚かれて。シングルマザーとして会社を経営するなんて不可能じゃないんですよ」


Anna&Katariina「C’est la vie〜!(セ・ラヴィ/これぞ人生〜!)」


― C’est la vie〜!(笑)私もクリエイティブ業界で働く中で、そのような眼差しを感じることもありますが、おふたりの姿勢を伺ってポジティブになれました。デザイン業界自体は、どのような変化があったと感じますか?


Katariina「私たちのクライアントでも音楽業界はかなり変化したと思いますね。以前は、バイナルやCDなどのパッケージデザインを多くデザインしていました。でも、いまデジタルが主流になったことでデザインのフォーマットがまったく違うものになってる」


Anna「いまでも紙の雑誌との仕事をしているけど、最近は印刷物がレアなものになってきているよね」


Katariina「印刷物には環境問題としての視点も出てきたよね」






SSAW


― 最近は落ち着いてきていますが、2010年後半を席巻したロゴブームについてはどう感じていましたか?


Katariina「いまに始まったことではありません。80年代後半〜90年代前半には、カッパやラコステなど色々なブランドがロゴを刷新していて」


Anna「単純にサイクルだと思います」


Katariina「ファッションのトレンドは何度も回帰していくもの。でも、明らかに年々そのサイクルのスピードが速くなっていることも同時に感じていてトレンドがより早く繰り返されているのがわかりますね。ファッションブランドが、以前は年に2回のコレクション開催だったけれど、多いところでは年に6回コレクション発表をしていて、それ以上の場合もある。さらに、その間にさまざまなスペシャルプロジェクトを行なっていますよね」


― もう少し遅い方がいいと思いますか?


Anna&Katariina「そうですね。今のスピードが決してポジティブだとは言えなくて」


Anna「もちろん作業としては速くできますが、時間をかければかけるほど、デザインが仕上がるまでのプロセスを楽しめるんですよね」


Katariina「仕事内容にもよりますが、もしクライアントのデザインアイデンティティやロゴを制作するとなると、プロセスに時間をかけることが理想的ですね。ビジュアルに落とし込めるように、相手が考えている本質やストーリーについて、しっかりと時間をかけて理解する必要があります。そういう意味では、荒士(ジョンローレンスサリバンのデザイナー・柳川 荒士)は、ムードボードやキーワードを使って仕事をしていますが、彼が取り組むプロセスにはとても感謝しています」


― 誰でもツールを手に入れ、Youtubeで簡単に使い方を勉強できる時代だからこそ、デザインについて改めて問い直す時代にも突入しているのかもしれませんね。


Katariina「デザイナーは、どんなツールやメディアを使うにせよ、クライアントのアイデンティティや未来に向けたデザインについて、より大きな時間軸で考える必要があると私たちは考えています」


― 今後ローンチするプロジェクトがあれば、教えてください。


Anna「色々あるけど、まだ言えないものが多いよね。雑誌『SSAW』の最新号がそろそろ出版予定なので、ぜひ書店でみてください」


Katariina「そうだね。言えることとすれば……来年20周年を迎える、ジョンローレンスサリバンのために色々と計画中!ぜひお楽しみに!」












JOHN LAWRENCE SULLIVAN x Ahonen & Lamberg CAPSULE COLLECTION


text Yoshiko Kurata(https://www.instagram.com/yoshiko_kurata/


Ahonen & Lamberg
Ahonen & Lamberg は、2006年にフィンランド人デザイナーのアンナ・アホネンとカタリーナ・ランバーグによって設立されたパリを拠点とする複合的なデザインスタジオ。
アートディレクション、クリエイティブコンサルティング、グラフィックデザインを中心に、グローバル企業、雑誌、ラグジュアリーブランドから若手アーティスト、ファッションデザイナーまで幅広いクライアントを持つ。
スタジオの目的は、印刷物、デジタル、製品、環境など、あらゆるメディアを通じて、クライアント特有の世界観を表現すること。仕事の核心に迫るリサーチと分析のプロセスに基づき、絶え間ない対話を行います。クライアント固有の背景や哲学、そして各プロジェクトのニーズを探ることで、革新的でテーラーメイドのクリエイティブ・ソリューションを生み出します。
Ahonen & Lamberg のデザイン理念は、クラシカルなデザインとオルタナティブなデザインのバランスをとることであり、常にエレガントでわかりやすく、かつ驚きに満ちたトーンを創造することです。

HP : http://www.ahonenandlamberg.com/
Instagram : https://www.instagram.com/ahonen_and_lamberg/

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